39.北の山
「領主様」
領主館執務室。現、賊捜索本部に、アリアはシオンを尋ねてやって来た。
「君か。どうした?」
「賊の居場所がわかりました」
「本当かね?」
シオンは、多少疑う目でアリアの目を見た。
「はい」
「それで、賊の居場所は何処だね?」
アリアの目は嘘を言っていなかったので、シオンは話を先に進めた。
「北にある山の中だそうです」
「わかった。おい、至急兵を向かわせろ!」
「はっ!」
シオンに命じられた伝令兵は、早速捜索隊のもとに向かって走り出した。
「ふむ、これで良し。しかし、君はずっと領主館に居たはずだろう?その情報の出所は何処なのだ?」
伝令兵を見送った後、シオンは情報の出所を確認した。が、シオンも薄々は情報の出所がわかっていた。
「アストさんです」
「やはりか。それで、どうやって星夜は賊の居場所を突き止めたのだ?」
シオンは予想が当たり、一つ頷く。そして、次は予想が立てられないその探索方法についてアリアに尋ねた。
「なんでも、あのポーションというのにはアストさんの魔力が付着していたそうで、その反応で場所がわかると言っていました」
「そんな方法があったか。だが、それなら星夜は何故早くそれを言わなかったのだ?言ってくれていれば、すぐに賊の捕縛に向かえたというのに」
シオンはその点が腑に落ちなかった。
「それがアストさんいわく、あれはアストさんの能力が適用されていないと、あれほどの効果が出ないんだそうです。それに、材料自体もあんなどこにでもあるものでしたから、アストさんは捜す必要性を感じてなかったそうなんです」
「なるほど、そういうことか」
シオンはアリアの答えに、すんなりと納得がいった。
必要性の無いことでは動かない。
シオンの知っているアストらしかった。
「アルフレッド様!賊の居場所が判明いたしました」
シオンに命じられた伝令兵は、街の外を捜索しているアルフレッドのもとにやって来た。
「何処だ!」
「北にある山の中です」
「わかった。お前は他の司令官にもこの情報を伝達しろ」
「はっ!」
アルフレッドに命じられた伝令兵は、他の捜索隊のもとへ向かって行った。
「お前達、山狩りだ!父上達を襲った連中を追い立てろ!」
「「「はっ!」」」
アルフレッドの命令に従い、アークライト伯爵領の領兵達は北の山に向かって移動を開始した。
ゴーシェルの街の各勢力が北の山の包囲を開始した一方、領主館を襲撃してポーションを奪い逃走した賊は、北の山の中腹にある洞窟に潜伏していた。
「お頭、奪って来ました」
「おう、ご苦労。早速だせ、相手がお待ちかねだ」
「へい」
洞窟の中には襲撃者の仲間と、フードで顔を隠した人物がいた。
「これがそうです」
襲撃者は懐から奪ったポーションを取り出すと、それを自分達のお頭に手渡した。
「これがそうなのか?」
「へい。領主達は、それをテーブルの上に置いて話をしておりやした。まず間違いありやせん」
「と、いうことらしい」
「ああ」
「それでは物々交換だ。金は用意しているんだろうな?」
「問題無い」
フードの人物はそう言うと、懐から革袋を取り出し、中身を頭に見せた。
「間違いないな。なら交換だ」
頭はポーションをフードの人物に差し出し、フードの人物は革袋を頭に差し出した。
両者はそれぞれが相手のものを受け取ると、頭は中身の確認を行った。
「ひい、ふう、みい・・・たしかに。これからもごひいきにな」
「ああ」
頭が革袋の中身を確認し終えると、取引は終了した。
「ああそうだ、もう一つ良いか?」
「なんだ?」
取引が終了したので、フードの人物が洞窟をあとにしようとしたら、頭が何故か呼び止めた。
「手持ちがまだあるのならで良いんだが、こいつを換金してくれねぇか?」
そうしてフードの人物を呼び止めた頭は、懐から布袋を取り出し、入れてあったものをフードの人物に見せた。
それは銀色に輝く、金属にも見える鉱石だった。
「ふむ。色、艶ともに美しいな。だが、いったい何の石なのだこれは?」
「お前でも見たことがないのか?」
「ああ、始めて見る石だ。この輝きなら宝石として売れるとは思うが、相場はわからないな。何処で見つけたんだ、こんなもの?」
「数日前に空から降ってきやがったんだよ」
「空から?この石がか?」
「ああ、そうだ。そのとおり見た目はよかったからな、売れるかと思って持っていたんだ」
「空からな。隕石の類いか?それならまあ、珍しくはあるか?」
フードの人物は、頭の中でこの石で得られる利益を試算した。
「・・・良いだろう。だが相場がわかるぬから、あまりだせんぞ」
「それでかまわねえよ」
「ならば」
フードの人物は新たな革袋を取り出すと、それを頭に差し出した。
「たしかに」
そして両者は革袋と石を交換をした。
「それではな」
「ああ」
フードの人物は頭に別れを告げると、洞窟の出口に向かって歩き出した。
「大変だお頭!」
「どうした?」
「領主達の山狩りだ!」
「なんだと!?」
そんなフードの人物と入れ代わるように、頭の部下が洞窟内に駆け込んで来て、アルフレッド達の山狩りを報告した。
「てめえ、つけられやがったな!」
「そ、そんなはずは」
頭の怒号に、襲撃者はそんなはずはないとオロオロした。
実際アストが見つけただけで、つけられたわけではない。
また、襲撃者自体はちゃんと追ってをまいていたので、ある意味理不尽だった。
「そんな問答は後にしろ」
「お、おう、そうだな。お前達、急いで迎撃の準備に取り掛かれ!」
「わ、わかりやした」
帰るタイミングを逃したフードの人物に言われ、頭は慌てて部下に迎撃準備を命じた。
洞窟内が慌ただしくなり、あちこちを武器を持った賊達が走り回っている。
「お前も参加するのか?」
「少なくとも脱出するまではな」
「こう言っちまうと悪いんだろうが、助かるぜ」
そう言った後、頭はフードの人物を連れて前線に向かった。
状況は刻一刻と動いていく。
もうまもなく北の山の包囲は完了し、アルフレッド達はこの洞窟になだれ込んで来る。
そうなればそれを迎撃する賊達との戦いが起こる。
どれだけの数の命が失われるのか。この時の彼らはまだ知らなかった。
また、彼らは他にも知らないことがあった。
それは例えばこの状況を領主館から見ているアストのこと。
先程頭とフードの人物が取引した石が何故空から落ちて来たのかということ。
そして、その落ちて来た石の正体。
彼らはまだ知らない。だが、すぐに理解することになる。
人物達が手にしているものの正体と、自分達の末路を。
全ては人知の及ばぬところで動きだす。
アストの悪意と、世界の法則。
ポーションの効能と、石の意思。
全ては絡み合い、一つの結果に行き着く。