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ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
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29.兵糧責めと仮契約

『なんですかその味!甘味や塩気的なものはどうなってるんです?』

「絶滅した」

『絶、滅?』


エスディオスが呆然と呟くと、アストははっきりと頷いた。


「そう絶滅。通常兵糧責めは、敵の食糧を焼いたり奪ったりするわけだが、この世界の兵糧責めはひと味違う。人類種が捕食可能な人類種以外の全生命、鉱物や結晶などが、全て人類種に食われないように進化、変化したんだ。さすがに毒化すると他の生物も食えなくなる為、人類種の味覚でまずくなることにしたらしい。その結果がさっき言った味だ。通常の食品はゆうに及ばず、調味料の類いもそんな感じだ」

『なんというか、すごく徹底してますね』


エスディオスは、その徹底ぶりに恐怖を覚えた。


「そうだな。それだけあの事件を起こした人類種が許せなかったんだろうな」

『そう聞くと気持ちが理解出来てしまいますね』

「そうだな」

「?」


グリムを置いて、二人は納得したように互いに頷いた。


「まあ、一番の被害者といえば、この世界の人類種の巻き添えにされている、異世界人達だろうがな」

『そうですね』

「なんせ衣食住の内食の部分が無味しかまともに食えない上、材料・調味料自体が酷い味なもんだから、料理改革とかも出来んからな。戦闘のモチベーションや士気を維持する役にもたたん。この世界の住人にとってはすでにそれが当たり前でも、異世界人達にとっては違う。まったくはた迷惑ことを量産してくれる」

『心中お察し致します』


エスディオスはアストにかなり共感していた。


「ともあれ、そんなわけで愛妻弁当や料理を作るには、材料からどうにかしないとならん」

『どうなさるんです?』

「肉類・野菜・果物・調味料の大部分は、モンスターのドロップアイテムでいく。幸い、霧散するモンスター達までは味の変化を起こしていないからな。ドロップアイテムなら普通の味だ」

『大部分ということは、少しはモンスターのドロップアイテム以外にも宛てがあるのですか?』

「ああ。味の変化を起こしていないだろう樹木に心当たりがある。その樹木の果実の種を使えば、まともな味の果実の栽培も可能だろう」

『それは朗報ですね。ですが、他の肉類、野菜、調味料は駄目そうですか?』

「今のところ駄目だな。もういっそ、新しい動植物を創造した方が簡単で早く、確実だな」

『創造されないんですか?』

「今のところは出来ないし、するつもりもない」

『アストラル様がするつもりが無いというのはよろしいのですが、出来ないというのは何故です?』

「単なるレベル不足だ。レベル対応で能力の一部がまだ使用可能になっていない。設定がそのままなら、レベルがあと五十は欲しいところだな」

『ちなみに今はおいくつで?』

「四。数日前に来たばかりでな。あまり経験値を稼げていないんだ。まあ、単純な戦闘力が天災レベルまであるから、そこまで不自由はしていなくて、別段急いでいないのが実情だな」

『そうなのですね』


エスディオスはさすがはアストラル様だと頷いた。


「さて、それでは狩りに行くとするか。メインはグリムのパワーレベリングだがな」

『早速ですか?』

「今の状態だと、一つ二つレベルを上げておかないとグリムは病気ですぐに危なくなるからな。最低限の体力は確保しておかないとまずいだろう?」

『それはたしかに』


エスディオスは痩せ細っているグリムの身体を見て、たしかにそうしておいた方が良いと思った。


「それじゃあ行くぞ」

『はい!』「・・・」こくり


アスト達三人は、街の外へと転移した。



アスト達が転移したのは、先程アストが薬草を集めていた森だ。


アスト達が森の中に出現すると、早速薬草集めを命じていたエレメンタル達がアストのもとに帰って来た。


「ご苦労様」


アストはエレメンタル達が集めてきた薬草を、全て亜空間にほうり込み、彼らを労った。


「さて、まずは魔法の練習からが良いか?」

『魔法の練習ですか?』「?」

「ああ。グリムの今の状態では、肉弾戦や遠距離でも物理攻撃関連は無理だろう。弓を引く筋力は無いし、銃は反動に堪えられん。なら、魔法か遠距離スキルしか候補がない」

『そうですね。あとは、わたくしがグリムに力を貸すとかですね』

「うん?エスディオスが力を貸す?つまり、グリムには正規の才能はあるということか?」

『はい、アストラル様。グリムは、わたくしと契約するに足る力があります』

「ほう。なら、そちらメインで魔法関連は補強扱いでいくか」


アストは感心したようにグリムを見た後、グリムの育成計画を決めた。


「?」


もっとも、またグリムは置いてけぼりになっていたが。


「なら最初は契約からだな。どの契約でいく?簡易契約か、期間契約。将来夫婦になるのだし、心魂契約でも良いな。もっとも、心魂契約はかつてはエルフ族専用だったが。で、どれが良いと思う?グリムは正規の契約術式なんて知らんだろうし、エスディオスが決めろ」

『そうですねぇ?わたくしとしましては、最終的には心魂契約したいですが、今は少し下の契約でいきたいです』

「その心はなんだ?」

『一先ずは慣らしでしょうか?それと、心魂契約は、グリムがちゃんと理解出来るようになってからしたいです』

「なるほどな。なら、期間限定タイプの契約にしよう」


アストはエスディオスの判断を聞き、契約の候補を探った。


「それじゃあ、簡単なのを一つ。エスディオス、グリムに期間限定契約アイコンを」

『わかりました。はい、グリム』


エスディオスがそう言うと、グリムの目の前にエスディオスと期間限定契約を結びますか?


  YES/No


と、いう画面が出現した。


「?」

「グリム、それのYESを押すんだ」

「・・・」こくり


グリムはアストに言われるままに、YESのアイコンを押した。


『期間限定契約が締結されました。この契約の有効期限は、一年です』


グリムがアイコンを押すと、そんなメッセージが虚空から周囲に響いた。


「!?」


グリムはそのメッセージ音声に驚き、周囲をキョロキョロ見回したが、何も見つけられずに首を傾げた。


「今の声は気にするなグリム。とくに害はない。ただのシステム音声だからな」

「?」


グリムは、アストが何を言っているのかまったくわからなかった。


「だが、期間限定契約とはいえ、演出が無さ過ぎるか?どう思う?」

『別段よろしいと思います。所詮はつなぎ。本契約の演出に問題が無ければ、それでよろしいかと』

「そうか。契約を交わすお前がそれで良いのなら、良いか」

『はい』


アストは現実だと味気ないかと思ったが、エスディオスは期間限定の仮契約に派手さは求めていなかった。



「それじゃあ始めるとしよう。今日の目標は、グリムのレベルを二にすること。もしくは、グリムが魔法を使えるようになること。何か他に目標はあるか、グリム」

「・・・」ふるふる


グリムは首を横に振った。


「ならこれで決まりだ。それでは出発!」

『はい』「・・・」こくり


こうして三人は、森の中でのパワーレベリングを始めた。




この時の彼らは知らなかったが、ゴーシェルの街ではアストが起こした奇跡で、大変な騒ぎとなっていた。


シオン配下の領兵、ティアナ王女配下の近衛騎士、神殿関係者及び信徒、アリアとウ゛ェルドを含む護衛ギルド、傭兵ギルド、商会ギルド等など。ゴーシェルの街にいた各勢力が、奇跡を起こしたアストを血眼になって捜し回っていた。


アストがそのことを知るのは、まだ先の話。だが、面倒ごとは時間とともに肥大化し、アストに向かってゆっくりと。しかし、確実に迫って来ていた。


さらなる波乱までは、あともう少し。



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