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翼を持つ彼等  作者: 夢猫
とある王国と彼等の話
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始まりの招待状

 アイト・ブルランテは悩んでいた。

 彼の目の前にあるのは一枚の招待状である。

 傭兵ギルド"双翼の剣"の本部内にある食堂のその一角で双翼の剣のギルドマスターでもあるアイトは、深刻な面持ちで頭を悩ませる。

 

「うーん……」


「どうしたんスか、マスター? 難しい顔して」


「あぁ、レインさん。いや、ちょっとね……」


 そんなアイトに声をかけて来たのは金の短髪に空色の瞳を持った、名をレイン・ナナセイトと言う青年であった。


「あー、リリィート王国からの招待状っスか」


「うん、そうなんだよ。二週間後に開催する第二王女の誕生パーティーに是非参加して欲しいってさ」


 アイトの前に広げられている招待状を見て状況を察したレインが納得したとばかりに一つ頷き、次いで首を傾げた。


「今までその手の招待は全部断ってたじゃないっスか。何をそんなに悩んでるんスか?」


「うん、今まではそうだったんだよ。だってこれまでは、こんな物僕達にとっては何の得もなかったんたからね。でも今回はちょっと違って来るんだよ」


 そう言ってアイトがレインに見せたのは二枚目の招待状だった。


「招待状が二枚っスか?」


「そう。宛名見てごらんよ」


「……あー成る程っス」


 二枚の招待状の宛名。どちらも書かれている名前はアイトのモノだが、そこに付けられている肩書きが違った。


「"双翼の剣ギルドマスター"と"シルクーラ代表者"……"双翼の剣ギルドマスター"の肩書きだけで来ていたなら何時もの如く断ったんだけどねぇ。"シルクーラ代表者"で来たなら僕は行かないといけない」


 吐き出された溜め息は重い。

 世界に名を轟かせる傭兵ギルド、双翼の剣のギルドマスターであるアイトは、ギルドが本部を置く独立国家シルクーラに二人居る代表者の内の一人でもあった。

 ギルドのみの名義で来ていたなら断る物も、国の名が絡んで来ればそうもいかない。


「けどこの話、バルラトナ家の方には行ってないんスか? あっちの人達に代わりに行って貰えばいいじゃないっスか。こういう国同士の事は向こうの方が専門なんスから」


「それがねぇ、彼等の方には行ってないみたいなんだ。つまり、リリィート王国の王様は"シルクーラの代表者"である僕より"双翼の剣のギルドマスター"である僕に用があるって事。二つの宛名で来たのは僕を絶対に参加させたいからだろうね」


 もう一つのシルクーラ代表者であるバルラトナ家は元々とある大国の公爵家である。

 他国とのやり取りは主にバルラトナ家が請け負っていた。

 しかし今回招待状が送られて来たのはアイトの方だけであった。

 つまりは、そういう事である。


「ならマスターが参加する事はもう決定なんスね」


「そーだねぇ……」


「なら何を悩んでたんスか?」


「実はね、僕の他に名指しで招待されてる人が居てね」


「へぇ。誰っスか?」


「……ジンさん」


「……え?」


「ジンさん」


「……あー、なんか大体分かったっス」


 名前が上がった人物の姿を思い浮かべてレインは思わず遠い目をする。

 頭が良く、腕もたち、容姿も良い。更には次期ギルドマスター候補としても有力である。

 天は彼に二物どころか三物以上与えたと言っても過言ではない、そんな存在。

 そんなジンが名指しで今度十六歳の誕生日(結婚適齢期)を迎える王女の誕生パーティーに呼ばれた。

 オチは見えたも同然だろう。


「幸いなのは、それぞれパートナーを一人連れて行ける事だけど、シルティーナさん引き受けてくれると思う?」


「うーん、どうっスかねぇ? けどまぁ、シルさんも何だかんだでジン様の事好きっスから引き受けるんじゃないっスか?」


「そうかなぁ? てかソレ、ずっと気になってたんだけど、ジンさんは何時まで"様"付けなの?」


「あー、これもう癖みたいなモンで……違和感ないから別にいいかなぁってなったっス。ジン様も別にいいって言ってくれてるんで」


「そう。まぁ、本人がいいならいいんだけどね」


 苦笑したアイトが本日何度目になるか分からない溜め息を吐き出しつつ席を立つ。


「取り敢えず頼んでみるよ。あの二人が一緒に来てくれるなら怖いもの無しだしね」


「そうっスね。まぁ、その代わり何か問題が起こる事は(あらかじ)め覚悟しといた方がいいっスけどね……マスターのパートナーは誰にするんスか?」


「頼りになる二人だけど、同じくらい問題も起こしてくれる二人だからね……うーん、僕のパートナーはエレインさんかクラリナさんかなぁ」


「まぁ、王家主催のパーティーに出ても色んな意味で大丈夫な人なんてその二人しか居ないっスけどね」


「そうなんだよね……今度から皆もテーブルマナーと礼儀作法、ダンス位は出来る様に特訓させようかな」


「アハハ! 荒くれ集団にそんなモン教えたって無駄っスよ。適材適所ってモンがあるっス」


「そうだね。さて、じゃあさっそくシルティーナさんに頼んで来よう」


「シルさんなら談話室に居たっスよ」


「分かった。ありがとう」


 二階にある談話室へと向かうアイトを見送りレインは苦笑する。


「絶対何か問題起こるっスよねぇ、誕生パーティー……ま、あの面子なら大丈夫っスよね」


 目的が見え見えの誕生パーティー。

 ジンを取り込み、世界にその実力を認められる双翼の剣を自分達の意のままにしようとする。

 そんなつまらない思惑などこれまで何度も潰して来た。

 今回も例外ではない。

 ただそれが参加する前に間接的に潰すか、参加して直接潰すかの違いである。


「権力をチラつかせても無駄っスよ。そんなモノに媚びへつらう俺等なら、今此処には居ないんスから」


 呟いたレインが見たこともない異国の王族へと同情を浮かべる。


「ま、せめて国ごと消されない様に祈ってあげるっスよ」


 自分達の怒りを買ってその存在ごと無くなった国が一つだけあるのだ。

 そんな国の二の舞にならなければいいなぁと、レインは明日晴れればいいなぁと思うのと同じ様な感じで考えて、そして次の瞬間には違う事へと思考を向けていた。

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