表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
40/42

39.北の山

「領主様」


領主館執務室。現、賊捜索本部に、アリアはシオンを尋ねてやって来た。


「君か。どうした?」

「賊の居場所がわかりました」

「本当かね?」


シオンは、多少疑う目でアリアの目を見た。


「はい」

「それで、賊の居場所は何処だね?」


アリアの目は嘘を言っていなかったので、シオンは話を先に進めた。


「北にある山の中だそうです」

「わかった。おい、至急兵を向かわせろ!」

「はっ!」


シオンに命じられた伝令兵は、早速捜索隊のもとに向かって走り出した。



「ふむ、これで良し。しかし、君はずっと領主館に居たはずだろう?その情報の出所は何処なのだ?」


伝令兵を見送った後、シオンは情報の出所を確認した。が、シオンも薄々は情報の出所がわかっていた。


「アストさんです」

「やはりか。それで、どうやって星夜は賊の居場所を突き止めたのだ?」


シオンは予想が当たり、一つ頷く。そして、次は予想が立てられないその探索方法についてアリアに尋ねた。


「なんでも、あのポーションというのにはアストさんの魔力が付着していたそうで、その反応で場所がわかると言っていました」

「そんな方法があったか。だが、それなら星夜は何故早くそれを言わなかったのだ?言ってくれていれば、すぐに賊の捕縛に向かえたというのに」


シオンはその点が腑に落ちなかった。


「それがアストさんいわく、あれはアストさんの能力が適用されていないと、あれほどの効果が出ないんだそうです。それに、材料自体もあんなどこにでもあるものでしたから、アストさんは捜す必要性を感じてなかったそうなんです」

「なるほど、そういうことか」


シオンはアリアの答えに、すんなりと納得がいった。


必要性の無いことでは動かない。

シオンの知っているアストらしかった。




「アルフレッド様!賊の居場所が判明いたしました」


シオンに命じられた伝令兵は、街の外を捜索しているアルフレッドのもとにやって来た。


「何処だ!」

「北にある山の中です」

「わかった。お前は他の司令官にもこの情報を伝達しろ」

「はっ!」


アルフレッドに命じられた伝令兵は、他の捜索隊のもとへ向かって行った。


「お前達、山狩りだ!父上達を襲った連中を追い立てろ!」

「「「はっ!」」」


アルフレッドの命令に従い、アークライト伯爵領の領兵達は北の山に向かって移動を開始した。




ゴーシェルの街の各勢力が北の山の包囲を開始した一方、領主館を襲撃してポーションを奪い逃走した賊は、北の山の中腹にある洞窟に潜伏していた。


「お頭、奪って来ました」

「おう、ご苦労。早速だせ、相手がお待ちかねだ」

「へい」


洞窟の中には襲撃者の仲間と、フードで顔を隠した人物がいた。


「これがそうです」


襲撃者は懐から奪ったポーションを取り出すと、それを自分達のお頭に手渡した。


「これがそうなのか?」

「へい。領主達は、それをテーブルの上に置いて話をしておりやした。まず間違いありやせん」

「と、いうことらしい」

「ああ」

「それでは物々交換だ。金は用意しているんだろうな?」

「問題無い」


フードの人物はそう言うと、懐から革袋を取り出し、中身を頭に見せた。


「間違いないな。なら交換だ」


頭はポーションをフードの人物に差し出し、フードの人物は革袋を頭に差し出した。


両者はそれぞれが相手のものを受け取ると、頭は中身の確認を行った。


「ひい、ふう、みい・・・たしかに。これからもごひいきにな」

「ああ」


頭が革袋の中身を確認し終えると、取引は終了した。




「ああそうだ、もう一つ良いか?」

「なんだ?」


取引が終了したので、フードの人物が洞窟をあとにしようとしたら、頭が何故か呼び止めた。


「手持ちがまだあるのならで良いんだが、こいつを換金してくれねぇか?」


そうしてフードの人物を呼び止めた頭は、懐から布袋を取り出し、入れてあったものをフードの人物に見せた。


それは銀色に輝く、金属にも見える鉱石だった。


「ふむ。色、艶ともに美しいな。だが、いったい何の石なのだこれは?」

「お前でも見たことがないのか?」

「ああ、始めて見る石だ。この輝きなら宝石として売れるとは思うが、相場はわからないな。何処で見つけたんだ、こんなもの?」

「数日前に空から降ってきやがったんだよ」

「空から?この石がか?」

「ああ、そうだ。そのとおり見た目はよかったからな、売れるかと思って持っていたんだ」

「空からな。隕石の類いか?それならまあ、珍しくはあるか?」


フードの人物は、頭の中でこの石で得られる利益を試算した。


「・・・良いだろう。だが相場がわかるぬから、あまりだせんぞ」

「それでかまわねえよ」

「ならば」


フードの人物は新たな革袋を取り出すと、それを頭に差し出した。


「たしかに」


そして両者は革袋と石を交換をした。


「それではな」

「ああ」


フードの人物は頭に別れを告げると、洞窟の出口に向かって歩き出した。



「大変だお頭!」

「どうした?」

「領主達の山狩りだ!」

「なんだと!?」


そんなフードの人物と入れ代わるように、頭の部下が洞窟内に駆け込んで来て、アルフレッド達の山狩りを報告した。


「てめえ、つけられやがったな!」

「そ、そんなはずは」


頭の怒号に、襲撃者はそんなはずはないとオロオロした。

実際アストが見つけただけで、つけられたわけではない。

また、襲撃者自体はちゃんと追ってをまいていたので、ある意味理不尽だった。


「そんな問答は後にしろ」

「お、おう、そうだな。お前達、急いで迎撃の準備に取り掛かれ!」

「わ、わかりやした」


帰るタイミングを逃したフードの人物に言われ、頭は慌てて部下に迎撃準備を命じた。


洞窟内が慌ただしくなり、あちこちを武器を持った賊達が走り回っている。


「お前も参加するのか?」

「少なくとも脱出するまではな」

「こう言っちまうと悪いんだろうが、助かるぜ」


そう言った後、頭はフードの人物を連れて前線に向かった。




状況は刻一刻と動いていく。

もうまもなく北の山の包囲は完了し、アルフレッド達はこの洞窟になだれ込んで来る。

そうなればそれを迎撃する賊達との戦いが起こる。


どれだけの数の命が失われるのか。この時の彼らはまだ知らなかった。


また、彼らは他にも知らないことがあった。


それは例えばこの状況を領主館から見ているアストのこと。

先程頭とフードの人物が取引した石が何故空から落ちて来たのかということ。


そして、その落ちて来た石の正体。


彼らはまだ知らない。だが、すぐに理解することになる。

人物達が手にしているものの正体と、自分達の末路を。


全ては人知の及ばぬところで動きだす。


アストの悪意と、世界の法則。

ポーションの効能と、石の意思。


全ては絡み合い、一つの結果に行き着く。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ