7.アスト・説明
「すみません、お待たせしましたアストさん」
ドロップアイテムの回収を終えた俺は、アリアに呼ばれて視線をアリア達の方に戻す。
「もう大丈夫そうだな。それにちょうど良かった。こちらも、この戦場に残っていたあの化け物達の排除と、ドロップアイテムの回収を終えたところだ」
気を持ち直した様子のアリアに、気にしないように伝えた。
「皆さんを助けてくれたんですか?ありがとうございます。けれど、ドロップアイテムというのは?」
「ドロップアイテムというのは、あの化け物達が残していった物のことだ。アリア達の世界とは法則が違うから説明するが、このデイドリームではモンスターを倒すと、それぞれのモンスターごとに決まったアイテムを落とすんだ」
「デイドリーム?この世界の名前はドリームでわ?モンスター?それはナイトメア達のことですか?それに、今のドロップアイテムについての説明もおかしいです」
アリアは俺の説明に何か疑問を持ったようだ。
何か説明を間違っただろうか?
自分的には、知っていることをそのまま教えたつもりなんだが。
「一つ一つ答えていくが、俺の世界ではこの世界はデイドリームと呼んでいるんだ。モンスターについても同じだな。俺の世界にはいないが、ああいう怪物や異業種をモンスターと呼称するんだ。まあ、もっぱら空想や物語の中に登場する名称だがな。最後のドロップアイテムについてだが、これはよくわからないな。俺の説明のどこがおかしかったんだ?」
「単純なことですけど、私達やこの世界の人達がナイトメア達を倒しても、アストさんの言うドロップアイテムなんてものは出ないんです」
「ドロップアイテムが出ない?そういえば、ウ゛ェルドが何体かあの化け物達を倒していたが、足元にドロップアイテムは転がっていなかったな。あの状況なら回収している暇は無いだろうし、そうか、ドロップアイテムがそもそも出現していなかったのか」
アリアに言われて始めて気がついたが、あの状況から考えるとそういうことなのだろう。
「だが、俺の倒した分は普通にアイテムをドロップしていたぞ?」
「そう、ですね。たしかにアストさんが倒したナイトメア達は、何かを残して消えていきましたよね」
アリアは、そのことを本当に不思議に思っている様子だ。
この世界がゲームの法則をそのまま適応しているのなら、ドロップアイテムが出てもおかしくはない。だが、アリア達が倒しても出ないということは、世界にそのまま法則が適応されていない可能性が高い。
つまり、俺だけがゲーム仕様の法則を適応されているっていうことか?
・・・これについては、これからデータを集めて確認するとしよう。
「理由はわからないが、俺だけに知っている法則が適応されているのかもしれないな。まあ、今はなんとも言えないから、確認出来たら改めて教えるよ」
「そうですね。それでお願いします」
「話が脱線したな。改めて確認するが、二人は異世界から連れて来られたんだよな?」
話がズレたが、さっきした質問の答えを確認した。
「はい。私とウ゛ェルドさんは、一ヶ月前にこちらの世界に連れてこられました」
「そうか。なら間違いないな」
「あの、アストさんは私達とは別の世界から来ているんですよね」
「そうだ」
「なら、なんで私達のことを知っているんですか?」
「だよな。なんでだ?」
ウ゛ェルドもアリアと同感のようで、一つ頷いた。
「うーん。二人が納得出来るかはわからないが、簡単に言うと、二人の世界のことが俺の世界にある物語の一つになっているんだ」
「えっ!?」「はっ!?」
俺の答えに、アリアもウ゛ェルドも訳がわからないという顔をしている。
「やっぱり理解出来ないよな。二人の世界にある物語といえば、伝承や伝説、英雄襌の類いだけだものな」
二人の世界は、一般的な中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界。小説や漫画、ゲームといったサブカルチャーが発展していないからな。
「えーと、たしかにぱっと聞くとわからないんですけど、私達の世界が物語になっているって、どんな感じなんでしょう?」
「どんな感じ、か。形式は二人の知っているような物語とたいして変わらない。その物語の主人公や仲間達、敵を中心に事件や冒険、日常が主人公視点や第三者の視点で語られていくのが一般的だな」
「あの、その構成でアストさんが私達のことを知っているということはつまり・・・」
「ああ。ウ゛ェルドが主人公で、アリアがヒロイン役だ」
「やっぱりですか」
「???」
アリアはがっくりと肩を落とし、ウ゛ェルドはアリアのその様子にオロオロしだした。
「だから全てを知っているわけではないが、ある一定期間、一定の場面の二人のことはよく知っている。アリア、君の隠された能力や、ウ゛ェルドの正体についてもな」
「私の隠された能力?」
アリアは何のことだろうという顔をしている。
つまり、今目の前にいるアリアは、その能力を自覚するよりも前の時間の彼女ということになる。
「ふむ。今の言葉からすると、今の二人は黒竜王との決戦前後の時間軸から来ているのか?」
「黒竜王?・・・たしかに私達は二ヶ月前に黒い竜王と戦いましたけど・・・」
「やはりか。そうなると、アリアもウ゛ェルドもまだ未覚醒の状態か。なら、さっきのモンスター達に遅れをとったのも当然か?・・・いや、なんで使い魔等を使おうとしなかったんだ。命には変えられないだろう?」
物語と現状に齟齬がある理由をアリア達に確認した。
この世界の法則があやふやな以上、検証する為のデータは出来るだけ欲しい。
「それが、こちらの世界に来てから使い魔達との繋がりが切れているんです」
「繋がりが切れている?・・・ああ!世界を越えたから召喚に応じられないのか」
「多分そうです。私の召喚は、同じ世界の別の場所にいるあの子達を呼び寄せるタイプですから」
「なるほどな。アリアが使い魔を使わない理由はわかった。けど、こちらで新しく使い魔を作れないのか?」
「うーん、出来ないことはないでしょうけど、やってみないことにはわかりません」
「それもそうだな」
アリアの能力が使えるようになるかは、俺と同じでよう確認か。
「じゃあもう一つ。ウ゛ェルドはなんで本性を出さなかったんだ?」
「俺もアリアと同じだ。こっちの世界に連れてこられてから、本来の姿に戻れない。出来てせいぜい肉体を部分的に変える程度だ」
ウ゛ェルドは、腕を本来の鱗に覆われた状態に変化させ、俺に見せてきた。
「ウ゛ェルドの方がアリアよりも深刻か。だが、ウ゛ェルドが戻れない理由はなんだろうな。アリアの方の理由は間違いないだろうが、お前の方の理由はすぐには思いつかないし」
「私もさっぱりです」
「同じく。あえて言えば、戻ろうとするとなんか力が抜けていくんだよな」
「力が抜けていく?」
「ああ」
ウ゛ェルドは腕を人間のものに戻し、頷いた。
「力が抜ける、ね。・・・ああ!原因は、質量かエネルギー不足か!」
そのことを念頭に理由を考えた結果、その可能性が思い浮かんだ。
「質量かエネルギーの不足?どういう意味ですか?」
「なるほど、そういうことか!
」
今回はアリアの方がよくわかっていない顔をした。
反対に、ウ゛ェルドは自分の種族のことだけに、俺の語った理由に納得がいったようだ。
「今の時間軸のアリアはまだ知らないか。もう二年くらい先のアリアなら知っていたんだろうがな。今から説明するよ。まずは簡単な事実確認から。アリア、ウ゛ェルドの体重をどう思う?」
「ウ゛ェルドさんの体重ですか?同年代の人よりは、筋肉の重さで若干重い程度のはずですよ」
「まあ、その程度だな。じゃあ次に、アリアはウ゛ェルドをおんぶか抱っこ出来るか?」
「さあ?多分短時間なら出来ると思いますけど、これって何を確認しているんですか?」
「単なる事実確認だ。今の人間体のウ゛ェルドの体重が、人間と変わらないっていうな」
「なんでそんな当たり前のことを確認するんです?」
アリアは、そんなことは常識だという顔をした。
「では逆に、本来の姿のウ゛ェルドの体重とかはどうだろうな?今の姿と同じだと思うか?」
「そんなわけないじゃないですか。歩くだけで大地が揺れますし、普通に地面が凹んで大穴が出来るぐらい重いですよ。・・・あれ?」
アリアは俺が何を言いたいのか気づいたようで、頭に疑問符を浮かべたみたいだ。
「つまりはそういうことだ。ウ゛ェルドの重量はその姿によってかなり変化する。身体の大きさや質量で重量が変化するのは当然だが、さて、本来の姿の質量は、人間の姿の時には何処にいっていると思う?」
「うーん?わかりません」
「まあ、そうだよな。正解は大気中に魔力化して保存しているだ」
「はあ?そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。(というか、そういう設定なんだよな)」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
不思議そうな顔をしているアリアをごまかした。さすがにこれはまだ説明する気がない。
「設定?」
「うん?どうかしたか、ウ゛ェルド?」
「いや、今設定がどうとか言っていた気が「気のせいだろう」・・・そうか」
アリアをごまかしていると、ウ゛ェルドがそんなことを言いだしたので、こちらもごまかしておいた。
どうやら、ウ゛ェルドの聴力は本来の姿の時と変わっていないようだ。
今度からは発言に注意しよう。
「さて、これらの事実をもとにウ゛ェルドの現状を想像するに、こちらに誘拐された時にその魔力化した質量が取り残されたのが原因で、本性を構築出来るだけの質量がなくなっているんだろう」
「つまり、その失った質量を取り戻せれば、ウ゛ェルドさんは本来の姿に戻れるってことですか?」
「多分そうだ。さっき腕は出来ていたから、しばらくこの世界で魔力を貯めて、それを質量に変換すればいけると思うぞ。ただ・・・」
「ただ?」
「ウ゛ェルドが元に戻るだけの魔力がどれくらい必要なのか。それに、この世界でそれだけの魔力を生成、保持出来るのかという問題もある」
「それもそうですね」
「こちらも確認が必要だ」
俺の意見に、アリアもウ゛ェルドも頷いた。