8.アスト・パーティー結成
「さて、次はレベル制や経験値についての説明か?」
「そうですね。今ある疑問ですと、あとはそれくらいです」
「だな」
「まあ、こちらの法則も俺以外に適応されるか不明だがな」
「そちらも用確認ということで、とりあえず今は概要だけ説明をお願いします」
「ああ。レベルというのは、簡単に言えば強さを表す数字だな」
「強さを表す数字ですか?それって、冒険者ギルドの冒険者ランクみたいなものですか?」
「それよりはもう少し細かいな。それと、このレベルを公認しているのが、人ではなく世界という違いもある」
「世界が公認しているんですか?」
「ああ。先程は言わなかったが、二人の世界と同様にこの世界も俺の世界で知られているものなんだ。もっとも、二人の世界のような物語の形式ではないけどな」
「物語ではない?では、どんな形式で伝わっているんですか?単なる文章とかですか?」
アリアもウ゛ェルドも、想像がつかないでいる。
「いや、二人の認識で言えばボードゲームの舞台が近いな」
「ボードゲーム?それってチェスとかですか?」
「ああ。ただし、駒の能力を自分で増やせたり、上げたり下げたり出来るがな。まあ、駒が自分達人間やモンスター達を模した、戦術型シュミレーションの遊戯だ」
「・・・ピンときませんね」
「同じく」
アリアもウ゛ェルドも、ちんぷんかんぷんのようだ。
まあ、電子ゲームなんて存在しない世界の住人だからな。
それに、俺の説明も完璧とは言えない。やっぱり現物が無いと細部があやふやになるんだよな。
「まあ、わからなくても気にしないでくれ。ともかく、そのボードゲームの駒の強さの目安となるのがレベルなんだ。そして、そのレベルは経験値を貯めることで上がっていく」
「経験ならわかりますけど、積むではなく貯めるなんですか?」
「まあ、積むでも合ってはいるな。人や動物は経験を重ねて強く。または能力を変化させていく。だが、ゲームの駒自体が成長するなんてことはありえない。だから、それぞれの駒に倒した場合の得点。経験値をあらかじめ設定しておいて、倒した駒に応じてそれを得られる仕組みにしたのがレベル制というわけだ。経験値の合計が一定値を越える毎にレベルアップ。そして、よりレベルの高い相手に戦いを挑んでいく。これが俺の世界にある、ボードゲームのルールパターンの一つだ」
多分この説明で良いだろう。まあ、テーブルトークゲームの方の説明という気がしないでもないが、概要だからこれで良しとしておこう。
「随分と現実的なボードゲームなんですね」
「俺にはとても出来そうにはないな」
アリアは感心したように頷き、ウ゛ェルドは自分では遊んでも勝てないと思っている様子だ。
「まあ、モンスターやレベルが出るタイプのボードゲームは、ファンタジー要素入りが多いから、俺の世界的には非現実的寄りだがな。非日常的な状況、その登場人物達に自己投影を行って楽しむ。そういう遊戯であり娯楽だな。ちなみに、俺の向こうでの仕事は、その遊戯の舞台や設定を作成して売買することだ」
「夢の有りそうなお仕事をされているんですね」
「そうだな。自分の思い描いた空想、夢想、想像を形に出来るやり甲斐のある仕事だった。なのに、今はなんの因果かこんな異世界だ」
自分の仕事に対する熱意を思い出していたら、現実を思い出して急に冷めた。
「その気持ちはよくわかる。俺達も、仕事帰りに気がついたら異世界だからな」
「そうですね。アストさんの現状は、無理矢理召喚。誘拐された私達とは異なっているはずですけど、それでも好きな仕事が出来ず、今この世界にいることは同じですから」
「そうだな」
ウ゛ェルドとアリアの言葉に俺は慰められた。
一人だとアレだが、似たような境遇の相手が傍に居てくれると、精神的に楽になれるな。
「ありがとう二人共」
「いえ」
「気にするな」
俺が礼を言うと、二人は本心からそう言ってくれた。
「あれ?そういえば一つ聞くのを忘れていたことがあります」
「まだ何かあったか、アリア?」
「たしかに。もう説明が必要な話題は無いと思うんだが?」
もう話はお開きかと思っていると、アリアが唐突に何かを思い出したようだ。
「いえ、まだ一つ。あるいは二つ残っています」
「一つか二つ。何か残っていたか?」
頭の中をあさってみたが、とくにアリア達が聞きたいようなことは無いように思えた。
「はい。一つは、アストさんがこの世界に来た目的。もう一つは、アストさんの親友と言う人か、この世界の創造主と言う人がアストさんをこの世界に送り込んだ目的です」
「ああ!たしかにそれは説明していなかったな」
たしかにそれは、アリア達が聞きたい話題になりえるな。
だが、異世界人という部分でアリア達にも関係しそうな話。アリア達二人に伝えても良いものか?
「うーん、だが二人に伝えて良いものか?」
「何か問題でも?」
「俺の目的の方は、ひょっとするとアリア達にも当て嵌まる可能性があるんだよな」
「私とウ゛ェルドさんにも当て嵌まる?それなら余計に聞いておいた方が良くないですか?」
「それもそうなんだが、内容に問題がな」
「問題?」
「ああ。二人にとって不利益というか、なんというか・・・」
俺は言葉を濁し、二人の反応をうかがった。
ウ゛ェルドは首を傾げ、アリアは聞くことを決意したようだ。
「問題があっても構いません。むしろ、その問題の部分を知っておきたいんです」
「・・・わかった」
決意の篭ったアリアの目を見て、俺もちゃんと二人に伝えることを決めた。
「俺がこの世界に来た目的は、二人と同じようにこの世界に連れ去られた友人、知人を殺して、その魂を故郷の世界に持ち帰る為だ」
「「えっ!?」」
「その殺さないといけない理由だが、本来の召喚は召喚陣と送還陣がセットで存在していたらしいんだが、この世界の人間達が送還陣の方を、異世界人達を逃がさない為にかなり昔に破棄してしまったらしい。そのせいで、現状異世界人達は生身で故郷の世界に帰れなくなっているそうだ。だから、せめて魂だけでも故郷に還す為に、俺が直接この世界に来ているんだ」
「「・・・」」
俺の目的を聞いた二人は、沈黙して思考を巡らせているようだ。
「・・・あのーアストさん。先程私達に当て嵌まる可能性があると言っていましたけど、それって・・・」
「大変言いにくいが、二人の方も生身のままでは故郷に帰れないかもしれない」
「・・・そう、ですか」
「アリア」
アリアは落ち込んでしまい、ウ゛ェルドがまた慰めはじめた。
「なあ、本当に生身で帰る方法は無いのか?」
「悪いが俺はそのことについて何も知らない。そもそも、俺の世界以外からも召喚が行われているとは、二人に会うまで知らなかった」
アリアを慰めながらのウ゛ェルドの質問に、俺はそう答えるしか出来なかった。
「・・・そうか」
「だが、あくまで俺が知っているのは俺の世界の連中についてだけだ。二人が生身で帰る可能性は、完全に零というわけじゃない」
そもそも、二人の扱いが生身なのかもわからないしな。
「気休め、か。たしかに可能性は零じゃないんだろうが、帰れる可能性はかなり低そうだな」
「こればかりはなんともな。知らないことで、安心は与えてやれないからな。ただ・・・」
「ただ?」
「俺は知らなくても、俺の親友である冥夜が知っている可能性はかなり高い。それに、生身では無理かもしれないが、二人の魂を故郷に帰してやることは可能だと思う。だから、冥夜と連絡がつくまでの間、二人共俺と行動を共にしないか?俺は二人の役に立つ知識と二人が帰れる可能性を持っている。そして、お前達二人も俺より一ヶ月早くこの世界に来ていることで、それなりの世情を知っているだろう?行動を共にすることは、お互いにメリットがあると思うんだが、どうだ?」
俺の突然の提案に、ウ゛ェルドとアリアは互いの顔を見合わせた。
自分でも唐突な提案をしたと思うが、俺としてはこの世界で少しでも信頼出来る仲間が欲しい。
その点この二人なら、性格も能力も把握しているし、この世界の住人ではない点も俺に都合が良い。それに、俺達にはさっき言ったとおりのメリットが互いにある。
両者がWinーWinの関係が築けるのなら、それはある意味対等な関係だと言える。
二人には是非頷いてもらいたいところだ。
俺が二人の返事を待っていると、二人は二、三言葉を交わした後頷きあった。
どうやら結論が出たようだ。
俺は緊張しながら二人の答えを待った。
「わかりました。その提案を受けます」
「ありがとう」
「ただ・・・」
「ただ?」
「私達の方のメリットが大き過ぎませんか?」
「そんなことは気にしないで良い。明確に提示出来ないだけで、二人が俺と行動してくれて発生する俺へのメリットは、かなり大きいんだからな」
「そうなんですか?」
「メリットの大きさは個人の主観で決まるからな。俺にとってはそうなんだ」
「それもそうですね。では、これからよろしくお願いします」
「よろしくな、アスト!」
「こちらこそよろしく、アリア、ウ゛ェルド」
こうして俺達三人は、パーティーを結成した。