18.アストは語る・世界の真実の一端
「それじゃあまたな」
シオン達のいる所まで戻ったアストは、そう言って帰ろうとした。
アストは面倒事を回避する気満々のようだ。
「ちょっと待て」
が、シオン達がそうやすやすとアストを逃がすわけもない。
アストはあっさりとシオンに腕を掴まれ、捕まえられた。
ただし、いつでも逃亡は可能だったが。
アストには時空間干渉による転移も、ナイトメア達相手に発揮した圧倒的な身体能力もある。
シオンの手から逃れるのは、簡単の一言に尽きた。
「どうかしたか?」
「どうかしたかじゃない!こちらはお前に聞きたいことが山ほどあるんだ!そう簡単に帰れるなんて思うなよ!」
「やっぱりか。けどな」
そう言った瞬間、アストはアリアとウ゛ェルドの隣に転移した。
「「わっ!」」
「俺はお前達にそこまで情報を渡すつもりはない」
「なんだと!」
アストが情報を渡すのを渋ると、シオンに怒りが湧いた。
「理由を聞いても良いかしら、星夜君?」
「・・・友人だからだよ」
「友人だから?」
「ああ。世の中には、知らない方が幸せなことなんていくらでもある。俺が知っている情報は、お前達にとってはそういう類いの情報だ。だから、知らない方が良い」
「「・・・」」
アストが諭すように二人に言うと、シオン達も黙るしかなかった。
なぜなら、アストが本当に自分達を案じていることがわかったからだ。
「・・・なら一つだけ良いかしら?」
「・・・なんだ?」
「星夜君が私達に知られたくないというその情報。出所は何処なの?」
「冥夜からだ」
「冥夜?冥夜、冥夜・・・!それって星夜君の幼なじみの彼のこと?」
アリスは三十年近く前の記憶を掘り起こし、なんとか該当する名前を思い出した。
「その冥夜だ」
「彼もこちらに来ているの?」
「いや、冥夜の奴は向こうの世界に留まっている。今回こちらに来たのは、俺だけだ。いや、多少前後しているが、後最低十人はこちらの世界に喚ばれてるな」
「喚ばれているって、まさか・・・」
「そのまさかだ。会社で仕事をしている時に魔法陣による強襲を受けてな、同僚が十人。お前達と同じようにこちらの世界に拉致されてる」
「十人!」
その自分達の倍以上の被害者数に、アリス達は驚きを禁じえなかった。
「・・・星夜君も誘拐されたの?」
「いや、俺は冥夜の手引きでこの世界に来ている。だからゲームのアバターの姿なんだ」
「手引き?それにだからゲームのアバターって、どういうこと?」
これにはアリス以外も首を傾げた。
「手引きっていうのは、そのままだ。冥夜がこの世界の創造主と繋がりがあって、そのツテで俺をこの世界に送り込んでるんだ」
「創造主。つまり、この世界の神と冥夜君は知り合いなの?」
「いや、創造主だ。亜璃子が言う神が相手じゃない」
アストは何故かきっぱりと、神であることを否定した。
「「「「「「?」」」」」」
その場に居た多くが違和感を覚えたが、口には出さなかった。
アストの雰囲気が、なんというか怒気を纏っていて、とても聞いていいような感じではなかったからだ。
「それはわかったわ。じゃあ、冥夜君とその創造主の繋がりは何?」
「冥夜の副業に関係しているらしいが、俺も詳しくは知らない」
「そう。ならあと、ゲームのアバターっていうのは、なんで?」
「俺の安全面とこの世界への適応性を考慮した結果だそうだ」
「安全面?つまり、ゲームのアバターだから問題が出ないと?」
「ああ。さっきも言ったが、この姿はゲームのアバターのもの。俺の本体ってわけじゃない。だから、ゲームよろしく条件さえ満たせばいくらでも復活が可能だ」
「それは不死身ということか?」
「傍から見ると多分そう見えるな。実際には違うんだがな」
「不死身に死者からの復活。お伽話の世界だな」
「そうね。この世界で死者の復活なんて、ネクロマンサーのお伽話とかにしかないものね」
シオンとアリスの言葉に、アルフレッドとアリシア、アリアやウ゛ェルドも黙って頷いた。
「ああ、本当にそこまで退化していたか」
「「「「「退化?」」」」」
アストの呆れを含んだその声に、誰もが疑問を持った。
「星夜、退化したというのはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。この世界の住人達は退化した。弱く、愚かで、何もかも忘れ去って、欺瞞にどっぷり浸かって、まったく救いようがない」
「俺の領民達を馬鹿にしているのか!」
さすがにアストのその言い様には、シオン達領主一家は怒りを見せた。
「馬鹿にか・・・。そうする価値もない。俺がこの世界の住人達に向ける感情は、怒り、憎しみ、敵意に殺意。そして、哀れみくらいのものだ」
「全部負の感情だよな?なんでそんな感情ばかり?」
暗い眼をしながら言葉を紡ぐアストに、ウ゛ェルド以外の者達は全員絶句した。
「この世界の住人が、俺の周囲で人を召喚したのはお前達を含めて最低六回。小、中の紫苑達、高、大学、先程言った会社の同僚達に、異世界組のアリア達。俺が把握している分だけでもこれだけだ。俺がこの世界の住人達に正の感情を抱くわけがない」
「「「・・・」」」
さすがにシオン達も、それだけ周囲の人間を誘拐されている相手に、先程のようなことは言えなかった。というか、どう弁護しようとしても、この世界の住人達の方が悪人である。
「それと退化したと言った意味だがな。一つ前に言ったこのアバターの適応性に関係がある」
「そういえばさっきそんなことを言っていたよな。けど、ゲームのアバターがこの世界に適応するものなのか?強さという意味なら、生身よりは強い気がしないでもないが?」
「適応するとも。なぜならこの世界は、このアバターが存在したゲームの世界の並列世界なんだからな」
「「「「はっ?」」」」
「おいちょっと待て!この世界って、ゲームの世界なのか!?」
シオンは思ってもみなかった情報に、驚きを隠せなかった。
シオンやアリスにしてみれば、それは考えてもみなかったことだった。
そして、それも無理はない。なにせ、二人が召喚される前には存在しなかったゲームタイトルなのだから。
「正確には、ゲーム機の中にある世界というわけじゃない。さっきも言ったが、この世界は並列。横並びの世界だ。ゲームの世界を基準点に、無数のパラレルワールドが生み出された。その内の一つの世界。世界法則にゲーム要素は多々あるが、あくまでも現実の世界だ」
「そうなのか」
アストからこの世界が現実だと聞いて、シオン達はホッとした。
さすがに自分達が、ゲームの人形になるのは嫌だったのだ。
「だが、裏を返すとゲーム要素が半分近くは適応されているということだ。俺からすると、ゲームの世界と言っても良いと思う。というか、魔法やスキルがある時点で現実ではなく、ファンタジーの世界だろう?」
「まあ、言われてみるとそうよね」
「さて、話を少し戻そう。今話ことを前提に、この世界の住人達が退化したことについてだ」
「ああ、そういえばそんな話だったな。途中のインパクトで、すっかり忘れてた」
「私も」
シオンとアリスは、驚きの連続でそろそろ疲労してきていた。
「この世界の住人達は、そのゲーム法則の加護のほとんどを失っている」
「ゲーム法則の加護?」
「簡単に言ってしまえば、ゲーム的にはよくあるレベル、ステータス、熟練度、ドロップアイテム、死者蘇生アイテムに、課金系の高位アイテム群。他にもいろいろあるが、その全てが適応範囲外になっている」
アストの口から語られたのは、本来であれば多くの力を獲られただろう内容ばかりだった。