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ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
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5.ウ゛ェルド・光を見る

アリアが俺を庇い飛び出した直後、そいつはこの戦場に突然現れた。


俺達の世界では見慣れない艶やかな黒い髪。

故郷の同族を思い起こさせる鋭い銀色の瞳。

油断無く構えられた二振の剣。

外見の頃は十代後半なのに、その歳に似合わない落ち着きを感じさせる面差し。

引き締まってはいるが、本来なら威圧感を感じにくいだろう背格好から、ナイトメア達に対して放たれる強大なプレッシャー。


そんないろいろな点で、俺にちぐはぐな印象を与える正体不明の人物。

けれど一番おかしかったのは、その人物が俺とアリアの名前を呼んだことだ。


少なくとも俺は、こんな印象に残りそうな相手と会った記憶はこちらでも向こうでもなかった。

同じように疑問の篭った目をしているアリアに目線で尋ねてみる。が、アリアも俺と同じらしく、首を振って知らないと示してきた。


俺は記憶力に自信がなかったが、アリアも知らない以上、こいつとは初対面で間違いはずだ。


「貴方は誰ですか?」


俺がどういうことかと考えていると、アリアが率直に質問した。


「俺か?そうだなぁ・・・そう、俺の名前はアストラルだ。アストと呼んでくれ」


アリアに質問されたこいつ。アストは、少し考えてそう名乗った。


「アスト、さんですか?」

「そうだ。そう呼んでくれ、アリア」


アリアに確認されたアストは簡単に頷き、再びアリアの名前を呼んだ。


どうやら先程名前を呼ばれたのは間違い無いようだ。

となると、俺達が知らなくてアストだけが俺達のことを一方的に知っているということになるのか?


「あの、私達会ったことありますか?」

「いや、二人と直接会ったことはない。それに、何気なく名前を呼んでしまったが、二人が俺の知っている二人とは限らないしな」


アストの知っている俺達とは限らない?


「あの、それってどういう・・・」

「説明は後にするよ。話すと長くなるからな。先に向こうを片付ける、《召喚》流星剣」


アストはアリアの疑問の声を途中で止め、今まで存在を忘れていたナイトメア達に攻撃を始めた。


アストが召喚と言うと、ナイトメア達の上空に無数の銀色に輝く剣が出現し、次々とナイトメア達に向かって降り注いでいった。


アストは俺と同じ剣士かと思ったが、魔法も使えるようだ。いや、それともこの世界でいうスキルというやつだろうか?


・・・それはともかく、その剣の速度はかなりのもので、ナイトメア達は回避する暇も無く次々に剣に貫かれていった。


「うん?」

「なんだ?」

「なんでしょう?」


そして、無数の剣の餌食となったナイトメア達に、唐突に変化が起こりだした。


剣に貫かれて崩れ落ちていたナイトメア達の身体が、突如光だしたのだ。


最初は剣が刺さっている場所から光が漏れだし、それが徐々にナイトメア達の全身に広がっていった。

そして、ナイトメア達の身体が完全に光に包まれた次の瞬間、ナイトメア達は光の粒子になって次々とアストの身体に吸い込まれていった。

その後ナイトメア達が居た場所に残っていたのは、宝石のように輝く石と、無数のアイテム等だった。


「その、大丈夫なのか?」

「ああ、問題無い。ただ経験値を吸収しただけのようだ」

「「経験値?」」


ナイトメア達が残した物は気になるが今は置いておいて、とりあえずナイトメア達から出た光を浴びたアストに異変はないか尋ねた。

するとアストは、自分の身体を確かめた後、またよくわからない返事をしてきた。


経験値、ってのはいったい何なんだ?


経験ならわかる。だが、経験値を吸収したと言われても全く意味がわからない。


「ああ、二人の世界はレベル制ではないからわからないか。ならこちらも後で説明する」


そんな俺達の様子を見たアストは、一人で納得したように頷くと、この話も後回しにすることにしたようだ。


「巡り、廻れ」


俺達から視線を外し、アストがまた何か言うと、今度はナイトメア達の身体が消失したことで地面に落ちていた剣達が、一斉に空中に浮かび上がる。そして、その場で突然回転を始めたかと思うと、猛スピードで一番近くのナイトメアに向かって飛んでいった。


無数の剣が縦横無尽に空を駆け、剣が飛翔する毎に近くにいるナイトメアを貫いていく。


その結果、俺達の近くにいたナイトメア達はあっという間にその数を減らしていき、先程同様全て光へと変わっていった。


俺とアリアは、その光景を呆然と見守っていた。

先程まで俺達が命懸けで戦っていた相手が、いともたやすく倒されていくのだ。

先程も見たとはいえ、そう簡単には信じられない出来事だった。


それでも現実が変わるわけもなく、ナイトメア達はみるみる数を減らしていった。


やがてある程度のナイトメア達が駆逐されると、今度は剣達が俺達を中心に円を描くように動き始め、ある種の壁かバリケードのようなものが出来上がった。


俺とアリアは揃ってアストの顔を見たが、アストは周囲のナイトメア達を牽制?している為、俺達の方を見ようともしなかった。


どうやらまだ話の続きは無理らしい。


「・・・ウ゛ェルドさん」

「どうした、アリア?」


そう思っていると、いつの間にか俺の傍に来ていたアリアに袖を引かれた。


「おかしいですウ゛ェルドさん」

「おかしい?アストがか?」


俺はアリアの言葉に、すぐにアストのことだと思った。


「いえ、アストさんの方も気にはなりますけど、そうじゃなくてナイトメア達のことです!」

「ナイトメア?ナイトメアがどうしたんだ?」


あの正体不明の連中の何がおかしいのか、今更過ぎてすぐにはわからなかった。


「なんでアストさんが倒したナイトメア達は、光になって消えるんでしょう?」

「そういえばそうだな。アストは経験値がどうとか言っていたが、光になる理由は無いよな?」


アリアの言葉に俺も疑問を覚えた。

アストが現れる前に、俺達も僅かだがナイトメア達を倒している。

だが、その時にはナイトメア達は霧散するように消えていった。

アストが倒した後のように光になることも、また、何かを残すようなこともなかった。


それなのに、アストに倒された時だけああなっている。

たしかに言われてみると、かなり不可解だ。


そもそも、この世界に冒険者ギルドが設立されなかった理由もそこにあるんだしな。


俺達の世界では、大半の冒険者達は魔獣を倒すこと。そして、その倒した魔獣の身体を売ることで生計をたてていた。


しかし、こちらの世界の魔物やナイトメアは、倒されると全て霧散して後にはなにも残さない。


敵を倒しても何も残らないから倒したことを証明出来ず、倒しても何かに利用することも叶わない。

その為冒険者という職業が成り立つことはなかった。だから、その代わりに契約で任意の対象を護る護衛ギルドが設立された。


だが、今はその前提が崩れようとしている。

ナイトメア達は倒された後に何かを残し、倒した相手。アストにも何かを残しているようだからな。


ひょっとすると、俺とアリアはこの世界が変わる瞬間に立ち会っているのかもしれない。


俺は何と無くそう思った。



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