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ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
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37.短縮と時間

「それで、いくつぐらい欲しいんだ?」

「一つあたりどれくらいの期間が必要で、何が必要になる?」


アストの質問に、シオンはまずは基本的な要素の確認を行った。

この点がはっきりしていないと、定期購入の為の発注間隔がわからないからだ。


「ポーションを一本生産するのに必要な時間はおよそ三十分。必要な材料は、水と薬草が一束」

「・・・冗談か?それとも・・・」


シオンは軽く細めた目でアストを見た後、視線をベッドの上の四人に向けた。

アストの提示した時間、材料は、明らかに重傷者を完全回復させるようなポーションには不釣り合いなものだ。


アストが冗談で今のを言っていない場合、ここにいる異世界人達に情報を隠す為にそう言ったのではないか?

シオンはそう考えた。


「別に冗談じゃないぞ。あの効果から判断すれば、冗談に聞こえるのも無理はないがな」

「本当に違うのか?」


シオンはアストに否定されても、いまひとつ信じられなかった。


「ああ、決して冗談じゃない。紫苑も亜璃子も、前提を変えれば納得してくれるはずだ」

「「前提を変える?」」


シオンとアリスは互いに顔を見合わせた後、同時にまたアストを見た。


「そうそう。現実を前提にするとおかしいだろうけど、前提をゲームにすればどうだ?ポーションは、たいていのゲームで初期から購入・調合が出来るアイテムだぞ。そんな初期アイテムの材料に入手困難なものを設定するわけがないだろう?」

「「ああ!」」


アストのこの言葉に、二人はさっきまでの疑念が嘘のように、すんなり納得がいった。


シオン達二人はVRMMOをしたことはなかったが、オンラインゲームをしたことはあった。

アストに言われるまで思い到らなかったが、たしかにゲームのポーションの材料といえば、初期の森で手に入るような薬草の類いだった。


前提を現実からゲームにすると、そんな何処にでもある材料でポーションが作れてしまうことに、簡単に納得出来てしまうシオン達だった。


「それじゃあ、本当に今の材料と時間で出来るのか!?」

「ああ。ただし、それは通常の時間と最底辺の材料だがな」

「通常の時間と最底辺の材料?材料はともかく、通常の時間とはどういう意味だ?」

「二人は俺の力の一端を知っているだろう?」


アストの確認に、シオン達は頷いた。


「別段出来るのは巻き戻しだけじゃあないってことだ」

「「と、いうと?」」

「加速、圧縮、短縮、省略、相対、過程の破棄。やろうと思えば、生産に関わる時間なんていくらでも短くする方法があるんだ。これらを併用すれば、こんなことも出来る」


アストはそう言うと、亜空間から水差し、薬草、器をそれぞれ取り出し、シオン達に見えるようにテーブルの上に置いた。


「「?」」


シオン達は、アストが実演でもするのかとテーブルの上にあるものを注視した。


「「「「「「なっ!?」」」」」」


シオン達が注視する中、少し瞬きした次の瞬間には、テーブルの上の材料がそれぞれ減り、数瞬前にはなかったはずのポーションがいつの間にか出現していた。


「どうだ、こんな感じで一瞬で生産することも可能なんだ」


そう言ってアストが指先を虚空で回すと、指先が一周する毎に新しいポーションがテーブル上に次々出現していった。

それは、テーブル上の材料が無くなるまで続いた。「さて、あらためて聞こうか。紫苑達はどれくらいのポーションが欲しい?」


テーブル上で展開した光景に呆然となっている面々に、アストはさっきの問い掛けをまたした。


「「・・・」」

「反応が無いな」

「「せ」」

「せ?」

「「星夜」君!」


アストが呆然としているシオン達を突いてみると、突然呆然としていた面々が一斉に立ち上がった。


これはソファーに座っていたシオンやアリア達だけではなく、ベッドで寝ていた四人も同じである。


「どうかしたか?」


アストは惚けた表情でそう言った。


「「「「「「「「どうかしたかじゃない!!!」」」」」」」」


立っている面々の咆哮が、応接間を震わせた。


「なんだこれ!」

「何よこれ!」

「何ですかこれ!」


咆哮した後それぞれが、アストを問い詰めにかかった。


「だから俺の能力だ。これより大規模なのはもう見せてるだろう?なんでそんな騒ぐんだ?」


そんな面々に、アストは何故騒ぐのかわからないと告げた。

なんせ、世界単位の時間遡航という大技をすでに見せているのだ。

こんな小技で騒ぐ理由が、アストにはわかっていなかった。


それからしばらくの間、アストはシオン達を宥めることに時間を費やした。



それから十数分。今はなんとか全員が落ち着き、ベッドで寝ていた四人も含めてお茶を飲みながら一息ついていた。

「さて、もう落ち着いたか?」

「ああ」


アストの確認に、全員が揃って頷いた。


アスト的にはティアナ王女達四人はいらなかったが、とくに言及はしなかった。


「それで、何をそんなに驚いたんだ。さっきも言ったが、少なくとも紫苑達は俺の大技を見ているだろう?」

「ああ、たしかに見ている。見てはいるんだが、あっちは大技過ぎて現実味が薄かったからな」


シオンの言葉に、あの場にいた三人が頷いた。


「現実味が薄い?うーんと、まあ、そうかもしれないな」


アストはシオンに言われて思い返してみるが、アストの場合は出来ることがわかっていてやっただけに、朧げにそうかなぁ?と、思うくらいだった。


「それで、今のはどうやったんだ?」

「うん?ああ、あれは一つ目が短縮だ。本来制作に必要な時間を短くした」

「短縮。たしか通常は三十分かかるとか言っていたよな?」

「ああ」

「三十分を一瞬にまで短縮出来るのか」

「まあ、やろうと思えばブランク時間まで短縮出来るがな」

「ブランク時間?」


シオンはその聞き慣れない時間に首を傾げた。

それは他の面々も一緒だった。


「この世界に流れる時間の最小単位。どんな一瞬にも最低限の長さがある。それがブランク時間だ。これより短くしようとすると、もうゼロ時間しかない」

「ゼロ時間?」


新たな単語にまたシオン達は首を傾げる。


「完全に時間が存在しない時間。または、時間の流れていない空間だけの場所。森羅万象が停止するのがゼロ時間だ。ゲームならポーズにあたる」

「「ああ」」


ゲームを知っているシオンとアリスだけが納得したように頷く。

反対に、中世ヨーロッパな異世界の住人達は、疑問符で頭を埋め尽くした。


「もっとも、ゲームではただの時間停止で済むが、現実だとゲームのようにはいかないがな」

「「と、いうと?」」

「ゼロ時間が発動すると、対象の空間内にある全物質が構成の最小単位である原子にまでバラけ、崩壊する」

「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」


アストからの予想外の言葉に、シオン達は揃って固まった。


これには、地球人も異世界人もなかった。


「ど、どういうことだ!!」

「どういうこともなにも、言ったままだ」

「だからなんでそんなことになる!理由はなんだ!」

「現実だと、原子間を結合している力も停止するからな。一括停止と解除が出来るなら問題は出ないんだろうが、時間差が発生する場合は、時間が動き出した側から砂のように崩れていくはずだ」


アストは先の言葉の理由を、そう説明した。

はずだというのは、まだアストも試したことがないからだ。

しかし、実際に何度も時空間に干渉しているアストの感触では、その予想通りになる確率が高かった。


「「「・・・」」」


しばらくの間、応接間に沈黙が訪れることになった。




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