騎士の青年
「お待ち下さい!」
部屋を出たアイト達を呼び止めたのはスウェンであった。
「先ほどは国王様がとんだご無礼を。申し訳ありません」
「君が謝る事ではないよ。それよりも、抜けて来て大丈夫なの?」
「後は他の者に任せて来ましたので。それよりも、マーダル様に確認しましたが、何の手違いか皆様方の今日の宿を手配していないそうなのです」
その言葉に双翼の剣の者達から失笑が漏れる。
「手違いもなにも、初めから用意してなかったんだよ」
「え?」
クラリナの言葉にスウェンが怪訝そうに首を傾げた。
「あぁ、君はあの時控え室に居たから知らないのか。僕達が今日、使い魔に乗ってこの国に来たのは知ってるかな?」
「はい。聞いてます」
「どうしてかは?」
アイトの問いにスウェンは首を振る。そこまでは聞いていないのだろう。
「今日、決闘が開催されるという事をうち等が知ったのはつい3日前なんだよ。シルクーラからここまで、どんなに急いでも普通の移動手段だと十日以上かかるから、仕方なく使い魔に乗って来たってこと」
「まぁ、嘘の日程を教えられなかっただけいいのかもしれませんわね。この国の王も、そこまでしては誤魔化すのが難しくなると考えたのでしょう」
つまりは、とアイトがクラリナとエレインの言葉を引き継ぐ。
「ベラント国王様は初めから、今日この場に僕達が来るなんて思ってもいなかったって事だよ。だから宿も用意してないのさ。一騎討ちに水を差したあの男は僕達が来てしまったから慌てて用意したんだろうね」
「……まって、待ってください」
愕然とした表情で話を聞いていたスウェンがサッとその顔色を青く染めた。
「では、俺は何の為に……」
覚悟を決めて、誇りを持って、自信の持ちうる最大の力で、いったい何の為に、誰の為に、戦いに挑んだというのか?
スウェンのその問いに答える者は誰も居ない。
グッと一度唇を噛み締めたスウェンは大きく深呼吸して頭を振り無理矢理意識を切り替えた。
知らされた事実に絶望している場合ではないのだ。自分が彼等を追って来た理由は他にあるのだから。
「宿を……直ぐに使いの者を走らせて宿をご用意致しますので、暫くお待ち頂いてもいいでしょうか?」
「あぁ、その必要はないよ」
「え? いえ、しかし……」
スウェンの提案を笑顔で断ったアイトが止めていた足を動かして進み始める。向かう先には残りの双翼の剣の者達が待機している広場があった。
「宿が用意されていない事は想定済みだったからね、待機していた子達に宿の確保に行って貰ったんだ」
広場に到着したアイト達にそこに居た者達の中から体格のいい一人の男が近寄って来る。
「おう、マスター早かったな。取り敢えず宿は確保したぜ。人数が多いから、3ヶ所に分かれちまったが、まぁ大丈夫だろ」
「ファミラスさん、ありがとう。"彼"は?」
「あぁ、あいつなら宿の一室に閉じ込めて来た。ハインとキハト達三人が見張りに付けてる」
「そっか。なら、先にそっちを終わらせようかな。あぁ、スウェン君も一緒に来て貰えるかな? リリィート王国側の証人も必要だからね」
「え? あの、どこへ?」
「一騎討ちに水を差した男が居たでしょう? 彼に色々と聞こうと思ってるんだ」
「あぁ、あの……」
アイトの言葉に魔法で攻撃された時の事を思い出したスウェンが眉間に皺を寄せる。
諸々の出来事ですっかり失念していたが、そういえば彼の身柄はリリィート王国側には引き渡されていない。捕らえたのをそのままに、双翼の剣の者達が監視しているのだと先ほどのアイト達の会話から理解出来た。
「分かりました。では、男の身柄を貴方達が預かっている事と、私が貴方達に同行することを報告して来ますのでお待ち頂いてもいいでしょうか?」
「あぁ、それは必要ないよ。もう行かせてあるから」
「はい?」
首を傾げたスウェンに答えたのはシルティーナだ。
「私の使い魔を伝言に向かわせました。……まぁ、多少の暴言は吐くかもしれませんが」
「……はぁ」
暴言を吐くかもしれない伝言役とはいかがなものだろう?
困惑気味に頷きながらもそんな疑問が浮かんだが、それは口には出さずに飲み込んだ。
「さて、じゃあ行こうか」
アイトの一言にゾロソロと移動を開始した双翼の剣の者達に続いてスウェンも歩き出した。




