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第24話 事情聴取

 放課後、予定通り僕らは授業が終わり次第隣のクラスの古屋ふるや じゅん君に会いに行った。

 運良くホームルームはこちらの方が早く終わったようで、B組はまだホームルームの途中だった。

 なので僕らはB組の教室の外で終わるのを待つようにして、廊下に立っていたんだけど…………。


「ねぇ、あれA組の折井くんでしょ?」

「やっぱりカッコいいよね」

「一之瀬会長よりもカッコいいかも……」

「あんた鞍替えするつもり〜?」

「俺もあんなんだったら人生ベリーイージーモードだろうな」

「二回ぐらいコンテニューできる権利ないと割に合わないと思うわ」

「異議なし」


 キャッキャキャッキャとC組、D組の生徒がアオタについて色々言っている。

 A組ではもう慣れてきているせいか、ほとんどの人はいつも通りになってきているけど、アオタを見慣れていない生徒はやはり思わずなにかを口にしないとやってられないようだ。


「あと隣のアイツ。見かけるたんびに折井と一緒にいるよな」

「ああ、食堂でも一緒にいたの見たぜ? どういう関係なんだろうな」

「いいじゃないあの2人がどういう関係だろうと。目の保養になるもの」

「「出たよカップリング厨」」


 当然隣にいる僕も奇異な目で見られるわけで……。

 人の視線に慣れていない僕としては、教室の端っこで座って待っていたいんだけど……。

 というより誰だ今の腐ってそうな発言したの。

 僕達をそういう目で見るのはやめてよ。


「お、涼一。B組のホームルームが終わったみたいだ。古屋君の所に行こう」

「う、うん」


 アオタに促されるまま、ホームルームが終わったばかりでバタついているB組に入っていった。

 いつも思うんだけど、自分のクラスじゃないところに入るのって何でこんなにもアウェイ感を感じるんだろうね。

 まるで誰かの縄張りに侵入したような、入ってはダメだと身体が警告してるかのように拒否反応が出るんだよ。

 まぁ僕の場合は自分のクラスですらアウェイ感をいつも感じてますけどね!


 教室に入るとアオタが古屋君を探し始めた。

 僕は古屋君の顔が分からないため、アオタが窓側真ん中の席辺りに歩いて行ったのを後から付いていった。

 案の定、アオタの存在に気付いた人達が少しザワついている。


「A組の折井じゃね?」

「ホントだ。誰かに用でもあんのかな」

「加奈子! 折井君だよ折井君!」

「ちょっと、写メ写メ! このままB組にいてくれないかな〜」


 どこに行っても注目されるってスゴイ疲れそうだなぁ。

 というかスゴイパシャパシャいってる。

 人によっては連写してるんだけど。

 写真撮影会かなにか?


「古屋 淳君だよね。今大丈夫かな?」

「へ?」


 アオタは数人のグループで話していた生徒の1人に声をかけた。

 彼が僕らの目的である古屋君なのだろう。


「少し話したいことがあるんだ」

「A組の最近噂になってる……」

「折井碧太だよ、ふるじゅん。そっちは矢野……なんちゃらだろ? 有名人の2人じゃんか」


 古屋君と話していた人は僕達のことを知っていたみたいだ。

 でも僕がアオタと同列の有名人なわけないのに、困るよ。


「そりゃ俺も知ってっけどさー。なに? 何の用?」

「ここで話すのも別にいいんだけど…………要約すると霊関係、とだけ言っておこう」


 ぴくっと古屋君の眉が動く。

 彼の雰囲気が少し変わったことから、アオタの言った通り彼が現在進行形で心霊現象にあっているのだと感じ取ることができた。


「霊関係? ってなんの話だ? ふるじゅん」

「さぁね。俺にもなんのことかさっぱりだよ。でも、せっかく有名人の2人が俺に尋ねて来てくれたんだ。ちょっと話聞いてくるわ」

「おお……んじゃ俺ら先帰ってるぜ」

「あいよー」


 古屋君と話していた友達は荷物をまとめて教室から出て行った。


「すまない。わざわざ席を外してもらったみたいで」

「いいんだよ。あんたらの話が個人的に興味あるし。で? 話ってのは…………」

「ふるじゅん折井君と知り合いだったの!?」

「だったらこの後遊びに行こうよ! 私達と!」


 先ほどまでアオタをパッシャパシャ撮っていた女子達が、ここぞとばかりに群がってきた。

 まぁ僕は一歩引いてっていうか、5歩ぐらい引いて遠くからその光景を見てるんだけど。


「いや別に知り合いじゃないから。今知ったばっかだし」

「いいよ別にどっちでも! ねぇ遊びに行きましょーよー」

「あ! お前らやっぱり折井が目当てなんだろ!」

「当たり前でしょ! ふるじゅんはオマケみたいなもんなんだから! 来ても来なくてもどっちでもいいよ」

「うわひっで! 榎本えのもとひっで! 今ので世界中の俺を敵に回したからな!」

「結局敵に回したのふるじゅん1人じゃん!」


 うわースゴイなー。

 アオタ1人でここまでパニックになるんだもんなー。

 傍観者的立場にいると結構面白い。

 女子更衣室にアオタ放り込んでも、無傷で生還しそうだ。

 でも古屋君は瀕死になって帰ってきそう。


「誘ってくれてありがとう。でも申し訳ないけどこの後は部活動があるんだ。また今度誘ってくれないかな?」

「そーなんだー。残念。それじゃあ今度絶対遊ぼーねー!」

「是非お願いするよ」

「榎本、俺も空いてるぜ!」

「じゃあねー」

「無視すんなや!」


 榎本と呼ばれる女子を筆頭に、5、6人の女子達はアオタの周りから散っていった。

 ちょっと古屋君の立場が可哀想に思えてくる。

 そういうコミュニケーションの取り方なのかな。


「くっそー。めちゃくちゃ人選ぶじゃんあいつら。あ、悪いな折井。時間取らせて」

「いや、時間を取らせてるのはこっちだからね。古屋君が謝ることじゃないよ」

「古屋でいいって。もしくはふるじゅんでも可」

「それじゃあふるじゅん。とりあえず俺らの部室に来てもらってもいいかい? 時間は大丈夫?」

「おお! 帰宅部筆頭だから時間は余裕ありまくりだぜ!」


 古屋君も帰宅部なんだ……。

 霊感ある人の帰宅部率半端なくない?

 まぁ僕はもう帰宅部じゃないけどね!


「それじゃあ行こうか。涼一、行くよ」

「あ、うん」

「矢野だっけ? よろしくな」

「よろしくお願いします」

「なんで敬語だよ」

「あ、ごめん」

「別に謝らなくてもいいけどさ……」


 クセかな…………。

 初対面の人にはなんかついつい敬語で話しちゃうんだよね。



 ------



「こんなところに部室あるんだな。おっ、いい景色じゃん」


 部室に着くと、古屋君が部屋の中を観察するように見た。

 まだ大したものは置かれていないので殺風景ではあるけど、外の景色だけは中々なものだと思う。


「適当に腰掛けてくれ」

「そんじゃあ失礼するよ」


 僕らは適当に席に着いた。


 これから初の部活動だ。

 霊退部。

 その名の通り、霊を退治する部活。

 霊感がある人を見つけ、僕らの影響を受けているようであれば問題を解決する、霊感が無い人からしたら頭おかしいと思われても差異はない部活。

 僕の非日常の第一歩だ。


「俺らが何でふるじゅんを呼んだか、なんとなく察しはつくかい?」

「なんとなーくは分かるよ。折井が言ったことに心当たりはあるし、お前らの部活の名前からしてもそっち関係ぽいしな。でもさぁ、そんなん急に言われても信じれなくない? 幽霊がどうのこうのって、世界嘘臭さランキングトップじゃん」

「そりゃそう思うよね……」

「だから今からザックリとした説明だけして、実際に見てもらおうと思う。百聞は一見にしかずと言うからね」

「え…………ガチもん見に行くの? 今から?」

「ああ。ふるじゅんも謎は解明しておきたいだろ?」

「帰りまーす」


 帰宅宣言!?

 話終わっちゃうよ!


「ちょっと待ってくれ」

「いやいや。普通に考えてそりゃそうじゃない? 自分から死んだ人間に会いに行きたい奴なんかおらんくない? そんなん怖すぎでしょ」

「とりあえずふるじゅん君は幽霊がいることについては信じてくれてるの?」

「ふるじゅん君ってなんだよ初めて呼ばれたわそんな中途半端な呼び方…………。そりゃ何度も奇怪な経験してるし、これがもしイタズラだったら逆に感動するね、テレビのドッキリレベルかよって。それに、わざわざこんな部活まで作っちゃう有名人2人が来た時点で、信憑性は増したようなもんだし」


 霊がいるってことを、まず信じてもらえるかどうかが鬼門だと思ってたけど、意外とふるじゅん君は理解が早いみたい。

 でもこのままだと何も解決せずにふるじゅん君帰っちゃいそうだなぁ。


「君が現在あっている心霊現象についてはどうするつもりなんだ?」

「別に今のところ害とかないし、シカトしとけばいいんじゃない? って思ってるけど」

「害がない……ちなみにその心霊現象が起きるのはどこか聞いてもいいかい? 学校内のどの辺りなのか」

「あそこだよ。えーっと……俺の教室から1番近いトイレ。そこで大のほうしてたらさぁ、たまに女の子の笑い声が聞こえてくるんだよ」

「女子トイレ?」

「男子に決まってるだろ! 真顔で犯罪やってる話なんかするかよ!」

「一応確認だよ。一応」

「なんだよ事情聴取でもされてんのかよ俺」

「聞こえるのは笑い声だけ? 正体とかは見てない?」

「見てないなぁ。マジで笑い声だけだ」


 トイレから聞こえる女の子の笑い声。

 めちゃくちゃ王道じゃない?

 全国的に有名な、トイレの○○こさんシリーズだね。

 ちなみに○の中に「う」とか「ん」とかそういう言葉を入れた人は心が汚れてるからキレイにしてきてね。


「怖くはないの?」

「そら最初は焦ったよ! 誰もいないのに笑い声聞こえてきて、ついに俺も童貞こじらせたのかと思ったし」

「……怖いの種類違くない?」

「でも最近は慣れてきたせいでちょっと興奮してきた」

「はいアウトー! ふるじゅん君アウトー!」

「ちょっとふるじゅんは特殊な性格してるな……」


 アオタが珍しく苦笑いをしている。

 アオタを困らせるふるじゅん君、恐るべし。


「じゃあふるじゅん、その声の主がどんな女の子か気にならないか?」

「む……ちょっと気になる…………」

「だろ? ならそれを確認するって名目でもちょっと見に行かないか? ふるじゅんが行かないにしろ、結局その女の子の霊が本当にいれば俺が除霊してしまうからな」

「え! 折井、除霊とかできんの!?」

「できるよー。プロ並みにできるよー」

「除霊のプロが何なのかは知らんけど……波ぁー!! とかできる!?」

「すまない、それはできない」

「できないのか……残念」

「で、どうする? 一緒にちょっと見に行くかい?」

「そういう言い方をされると少し気になるな……まぁ騙されたと思って見に行くだけ見に行こうかな」

「よしっ! じゃあ行こうか!」


 ……………………口が上手すぎる。

 たった一言、ふるじゅん君が気になることを言って連れ出す承諾もらってるよ……。

 アオタ、人身掌握術とかすごい得意そう。

 これがメンタリズムです、とかそのうち言い出しそうで怖いですなぁ。


「いざ、トイレの女の子の元へ!」

「なんか卑猥…………」



〜アオタを撮っていた女子達〜


「結局何枚ぐらい折井君撮ったの?」

「50枚」

「化け物じゃん!」

「『一之瀬会長と折井碧太の寝室』フォルダにしまっておこ」

「何そのエグいフォルダー!?」

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