6.アスト・出会う
「もうそろそろ良いか」
重力操作と時空間干渉で召喚した剣を操りながら、周囲の状況を確認してそう判断した。
俺は視線を待たせていた二人の方に向けた。
視線の先には、先程の化け物達との戦いで満身創痍の二人がいた。
手入れをしていない紺色の髪に、素直そうな薄紫色の瞳、こしらえの違う双剣を持った十代後半の見た目をした少年ウ゛ェルド。
茜色の長髪と、優し気な翡翠色の瞳。木製の杖を持ったウ゛ェルドよりも少し年下の容貌の少女アリア。
自分が想像したそのままの姿の二人がそこに居た。
「待たせたな。とりあえずは危険を排除したから、少しは話が出来る」
「いえ、助けていただきありがとうございます」
「ああ、おかげでアリアが死なずにすんだ。俺からもありがとうを言わせてくれ」
俺が話かけると、二人は設定されたとおりの口調で礼を言ってきた。先程は自分の知っている二人とは限らないと二人には言ったが、容姿、名前、性格に口調。ここまで条件が一致しているということは、知っている二人と同一か、かなり近い存在なのだろうと思った。
そして、この事実から冥夜の言っていた言葉の意味を理解した。
「気にしないでくれ。それで、何から話をしようか?俺が二人を知っている理由か?それとも経験値やレベル制について?それとも他に聞きたいことがあるか?」
俺は先程待ってもらた話題か、それとも新しい話題が良いか二人に尋ねた。最終的には二人の質問には全部答えるつもりだが、二人がどの話題に興味があるのか気になった。
「いえ、順序だてて聞いていきます。まずは一つ目の質問です。私達を助けてくれたのは、私達を知っている風なことに関係ありますか?」
アリアはやはり慎重なようだ。
「ある。俺は少し前に街の傍に来たんだが、こちらが騒がしかったから魔法で様子を探っていたんだ。そしたら二人が戦っている上ピンチじゃないか。だから慌てて助けに入ったんだ」
俺は簡単に少し前の自分の行動を説明した。
「そうなんですか。そのおかげで私達は助かったんですね。そして、すぐにそういう行動を採ったということは、アストさんにとって私達は守らないといけない対象か、すぐに助けに入る程度には大切な相手ということですね」
アリアは俺の簡単な説明にたいして、話からそう予想してきた。
さすがにアリアは話がわかる。
そして、アリアのその予想は正解だ。
俺にとって二人は大切な存在なんだからな。
「正解だ」
「けど、なんでそんな風に思ってくれているのかの理由がわからないんですけど?」
アリアは確信めいた顔から一転、不思議そうな顔をした。
まあ、そこの部分を予想する材料が無いんだから、そんな顔にもなるよな。
「そうだなぁ~・・・良し!もう単刀直入に聞いて、言ってしまおう。なあアリア、ウ゛ェルド」
「なんです?」
「どうかしたか?」
二人は揃って俺を見た。
「二人は異世界召喚で誘拐されたんだよな?」
「「えっ!?」」
俺が二人にそう聞くと、二人は揃って驚いた後、また揃って突然俺から距離をとった。
そして、手持ちの武器を構えてこちらを警戒しだした。
「おいおい、突然どうした?」
さすがに二人のこの極端な反応には、俺の方も驚いた。
「・・・アストさん、貴方はあの国からの追っ手ですか?」
「あの国からの追っ手、ね。なるほど、周囲にいる奴らは二人を誘拐した連中とは別口か」
どうやら言い方が悪かったらしく、二人を勘違いさせてしまったようだ。
だが、今の発言でこの戦場にいる人間達が誘拐犯やその仲間でないことがわかった。
化け物達と一緒に皆殺しにしないで良かった~。
最初は二人がかなりのピンチだった上、二人が孤立していたので、周囲の人間達は誘拐犯かその仲間である可能性が高いと思った。
二人を助ける時に、化け物達と一緒に排除してしまおうかとも思ったが、さすがに突然現れて何もかも皆殺しにすると、二人の心象が悪いだろうと思い止まった。
それが結果的に正解だったようだ。
短絡的に行動しなくて良かった。
「・・・その口ぶりだと、アストさんは追っ手ではないんですか?」
「ああ、違う。というよりも、俺はこの世界の人間でさえない」
「「!」」
「俺は二人とは違う世界、違う方法、ある目的を持ってこの世界にやって来た」
俺はさっきよりも驚いている二人に、さらに追加の情報を渡した。
「・・・私達とは違う世界。それに、目的を持ってやって来た。つまり、アストさんは自力で世界を渡れるということですか?」
アリアの目に、何かを期待するような光が宿った。
「残念ながらそれは違う。俺にそんな能力は無い。俺をこの世界に飛ばしたのは、俺の親友か、その親友と親交のあるこの世界の創造主だ」
アリアの期待に応えられなくて残念だが、自力で世界を渡るようなまねは俺には出来ない。
「・・・そうですか」
アリアは残念そうに肩を落とした。
なんだか非常に申し訳ない気持ちになってくる。
単純に不可能なだけなら良いのだが、持っている能力で近いことなら出来るだけに、そう思わずにはいられない。
「気を落とすなよアリア」
「・・・ウ゛ェルドさん」
そんなある意味気まずい空気の中、ウ゛ェルドは落ちこんでいるアリアの肩を抱き寄せ、アリアを慰めだした。
アリアの方もウ゛ェルドに身を任せ、そのままされるがままに慰められた。
・・・ここに独り者がいたら、「リア充爆発しろ!」とかほざきそうな場面だが、俺は空気を読んでアリアが落ち着くのを待った。
というか、二人が恋人同士で最終的に夫婦になるのは規定路線。
俺としては微笑ましいかぎりだ。
「まだかかりそうか。なら、先に向こうを片付けておくとしよう」
十分くらいしても二人から甘い雰囲気がしていたので、二人のことはそっとしておくことにした。
その代わり、視線を剣で作ったバリケードの向こう側に向ける。
バリケードの向こう側では、まだ生き残っているこちらの世界の人間達が、必死の形相で黒い化け物達と戦っている。
「射貫け」
そんな全滅間近な人間達に襲いかかっている化け物達に狙いを定め、俺は無数の剣を射出した。
銀の光を瞬かせ、射出された剣達は化け物達を順次貫いていった。
そうしたら、戦場中で先程と同じように光が舞った。
数多の光が俺の方に飛んで来て、そのまま俺の身体に溶け込んでいく。
光を吸収する度に、身体中を強烈な充足感が満たしていく。
「《ステータスオープン》」
一通り経験値を吸収した後、ステータス画面のレベルの項目を確認した。
感覚的には、レベルが上がった気がするのだ。
「おっ!二つ上がってる。・・・しかし、相変わらずステータスの部分が無いな。これだと、レベルが上がっていても強くなっているのかわからないな」
レベルはちゃんと上がっていても、能力が強化されたのかわからないと、強くなったのか自覚が持てない。
本当、俺のステータスは何処にいっているのだろう?
「それと、かなり倒したはずなのに、経験値が余り入ってこなかったな。あいつら、見た目は化け物じみていたけど、実際は雑魚だったのか?」
あれだけの数を倒したのに、レベルの上昇がたった二つ。
これは俺が強すぎて経験値があまり入らなかったのか、あいつらが雑魚すぎて経験値が少なかったのか、いったいどちらだ?
「・・・アリアとウ゛ェルドが苦戦していたんだ、そこまで雑魚というわけはないか」
アリアとウ゛ェルドのスペックを思い浮かべ、そう結論した。
二人共全力を出してはいなかったが、それでも弱かったわけではない。
なら、俺のスペックが二人をかなり上回っていたということだろう。
とりあえず今はそう結論しておく。
「ドロップアイテムも回収しておくか」
俺は戦場各所にワームホールを開き、化け物が落としていったドロップアイテムを亜空間に収納していった。