1.転生?変異
『到着したのか?』
俺は今、何処とも知れない場所にいた。いや、何処とも知れないということもないか。
パソコンからの閃光で気を失った俺は、現在絶対職場ではない場所で目覚め立っている。
具体的に言うと、見渡す限り木々しかない森の中だ。
そう、やたらファンタジーな植物やモンスターが棲息している森の中。
簡単に観察してみた結果、ここ最近良く見ていたゲームの背景植物やモンスター達の姿などと完全に一致していた。
この様子から判断して、無事に異世界に到着したのだろう。
ただ、いくつか気になる点があった。
一つは、自分を中心に四方八方にそびえ立っている、現在の自分の三倍程度の大きさをした複数の巨大樹。二つ目は、その巨大樹の三分の一程度まで巨大化及び変異している自分の身体。
一つ目の巨大樹は、全て見知っている。ただ、その八本の巨大樹は全て別々のエリアに配置されており、こんな一カ所にまとめて配置されてはいなかったはずだ。
種類としては、全て神話や伝承の中に存在するものになっている。
二つ目の身体の変化。こちらは周囲を見渡した結果気づいたのだが、目線がやたらと高くなっていたのだ。そのせいで、通常のサイズの木々が、今は普段見かける雑草と同サイズに見えている。
視線をズラす。
足元から順番に、上え上えと現在の自分の身体を確認していく。
大地を踏み締める太い足。
臀部から伸びる爬虫類の長い尻尾。
肌や羽毛、鱗などの無い星空をそのまま押し込んだような夜色の身体。
人の腕よりは短く、鋭い爪を有した太い腕。
背より広がる、夜の帳を思わせる蝙蝠型の翼。
自己視点の為、頭の形状は完全にはわからないが、見える範囲では口が前に突き出していて、口の中にはびっしりと尖った歯や牙が列んでいる。なので、頭部はおそらく竜かそれに近い形状をしていると思われる。
これらの特徴を総合した結果、現在自分がなんに変異しているのか思い到った。
《星界竜アストラル》
さっき後輩に見せたメモリーに入れていた自作モンスターの一体。
自分が動かすことを前提に、自分の趣味の要素をふんだんに盛り込んだゲームの規格をぶっちぎったオーバースペックキャラクター。
ゲームの強さでいえば、隠しボスを越える強さを有している。
ゲーム本編に出す予定がなかった為、バランス調整をしていない完全なチート存在だ。
というか、ゲームの中での運用を目的に作成している為、ゲームでのスペックを完全再現されている場合、攻撃手段及び演出の大半が現実の天災に等しい。
例えば宇宙から隕石を落とす《メテオフォール》。
例えば光さえも飲み込む虚空の穴。
他にも惑星規模、宇宙単位で効果を発揮する攻撃・能力が多々ある。
その反面、対個人にたいする攻撃手段は微妙な感じだ。
自分の転生目的を考えると、この世界ごと皆を吹き飛ばして魂を回収すれば良いと言えるかもしれないが、それはあまりにも極端で、現実味がなかった。
さて、どこまで性能が現実に反映されているかを確認しよう。下手に能力の試し打ちなんて出来ないのだし、慎重に行動する。
『ここがゲームの法則を適応しているのなら、これで良いはず。《ステータスオープン》』
冥夜の言葉を思い出しながら、ゲームの時のステータス確認方法を実行した。
すると、頭の中にゲーム時代のステータス画面が浮かんできた。
《星界竜アストラル》
Level:1
【種族】ドラゴン
【職業】世界管理者
【称号】
監視者・守護者・見届ける者・顕現者・星巡者
【基本能力】
星属性魔法・魔力操作・重力操作・時空間干渉・万物干渉・星間物質・原子結合
【種族能力】
種族変更・ブレス(息吹)・ブレス(祝福)・竜言語魔法・天恵・天災
【契約共有能力】
召喚:Level:MAX
適応進化・共生
【必殺技】
流星群・ブラックホール・メテオフォール・グランドクロス・惑星直列・アステルロンド・プラネットフォース
【契約獣】
E・ヒュドラ、R・エレメンタル、H・キメラ
【装備】無し
【所持品】無し
【経験値】0EXP
【次回LevelUp】
1000EXP
【異世界人討伐数】0人
『・・・どうなっているんだこれ?』
自分のステータスを見た第一の感想がそれだった。
このステータス画面、ゲームの時とはいろいろと異なっている。
まずはHPやMP、スタミナにATK(攻撃力)などの項目がごっそりとなくなっていた。
この辺はまあ、ゲームが現実になったせいで数値化が出来ないのだろう。現実だと、体調や精神状態でもいろいろと変わってくるものだからな。
次に目についたのは能力。設定した覚えのない能力がいくつもある。それと、能力が基本能力や種族能力、契約共有能力などに区分されている。ゲーム時代はひとまとめで表示されていたのに、なんでこうなっているんだろうか?
わかりやすいとは思うが、何かしらの理由があるなら知りたいと思った。が、解答をくれる相手がいないので、すぐにこの思いは置いておくことにした。
今は正体不明の能力の詳細確認を優先する。
『ふむ』
ゲーム時代のように、能力にカーソルを合わせようとしてみる。
しかし、カーソルは出てこなかった。
『駄目か。・・・うん?』
他の方法を考えようとした直後、頭の中に今確認しようとした能力の使い方が思い浮かんできた。
どうやら、この世界では能力の使い方が感覚的にわかるようになっているようだ。
とりあえず、能力を一通り確認していくことにした。
『ふむ。なかなか強力というか、使い勝手の良さそうな能力群だな』
能力の確認をはじめておよそ十分。
手持ちの能力について、そう評価を下した。
もともと設定していた能力も、現実になったことでそれなりに仕様変更されていたが、おおむね問題は無いようだった。
『さて、それでは早速能力を試してみるか。《種族変更・ヒューマン》』
問題が無いことを情報で確認した後は、次は実際に使ってみて確認だ。
とくに周囲に影響を及ぼさないだろう《種族変更》を選び、感覚に任せて使用してみた。
能力を発動すると、自分の輪郭がぼやけていき、段々目線が下がっていった。
そして、最終的にはいつもの目線の高さで変化が停止した。
能力による変化が完了した後には、いつもの人の身体に戻っていた。
「成功だな。だが、やっぱりというべきか、種族変更で服までは出ないか」
手足を動かしてみるかぎり違和感などはなかったが、別の問題があった。
竜の姿から人の姿になった為、現在服を着ていない状態。つまり全裸だった。
何処とも知れない森の中で全裸でいる自分。端から見ると完全に変態だ。
「《召喚》」
なので、適当に衣服を召喚し、さっさと着替えた。