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ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
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26.子供と精霊王国

「さて、ポーションはどうやら問題無しっと。まあ、経過観察はおいおいしないとならないけど」


アストは神殿での光景を思い出しながら、そう結論した。


「ただ、問題は無かったが、効能が強力過ぎたような?」


アストが作成したのは、ゲーム時代の最下級ポーション。ゲーム開始したての、初心者プレイヤー達が使用するポーションだ。

ゲーム時代の回復量は、10HP。

初心者プレイヤー達の初期HPが、だいたい20HPそこら。

職業・種族である程度上下するが、初期ステータスにはそこまで大きな差はない。

つまるところ、初心者プレイヤーのHPを半分回復させるのがせいぜいのポーションなのだ。

しかし、あのティアナ王女の護衛達は、明らかに全回復していた。

その理由は何だろうか?


アストはその理由を二つ思いついた。


一つは、彼らの体力が最下級ポーションよりも少ない場合。

もう一つは、最下級ポーション作成時の魔力水が原因で、ポーションの品質がアストの予想よりも上がっていた場合だ。


手頃な理由としては、この二つが挙げられる。

まあ、二つともそうだという場合もあるだろうが、それは一つ一つ検証してみないとわからない。


なのでアストは、今度は普通の水を使ってポーションを作ることにした。


作業手順はまったく同じ。ただ、材料に含まれる魔力を無くしただけ。


またアストは三十分程かけて薬草をゴリゴリし、ポーションを作成した。


「ふむ。やっぱり見た目に差はないか。今度は誰で試すかな?」


アストは出来たポーションの外観を確認し、今日作成したポーションに外観上の差がないことを確かめた。

次はまた効能の確認。が、神殿の方の重傷者達は全て治療してしまったので、ポーションを使用する相手は他所で見つけなければならない。


アストは、一人くらい残しておけば良かったと思った。


アストは魔法で意識を宿屋から街。街から外へと広げていき、手頃な相手がいないか捜した。


アストとしては、この世界の住人を助けるのは避けたい。

彼らは自分達の敵なのだから。


ではなぜあの護衛達を助けたのか?

アストの認識としては、近衛騎士とは貴族の子息がなるものだと思っている。

その子息達が、シオンの領地で亡くなる。

亡くなった近衛騎士達の遺族が、シオンに何か言ってくるかもしれないとアストは思った。


だから駄目で元々。ポーションの実験と、シオンへの当たり緩和の為に彼らを治療した。


つまり、徹頭徹尾自分と同じ異世界人の為なのである。


そんなわけで、怪我をした異世界人か、せめて怪我をしたこの世界の子供辺りで実験したいとアストは思っている。

前者は完全な好意。後者は、まあ、倫理的に子供は助けても良いかなぁ?と、いった感じである。


「おっ!」


そんな感じで捜していると、アストは手頃な対象を発見した。


ゴーシェルの街から遥か遠く。アストはなぜ自分がそれを見つけたのか理解出来なかったが、ともかく見つけた。


この世界の国のおおよその広さはわからないが、多分国三つ分くらい離した辺りでその子供を見つけた。


その子供は致命傷を負っているようだった。

小さな身体から大量の血を溢れ出させながら、その子供は川を流されていた。


普通に考えれば致命傷で、もはやポーション程度では助からないように見える。

しかし、アストの魔法の視界では、何かがその子供の命を精一杯留めようとしているのが見えた。


そして、相手側もアストの視線に気づいたようで、アストのことをまっすぐに見上げた。


タスケテ


その声無き声は、たしかにアストまで届き、アストを動かした。


アストは大急ぎで時空間に干渉し、流されている子供とその子供の傍にいる何かを、まとめて宿屋にいる自分の傍に引き寄せた。


タスケテ アストラルサマ


その何かは小さな光だった。今にも虚空に溶けて消えてしまうような儚い光。

それでもその光からは、強い思いをアストは感じた。


アストはポーションを取り出し、一瓶使用して子供の治療を始めた。


魔力水を使用していない分、確実にこのポーションの効能は先程よりも落ちる。

なら、惜しみ無く使用しなければこの子供は助けられない。

アストはそう判断した。


瓶の中身はあっという間に空になり、子供に注がれたポーションが子供の身体の中に消えていく。

すると子供の身体が神殿の時よりも薄い淡い光に包まれ、子供の身体をゆっくりと癒していった。


最終的には、治る速度は神殿の時よりかは遅くなったが、子供は無事に快癒した。


アリガトウ アストラルサマ


光はアストに礼を言うと、子供の傍に寄り添った。


アストは子供をベッドに寝かせると、何とは無しにその光の正体を考えた。


この光はアストのことをアストラル様と呼んだ。

人間体のアストではなく、竜の姿のアストの名前をだ。


アストにはこの光の正体が予想つかなかったが、相手は人間の姿のアストを見てアストラルだとすぐにわかったらしい。


星界竜アストラルの存在を知っていることから、少なくともこの光がアストに何かしらの繋がりがある相手なのは確定だ。


もっとも、その繋がりがなんであるかはアストにはまだわからなかったが。


ただ、星界竜アストラルのことを知っている以上、それはアストの創作物か、それと関係のある可能性が高い。


アストは光について考えるのは止め、次にベッドで寝ている子供に近づいた。

そしてその子供の頭に手を乗せ、時空間干渉で記憶の読み取りを始めた。

その子が見聞きしたものを確認すれば、こんな子供があれだけの致命傷をおい、川を流れていた理由など簡単にわかる。


アストにとっては、お手軽な情報収集手段である。



「・・・死ね!」


少しして子供の記憶を読み取り終わったアストの第一声は、忌ま忌ましげなそんな言葉だった。


アストが読み取った記憶によれば、この子供の名前はガイスト=フォン=リュミエール。


精霊王国アウ゛ァロンにある、かつて八柱の精霊王とそれぞれ契約したと言われている、アウ゛ァロン八家。その一つ、光の精霊王と契約したリュミエール家の長男だ。

外見年齢はおよそ七歳から八歳。

実際は、今年十四歳になる少年だ。


ガイストの外見が年齢と合っていない理由は、栄養不足による栄養失調。親族の虐待による肉体的・精神的な苦痛。


それらの原因は、ガイストに精霊使いとしての才能が無かったことに起因している。


どこぞの落ちこぼれ物語よろしく、才能で全てを決めつけ、他者の人間性を否定するのが精霊王国アウ゛ァロンの実態らしい。


物語では、確実に復讐されて滅ぼされる悪役ポジションだ。


そして、それこそがガイストが致命傷を負った状態で川を流されていた理由。

ガイストの家族が、彼に家を継がせない為に殺そうとした。


そんなどうしようもないことが、事実で真実だ。


アストの中では今、アストライアという個人と接して多少上がっていたこの世界の住人達に対する評価が、マイナス方向に振り切れている。


さらに言うと、彼らが精霊王と呼んでいる存在は、アスト達がデータを構築したこの世界本来の精霊王達ではない。

その他の精霊と呼ばれている存在にしても、正規の精霊ではなかった。


アストにしてみれば、この世界の住人達も、精霊を詐称している存在も許せるものではなかった。


「くるくるくるくる廻り廻れ。時は流れ、空間は広がり、星は巡る」


許せないならばやることは一つ。アストは自分の能力の発動に取り掛かった。


「森羅万象は巡り、世界は流転する」


アストはガイストを見つけた地点を基点に設定した。


「そは恵み。そは災い。そは二つを併せ持つ世界の循環」


設定したポイントから範囲を広げていき、精霊王国アウ゛ァロン全土を能力の対象範囲に収める。


「燃え立て、溢れよ、吹き飛ばせ。揺らぎ、凍てつき、轟け」


そして、精霊王国アウ゛ァロンを異界化させ、この世界の自然循環から完全に切り離した。


「自然の猛威を脅威だけとし、全ての恩恵を奪いされ!《天災》」


アストが能力名を告げた瞬間、精霊王国アウ゛ァロンの滅亡が始まった。



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