会場到着
ザワリ、と空気が揺れた。
着飾った貴族達の視線の先には黒を纏った四人組が居る。
「双翼の剣ですわ……」
「あれがギルドマスターのアイト・ブルランテか」
「その隣にいるのは"微笑みの銃姫"じゃないか!?」
「その後ろは"偉才の騎士"と"深淵の令嬢"か!?」
「ギルドマスターに二つ名持ちが三人も……!!」
「……凄い。けど、何で軍服なんだ?」
「誕生パーティーで黒服なんて……」
「何を考えているんだ?」
ザワリ、ザワリと広がって行った驚きにダンス用に演奏されていた音楽すらも止んだ。
そんな空気の中、当の本人達はあっけらかんとしていた。
「ほら、やっぱり目立ったじゃないですかマスター」
「そうだね。まぁ、しょうがないよ。それより、二つ名持ちの君達は本当に有名だね」
「あら、マスターだって話題に上がっておりますわ。有名度合いで言ったら同じくらいですわよ」
「てか、何で私の二つ名が"深淵の令嬢"なの?」
「シルティーナの場合、使い魔であるクロイツが原因だろうな。そう言えばアイツはどうしたんだ?」
「クロはマース君の依頼について行って貰ってるわ」
「そう言えばシルティーナ様がマース様の教育係でしたわね」
「そうなんだよね。本当なら私がついて行くつもりだったんだけど急にこっちに来る事になったからさ、依頼を破棄する訳にもいかないか今回はクロに頼んだのよ。終わり次第直ぐに駆けつけるとは言ってたけど、マースの依頼に手出ししてないかしら?」
「あくまで付き添いですからねぇ。けれどクロイツ様だと手を出していそうですわね」
「エレインもそう思う?」
自身の使い魔であるクロイツの性格を良く理解しているからこそ、シルティーナは諦めた様に笑って溜め息をついた。
そんな、緊張感など欠片もない会話を繰り広げていた彼等の前に金の髪と翡翠色の瞳を持った一人の少女が現れた。
「双翼の剣の皆様、今宵は私の為に態々ご足労頂きありがとうございます。リリィート王国国王の娘、キャローナです」
フワリと揺れたピンク色のドレスの裾をつまみ優雅に礼をしたキャローナにアイト達も姿勢を正して礼をとる。
「これはこれは、キャローナ王女様に態々出迎えて頂けるとは光栄です。私は傭兵ギルド、双翼の剣のギルドマスターを務めておりますアイト・ブルランテと申します。今宵はお招き頂きありがとうございます。後れ馳せながらお祝いの言葉を。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「私の後ろに控えますは我がギルドを代表する実力者達にございます。今宵、私のパートナーをしてくれる"微笑みの銃姫"ことエレイン・ヒューナーと、私と共に招待を受けました"偉才の騎士"ことジン、ジンのパートナーの"深淵の令嬢"ことシルティーナです。どうぞお見知り置き下さい」
「かの有名な二つ名持ちの方々に会えるとは我等にとっても喜ばしい。今宵は楽しまれて行って下さい」
キャローナの後ろから現れた国王がそう言ってスッと手を上げれば、それが合図となって再び音楽が奏でられ始める。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます。この様な格好で参加する事をお許し下さい。なにぶん我等は傭兵ギルドの人間なのでこの様な華やかな場で着る物を持ってはおりません。今回は急なご招待だった為、用意する間もなく。我がギルドの正装での参加となってしまったのです」
「急に招待したのはこちらだ。今回は許す」
態とらしく眉を下げるアイトに国王が寛大に頷いた。
「ありがとうございます」
キャローナ王女を連れて去って行く国王に頭を下げて見送ったアイトが後ろで静観していた三人を振り返る。
「寛大な王様のお陰で僕達はこの格好でもいいそうだよ。良かったね」
そう言った彼の顔は清々しい笑顔だった。