19.アストは語る・世界管理者
「おいそれって・・・」
「そう。この世界の住人達は、世界からのアシストをほぼ無しの状態で暮らしているんだ」
「ゲーム的に言えば、ハードモードってこと?」
「そんな生易しいものじゃないさ。向こうの世界で言うと、生身の人間が怪獣の闊歩する世界にいるようなものだ。向こうには、それなりに銃火機といった対抗手段があるが、こちらの世界の武器や魔法なんて、比較するとバカらしい程使えない。それに対して、この世界の怪獣。モンスター達は、レベルやステータス。各スキルの恩恵をふんだんに受けてる。本当なら、この世界の人類なんて、とうに絶滅しているところだ」
「絶滅・・・そこまでのものか」
「そうだ。異世界人達を誘拐して兵器転用していなければ、この世界の人類達が生き残れているわけがない。まったく意地汚い連中だ!」
アストはそう吐き捨てた。
友人知人を利用されていることが、よほど腹にすえかねているようだ。
「いや、さすがにそこまで嫌悪しなくても」
シオンとしては、自分達のことをそこまで思ってくれるのは正直嬉しいが、アストの様子がかなり過剰に見えていた。
「それだけの理由が俺にはあるんだよ。お前達が知らないようなあれこれがな」
アストは、嫌悪の理由については語るつもりがないらしいと、誰もが理解した。
「ゴホン。少し感情的になり過ぎた」
「少し、ね」
「蒸し返すな。とりあえず、そういう内容でこの世界の住人達は退化している。本来の俺達が設定したスペックなら、【救世者】達とも互角に戦えただろうにな」
「そうなのか?」
「ああ。ステータスやスキルも万全なんだから当然だろう。【救世者】達がゲームで戦うモンスター達よりも強いとはいえ、一体一体がボスモンスタークラスと同格ってわけじゃないんだからな。こちらのレベルがある程度上で、装備や能力が万全なら、せいぜい苦戦するかしないかぐらいの強さしかない」
「まあ、全部ボスクラスとか、ゲームバランスが崩壊しているよな」
「当たり前だ。その辺はちゃんとバランス調整をしてある。もう試作品やテスト盤ではなく、ネットワークに広がる完成品なんだからな。・・・いや、完成品は言い過ぎか」
「どうかしたのか?」
「そういえばゲームの方は、最終調整中だった」
「最終調整中、だった?」
「その最終調整中に同僚達が拉致られたんだよ!」
アストはまた怒りだした。
「それはまあ、なんと言って良いか」
「ああいらつく!この世界の住人共、まとめて始末してしまいたい!」
アストの感情は、完全に偏っているようだ。
シオン達には正の感情を、この世界の人類に対しては、負の感情を溢れさせている。
「それは止めろ!俺の領民達も混じっているから!?」
「そうよ!落ち着いて星夜君!」
すぐにでも行動しだしそうなアストを、シオン達は総掛かりで説得にかかった。
「落ち着いたか?」
しばらく説得を続けた結果、ようやくアストは落ち着きを取り戻した。
「・・・ああ。なんか感情的になりやすくなっているようだ。もう少し自制するよう努力するよ」
「そうしてくれ。今のお前に本気で行動されたら、とてもじゃないが止めきれん」
先程の戦いを思い浮かべながら、その場に居た全員がせつに願った。
「・・・何を話してたんだっけ?」
アストは、怒っている間に怒る前に話したことを忘れていた。
「この世界の住人達が退化したとか、ゲームバランスがどうとかだな。だよな?」
「そうよ」
「そうか。と言っても、その内容だともうあまり話すことはないな。・・・いや、聞いておいた方が良いことはあるか。なあ、紫苑」
「なんだ?」
「お前は。お前達は、この世界の住人を。いや、自分の領民達を愛しているのか?」
「もちろんだ。この世界に来てから三十年。その内二十年近くは、この街と、そこに暮らす領民達とともにあったんだ。当たり前だろう」
アストの確認のような質問に、シオンははっきりと頷いた。
「そうか。なら、お前達に言っておくことがある」
「なんだ?」
「俺は現在、この世界の創造主からこの世界の管理者権限を与えられている」
「世界の管理者権限?」
「俺の認識としては、ゲームマスター権限と同じだと認識している。つまりは、世界の法則や仕様を自由に変更出来る権利だ」
「おいそれって!」
「お前達がさっき言っていた神。それと同位と言っても過言じゃない。いや、この世界の基準点は俺と仲間達で構築しているんだから、最初から神と同じ立ち位置か?」
アストはどうだろうかと思ったが、ゲームマスターはゲーム世界の神だと言えるいじょう、あまり間違ってはいなかった。
創造主からいろいろ力をもらっており、力の桁や扱える範囲も、人の域を越えている。
「まあ、そこは曖昧でも良いか。さて、その権限の内に、ゲーム法則の再適応の権限がある」
「ゲーム法則の再適応。さっき言っていた、レベルやステータスを実装出来るってことか?」
シオンとアリス。かつてゲームをしたことのある二人は、アストの言葉にその辺りをイメージした。
「そうだ。が、今から適応したいゲーム法則は、アイテム関連だ」
「アイテム?ゲームのアイテムで、俺達の領民が関係ありそうなもの?まさか!」
「ポーションか!」「蘇生アイテムね!」
シオンとアリスは、お互いの答えに顔を見合わせた。
「どちらも正解だ。ゲームのポーションには、通常の回復薬から身体欠損の治療薬。蘇生薬まで幅広い種類があるからな」
アストは、そんな二人にどちらも正解だと告げた。
「そうなのか。それで、星夜は何が言いたいんだ?」
シオンはほとんど予想がついていたが、それのことを確定させる為にアストに確認した。
「お前達が望むのなら、その法則をお前達の領民に適用してやれる。二日前の【救世者】達との戦いで、結構な被害が出てただろう?」
「たしかに二日前の戦いで、多くの戦死者や怪我人が出ているな。おかげで俺の領地の防衛能力は、ガタガタだ」
シオンは二日前に出た被害の大きさと、現在の街の状況を思い出しつつ、アストに頷いた。
「アストさん」
「どうかしたのか、アリア?」
アストがシオンと話していると、何か考えているらしいアリアが話し掛けてきた。
「今までの話しを端から聞いていて思ったんですけど、そのポーションっていうのは、名前からすると液体ですよね」
「そうだな。見た目は液体だな」
丸薬や塗り薬はポーションとは言わないし。
「普通液体は、飲むかかけるものですよね?」
「そうだな」
ゲーム時代は、アイコンから使用するのが一般的だったが、現実で使用するとなると、その二つの使用方法になるだろう。
「それを怪我をしている人達に使うのはわかるんです。ですけど、もう死体を火葬をしている上、魂を強制的に昇天させられている人達に、どう使用するんです?とてもではないですけど、蘇生は無理なんじゃ?」
「「あっ!」」
アリアのこの疑問には、シオンとアリスもそうかもしれないと思った。
「その辺も問題は無い。あの世の世界も、俺がすでに押さえているからな。たとえ肉体が骨と灰になっていても、魂から逆算して肉体を復元出来る。まあ、縛りが無いわけじゃないんだがな」
「縛りですか?」
「ああ。蘇生に関しては、アイテムや魔法、スキルを使わないと出来ないってやつだ」
「なんでそんな縛りが?アストはあの世を押さえているんですよね?そんな縛り、必要無い気がするんですけど?」
アリアとしては、なぜそんな微妙な縛りがあるのかがわからなかった。
死者の蘇生が出来ないという縛りならわかるが、蘇生方法がいくらでもあるのに、そんな縛りに意味があるのかわからなかった。
「そこはシステム的な問題だ。今は適用されていないとはいえ、死者の蘇生はこの世界の法則に裏打ちされた正規の方法だ。だが、それを下手にショートカットすると、バグる可能性がある。ただでさえ世界法則が破綻気味なのに、余計な負荷を世界に与えるのは避けたい。少なくとも、俺はバグ取りや修正をするつもりはない」
アストは、アリアやウ゛ェルド、アルフレッドとアリシアには理解出来ないことを、きっぱり言い切った。