40.逃走と不吉な言葉
アルフレッドと領主兵達は、山狩りの結果、現在は賊のアジトである洞窟を囲むように布陣している。
「あれがそうなのか?」
そんなアルフレッド達に、それぞれのギルドメンバーを引き連れたアイオンとバオンが合流した。
「そうです。見張りの姿も確認出来ていますから、まず間違いはありません。まあ、違ったとしても、こんな所に潜んでいる一団です。たとえあの賊とその仲間ではなくても、ほおっておくわけにはいきません」
「たしかにな。あの賊にしろ、盗賊や山賊でも放置は出来ないからな。おいお前ら、兵隊のサポートに回れ!」
「「「はっ!」」」
アルフレッドと情報を共有したアイオン達は、それぞれのギルドメンバーも包囲に加わらせた。
通常の山狩りなら手柄を争って互いに前に出るところだが、今回は領主館を襲撃した賊の捕縛、または片付けが理由の為、領主兵達がメインとなる必要があった。
この辺りは体裁の問題である。
「配置完了しました」
「良し。それで、作戦とかは決めているのか?」
部下の報告を聞いたアイオンは、アルフレッドにこれからの行動を確認した。
「まずは見張りを片付ける」
「まあ、それは基本だな。それで?」
「対象は洞窟の中にいるはずだ。だから洞窟に突入する必要がある」
「当然だな」
「しかし、洞窟の内部がどうなっているのかは不明だ。他に出入口がある可能性も否定出来ない」
「そうだな。よほど頭が悪くなけりゃ、逃走ルートを確保しているのが普通だ」
逆に頭が悪い山賊の類いは、逃走ルートを自力で確保しておらず、袋の鼠を地で行く場合がある。
この世界、教育が行き届いてはいないので、それなりにこんなお馬鹿な盗賊も実在していたりする。
「なので、出入口を押さえた後は軽く燻すつもりです」
「燻すって、火でいぶりだすってことか?だが、下手をすると煙りに撒かれて逃げられやしないか?」
「その可能性はありますが、わざわざ罠が仕掛けられている可能性がある洞窟に侵入するよりはリスクが低いですよ。それに、運が良ければ敵の無効化と他の出入口の確認も可能です」
「それもそうだな。まあ、指揮官はお前だ。作戦はお前の好きにしろ」
「はい。良し、始めろ!」
「「「はっ!」」」
アルフレッドの命令に従い、領主兵達が作戦を開始しだした。
領主兵達は早速見張りを襲撃し、二人しかいなかった見張りはあっさりと制圧された。
その後領主兵達は、洞窟の内部から敵が来ないかの監視をしつつ、洞窟の前に木材と藁をどんどん積んでいった。
その後ある程度の高さを確保した後に火を点け、洞窟内に向かって煙りを流し込んでいった。
一方その頃、賊達も頭の指示の下で洞窟内に罠を張り、着々と領主兵達を迎撃する為の準備をしていた。
「うん?なんだこの臭い、焦げ臭い?」
「奴らまさか我等をいぶりだすつもりか!?」
そんな彼らのもとに、何かが焼けるような臭いが先に到達した。
その臭いに誰もが顔をしかめ、臭いの出所を捜すと、洞窟の入口の方から追加の臭いと大量の煙りが侵入して来たところだった。
「ゲホ、ゲホ」
「ゴホ、ゴホ」
侵入した煙りはあっという間に洞窟内に充満し、賊達は揃って咳込みはじめた。
「これは堪らん!どうする?」
「こうなっては仕方がない、脱出だ!」
「了解だ。野郎ども退くぞ!」
「「「おおう!」」」
頭はそう言うと、洞窟の壁に触れた。
すると、今まで壁だった部分が崩れ、新たに通路が現れた。
賊達は時間稼ぎを仕掛けた罠に任せ、その通路を通って洞窟から脱出していった。
「反応が無いな。やっぱり逃走ルートを確保していたか?」
賊達が逃走してしばらく経ち、アルフレッド達はそろそろ洞窟に突入しようかと考え始めていた。
「だろうな。さすがにこれだけ経ってるのに出て来ないなら、そういうことだろう」
とうに煙りに撒かれて死んでる可能性もあるにはあったが、反応が無さ過ぎてその可能性は除外されていた。
「なら、一度突入して中をあらためますか?」
「それも良いが、この包囲は何処まで張ってあるんだ?」
アイオンは、洞窟周辺にいる領主兵達の姿を見ながら、そのことをアルフレッドに確認した。
「一応麓の方でもこの山を囲むように領主兵達を配置しています。取り逃がす可能性もちゃんと考慮しておいたので」
「それなら俺達はここで連絡を待ち、一部の奴らに潜らせるのが良いだろう」
「そうですね。一隊を洞窟内に突入させろ!」
「はっ!」
「俺達のところからも何人か回せ」
「はっ!」
こうして領主兵、護衛ギルド、傭兵ギルドのメンバー達がそれぞれ洞窟内に進入していった。
「あとは結果待ちか」
「別段結果は待たなくても良いが」
「えっ!?」
「あっ!?」
「あん!?」
アルフレッドがそう言った直後、この場にいない第三者の声が周囲に響いた。
「セイヤさん?」
「ああ、そうだ、紫苑の息子」
アルフレッドはその声に聞き覚えがあり、数日前に知り合った両親の友人の名前を呼ぶと、肯定の返事が返ってきた。
「アルフレッドです」
「名前呼びが希望ならそうする」
「それでお願いします。それでセイヤさん、今のはどういうことですか?それと、何処から話しかけてるんですか?」
アルフレッドは周囲を確認したが、アストの姿は見当たらなかった。
「俺の現在地は、領主館の応接間。先程の言葉の意味は、賊の居場所は俺が把握しているから待つ必要がないってことだ」
「領主館から?そんな離れた場所から話しかけているんですか!?それに、賊達の居場所も把握済みって!?」
アルフレッドは、アストの非常識な答えに驚くしかなかった。
「どちらも俺の能力なら可能なことだ。それよりも賊の現在地だが、その洞窟内をさらに北側に移動中だ。もうそろそろ山の麓に出るんじゃないか?」
「「「なんだって!!」」」
アストの次の言葉に、アルフレッド達はさらに驚くことになった。
「こうしてはいられない。さっさと合流しなくては!」
アルフレッド達は驚きから覚めると、急いで追跡の指示を出し始めた。
「する必要はないぞ」
だが、そんな彼らの動きを、冷めたアストの言葉が停止させた。
「なぜですか?」
「あいつらはそろそろ自滅するからだ」
「「「自滅?」」」
アストの言葉に、アルフレッド達は疑問を覚えずにはいられなかった。
アストは賊が自滅すると言った。
賊の居場所を知っているアストが賊をどうにかするというのならわかる。
しかし、アストがどうにかするのではなく自滅。
賊達が仲間割れでも起こすというのだろうか?
しかし、そんな理由はないはずだ。
賊達はアルフレッド達からほぼ逃げおおせている。
戦いの途中で部下を切り捨てたりする話しはそれなりに聞くが、そもそも戦闘すらしていない現状ではその可能性は無い。
ならば金銭的な揉め事か?
それもこのタイミングで自滅する理由としては違う気がする。
アルフレッド達は、アストの言葉の理由が皆目検討がつかなかった。
「どうして賊達が自滅するんですか?」
アルフレッドは考えるのを止め、アストに答えを求めた。
「奴らがアレを所持しているからだ」
「「「アレ?」」」
「そうアレ。くくっ、奴らは生贄となり奈落の底に沈む。そして、この世界の滅亡が始まる」
「「「はぁっ~!!!」」」
アストが何かを嘲笑うように告げたその不吉な言葉は、それを聞いていた者達の心を震わせた。




