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第10話 霊感に比例する力

「2人は霊感、という言葉を聞いたことあるよね?」


 もちろん知っている。

 よくテレビに出てる霊能力者なんかが口にするし、漫画やアニメでも出てくる普通の日本語だ。


 僕と土佐はお互いに頷く。


「霊が見える人。それは簡単な話、霊感が強いということだけなんだ」

「霊感が強いだけって…………そんなシンプルな理由?」

「その通り。至ってシンプルさ。俺や涼一はとてつもなく霊感が強いから霊が見える。逆に明里は霊感が弱いから、霊があまり見えない」


 言ってることは確かに簡単なことだけど…………それだけじゃ納得はできない。

 納得できない理由がある。


「それじゃあ霊感が弱い土佐が、僕といた時だけ霊が見えたのはどういうことなの?」

「霊感に関する問題点はそこだ。まず霊感というのは、生まれつき持っているケースと、途中で身につくケースと2パターンある。俺の場合は生まれつきだった」

「僕は2年ほど前から見えるようになった…………」

「後天的なタイプだね」

「それじゃあ私は? 3日前に初めて見たんだけど…………その時身に付いたってこと?」

「いや、それはありえない。この後天的なタイプだけど、これは概ね中学二年生頃にしか発揮しない。例外もあるにはあるが、1%にも満たない例だから、明里には当てはまらないよ」


 中学二年生……確かに僕が見えるようになったのはその頃だ。


「中二病も、霊感が芽生えた時のおかしな言動が元なんじゃないかとも言われてるし」

「ふ〜ん。じゃあなんで私も見えたの?」

「この霊感のシステムの非常に厄介な所は、霊感があまりに強い人が近くにいた場合、霊感が弱い人でも、それに呼応するかのように霊感が強くなるんだよ」

「……ん? どういうこと……?」


 土佐が頭を捻る。

 僕もイマイチピンと来ない。

 なんとなく分かるような気はするけど…………。


「つまりだね……」


 アオタがカバンの中からペンと紙を取り出し、そこに簡単な図を描き始めた。


「霊感力、すなわち霊力を数値化するとするよ? 土佐の霊力は大体5。この霊力じゃ霊なんか見ることも感じることもできない。そんな低レベルな霊力だ」

「む、なんかバカにされてる気分」


 土佐、の文字を丸で囲み5と書いた。


「そして、一般に霊が見えるようになる霊力というのが30。これが霊を視認、確認できる最低値くらいだな」

「30…………」


 30をボーダーラインとした棒グラフのようなものを書いた。

 土佐は下の方に位置している。


「じゃあ涼一は? 霊が見えてるんだから30以上あるんでしょ?」

「涼一はかなり凄い。数値化で表すと…………70ぐらいだ。正直俺はこのレベルの霊力を持ってる人を今まで見たことがない」

「へぇ! 70! なんか分かんないけど凄そう!」


 確かになんか分かんないけど凄そう…………。

 でも別に霊感が強くても全然嬉しくないけどね。


「でも霊力? が30あろうと70あろうと関係ないんでしょ? 結局見えるわけだし」

「いや、関係大ありだね。高い場合はメリットもデメリットも両方存在する。ここで最初の問題点に戻るわけだけど、霊力70の涼一が霊力5の明里に近づくとどうなるか…………」


 僕はゴクリと息をのんだ。


「明里の霊力は、涼一に引っ張られるかのように上昇する。5だった明里の霊力は恐らく35あたりまで上昇するだろう」

「待って…………それって…………」

「……………………」

「霊感が強い人間に近づけば、例え霊感が低い人間でも強制的に霊感が強くなって、同じように霊が見えるということだ。そしてこれを防ぐ方法は…………ない」


 ……………………やっぱり僕の考えは間違っていなかったってことだ。

 啓輔が襲われたのも、土佐が襲われたのも、全ては僕が近くにいたからということになる。

 前から分かってはいたはずなのに……事実はなにか別の理由があるんじゃないか、なんて期待して。

 対処法もアオタなら知っているんじゃないかと、勝手に浮かれて。


 まるで道化じゃないか。


「でもそうすると、ほとんどの人が霊が見えることにならない? お化けがいるとか、そういう話あんまり学校で聞かないけど」

「この引き上げられるシステムだけど、実は霊感が全くない人には関係ないんだ。ほら、掛け算と同じ原理さ。0に何をかけようが0のままだろ? そもそも微量でも霊感がある人っていうのはそんなに多くはないんだよ」

「へぇ〜なんか面白い話ね。マンガの世界みたい」

「だから俺は今日、霊感がある人を助けるための名案を持ってきて………………涼一?」

「涼一…………大丈夫?」


 僕は、アオタの話は途中から耳に入ってこなくなっていた。


 僕がいることで誰かに危害が及ぶ。

 やはり僕は誰とも関わらないほうがいいんだ。

 いや、関わらないだけじゃまだ危ない。

 学校も行かないほうがいいかもしれない。

 そうすれば、誰も傷つかなくて済むのだから。


 黒いモヤのようなものが、僕の心を覆っていく。


「涼一。君が考えている行為。それはやめたほうがいい」


 アオタが、僕の考えていることを察したかのように、真面目な顔で言った。


「結果的にそれは何の意味にもなりはしない」

「じゃあどうすればいいんだよ! 簡単なこと言って! 防ぐ方法がないんじゃ僕が学校に行かない以外手はないじゃないか!」


 思わず僕は声を荒げてしまい、土佐がビクッと肩を震わせた。

 周りの席に座っていた人達も何事かとこちらを見る。

 構うもんか。


「僕がいたら周りの人も危険な目にあうんだろ!? だったらアオタが来る前のように、誰とも関わらず過ごせばいいだけじゃないか! 僕が我慢すればいいだけじゃないか!」

「涼一…………また関わらないなんて寂しいこと言わないでよ……」


 土佐が泣きそうな顔で僕を見る。


「もう無視しないって約束したじゃん…………嘘だったの?」


 うっ。

 思わず口を紡ぐ。

 確かに僕は金曜日、土佐と無視をしないと約束をした。

 もちろん土佐を裏切るようなことはしたくない…………でもっ…………。


「涼一」


 アオタが僕をジッと見ながら呼ぶ。


「俺は…………俺がこの町に来た理由は…………心霊現象で困っている人を助けるためだ。それは内容に関わらず、心霊現象であればそれこそどんなことでも問題を解決するつもりだ。だからまずは今ここで、キッチリと友達である涼一の悩みを解決するとする」


 ズバッと僕の迷いを断ち切るかのような、そんな物言いに僕は思わず固まった。


「まず最初にはっきり言おう。俺の霊感は涼一よりも上だよ」

「え…………? でもさっき僕ほどの霊力は初めて見たって……」

「見たことがないだけで、俺自身下だとは言ってないだろ?」


 た…………確かに。


「じゃあ数値化するとどのぐらいなのよ」

「ジャスト100だな。さっきの数値化も、元は俺を基準にしてるからね」


 ジャスト100って…………僕より全然上じゃないか……。


「それに強い霊感が弱い霊感を引き上げる、ということだけど、涼一の干渉範囲は恐らく……1ーAクラスぐらいだろうね。あの中にいたら、霊感ある人は涼一の恩恵を受けることになる」

「恩恵って…………じゃあやっぱり僕はいないほうが------」

「関係ない。なぜなら、俺の干渉範囲が鷹山高校全体だから」

「…………!」


 鷹山高校全体って…………僕より全然上じゃないか!


「つまり、涼一が学校に来なくなろうが、霊感ある人は全員俺の影響を受けることになる」

「そんな……! そしたら土佐なんかもまた襲われるかもしれないじゃないか!」

「ああ。だからもし襲われれば、それは涼一の責任じゃなくて俺の責任になるね」

「!」

「この前、土佐が襲われたことも、俺はあの時すでに校舎にはいた。だから涼一のせいじゃなくて、霊感がさらに強い俺の影響を受けたということにならないか?」


 僕は、アオタが何を言わんとしているのかが分かった。

 アオタは…………僕が被るべき責任を全て受け持つつもりなんだ…………。

 たぶんこの後、僕が何を言っても全て自分を悪者にして、僕のことを庇おうとする。


 僕の心に広がっていた黒いモヤはいつしか晴れていた。


 全てに納得したわけじゃない。

 でも、僕のことを思って気遣ってくれる人に対して、これ以上うだうだと情けないことは言えない。

 ただそう思ったんだ。


 僕は…………本当に君に会えて良かった。


「ありがとう……アオタ」

「お礼を言われることは何もしていないよ。ただ、まだ不安に思うことがあるなら今のうちに全て吐き出すといい。俺が全て解決するから」


 そう言って彼はいつもの爽やかな笑顔で僕に笑いかけた。





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