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第11話 そして設立へ

「あとは何かあるかい?」

「はいはい。私も一つ不思議に思うことあるんだけど」


 アオタの問いかけに、土佐が手を挙げた。


「はい、明里さん」

「アオタや涼一が言うには、幽霊はそこら中にいて危険な奴らなんでしょ? そしたらもっと事件になって大騒ぎにならない?」


 土佐の言うことももっともだけど、これは僕にもなんとなく説明できる。


「たしかにそう思ったりもするよね。でも、なぜ幽霊が全く認知されないのかは、さっきも言った通り、霊感が微量でもある人っていうのは本来少ないんだ。鷹山高校で言えば、俺らのクラスに霊感がある人は涼一と明里、君たち以外にはもういない」

「えっ。そうなんだ」

「そして、霊感がない人は霊が全く見えない。見えないということは感じることすらできない。こちらから干渉することができないということは、霊からも干渉することができない。つまり、こちらができないことは、奴らにもできないんだよ」


 やっぱり僕が考えていたのと同じ理由だ。

 霊が人をそのまま素通りしている所を、僕は何回も見たことがあったからね。


「だから滅多なことでは、霊絡みの事件というのは起きないんだ。それでも、起きる時ももちろんあるけど」

「なるほどね〜。あ、あとこれは霊に関係ないんだけどさ」

「なんだい?」

「あんたが木曜? の夜に鳥居でなんか打ち付けてたじゃない。あれは何やってたの? それと、一瞬しか顔見られてないのに、あの暗い中、なんで私だって分かったのよ」


 なんの話だろうか?

 僕は聞いたことない話だな。


「その不審者的行動のせいで、私その日震えて寝たんだからね!」


 ああ、なぜか土佐がアオタを不審者扱いしてた理由だこれ……。

 ずっと訳が分からず疑ってたからな〜これが原因か…………。


「ああそのことね。簡単な話さ。あの不自然に置いてある鳥居、あそこに結構ヤバめの霊がいたから封印してたんだ。明里はやっぱりあの霊が見えてたのかい? だとしたら怖い思いをさせて悪かったよ。誰かに見られる前に封印したかったんだけど……」

「私が怖かったのはそこじゃないわよ! なんで暗かったのに私の顔が分かったかってこと!」

「え? あ、そっち? いや暗かったも何も、俺の所には街灯がなかったけど、明里が立ってた所は街灯があったろ?」

「だから?」

「だから明里から見ると暗くて、俺から見たら明里がいるほうが明るく見えるのは当たり前じゃないか。夜中に外からコンビニを見ると中がハッキリ見えるだろ? それと同じだよ」


 …………………………。

 …………………………………………。

 あいたたたた!!!!

 うっわこれスーパー恥ずかしいヤツじゃん!

 特にこれといった理由じゃなくて、ふっつーの理由で論破されたじゃん!

 あ! ほらもー土佐が顔真っ赤になって俯いちゃってる!

 どうしてくれんのアオタ!

 後が怖いじゃん!


「…………すまない。なんか……ひどく傷つけたみたいで」

「…………ふんっ。別に気にしてないし……」


 土佐もたまに天然入るからなぁ。

 頭はいいけど、抜けてる所があるというかなんというか。

 でもそれが逆にいいんだけどね。


「アオタ。僕からも質問あるんだけど、いい?」

「おお、もちろんかまわないよ」


 顔から火が出そうな土佐は置いといて、僕も気になることを聞いてみることにした。


「さっき言ってた、霊力が高い時のメリットってなんなの?」

「そういえばメリットについては話してなかったね。デメリットは先述の通り、周りにも影響を及ぼしてしまうことだ。ならばメリットとはなにか。それは、霊感が強ければ特別な感覚を持っていることがあることだね」

「特別な…………感覚?」


 僕が首を傾げる。


「そう。例えば俺だ。俺は…………霊感がある人間を判別することができる」

「え! そうなの!?」

「さっきまで霊力を数値化してたりしてただろ? 俺の目には霊感がある人は体の周りに膜のような、オーラのようなものがあるのが見えるんだよ。薄く見えれば霊感が弱く、濃く見えれば霊感が強い。その強弱を見てなんとなーく数値化してたのさ」


 すごい!

 急に少年漫画みたいな話になってきた!


「え!? え!? じゃあ僕にも特別な感覚があるってこと!?」

「涼一、おすわり」


 思わずガタッと席を立ってしまった。

 というより土佐、おすわりってなによ。

 犬ですか僕は。

 まぁ座るけど。


「涼一ぐらいの霊感だったら間違いなくあるだろうね」

「え〜なんだろ。未来とか見えるようになる!?」

「悪いけどそれはない」


 おお……バッサリ切られた。

 ちょっとショック。


「特別な感覚って言っても、所詮は霊関係だからね。超人じみたことはできないよ」

「そっか〜残念」


 それでもワクワクせざるを得ない。

 アオタのオーラが見えるっていうのも、カッコ良さげでいいけどな〜。

 恨みしかなかったけど、初めて霊感があって良かったと思ったかもしれない。


「さて、とりあえず質問はこんなものかな?」


 僕と土佐は顔を見合わせて、お互いに頷きあった。

 僕は本当はまだまだ聞きたいことがあったけど、どうやらアオタも今日は話したいことがあったので、そちらを優先することにした。

 一通り聞きたい事は聞けたし、何より僕の不安を取り除いてくれたんだ。

 今度は僕が彼の助けになる番だ。


「いいよ、アオタ」

「オーケー。それじゃあ今度は俺の話を聞いて欲しい。俺は…………部活を作ろうと思ってるんだ!」


 満面の笑顔でアオタが僕達に言った。


 (そういえばそんなこと言ってたなーーーー!)


 僕は思わず心の中で叫んでしまった。


「なんで…………部活なの?」

「部活を作る目的の一つは、鷹山高校にいる霊感持ちの人を一箇所に集めることができる利点があるからさ」

「でも私みたいに、他の部活に入ってる人達もいるでしょ? そういう人はどうするの?」

「そこは既に確認済みさ。部活は籍を置いておくだけなら両立可能だと、校則に記載されていたよ」

「へ〜。変な学校」


 この短期間でよく調べれたね…………。

 まぁ僕は帰宅部だから関係ないんだけどさ。


「それに他にも利点はある。心霊現象で困っている人に対して、大々的に解決する部活があるという事ができる。霊関係なんて、普通は誰かに相談なんてできないものだからね。相手にされなかったり、なんてケースがほとんどさ」

「…………確かに一理ある」


 現に僕がその状態だった。


「そこで、是非君たちにも設立を手伝って欲しい。そして、なおかつ入部して欲しいんだが……どうだろう」」

「ん〜…………。面白そうだけど、私はバレー部があるからな〜。涼一はどうする?」


 パフェを食べきった土佐が聞いてきた。


 正直、僕には断る理由がない。

 部を作って、同じく霊感がある人達と悩みを共有するのもすごい魅力的で。

 僕には正直思いつきもしないし、思いついても行動できない。

 誰が霊感あるかなんて分からないし、そんなコミュニケーション能力も持ち合わせてないしね。


 でも一つだけ、一つだけアオタが本音を言ってない気がする。

 まだ何か、創部に際して隠していることがある気がする。

 少しの違和感……彼のテンションがやたら高いってだけの理由だけど……。


 僕はコーヒーを一気に飲み干した。


「アオタ……。まだ、創部する本当の理由、隠してるよね?」


 真面目な顔で僕は聞いた。

 アオタはピクリと顔を動かした。


「隠してることなんてないよ。これが俺の本音さ」


 だが、笑顔のまま答えは変わらなかった。

 それでも僕は追撃する。


「アオタがそんなにテンションが高いのは、なんで?」


 もう直球。

 アオタはたぶんストレートに聞いたほうがいい気がする。

 遠回しなのは、いなされる。


「確かに少し、楽しそうに話すよね」


 さらに明里の援護も加わった。


「………………別に隠すほどのことでもないか。いいよ。俺の本音、聞かせてあげるよ」


 フッと笑って、アオタが折れた。

 なんか漫画みたいな展開になったけど…………いいや、このノリでいこう。


「アオタの本音は?」

「俺の本音は…………」

「………………」

「高校生活という青春を謳歌したいからに決まってるじゃないか!」

「しょぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 思わず僕の本音も漏れちゃったよ!

 青春を謳歌って!

 アオタって意外と変なこと言うタイプなの!?


「しょぼいとは言ってくれるね。いいかい? 俺たちは高校生だ。世間一般では誰もが羨ましがる年代だ。そんな大事な時期を、霊とかいう気持ちの悪い連中とランデブーをかましたいと思うかい? 否! 俺はそうは思わないな。俺にだって高校生活を楽しむ権利はある! だからこその部活だ! 部活を作ることで、帰りにどこかで友達と道草食ったりもできるし、大切な思い出も作ることができる! 心霊相談にも対応できて、青春を謳歌できるなんてウルトラCな名案は部活ぐらいだと思わないかい?」


 息もつかせぬアオタの持論。

 イケメンで、気遣いできて、完璧な存在で、僕には少し近寄り難いかもなんて心のどこかで思ってたけど…………なんかすごい面白いやこの人。


「なに? そんな急にベラベラ話し出して。引くわ〜」


 土佐が身構えるようにして言った。


「俺にとっては大事なことだからね。本当はこんな事話すつもりはなかったけど、どうしても聞きたいみたいだったからさ」

「いや、隠し事がこんなどうでもいい内容だとは思わなかったから…………」

「涼一、君は意外と毒を吐くタイプなんだな」

「意識したことはないけど」


 僕達はお互いに顔を見合わせ、プッと吹いて弾けるように笑った。

 今この瞬間、僕は初めて心の底からアオタが友達になったんだと思う。

 土佐とアオタ。

 僕はもう2人からも、霊からも逃げてはいけない。

 そして、過去の事件に正面から向き合って、折り合いをつけるんだ。


 そのためには。


「いいよ、アオタ。僕もその部活に入りたい。むしろ僕からお願いだよ。一緒に部活を作ろう」

「…………! 本当かい? 君ならそう言ってくれると思っていたよ。明里はどうだい?」

「土佐。バレー部で忙しいと思うけど、僕と一緒に部活に入らない? 土佐が一緒にいてくれたほうが僕は嬉しいし、なにより、土佐を1人にはしたくない」


 近くにいてくれたほうが、危険な目から守りやすいから。


「な、なんか珍しいじゃない。涼一がそんなにハッキリと言うの…………」


 土佐が耳を赤くして俯いた。

 そんなに変なことは言ったつもりはないけど……確かに雰囲気に流されて、らしくない事は言ったかもしれない。


「うん…………。いいよ、私も入る。バレー部に支障が出ない範囲でだけどね」

「十分さ、ありがとう2人共! これで創部に向けて明日から動きだせる!」

「明日からもう動くんだ…………。ちなみにどんな部活にするの? 心霊現象相談部とか、オカルト研究部とか?」

「実はもう決めていてね。俺の目的は霊を除霊、退治することだ。だから、霊を退治する部活ってことで………………『霊退部』と言う名前にしようと思う」

「『霊退部』かぁ…………短くまとめてあるし、いいんじゃないかな」

「私もさんせー」


 こうして僕達は、日本どこを探してもありはしないであろう部活を設立することになった。


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