31.星照の樹海と群れなす元素
「何処ですかここ?」
アストの影に飲み込まれたアリア達一行は、現在何処とも知れない場所にいた。
八方に巨大な大樹がそびえ立ち、その外側を包み込むように山脈が立ち並んでいる、広大な森林。
アストがこの世界で最初に降り立った場所である。
「俺のホームグランド。本当の意味での俺の拠点。エリア名は【星照の樹海】で、俺の友人である冥夜が準備しておいてくれた、俺の土地だ」
アストは大地を指差しながら、そうこの場所のことを説明した。
「アストさんの土地って、権利関係はどうなっているんですか!?」
アリアにしてみれば、土地とは国が管理しているものである。
それなのにアストはこの森林を自分の土地だと言った。
普通に考えれば、この場所を国土としている国から苦情がくる話だ。
「権利関係も何も、ここは俺が亜空間に所有している土地だ。この場所の権利は、この場所を亜空間に保有している俺と、この場所を用意した冥夜にしかない。だから、この土地のことで他人にとやかく言われる筋合いはない」
「『へぇっ?』」
アストの答えを聞いたアリアとエスディオスの口からは、そんな間の抜けた声がもれた。
対してウ゛ェルドとグリムの二人は、いつも通りキョトンとした顔をしていた。
「亜空間に土地って・・・」
『そのアストラル様のご友人って、一体何者?』
間の抜けた表情をした後、女の子二人は何かぶつぶつと言い始めた。
よっぽど彼女達の常識と掛け離れていたのだろう。
二人共現実逃避気味だ。
「まあ、疑問は今はおいておけ。それより家に案内する」
そう言うとアストは、皆を引き連れて森の中を歩きだした。
『見たことのないモンスター達がたくさんおりますね』
エスディオスはアストの後ろを歩きながら、デイドリームでは見たことのないモンスターを何十体と見かけた。
「ああ。あれはゲームのモンスターではなく、俺の個人的な作品だからな。向こうの世界には一匹もいない」
『アストラル様の眷属ということでしょうか?』
「そう言っても過言ではないな」
アストがそう自慢げに言うと、エスディオスは羨ましそうにモンスター達を見た。
自分の創造主に自慢される彼らのことが、とても羨ましいらしい。
アストには気にしなくて良いと言われていても、自分が失敗をおかしているだけに、余計にそう思ってしまうようだ。
「うん?」
アスト達がさらに歩いていると、三つの影がアスト達に近づいて来た。
「「あっ!」」
一つ目の影の正体は、アリアとウ゛ェルドも知っているモンスターだった。
虹色に輝く六角柱のクリスタル。領主一家と戦った、【レギオン・エレメンタル】だ。
残る二つの影の姿は、片方は全長一メートル程のメタリックブルーの大蛇。
もう片方は、獅子に竜、山羊の頭を持ち、尾は蛇。背中には蝙蝠の羽根が生えている、一般的にはキマイラと呼称される体長三十cm程の猫科と思われるモフモフの哺乳類。
「出迎えか?ご苦労様」
そんな三匹をアストは手招き、自分の傍までやって来たキマイラを抱っこした。
リィィン!「シャッ!」「ガウ!」「グル!」「メェー!」「シャッ!」
アストが順番にモンスター達の頭を撫でてやると、それぞれ甘えた声を上げた。
「さて、それぞれ紹介しておこうか。向こうの四人は俺の仲間達だ。左から順に、アリア、ウ゛ェルド、エスディオス、グリム。これからお前達は彼女達と共闘することもあるだろう。ほら、ご挨拶」
リィィン!「シャッ!」「ガウ!」「グル!」「メェー!」「シャッ!」
アストがアリア達をそう紹介すると、三匹は行儀良く頭等をアリア達に下げて挨拶した。
「次はお前達の紹介だな。この水晶型がレギオン・エレメンタル(R・エレメンタル)。蛇型がエウ゛ォリューション・ヒュドラ(E・ヒュドラ)。そしてこのキマイラがハート・キメラ(H・キメラ)だ。こいつらのこともこれからよろしくな」
「はい」「ああ」『わかりました』「・・・」こくり
アストがモンスター達を紹介すると、今度はアリア達がそれぞれ挨拶をした。
こうして両者の顔合わせは、いたって簡単に終わった。
そうするとアスト達は、また移動を再開した。
「・・・アストさん」
「どうかしたのかアリア?」
「ちょっと聞きたいんですけど、その魔獣達はどんな魔物なんですか?」
アリアは道中の話の種として、アストにその話題を振った。
「こいつらか?」
「はい」
「孫自慢のような感じになるが、それでも構わなければ説明するぞ」
アストは暗に、話が長くなるとアリアに伝えた。
「それで構いません。人のそういう話を聞くことには慣れていますから」
アリアは治療術師である。その為、故郷ではよく教会に呼ばれることがあった。
患者を治療しながら世間話をすることは、アリアにとって日常の一部なのである。
「わかった。なら説明する♪」
アストは嬉喜として話を始めた。
自分の作品を自慢したくて仕方がないらしい。
元々エレメンタル達は、アストが創作した所謂趣味の産物である。
他人を楽しませる為に存在するゲームのモンスター達とは根本的に違い、アストが自己満足する為に生まれたのが彼らだ。
その為、彼らのスペックは星界竜アストラルには及ばないものの、よくある僕が考えた最強モンスター。と言った感じの能力構成となっていた。
「まずはエレメンタルからかな?」
アストはそう言うと、近くに浮いていたエレメンタルを手招きした。
「こいつの名前はさっきも言ったがレギオン・エレメンタルという。名前の意味は、群れなす元素だ」
「群れなす元素ですか?」
「ああ。アリアとウ゛ェルドはこいつの能力を少し見ているから、どういう意味かわかるだろう」
「あっ!あの増殖能力!」
アリアは、エレメンタル達が殖えていく光景を思い出した。
「増殖?違う違う、あれは増殖なんかじゃない」
「えっ!?違うんですか?」
「ああ。あれは同族を召喚しているんだ」
「召喚。私の能力と同じですか?」
「まあ、おおむねはな。こいつの召喚は、さっきも言った通り同族のエレメンタル達を召喚する能力だ。別種のモンスターを呼べない代わり、同族ならほぼ制限無しで召喚が出来る」
「制限無しと言うと、この世界ではどんな感じになるんですか?」
「そうだなぁ・・・。だいたいで言うと、まず召喚してからの制限時間が無い。次に召喚していられる上限数が無い。さらに言うと、同時に召喚出来る数にも制限が無いな」
「なんですかそれ!制限無さ過ぎですよ!」
「たしかにな」
これがゲームだと、パーティー人数制限や戦闘中だけの召喚だとかの制限が発生する。
しかし、ゲーム法則から完全独立しているアストのモンスター達には、そんな縛りは無かった。
「まあ、それがこいつらの群れなすの部分の由来だ。個にして群。群にして個。ただ一体にして、一つの群れを形成しえる者。数の暴力を体言した存在だ」
「・・・群れなすはわかりました。じゃあ、元素の部分の由来はなんですか?」
「それの由来はこいつらの属性にある。こいつは魔力属性で虹色をしているが、他のは単色でカラフルだったろう」
「そうですねぇ~・・・たしかに赤や青とかいろんな色をしていました」
「その体色がこいつらの属性なんだ。赤が火、青が水といった具合にな」
「そういえば、同じ色のエレメンタルからは、同じ魔法しか飛んできませんでしたね」
「そういうことだ。これがエレメンタルの部分の由来だな。あと紹介する点は、こいつらが防御特化の魔法砲台型のモンスターということか?」
「そうなんですか?」
アリアはナイトメア達に放たれた攻撃を見ていたので、エレメンタル達が防御特化だと言われても、すぐには信じられなかった。
「本当だ。それにあれは複数によるいわゆる合体攻撃。エレメンタル単品の攻撃能力は、そこまで高くない」
「本当にそうなんですか?」
「本当にそうだ」
アストはそう言うが、アリアは釈然としなかった。
それも無理はない。アストが言う攻撃能力が高くないというのは、攻撃手段が一つしかないことに起因している。
それでもこれがゲームだった時なら、攻撃能力が低いというのは間違いではなかった。だが、現状ゲーム法則の加護を受けていないこの世界の住人からすれば、十分高威力の攻撃能力を持っていた。




