優希ちゃんはなきやまない
「二人共ここにお茶とお菓子置いておくから。あ、それと亮介くんゆっくりしていってね」
「は、はい……」
「じゃ、僕はこの辺でお暇するね」
「…………」
パタンとケンジさんがドアを閉め、階段を降りていく音が次第に小さくなっていく。
そして今、優希の部屋に二人でいるわけだが……
優希は部屋着に着替えており、まだ頬がほんのり赤い。
俺はケンジさんのジャージを貸してもらってただいま優希と少し離れた場所で正座している。
優希は背中を俺に向けたまま話そうともしない。
「なあ、悪かったよ。俺も悪ふざけがすぎた」
「……」
「だって一応俺は確認したんだぜ?ケンジさんに優希はどこですかって聞いて上にいるって言ったからびしょ濡れでいけないからタオルで拭いてたわけで……」
無反応の優希の背中に語りかけながら話をすると、
「だったらあんなグロテスクなもの見せなくてもいいじゃない!何が等価交換よ!あんなので私の裸体と同等なんてありえないでしよ!」
ようやくこっちを向いた優希の顔は熟したリンゴのように紅い。
風呂上がりだからなのかそれとも恥ずかしさがまだ顔に残っているのか。
「おい、今のは聞き捨てならないぞ。俺の息子にケチつけるな、それに昔は見せ合いっこしてただろ」
「……!あれは幼稚園の時じゃない!あんなに可愛かったのになんでそんな気持ち悪い形になってるの!?」
こいつ俺の息子を見ていてグロいだのキモイだの酷いやつだなまったく。
……そんなに俺の息子グロイのか?
「そんなに言わなくてもいいだろ…」
「で、なんか用でもあるの?」
顔を伏せ細々とした声で優希は尋ねてきた。
「優希に謝らなくちゃいけないことがあるんだ」
「……亮ちゃんが謝ることなんてなんもないと思うんだけど」
顔をそらす優希。
「この前、優希が言ったこと覚えてるか?」
「まあ……自分で言ったことだし覚えてるよ……」
「すまん!」
ゴンっと音が鳴る。
頭を床に擦り付けるように俺は優希の目の前で土下座をした。
「なんで亮ちゃんが謝るの、謝る必要なんてないよ」
震えるその小声が気になり優希の顔を見ようと顔を上げた。
「亮ちゃんの焦る姿を見たくて私がからかっただけだし……なのになんで涙が止まらないだろうね亮ちゃん」
「……!」
顔を上げると優希の頬から水滴がポタポタと一滴一滴、緩やかに落ちていく。
優希が泣くところを見るのはこれが初めてだ。
「ゆ、ゆうき……」
思わず側により、肩に手を置く。
「ごめん、ちょっと泣かせて」
俺の胸を借りるかのように優希は抱きつき声を殺しながら泣いた。
♢♢♢♢♢
どれだけたっただろうか。
体感的には長く感じるこの温もりだが時計をチラッと見ると、ほんの数分しか時計の長針は動いていない。
嗚咽がやみ、顔を上げだ優希の顔は泣き崩れたせいか、髪がぐしゃぐしゃになり顔面も普段では見られない優希の姿にほんの少しドキッとする。
女子の見られない一面というのは少しレア度が高いと俺は思う。
「もうお嫁に行けない……えいちゃん私をお嫁にもらって」
「さらっと求婚をするなよ……」
「いいもん!えいちゃんのこと大好きだからいいもん!こんなに好き好きアピールしてるのに、なんで気づかないフリとかしてるのよ!この腐れ外道!アンポンタン!もうしらな……うわあああ」
「おい、もう泣くなよ……」
「うるさい泣かせろ!振られたんだから泣かせろ!このクズ!」