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スクールゴーストバスターズ  作者: もぐのすけ
第1章 出会い編
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第2話 矢野涼一

 憂鬱な朝。

 カーテンの隙間から差し込む朝日によって、否が応でも起こされてしまう。

 といっても、目覚まし時計のアラーム音が苦手だから光が入ってくるように自分で調節したんだけど。


 時計を見ると針が7時過ぎを指していた。


 僕が通っている高校は家から割と近い所にあるため、この時間に起きても全然間に合うんだ。


 ただ学校には行きたくない。

 鷹山高校に入学して1ヶ月、入ったことに後悔しかしていない。

 いじめを受けてるとか、友達がいなくてぼっちだからとかそういう理由じゃない。

 いやまぁ確かにぼっちなんだけど、むしろそういった理由の方が100倍マシだと思うような事が毎日続いてる。


 僕は朝食を早々に済ませ、辛いことしか待っていない鷹山高校へと足取り重く向かった。


 学校に着き、教室へと入った僕は自分の席がある窓際一番後ろへと向かった。


「でさーそのお笑い芸人がやったネタがさー」


 その途中、笑いながら話していたクラスメイトの阿部君が腕を突然伸ばしてきたため、僕の肩にガツッとぶつかった。


「あ、わりぃ! えーと……」

「矢野な」

「悪い矢野!」


 ぶつけた阿部君本人はどうやら僕の名前が分かっていなかったらしく、もう一人のクラスメイト、水橋君にボソッと小さな声で教えてもらっていた。


 僕は二人とも知ってるんだけどなぁ。


「大丈夫」


 特に気にしてないので一言だけ言って自分の席へと向かったが、先ほどの二人が小さな声で話しているのが耳に入ってきてしまった。


「お前よくあいつの名前分かったな」

「そりゃ1ヶ月も経てば覚えるさ。でも確かに地味だからね、目立った所が何もないから下の名前とかまでは分からないよ」


 さすがに少しヘコむなぁ。

 だけど今に始まったことじゃない。

 人となるべく関わらないと決めたあの日から、こういう扱いはされると覚悟してきたんだ。

 そのために邪魔だけど前髪とか伸ばして目立たないようにしてきたんだもん。


 席に着いた所でふと入り口の方を見ると土佐が友人達と仲良く話している姿が見えた。


 土佐明里。


 小さい頃からの幼馴染で小、中、高と同じ学校に通っている。

 高校に関してはお互い家から近いという理由で偶然重なり、もちろん狙ったわけなんかじゃない。

 家も近かったことから昔からよく一緒に遊んでいたけど、中学2年のある出来事を境に話さなくなっていった。


 というよりも僕が勝手に距離をとっただけだから、向こうはなんで無視され始めたのか分かってないと思う。

 最近では奇跡的に同じクラスなのに、もう会ってもあいさつすらしなくなった。

 寂しいし、土佐には悪いことしてると思うけど、もう2度と同じ出来事を繰り返さないように人とは距離をとらなければいけないんだ。


 席に着いてしばらく待っていると、担任の杉原先生がやってきて朝のホームルームを始めた。


「今日で君達が入学して……」


 いつものように杉原先生が話し始めたのを、ボーッと聞き流しながら外の景色を眺めていたが、扉が開いた音がしたので入り口の方へと顔を向けた。


 そこには制服を着た見知らぬ青年が立っていた。


 どうやら察するにこのクラスに転校生がやってきたらしい。

 新しい人がやってきても、特別関わるつもりはないので興味はなかったが、クラス内のみんな(主に女子)がやたらと盛り上がっていたために注目せざるをえなかった。


「それじゃあ折井の席は……矢野の隣に作ったからそこに座ってくれ」


 ……あれぇ? 今気付いた。

 なんか僕の隣に席が用意されてる。

 昨日まではこんなのなかったのに。


「はい」


 転校生が僕の方、正確には僕の隣の席へと向かって歩いてきた。


 なんだか注目がこちらに集まってきているようで居心地が悪いなぁ……。


「君は見える人だよね?」


 思わず顔を勢いよく転校生の方に向けた。

 彼は席に着くと微笑みながら、よろしくと言って正面を向いてしまった。

 僕は彼がすれ違い様に言った一言がどういうものなのか、瞬時に理解できたんだ。


 見える人。


 つまりは霊感がある人。


 彼は出会ったばかりの僕に対して、霊感がある人間だとすぐに見抜いたんだ。


 どういうことだろう?


 彼は僕と同じ霊が見える人なんだろうか?

 現時点では何とも判断しにくいし、休み時間に聞いてみようかな。


 ……なんて思ったけど、休み時間に入るととてもじゃないけど聞ける状況じゃなかった。


「格闘技ってどんなのやってたの?」

「折井は他にスポーツやってたのか?」

「東京のどのあたりに住んでたの?」

「今日放課後とか空いてたら、この付近のこととか教えてあげるよ!」


 とてつもない質問攻め。

 転校生である折井君の席の周りには人だかりができており、僕が話しかけられる余地は微塵もなかった。

 彼も全ての質問に対して笑顔で答えており、既に高い好感度をさらに高みへと伸ばしている。


「トイレにでも行ってこよう」


 僕は居心地が悪いというか、何とも言えない気持ちになったのでトイレに行こうと、密集している人だかりを抜け、後ろのドアから教室を出ようとした。


 その時チラリと目にしたのが、ほとんどの生徒が折井君の周りに集まっている中で、土佐が自分の席に座ったままでいるのを見て、なぜか少し嬉しい気分になった。


 嫉妬? いやいやまさかね。

 土佐が折井君の所に行こうとも気にしないし。

 今さら関係ないし。


 その気分のままトイレで用を足した僕は、意気揚々と教室へと戻る。

 だがその時、ピリッと頭に電流が流れ、背筋がゾクッと凍るような感覚が走る。

 この現象が起きたとき、決まって同じ事が起こる。


 霊が近くにいるんだ。


 僕が廊下の端々を目で確認していくと、やはりそこにはこの世のものならざる者が座っていた。

 鷹山高校の制服を着て、全身の節々が折れ曲がっている血まみれの少女だった。

 その霊は、一瞬の瞬きの間に姿を消していた。

 まるで僕の気のせいだったかのように……。


「勘弁してよ……」


 思わず口から弱音が漏れてしまう。


 鷹山高校に入学してからというもの、僕は必ず毎日一度以上は霊を見ている。

 中学の頃から突然霊が見えるようになり、何度か霊を見てしまうようになったが、こんな毎日も見るようなことはなかった。

 だが、朝でも昼でも夜でも関係なくここでは霊が現れる。

 基本的には向こうが気付く前にこっちが気配を察知できるから回避できるんだけど、極稀に察知できない霊もいるから困るんだ。


 せっかく気分が良かったのに台無し……。


「あはははは!」


 教室に戻ると、折井君の周りには未だに人だかりができていた。


 (あ……僕の席…………)


 よく見ると僕の席がクラスメイトの有馬君に占拠されていた。


「チャイムが鳴るまで廊下にいよう……」


 一言言ってどいてもらえばいいじゃないかと思うかもしれないけど、現在の僕の立ち位置的には中々ハイレベルな難題のため、席に戻るのは諦めた。

 クラスの喧騒が響く中、僕は一人廊下の窓の近くに立ち、外の景色を見ながら先ほどの霊に対する対策を考えることにしたんだけど、誰かの視線を感じた気がした。

 だけど、誰のものかも分からず、霊のものでもないと分かっていたので気にするのをやめた。


 その後、折井君に話しかけるチャンスはことごとく潰れ、放課後を迎えても杉原先生に呼び止められてしまった。


「あー矢野、少し待ってくれ」

「なんでしょうか?」

「この前入学試験があっただろ?」

「あー……ありましたね確かに」


 なんだろう。嫌な予感しかしない。


「その時の国語の試験の点数が矢野だけ芳しくなかったんだ。だから残って補習を行ってもらうことになった」

「ええ! そんなにひどかったんですか?」

「よくこの高校入れたなって先生ビックリしたぞ」


 さすがに言い過ぎではなかろうか……。


「えっと……どのくらいかかりますかね?」

「なんだ、この後用事でもあるのか。確か矢野はまだ部活には入ってなかったよな」

「それはそうなんですけど……」

「大丈夫だ。問題用紙を数枚やってもらうだけだからな。解き終わったら帰っていいぞ」


 なーんだ。

 意外とすぐ終わりそうじゃん。


「分かりました」


 ちゃっちゃと終わらせてすぐに帰ろうっと。


 …………そして気づけば2時間以上経ってしまったと。

 簡単じゃないじゃん!

 この時の登場人物の気持ちを答えなさいとか知らないよ。

 古典に至っては、こんなの日本語じゃないからね。

 英語の方がまだ簡単だよ!


「はあ……とりあえず終わったし、提出して早く帰ろう」


 2時間かけて解き終えたプリントを杉原先生に提出するため席を立った。

 窓の外を見れば、日は沈みかけ、空がほんのりと赤暗くなってきており、部活を終えた生徒達が下校している姿が見える。

 そして、この窓から見える景色は中々の絶景ポジションだと思う。

 鷹山高校は坂を大きく登った上にあるため、学校からは街を見下ろせる形になっているんだ。

 だからこの時間帯の赤く染まった街並みが見えるこの景色は、中々の見物でずっと見ていたくなるような気持ちになる。


 でも僕は早くここを出て帰らなくちゃならない。

 なぜなら夕方から夜にかけては、奴らとのエンカウント率が飛躍的に上がるからだ。

 だから出会わないためにも部活に入らずにいつも早く帰るようにしてたんだけど……。


 とにかく少しでも早く学校から出よう。


 ガラガラガラッドン‼︎


 僕がそう思った矢先、凄まじい音と共に教室のドアが開かれた。


「うわぁあああああ!」


 僕は思わず飛び上がり、ドアの音にも負けないくらいの情けない叫び声を上げてしまった。


「何よ、男が情けない声なんてあげて」


 入り口の方を見ると、意地悪そうに笑みを浮かべている土佐の姿があった。


「うぇぇ……なに?土佐?今の土佐?」

「そうよ。一人で外見て黄昏てたから驚かしてあげたの」


 なんていうありがた迷惑なんだろう。

 元々削られていた寿命がさらに消し飛んだよ。


「ええっと……どうしたの?」

「部活が終わったから帰ろうとしたんだけど、数学のノートを忘れちゃったのよ」

「ああ、そういえば宿題出てたよね」

「そうなのよ。しかも数学の先生はあのカマキリでしょ?忘れたらネチネチ言われるのよねー」


 そう話しながら土佐は、自分の机の中を漁り、ノートをカバンの中にしまいこんだ。


 数学の先生は細谷という先生で、名前の通りの細身で、さらに目つきが鋭いため生徒からは裏でカマキリと呼ばれている。


「でも明日から土曜だよね?授業は月曜なんだし、明日の部活帰りとかで取りにきても……」

「明日はダメ。他校で練習試合だから学校には来ないの。日曜も練習は休みだから学校に来ないしね」


 なるほど練習試合ね。

 確か土佐はバレー部だったはずかな、中学の頃から結構うまいって評判だったっけ。


「なるほどねー」

「そういえば涼一は何で残ってたの?部活入ってないでしょ?」

「え?あー……ほ……補習」

「ああ…………ね」


 なんなのその微妙な反応は……。

 すごい悲しくなるからやめてよ。


「なんだか久しぶりね。涼一とこうやって普通に話すのは」


 確かに。

 土佐とこんなに話したのはいつぶりだろう。

 昔の懐かしい感覚が甦ってくるようでとても楽しいなぁ。


 …………何を女々しい事を言ってるんだ僕は!


 これ以上一緒にいれば、当時のように巻き込む可能性が出てくるかもしれない。

 男らしく、僕に今後近づかないでくれって別れを告げよう!


「土佐…………」

「そうだ涼一!あんたに言いたい事が山ほどあるのよ!」

「はい何でしょうか!」


 失敗した。

 出だし躓いたらもう難しいよね。


「この際だから聞くけど……なんで急に私の事無視しはじめたの?」

「それは……」

「やっぱり……啓輔の事が関係してるの?」


 僕は口ごもってしまった。

 いつかは必ず聞かれる事だと思い、覚悟はしてきた。

 霊が見えるという話を土佐が信じるかどうかは問題点ではなく、啓輔がいなくなった経緯を話すことが僕にとっては怖い。

 当時、僕と土佐と同じように幼馴染で親友だった少年、三船啓輔が行方不明となってしまったあの事件のことを。


 そして、啓輔がいなくなってしまった要因に、僕の霊が見えるというこの忌々しい力が関与しているということを。


 2年経った今でも僕は当時の事は誰にも話していない。

 話せば責任を追及されることを恐れて、自分の保身を考えて。


 情けない話だよね。


「ごめん……。詳しくはまだ話せないんだ」


 そしてまた逃げの一手を選んでしまった。

 逃げれば逃げるほど、自分の首を絞めることになるというのに。


 土佐は見るからに納得のいかない顔をしている。


「なんで私に何も話してくれないの?啓輔がいなくなったことは私だって悲しいよ。でもだからといって、涼一が責任感じることなんてないじゃん」


 違う、責任はあるんだよ。


「……私がこの2年間、どんな気持ちでいたのか……涼一は知らないんだよ」

「分かってる……」

「全然分かってないよ」


 土佐の言葉の一つ一つが胸につき刺さる。

 言葉の端々に感じる、悲しみの感情が僕の心を揺さぶる。


「もう……いいわよ……。涼一は今まで通り私の事は気にしないで。私もそうするから……」

「っ!」


 決め手になった。もう逃げ道はない。

 僕は土佐に真実を告げることにしよう。

 今まで巻き込まないために関わりを持たないようにしていたのに、結局土佐に話してしまうのは間違いなく愚策に違いないけど、僕のヒットポイントが危険信号を灯してる。


「土佐……実は……」


 キィーン。


 突如として頭の中に警戒音が響く。


 ……これはいつものやつだ。

 霊が近くに現れた時の察知感覚。


 ペタ…………ペタ…………ペタ…………。

 不気味な足音が廊下の奥から聞こえてきた。

 既に僕の体感温度は低くなっており、鳥肌が立っている。


「あれ?なんか変な音しない?」

「え、土佐、まさかこの足音が聞こえてるの?」

「このペタペタ言ってるやつでしょ?聞こえてるよ。これ足音なのね」


 ……最悪の事態になってしまった。

 この足音の正体は間違いなく霊だ。僕の霊感が正しく感じ取っている。

 ただ、そうすると霊感が無いはずの土佐にもなぜこの足音が聞こえているのか…………?

 間違いなく僕がいるせいだ。

 僕が近くにいるせいで土佐にも影響が出てしまったんだ。

 このままだとあの時の……啓輔と同じ事件を引き起こしてしまうかもしれない。

 だから僕が今やるべきことは…………。


「土佐! ちょっと壁際に寄って! 今すぐに」

「えっ、ちょ……なに!?」


 僕は土佐を壁まで押しやり、息を潜めるようにして座ったが、突然掴まれ引っ張られた土佐は訳が分からないためもがいてる。


「矢野! なにすんのよちょっと!」

「ご……ごめん。でも少しの間静かにして僕の言うことを聞いて欲しいんだ」

「あんた結構ヤバいこと言ってんの分かってる?」


 …………確かに。

 女の子を突然壁に追いやって言うこと聞いて欲しいとか、かなり危ない奴……じゃなくて!


「分かってるけど緊急事態なんだ!説明してる暇は……」


 ペタ…………ペタ…………ペタ…………。


 徐々に近づいてくる足音に不穏な気配を感じ取ったのか、土佐も押し黙り、壁際に寄って息を潜めた。

 何者かの足音のみが、静寂に支配された空間を脅かす。

 距離的には恐らく隣のクラス辺りまで来ているだろう。

 僕の鼓動も早鐘を打ち、不吉な汗がダラダラと頬を伝い落ちていく。


 ペタ…………ペタ…………ペタ…………。


 足音はさらに近づき、僕達のクラスを横切り始めた。

 そのまま通り過ぎてくれと願い、心臓の音ですら聞こえてしまっているのではないかと、自然と手に力が入ってしまう。

 と、手に力を込めた際に気付いたが、何かを握っている感触がする。

 いや、正確には握られている、かな。


 …………これヤバいやつだよね。

 怖い話とかでよくある、気付いたら横に霊がいました的な。

 うわぁ見たくないなぁこの感じ絶対いるじゃん…………。


 僕は恐る恐る自分の手元に視線を寄越した。

 すると、僕の手を握っていたのは霊なんかじゃなくて、生きてる人間土佐明里。

 土佐が僕の手を両手で掴み、縮こまりながら僕の腕に縋るようにくっついて震えていた。

 霊がいることより一層心臓の鼓動が早くなった。


 なにコレヤバい。

 僕の腕がなんかすごい暖かいっていうか……柔らかいっていうか………………ダメだって! そんな状況じゃないんだから! 何考えてんだ僕は集中しろ! 何に集中すんのか分からないけど!


 気付けば足音は遠ざかっていた。

 僕は顔が赤くなっているのをなんとかするために、平常心を保とうと深呼吸をした。


「ふぅ〜」


 見れば土佐も深呼吸している。


「ねぇ涼一……今のってもしかして……霊なの?」


 土佐が青ざめた顔で僕に聞く。

 彼女には霊感はないはずなのに、やはり僕といることで感じ取れるようになってしまったのだろうか。


「うん…………。間違いないと思う。僕は霊が近くにいたりすると分かるから……」

「へ…………へぇ〜」


 ……………………。

 土佐さーん!

 よく見たらめちゃくちゃ震えてんじゃん!

 ガクブルじゃん!


「そそそ、そっか! 土佐って怖い系の奴苦手なんだっけ?」

「なめくじの次に嫌い……」

「どの位置なのか分かんないけど……じ、じゃあとりあえず急いでここを出て……」


 ピリッと違和感を感じた。

 誰かに見られているような……でも僕が感覚的に分かる相手っていうのはもちろん……。


 僕はその違和感がする方向、教室の後ろ側のドアを見た。


 そこには顔があった。

 ぐっちゃぐちゃに血まみれで、恐らく女の子であるとは思うけどその面影は全く無くなった山姥のようなグロテスクな顔が、廊下側から顔だけを突き出してこちらをじっと見ていた。


 その少女は僕と目が合った瞬間、ニタァと気味悪く笑った。


「うわあああああああああ!」


 叫び声と共に、僕の魂が口から飛び出そうになったが、それを引っ込めてくれたのは土佐だった。


「きゃあああああああああ!」


 僕の突然の叫び声にビックリした土佐は、僕以上に叫び声をあげた。


「急に大きな声出さないでよ!」

「それはごめんね! でも後ろは絶対振り向いちゃダメだよ! 絶対ね!」

「なんでよ!」


 そして案の定振り向いてしまう土佐が、さらに大きな叫び声をあげてしまうのは必然だよねぇ。


「ぎゃああああああああああ!」

「何で見たの! とにかくこっちだ土佐!」


 土佐の悲鳴のおかげで逆に落ち着いた僕は、土佐の腕を掴み、一目散に前のドアから廊下へ走り出た。

 チラと後ろを振り返ると、予想通り先ほどの女の子の霊が僕達の後を猛スピードで追いかけてきていた。


「あなた達も私をいじめるのぉおお!」

「いじめないので自ら追ってこないでください!」


 的確にツッコミを入れてみるも、やはり止まってくれるわけもなく、僕は土佐を引っ張りながら廊下を急いで走り、下に降りる階段を目指した。

 しかし、やはり霊の足音は徐々に近づいてくる。


「やだぁ……なんなのよあれぇ」


 土佐が目に涙をうかべながら必死に走っている。


 元はと言えば僕の責任だ。

 本来なら無視して帰ればよかったのに、いつの間にか舞い上がって結果土佐を巻き込んでしまった。

 …………今が勇気を出すときだ矢野涼一。

 男なら女の子を守るために立ち上がれ!


「土佐! ここは僕を置いて先にい」

「なに!?」


 遮られたぁぁぁぁ!

 何でここ一番の反射神経見せてんの!?


「ゴメン今のナシ! 土佐は走って階段から先に下に降りて!」

「矢野はどうするの!?」

「僕はあいつを…………」


 食い止める、そう言おうとした時、数十メートル先の目的の階段からスッと人影が現れた。

 このタイミングで一体誰が、もしかしたらあの人にも被害が及ぶかもしれない。

 もしくは新手の霊かもしれない。

 もしそうであれば僕達は完全に詰みだ。

 そんな考えが頭をよぎり、少しでも早く人影の正体を判明すべく、よく目を凝らして見た。


「あれは…………折井くん!?」


 人影の正体はあまりにも意外すぎる人物、今日転校してきたばかりの折井碧太くんだった。

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