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翼を持つ彼等  作者: 夢猫
とある王国と彼等の話
11/24

圧倒的実力差

 マースは内心とても驚いていた。


 リリィート王国最強の騎士だと紹介されて自分の前に立ったのは、正に好青年といった風貌の男だった。

 黒の短髪に、つり目がちだけれど涼しげな目と黒の瞳。

 無駄がなくバランスよくついた筋肉と、マースが子供だからと油断しない姿勢。

 彼がとても素晴らしい騎士であろう事はマースにも分かった。

 だからマースも相手と真剣に向き合い、本気でかかって行ったのだ。

 そして、とても驚いた。


 ()()()()、と。


 最初はただ、マースの力量を測っているのかと思った。

 だが、マースが本気になればなる程に相手は押されていくし、表情は苦悶のものになっていく。

 相手からの攻撃は軽いし弱いし甘いし遅い。


『あれ、この人もしかして弱いの?』


 と、マースが気づいた時には、丁度マースの真正面の位置にある観客席に居た"双翼の剣"の者達は、二人の一騎討ちへの興味を完全に失っていたのだった。


「うわぁ、自由過ぎる……」


 思い思いに、飲んだり食べたり喧嘩したりしているメンバー達にマースが思わず呆れた様に呟けば、マースの意識が自分から逸れた事に気が付いた騎士の青年が大きく一歩を踏み出した。


「よそ見をするな!!」


「あ、ごめんなさい」


 自分に向かって上段から振り下ろされる刃を半身になる事で難なく避けたマースが謝罪と共に反撃に転じようとしたその時、マースの横をすり抜けて、火球が騎士の青年へと襲いかかった。


ーーーーー

ーーー


 正に一方的な展開だった。


 リリィート王国の王族達の直ぐ隣に用意された席からマースと騎士との一騎討ちを見ていたアイトは小さく溜め息をついた。

 マースと騎士との実力の差が()()()()()

 

「うーん、これはつまらないね……」


 呟いて隣の席を見れば、そこに座っているジンを始めとした二つ名持ちの四人は一騎討ちなどそっちのけで既に雑談を始めていた。


「まぁそうなるよね」


 再び呟いて今度は観客席の方へと視線を向ければ、その一角にやけに騒がしい集団がいる。

 こちらもアイトが予想した通りの状態であるが、客観的に見るとなんとも傍迷惑な集団である。

 一騎討ちを真剣に見ている人々の横で、飲んで食べて喧嘩しているのだから迷惑以外の何物でもない。


「後で怒らないといけないね」


 溜め息混じりに呟いて視線をマース達の方へと戻したその時だった。

 相手の剣を避けたマースが反撃に転じようとしたその時、マースの横をすり抜けて火球が相手の騎士へ襲いかかったのだ。


「レインさんっ!!」


「アクラナ、水よろしくっス」


 一泊後、マースが声を上げそれにレインが素早く応える。

 レインの呼び掛けに水瓶を持った半透明の女性が騎士の青年の頭上に現れ、持っていた水瓶をひっくり返した。

 騎士の青年を包んでいた火は一瞬で消え去り、同時に火傷も消え去る。


「大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ。今のは……?」


「俺の使い魔のアクラナっスよ」


 突然の出来事に唖然としている騎士の青年にマースが駆け寄り、いつの間にか競技場に下りていたレインが疑問に答えた。


「ついでに怪我も治しておいたっスよ。アクラナの水には治癒効果もあるんで」


「ありがとう」


「どういたしましてっス。それで? いったいどこの誰が、火球なんて放ったんスかねぇ?」


 グルリと観客席を見渡して言ったレインの言葉にそれまで固唾を飲んで成り行きを見守っていた観客達が騒ぎ始める。


「アイト殿、これはどういう事だ?」


 騒がしい会場の中で静かに事を見守っていたアイトにリリィート王国の国王が険しい表情で問いかけた。


「どういうとは?」


「上手くやったつもりかもしれんが、あの火球はマースとか言う少年が放ったのではないのか!? 私達からはそう見えたぞ!」


「そうですか? 私にはマース君が背を向けていた観客席の方から放たれた様に見えましたよ」


「何をバカな事をっ! 騎士達よ、この者等を捕らえよ!」


「私達と事を起こすつもりですか? あまりお勧めしませんよ? それに、私達は今魔法が使えないと言ったではありませんか」


 右手首に嵌めている腕輪を見せながら言ったアイトをリリィート王国の国王は鼻で笑う。


「あのマースとかいう少年はソレをつけていないのだろう? ならば魔法を使えるという事だ」


「いいえ。彼も含めて、私達は今全員()()()使()()()()と言ったのです」


「なに?」


「あの子にはそもそも魔力がないんですよ。こんな腕輪が無くても、あの子は魔法を使えません」


「なっ!?」


「では、腕輪を外した誰かが魔法を放ったのでは?」


 そう口を挟んだのは王の後ろに控えていた老齢の男だ。

 リリィート王国の宰相だと、一騎討ちが始まる前に紹介された男は眼鏡の奥から鋭い眼光でアイトを睨み付けている。


「この腕輪がまだ試作段階だということは最初に言ったと思いますが、実はこれ、今の段階だと嵌める事は出来ても取る事が出来ないんですよ。簡単に取れてしまっては罪人などには使えませんし、鍵にするにしても形状は模倣出来ない物にしないといけませんからね。今回のは、取り敢えずちゃんと魔力が遮断されるかを試す為の実験だったんです」


「しかし、ずっとそのままという訳にもいかないのでは? どうにかして外す手立てがあるのでしょう?」


「もちろん。少し待って下さいね」


 そう言ったアイトが腕輪に左手を添えて意識を集中する。

 途端、膨大な魔力がアイトから溢れ、腕輪が砕けた。


「ふぅ。こうやって、腕輪が遮断出来る魔力量を遥かに上回る魔力を流せば壊れるので、今回は壊れてもいい事を条件に皆に被験体になって貰いました。ただ、流石に今みたいに膨大な魔力を突然溢れさせる人が居たら誰だって気がつくでしょう? 一応、皆の腕輪を調べて貰っても構いませんが、無駄な労力になるでしょうね」


 やりますか? と問うアイトに彼の膨大過ぎる魔力に気圧されて青ざめた顔でリリィート王国の者達は首を横に振った。

 顔色一つ変える事なく腕輪を破壊したアイトであるが、実はこれ、腕輪を貸し出したグランダラ王国の者が知ったなら卒倒ものの出来事であった。

 なにせこの腕輪の遮断可能な魔力量は普通の人間であれば考えられない程に高く設定されているのである。

 まぁ、それを知っているのは腕輪を作ったグランダラ王国の者と、実際に装着している双翼の剣の者だけなのだが、知っていても尚、その腕輪を破壊してしまったアイトの魔力量は押して測るべきである。

 そして、()()()()()()()()()()()腕輪をつけている双翼の剣の者達の実力も、賢い者ならすぐに気がつくものなのだが、今この場でその事に直ぐに気が付いたのはマースの相手であった騎士の青年だけであった。

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