表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームマスターの異世界冒険  作者: 中野 翼
23/42

22.アストは助成する・森の馬車

アストが時間を巻き戻した次の日。


「アストさんは今日どうしますか?」

「今日か。せっかくゲーム法則を適用したことだし、ポーションの製造でもするかな?」

「そうですか。私達の方は、今日も街壁の所で護衛のお仕事です」

「了解」


アストが時間を戻した結果、アリア達の街の護衛期間が九日に延びた。

その為現在アストは、アリア達と同じ宿屋に宿泊し、二人の契約期間が終わるまでの間、一人で時間を潰していた。


ちなみに宿泊の代金については、召喚でざっくざくである。

別に偽金というわけではないので、領主であるシオン達も何も言えなかったりする。




「それじゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」

アストは宿屋でアリア達を見送り、自分は街の近くの森に向かった。

今回は暇潰しを兼ねている為、転移はしないで徒歩の移動である。


ただし、脚力が人間離れしている為、移動速度は通常よりも格段に早いが。



「さて到着っと。早速ポーションの材料を探すとするか」


街から歩いて十分。

アストは目的地に到着した。


「まずは薬草からだな。最初期のポーションは、とりあえず水と薬草があれば出来ることだし。絶対に必要なものから押さえていこう。《召喚》」


アストは探すものを決めると、早速緑色のエレメンタル達を召喚。薬草の探索に当たらせた。


「さて、俺は寄り道しながら探すかな。《召喚》」


エレメンタル達を見送ったアストは、今度は植物図鑑を召喚して森の中を歩き始めた。



「意外と普通の薬草、見つかるものだな」


アストは足元の草を抜き取り、図鑑で確認しながらそうひとりごちた。


アストが薬草を集め始めて一時間。今までに採集した薬草の数は、五十を超えている。

別にそこまで密集して生えているわけではないのだが、アストはよく薬草を見つけることが出来た。

採集した薬草はまとめて亜空間に収納され、その鮮度を保っている。

これで長期間の保存も、楽々安心確実だ。


「ふんふん♪おや?」


アストが鼻歌混じりに薬草を集めていると、アストの耳に何かが聞こえてきた。

アストはそっと耳を澄ませ、音の正体を探った。


「あっちか」


そしてアストは音源を特定すると、発信源に向かって歩き出した。



「あれが音の発信源か。来るんじゃなかったな」


目的地に来てすぐ、アストは来たことを後悔していた。


その理由は、アストが聞いた音の正体が、戦闘音だったからだ。

現在アストの目には、豪華な馬車。それを守る上等な装備の複数の人間達。多分騎士とか、その手の階級の人間。

それを取り囲むモンスター達の群れという組み合わせが見えていた。


はっきり言って、厄介事の匂いが強くしている。


豪華な馬車というのがくせ者だ。

そして、それを守っているのが騎士階級だろう人間達。

どう少なく見積もっても、あの馬車の中にいるのは貴族以上の人物だ。下手をすると、王族などが出てくる可能性もある。


異世界召喚を執り行う立場の王族貴族は、アストが嫌悪する大敵だ。

そして彼らを襲っているモンスター達は、世界の歪みを修正する存在。


立場的には、アストはモンスター達に加勢して人間達を殺すのが正しい。が、こんな街の近くの森でそれをすると、シオンの領民達に見られる危険がある。


本来なら口封じをすれば済む話だが、アストとしてはシオン達と険悪になるのは避けたい。

だから、口封じの類いは出来ない。


ならばどうするのか?

一番問題が無いのは、この事態を見なかったことにして、薬草採集に戻ることだ。


自分の手をわざわざ汚す必要も無いし、彼らを助ける選択は始めからない。


そう判断したアストは、森の中に戻ろうと歩き出そうとした。


「そこの少年!すまないが加勢してくれ!」


が、時既に遅し。アストは人間達に発見されてしまい、助成を請われてしまった。


「・・・」


アストは判断に迷った。

ここで逃げるのもありだが、彼らが貴族関係の場合、生き残ったらシオンと接触する可能性がある。いや、この近辺に街はシオンが治めるあそこしかない。彼らは、ほぼ確実にシオン達に助けを願うだろう。


なら、アストが採るべき行動は一つだ。


「・・・」


アストは黙って剣を抜き、森から一歩踏み出した。


それに反応するように、馬車を襲っていたモンスターの半数が、アストに向かって来た。


アストはそのモンスター達を誘導するように動き、馬車から霞んで見える程度の距離でモンスター達を迎え撃った。


今回のアストの戦い方は、身体能力任せの双剣による攻撃が主体だ。

これは、彼らに手の内を見せない為である。


アストは気持ちゆっくりと剣を振り、一撃ではなく少しずつモンスター達を片付けていった。


ちなみに現在戦っているモンスターは、グレーボアという、灰色の猪型モンスターである。

特技かつ必殺技は、定番の突進だ。


《デイドリーム》では、初心者プレイヤーが戦うクラスのモンスターである。


なんせ相手は猪。突進を始めたらしばらく直進しか出来ないので、左右に避ければノーダメージでの勝利も可能なのだ。


アストは、グレーボアが突進を開始したら回避行動をとり、すれ違い際に切り付けるという方法で現在ノーダメージだ。

もっとも、アストの防御力なら突進を直撃されても無傷で済む。


では、なぜ馬車の人々が苦労しているのか?

それは、馬車のせいである。

馬車もグレーボアと同様に小回りが利かず、グレーボアの突進を回避出来ない。

ならばどう対処するのか?

答えは簡単。護衛の人間が馬車の盾となっているのだ。


生身でグレーボアの突進を受け止めるのは、困難を極める。なんせグレーボアの必殺技だ。


β盤テスト時、面白半分に試した猛者がいた。


見事に失敗し、吹き飛ばされて死に戻りという結果になった。


つまりはそういうことである。


グレーボアが突進する毎に、護衛の人間が重傷か死亡で数を減らしていく。


アストが半数を受け持ち、戦況は楽にはなっているが、今だに予断が許されない状況のままだ。



「・・・」


アストが相手にしていたモンスターが全て倒されると、またグレーボアの半数がアストに向かって来た。


アストはただ黙々とグレーボアを倒し、その経験値とドロップアイテムを回収していった。




「ブモォ~!」


アストの参戦から三十分。

ようやく最後のグレーボアが馬車側で討伐され、霧散した。


アストはそれを確認すると、森の中に改めて戻ろうとした。


「待ってくれ少年!」

が、また先程助成を頼んだ声に呼び止められた。


「・・・」


アストが振り返ると、馬車側から一人の人物がこちらに向かって歩いて来た。


「助成に感謝する、少年」


開口一番、その人物はアストに礼を言った。

アストの好感度が少し上がった。

これで文句等を言ってくる相手だった場合、アストの嫌悪度が上がっているところだ。


「気にしないでください。それでは、これで失礼します」


アストは一礼すると、後腐れなく別れようとした。


「待ってくれ!」

「何か?」


が、相手はまだ用があるようで、アストをまた呼び止めた。


「まだ助けてもらった礼をしていない。それに、私の主がこたびの助成に直接礼を言いたいとのことだ。少し時間をもらえないだろうか?」

「・・・礼は不要です。そんなものが欲しくて助けたわけじゃありませんから。それと、あれほどの馬車の主と対面するのはご遠慮願いたいです。おそらく貴族の方だと思いますが、そのような方と接する礼儀作法は知りませんので」


アストは丁寧だが、自分の問題を前面に押し出し、きっぱりと対面を断った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ