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翼を持つ彼等  作者: 夢猫
とある王国と彼等の話
19/24

彼女の運命

「我がリリィート王国は、あなた方の希望を飲みます」


 一騎討ちから一夜明け、昨日臣下達と散々に話し合った結果をアイト達に伝えたディルスの顔色は暗い。

 既に結果は分かりきっていた話し合いだった。それでも少しでも抜け道は無いかと模索した無駄な時間。結局ディルスを始めとした数人が一睡も出来ずに終わっただけだった。


 ディルスの言葉に頷いたアイトがふと室内を見渡し首を傾げる。


「国王陛下と宰相様はどうされました? お姿が見えませんが」


「……二人とも体調不良の為、自室で休んでおります」


「そうですか。これが終わり次第この国を発つので挨拶したかったのですが残念です」


「お気になさらず」


 残念もなにも、二人とも双翼の剣(あなた方)からいつ殺されるのかと恐怖に震え部屋から出てこないのだけれど、と心の中で呟いたディルスがお気持ちだけ、と返事をして話題は再び戻された。


「詳細についてはこちらから使者を送ります。そうですね、私達が帰国してからになりますし、きちんと正規のルートで来させるので一月後でどうでしょう?」


「分かりました。こちらも迎える準備を整えてお待ちします」


 今回の様に反則技並みの短縮ルートで来られたらディルス達は準備する間もない。1ヶ月猶予をやるからそれまでに色々と手を打っておけ、という事である。


「では、我々はこれで」


 僅かに安堵して頷いたディルスにアイト達は話しは終わったとばかりに席を立った。

 しかし、アイト達が部屋を出るよりも先に外が騒がしくなる。

 騎士達の制止の声とそれに怒鳴り返す声。近づいて来るその騒がしさにディルスの顔が険しくなった。


「扉を固めろ! 誰も中に入れるな!」


 ディルスの指示に扉の近くに居た騎士が従うより早く、ノックもなしに勢い良く開け放たれた扉。


「ジン様!!」


「……」


 後ろに、彼女を止めようとしたのだろう騎士達を引き連れて、リリィート王国の第二王女であるキャローナは真っ直ぐにジンを見つめて名を呼んだ。


「キャローナ……」


「なんて子なの……」


 頭を抱えたのはディルスとグリーティアである。

 今回の件の一番の原因と言っても過言ではない自分達の妹。

 自室にて暫くの間は反省している様にと言い聞かせていたというのに、何故今になって出てきたのか。嫌な予感しかしない。


「ジン様、どうして傍に居て下さらないのですか? 私がこんなに求めているのに……三年前、初めてお会いしたあの時からずっと、私はジン様だけを愛してきたのです。ジン様こそが私の運命だと信じてきたのに……」


 ポロポロと涙を溢しながら悲壮感たっぷりにジンに言い募るキャローナ。

 それに対し、自身の服の裾を縋る様に握っている彼女の手を無表情で払い落としたジンはすぐ隣に立っていたシルティーナの腰を抱いて引き寄せた。


「三年? 三年だと? たかだか三年程度で運命を語るな。俺とシルティーナは産まれる前からの運命だ。シルティーナが産まれてから出会うまでに数年の時を有したのが心底悔やまれるが、それでも俺とシルティーナは産まれる前からずっと、死ぬまで。そして来世でもきっと運命だと決まっている」


「それはちょっと重いわ、ジン」


 ジンの言葉に苦笑で返したシルティーナ。そんな彼女をキャローナが険しい表情で睨んだ。先ほどまで泣いていたのは何だったのかと問いたくなる切り替えの早さである。


「あなたが……あなたさえ居なければ、ジン様は私のものだったのにっ!!」


「それは違うわ」


 憎々し気に吐かれた言葉に間髪入れず否定を返したシルティーナがにこりと笑う。


「ジンが言ったでしょう? 私とジンは運命なの。産まれる前からか、来世までもかは分からないけれど、それでも"今"は私がジンの運命で、ジンが私の運命なのよ。だから、私が例えこの世に居なかったとしても、ジンは決して貴女の運命にはならないし、貴女のモノになんてなる筈がないのよ」


「な、な、な……」


 自信満々に言われた言葉にキャローナは怒りで顔を赤く染めてわなわなと震える。怒りに言葉が追い付かず、口から出てくるのは短い単語ばかりだ。

 そんなキャローナにシルティーナは更に言い募る。


「そもそも貴女ごときにジンを受け止めきれる筈がないわ。この人、望んだ結果を得る為ならそこに至るまでの過程も手段も全く選ばないんだもの。温室育ちの箱入り娘である貴女が、返り血に染まった無傷のジンに笑顔で抱擁して、その手に持っている"人だったモノ"を次の日の燃えるゴミに躊躇なく出す事が出来ると言うのなら、少しは見込みがあるけれど……」


 無理でしょう? と小首を傾げながら問うシルティーナ。

 シルティーナが言った言葉の内容を想像したのか、赤かった顔が瞬く間に青くなったキャローナがヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


「では、今度こそ失礼致します」


「あ、あぁ」


 俯いて何の反応も示さなくなったキャローナを一瞥して、彼女を嬉々として追い込んだシルティーナへ苦笑を溢して肩を竦めたアイトが二度目の暇を告げる。


 続々と部屋を後にする双翼の剣の者達。

 ジンに腰を抱かれたシルティーナが未だに項垂れるキャローナの横を通り過ぎようとした、その時だった。


 バッ! と急に立ち上がったキャローナ。その手には何処に隠し持っていたのか短剣が握られており、彼女は迷うことなくそれをシルティーナへ目掛けて振り下ろした。


「あぶないっ!!!!」


 悲鳴のような、咎めるような、止めるような、その全ての意味が籠められた多くの声が叫ぶ。

 だがしかし、多くの者が予想したような展開にはならなかった。

 振り下ろされた短剣はシルティーナへ届く前に"何か"に阻まれ、まるで金属同士がぶつかり合った時の様なかん高い音を立ててキャローナの手から弾き飛んだのだ。

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