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第26話 別の方法

  男子トイレにおいて、1人の女の子とそれを取り囲む男3人。

 この状況を事情を知らない霊感持ちの人が見たら、間違いなく通報ものだろう。

 霊感持ちの人の母数が少ないのが唯一の救いか。


「今から君にいくつか質問をする。心して答えなよ。答え方によっては君の除霊方法が暴力的なものに変わるからね」


 アオタがかなり厳しめの口調で、女の子を問い詰めた。


「君はなぜここに現れていた?」

「…………お兄ちゃんに会うため」

「お兄ちゃん?」

「…………そこにいる人」


 女の子の霊はふるじゅんを指差しながら言った。

 なんと彼女はふるじゅんの妹だったんだ!


「ちょっと待ってくれ。俺に妹なんていないぜ」


 妹じゃなかった。


「彼は君の兄じゃないようだが?」

「…………お兄ちゃんに似てる人」

「そしたら君の本当のお兄ちゃんはどこにいるの?」

「…………分からない」


 女の子はグスッと鼻を鳴らし始めた。

 どうやらこの女の子は、自分の兄に似ているふるじゅんを見ていたようだ。

 さっきからのこの怯えようといい、生きていた頃から人と関わるのが苦手なのが分かる。

 だから彼女は、ふるじゅんが1人の時にだけ姿を現していたんだ。


「やっとお兄ちゃんが迎えに来てくれたのかと思って……それで嬉しくなって見てて……でもずっとお兄ちゃんからは私のことが見えてないみたいで……」

「いつぐらいから君は彼を見てたんだ?」

「……トイレにお兄ちゃんが来るようになってから」

「て事は最初から? そんな馬鹿な。俺がこの子の声が聞こえ始めたのは5月の中旬あたりからだぜ?」

「たぶんアオタが来た頃だね」

「ああ、俺の影響を受けてからだな」


 アオタの話では、僕の霊力が影響する範囲はクラス一つ分であり、アオタが来るまでは大して影響がなかったのだろう。

 ところがアオタが来た事で霊感は増幅され、トイレに1人でいる時に彼女の声が聞こえるようになったと。

 この女の子が敵意を持っていなかったのが、唯一の救いなのかもしれない。


「影響を受けてってなんぞ?」

「それは後で説明するよ。それで、君はいつからここにいる?」

「……分かんない。ずっと長い間ここにいる。お兄ちゃんがここにいろって言ったからずっと待ってる」

「なるほどな……」

「アオタ、どういうこと?」

「どうやらこの子は、自分が死んでることに気付いてない。兄を待ってる間に何らかの原因で死んだんだ」

「このトイレの場所で? ここ3階だけど」

「なにも3階のトイレで死んだわけじゃない。ある程度場所は移動できる。前に見た霊2人も涼一をずっと追いかけてこれただろ?」

「確かに…………」


 彼女の制服が今の鷹山高校とは別物であること。

 見た目から漂う昭和感から、彼女が鷹山高校ができる前に亡くなった霊であることが予想できる。

 だけど、そうだとしたら一体どんな事情があって彼女のお兄さんは彼女をここに置いていったのだろう。

 どんな理由で彼女は死んでしまったのだろうか。

 自分が死んでいることにも気付かず、ずっと1人で兄を待つ彼女は今までどんな気持ちで待っていたんだろう。

 僕は幽霊に対して良い思い出なんて一つもない。

 それでも今、こうやって彼女を可哀想だと思っている自分がいる。

 霊の中にもこうやって話せる奴はいるんだ。


 アオタが手を顎において考える仕草をする。

 今回は霊を殴る方法以外での除霊をするといっていたが、その落とし所を探っているのかもしれない。


「君の名前は?」

加藤かとう美佳みか

「生年月日は?」

「昭和10年6月5日」


 やはり昭和生まれみたいだ。

 でも昭和10年って……もし生きてたら80歳ぐらいじゃない?

 僕のおばあちゃんぐらいの年齢だ。


「すげぇ前からいるんじゃねぇのか? 昭和10年って」

「本人が死んだことに気付いてないから、こうして自我を保っていたんだろう。怨む相手がいないからね」

「ふーん。色々あるんだな、霊にも。テレビの特番とか映画に出て来る奴とかはいないの?」

「めっちゃいるよ!!!」

「うわびっくりした! 急にデカい声出すなよ矢野」


 ふるじゅんは、この女の子が初めて接する霊だから勘違いしてるのかもしれないけど、普通に会話できる霊がいるほうが珍しいからね!


「こんなの初級レベルだからねふるじゅん…………。全てがこの子みたいな霊だと思ってたら痛い目みるよ……!」

「お前はなんでそんな気迫溢れる顔してんだ……。ちなみに上級レベルだとどうなんの?」

「血まみれの霊が殺しに追いかけて来ます」

「生死に関わんのかよ! お前らよくそんなん相手にできるな!」


 おっと、少し驚かせすぎたかな……。

 でもふるじゅんには部活に入ってもらう予定だし、今のうちに本当のこと言っておかないと後で詐欺師だなんだ言われそうだからね。

 その前に怖がって入部を断りそうな気もするけど…………。


「よし、解決方法は決まった」


 僕らが話している間に、アオタは除霊方法を見つけたようだった。

 まだグズっている女の子の霊の前にかがみ、女の子の目を見て話す。

 まるで大人が小さい子と話すように。


「俺らが君のお兄さんを連れて来る」

「お兄ちゃんを…………?」

「ああ。だから君はそれまでここで誰にも会わずに待っているんだ。それぐらいはできるだろう?」

「………………分かった。ここで静かに待ってる」

「よし、決まりだ」


 アオタは女の子にそう約束させると、僕らの方に向き直った。


「そういうことだ。彼女を除霊させるには彼女のお兄さんが必要になった」

「お兄さんをって…………今じゃお爺さんだろ? しかも名前も分からない人をどうやって探すんだよ?」


 ふるじゅんが至極真っ当な反論をする。

 探すにしても手がかりが少なすぎると僕も思う。


「恐らくだが、昭和20年から30年にかけての間に、この女の子が亡くなった事が書かれている記事があるかもしれない。それを市立図書館で探そう」

「そこから彼女の関係者に繋がるの?」

「恐らくは」

「でもそんな昔のことが記事とかで残ってるかぁ?」

「殺人事件とかなら残ってるんじゃないかな」

「いや、彼女が人に殺された可能性は低いだろうね」

「え、なんで?」

「あくまで俺の考えになるけど、人に殺されたのであれば恨みや怨念があるのが普通なわけだが、彼女にはそれがない。そうすると事故か震災、またはそれに準ずるもので死んだ可能性が高いんだ。兄を待ってるってことは、自殺の線もないだろうしね」

「じゃあなおさら記事として残ってるかは難しいじゃん」

「でも、人が1人事故や震災で亡くなった場合っていうのは、意外とその市内で記事にしていたり、記録として残しているケースが多いんだ。だからまずは、それを探すことから始めよう」


 アオタの考えにより、除霊に向けての方向性はまとまった。

 今までの二つと違い、今回は平和的に除霊をするようだ。

 少し遠回りになるけど、怖い思いをしなくていいところはありがたい。

 毎回命を狙われる形だと、僕も彼らの仲間入りになっちゃうからね。


「それで、今から行くのか?」

「いや、ここから図書館に行くには少し遠いみたいだからね。また別の日にするよ」

「あ、そう。インターネットとかに載ってねぇかな? 携帯でググったら出てきたりさぁ」

「一応アリだね」

「じゃあちょっとお前らの部室戻って携帯で調べてみるか。カバンの中に入れっぱなしでさぁ」

「なら先に戻ってて構わないよ。俺と涼一は少しこの霊と話してから行くから」


 僕も残るのか!


「そうかぁ? じゃあ先行ってるぜー」


 そう言ってふるじゅんはトイレから出ていった。

 トイレの中には僕とアオタと女の子が残る形になる。


「じゃあ君も、俺らが君のお兄さんを連れてくるまで誰にも姿を見られないようにしてるんだ」

「…………はい」


 女の子は返事をした後、その場から姿を消した。

 彼女がいなくなったことで、霊がいる時の独特な気配、テレビのモスキート音を聞いているような感じは無くなった。

 というより、彼女と話があったんじゃないの?


「え、女の子帰していいの?」

「俺が話あるのは涼一だからね」

「それは…………ふるじゅんに聞かれたくない話?」

「ああ。一度俺らの教室に行こう」


 どうやら女の子に話があるというのは建前で、本当はふるじゅんと離れるための口実らしい。

 不穏だ…………。


 僕達は長々と居座ったトイレを出て、A組に戻ってきた。

 教室には誰も人がいなかった。

 さっきまではいたけど、僕らがトイレに行ってる間に帰ってしまったようだ。

 まぁ正直なところ、誰もいないほうが僕としては落ち着くんだけどね。


 僕達は自分の席に座った。

 お互いが隣同士なため、自分の席に座っても話はできるのだ。


「それで、ふるじゅんに聞かれたくない話ってなに?」


 僕が早速本題になる質問をぶつける。

 アオタはいつもの爽やかな笑顔ではなく、女の子の霊が出てきてからずっとマジメな顔をしていた。

 もちろん今もだ。


「今回俺は、力による除霊はせずに女の子が現世に留まっている理由を取り除き、除霊させる方向で動いている」

「うん、分かってる。そういう方法でも除霊はできるんだよね?」

「ああ。他にもいくつかあるけれど、無難な方法とも言える」


 無難な方法。

 そう言ったアオタの表情からはとても普段行っている方法とは思えない。

 たぶんだけどアオタは、普段から暴力による除霊を行っているんだろう。

 例え相手が前回のような、襲ってくるような霊ではなく、今回のような何か同情したくなるような事情を持った霊相手でも。

 でも僕はそれを否定するつもりはない。

 アオタが初めて僕と土佐を助けてくれた時に言っていた言葉。


【死んだ人間が生きてる人間の足を引っ張るな。死んでから復讐を果たそうなんて不条理は…………俺が許さない】


 本来、霊はこの世にいてはいけない存在なんだ。

 僕の霊に対する考え方はアオタに寄っている。

 だから、アオタがこれから話す、ふるじゅんに聞かれたくない話が何なのかはある程度察しがついていた。


「それで今回、あの女の子の霊のお兄さんを探すことにしたけど…………正直難しいのが俺の今の見解だ」

「うん、何となくは分かってた」

「例え彼女のお兄さんの人定が分かっても、生きているかどうかも分からない。もし死んでいた時には…………いつものやり方で彼女を除霊する」


 僕が思っていた内容だった。

 アオタの中には彼女は結果的に除霊させることになっている。

 でももし暴力により除霊させた時、ふるじゅんが僕らの部活に入ることはなくなると思う。

 別の除霊方法で除霊させたとかなんとか、適当な言葉でお茶を濁すこともできると思う。

 でもアオタはそんなことはやらない。

 嘘をつくような事を彼はやらないと、僕は思ってる。


「…………うん。でも、お兄さんが生きている可能性もあるんだよね?」

「ああ。1番いいのは、お兄さんとあの女の子の霊を引き合わせることができることだから。そのためにやれることはしっかりやろう。一応駄目だった時の事を涼一には話しておこうと思ってね」

「大丈夫だよ。アオタがふるじゅんを裏切るような事はしないって分かってるから」

「ありがとう」


 そう言ってアオタはいつもの爽やかな笑顔を見せた。


「そうだ。どうせ今度図書館に行くなら土佐も誘って行こうよ。土佐にも霊退部っぽいことしてもらわないとね」

「はは、そりゃいーね」


 土佐とふるじゅんを含めて調べ物。

 いよいよ部活っぽくなってきたんじゃない?


 人が増える喜びを感じながら、僕らは部室へと戻っていった。

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