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ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
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33.領主館と六人

アークライト伯爵領、領主館応接間。

現在そこには、そうそうたる顔ぶれが集まっていた。


まずは領主館の主である、シオン=フォン=アークライト伯爵。

伯爵の右隣には、その妻であるアリス=フォン=アークライト伯爵婦人。

その反対。伯爵の左隣には、ティアナ=ジスト=ウ゛ァレリオン第二王女殿下。


その三人に対面するように座っているのは、それぞれバラバラな格好をした三人組。


シオンの前に座っているのは、白い布地に金糸による精緻な装飾が施された法衣を纏う、柔和な顔立ちをしたエルフの初老の老女。

ゴーシェルの街にある神殿を預かる最高責任者。

イストーン=クロノ=セイントニード最高司祭。


その右隣りに座っているのは、引き締まった身体つきをした、軽装を纏っている恐持ての三十代後半くらいのワーウルフの大男。

ゴーシェルの街にある護衛ギルドのギルドマスター。

【鉄壁】のアイオン。


その反対。最高司祭の左隣に座っているのは、筋骨隆々でアイオンよりもさらに頭一つ高く、全身鎧を纏った四十代前半くらいのオーガの大男。

ゴーシェルの街にある傭兵ギルドのギルドマスター。

【壊拳】のバオン。


現在この六人がそれぞれソファーに座り、向かいあっている。


また、応接間にはこの六人しかいないが、応接間の外の廊下には、それぞれ領兵、近衛騎士、神官兵、護衛・傭兵ギルドのメンバー達がそれぞれの護衛として立っている。



「まだそのアストって奴は見つからないのか?」

「らしいな。神殿での目撃情報を最後に、あしどり不明だ。そうだったよな?」

「ええ。私どもの神殿で、近衛騎士の方々を治療されてからは、目撃情報がまったくありません。信徒の方達も協力してくださっていますが、さっぱりです」


アイオンとバオンの確認に、イストーンは肯定を返した。


「あいつは神出鬼没だからな」

「そうですわね。突然現れて突然いなくなる。昔からそういうところがありましたけど、今はそうとう酷くなっていますわね」


シオンとアリスは、はるか昔の学生時代のアストを思い出しながら、そう愚痴った。


「そうなのですか、アークライト婦人?」

「はい、王女殿下。何かそれ系のスキルを持っているらしく、度々転移で移動しておりました。おそらく今回も、転移で遠出をしているのでしょう」

「転移能力。随分と珍しいスキルを持っているのですね。私達を助けていただいた時には、そんなスキルは使おうともしていませんでしたのに」

「あいつは手札は隠しておく主義ですからね。ピンチにでもならなければ、そんな目立つ手札を切りませんよ」

「慎重な人なんですね」

「いえ、あいつの場合は慎重でもありますが、秘密主義でもありますからな」


シオンはここ最近のアストの言動を思い返し、ティアナ王女にそう言った。


「悪かったな、秘密主義で」

「「「「「「!?」」」」」」


六人がそれぞれ話をしていると、突然第三者の声が応接間に響いた。


「誰だ!何処にいやがる?」


アイオンとバオンは、応接間のあちこちに視線を向けた。


「残念ながら部屋の中にはいない」

「では何処にいるのです?」

「答えるつもりはない」


アストは、イストーンの質問を拒否した。


「この声、星夜か?」

「ああ。アリアから伝言をさっき受け取ってな。紫苑達にあいに来た」

「なら、何故姿を現さない?」

「来客中だから遠慮した。さすがに他人との会談中に割って入るつもりはない」


実際は、アストは応接間に一度転移している。が、イストーン最高司祭達の姿を見留、すぐさま転移して応接間をあとにしていた。

その間僅か0.0001秒。応接間にいた誰もが気がつかない一瞬の出来事だった。


「じゃあ、今のこれはなんだ?」


シオンは、遠慮したと言っているアストの矛盾を突いた。


「順番待ちをしていたら、俺のことを言っていたからな。ついつい口を挟んでしまっただけだ」

「そうか。・・・二つ聞いても良いか?」

「なんだ?」

「言っていたとさっき言ったが、どうやってこの部屋の話を聞いたんだ?そして、今はこうやって会話しているが、どうやってお前はこの部屋に声を響かせている?」


シオンは先程から、どうやってアストがこの防音された応接間から情報を得ているのか。

また、この場にいないのに、どうやってタイムロスもなく会話を成立させているのか気になっていた。


「・・・ふむ。紫苑達に手札を見せるのはまあ良いが、他人にまで教えるのは、な。悪いがこの後会った時に教えるよ」


アストはイストーン達に意識を向けた後、シオン達にそう言って話を先送りにした。


「そうか」


シオンは今は納得しておこうと一つ頷いた。

しかし、シオンやアリス以外は納得出来る話しではなかった。


「おいおい伯爵様。それで納得されちゃ困るぜ」

「たしかにそうだ。今の話しだと、そのセイヤとやらはこの部屋の会話を盗み聞きしているんだろう?」

「そうですね。盗聴されている状態での会話は、危険です」

「そうね。それに、その盗聴がどのようなものかわからないと、この街での会話がしづらくなってしまうわ」


アイオン達四人は、口々にそうシオンに訴えた。


これにはさすがにシオンも反論しずらかった。


「そう言われているが、どうするんだ?」

「どうもしない」


だが、アストの方ははっきりとそうシオンに言った。


「どうもしないってお前・・・」

「何故俺が何かする必要がある。盗聴対策などは、される本人がするものだろう?」

「それはたしかにそうだろうが・・・」


シオンは、アストの言わんとすることが理解出来たので、どうアストを説得すれば良いのか悩んだ。


「それに、俺が自粛する理由もなければ、配慮が必要な相手でもないからな」

「たしかにお前の立ち位置なら、そうだろうな」


シオンは、アストの強さと、この世界の住人達に向ける感情と理由を知っているだけに、納得せざるをえなかった。


しかし、それはアストについてそこそこ知っているシオンの話。

アストとシオンの会話を聞いていた四人は、揃って不快気な顔になっていた。


「アークライト伯爵、何故彼の今の言い分で納得されるのです!」

「そうだぜ!何故あれで納得出来る!」

「そうだ!少なくとも俺達は納得がいかん!」

「そうですね。ですが、アークライト伯爵が納得しているのです。それなりの理由がおありになるのではないでしょうか?」


四人とも納得がいかないことは共通していたが、ただ一人イストーン最高司祭だけは、他の三人を宥めるような内容も口にしていた。

これは年の功なのか、あるいはシオンに向ける信頼なのか。

それはイストーン以外にはわからなかったが、イストーンの言葉を聞いた三人は、イストーンの指摘したことに揃って関心をみせた。


「たしかにアークライト伯爵があれで納得した理由は気になるな」

「ああ。アークライト伯爵は何か知っているんじゃないか?」


四人の視線が一斉にシオンに集中した。


「・・・たしかに私が納得したのは、星夜の事情をある程度聞いているからだ。しかし、それはプライベートな話。貴方方に話て良いものではない」


シオンは四人に教えるつもりはないと、はっきり意思表示をした。


「むっ」

「これは駄目だな」

「そのようですね」

「仕方がありませんね」


四人は渋々ではあるが、追求するのは控えることにした。



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