17.アスト対救世者達
アスト対ナイトメア。初手はアストの攻撃から始まった。
「まずは数を減らすか。《召喚》」
アストは赤、青、若草、透明。四色のエレメンタル達を呼び出すと、それを上空に打ち上げた。
エレメンタル達はすごい速さで上昇していき、やがて雲の高さにまで到達した。
「いったい何をするつもりなんでしょう?」
「さあ?」
「二人とも、そこにいると巻き添えをくうぞ!」
「えっ?」「わかりました!」
そんなエレメンタル達を見ていた外野に、アストは危険だと警告した。
すると危険を理解した六人は、慌てて街の外壁辺りまで避難した。
「紫苑達の避難も良し、とっ!始めて良いぞ!」
アストは六人の避難を確認すると、上空のエレメンタル達にGOサインを出した。
アストの許可を得たエレメンタル達は、各々がそれぞれの属性の魔法を発動させた。
赤は火を、青は水を生み出し、それを自分達の中間点で激突させた。
水は火を打ち消し、そのまま蒸発。発生した水蒸気は、上空の温度ですぐに雲の状態になっていった。
その後も赤と青はどんどん水蒸気を発生させ、雲を随時大きくさせていった。
雲がある程度の大きさになると、今度は透明なのが雲の中に入り込み、雲の中に氷の結晶をばらまいていった。
最後に残った若草色は、透明なのと一緒に雲の中の氷の結晶に冷気を送り込んだ。
四者がそれぞれの行動を続けていくと、アストの意図した攻撃の準備がやがて完了した。
「そろそろ頃合いだな。それじゃあ、発射だ!」
雲が戦場全体に広がったことを確認したアストは、エレメンタル達に攻撃開始を命じた。
合図を受けたエレメンタル達は、それぞれ行動を次の段階に移行させた。
赤は、火を出すのをやめて雲の上に退避。
青は雲の中に移動して、今度は地上に雨の散布を開始した。
透明は、氷の結晶に注いでいた冷気を一気に凝縮。拳大の雹を大量に発生させた。
若草色は、その大量の雹と雨をすさまじい風速で眼下のナイトメアに向かって叩きつけた。
高高度からの広範囲攻撃。
雹と雨が、マシンガンとレーザーの如く地上に降り注ぐ。
ドォーン!ドォーン!
それらの攻撃が幾つも地上に激突し、ナイトメア達と大地を簡単に吹き飛ばしていく。
「攻撃止め!」
アストがそのあまりの激しさに攻撃中止を命じる頃には、地上には無数のクレーターと、瀕死のナイトメア達が転がっている有様となっていた。
「・・・やり過ぎたか?」
「「「「やり過ぎ」だ!」です!」よ!」
アストが現実逃避気味にそう疑問系で言うと、観戦していた六人からツッコミを入れられた。
「やっぱり?」
「どれだけうちの領地を破壊しているんだ!そのクレーターを埋め立てるのだってただじゃないんだぞ!」
「そうよ!今はただでさえ人手が不足しているってのに、これ以上問題を増やさないでちょうだい!」
「そうですよアストさん!これは完全にやり過ぎです!もう少し周囲のことも考えてください!」
アストからの確認に、シオン、アリス、アリアからは抗議の声が上がった。
「(父上達、あんな災害を巻き起こした相手によく文句が言えるな)」
「(たしかに。あの人、お父様達の古い知り合いみたいだし、そのせいかしら?)」
「(そうじゃないか?)」
「・・・」
残った三人。アルフレッドとアリシアは、アストと抗議している三人に若干退きながら小声で会話していた。
最後にウ゛ェルドは、自分よりも天災しているアストに呆然としていた。
「あ~、わかったよ!もう少し手加減というか、配慮はするよ!」
アストは、今の攻撃で倒したナイトメア達の経験値と、落としたドロップアイテム達を回収しながら、シオン達にそう約束した。
「本当はもう一手やりたいことがあったんだがな。まあ、しかたがない。《送還》」
アストはそう愚痴りながら、上空のエレメンタル達を回収した。
「なら、次にいってみようか!」
そしてアストは気持ちを切り換えると、双剣を鞘から抜いてナイトメア達に向かって突撃した。
「「「「GAAAAA!!!」」」」
アストの攻撃から生き残ったナイトメア達も、応戦するように前に出た。
アストはナイトメア達とすれ違うように移動し、そのすれ違う瞬間にナイトメア達を一刀両断していった。
ナイトメア達はそんなアストに向かって行くが、アストはその攻撃をことごとくかわしていく。
というか、アストの移動速度は人間のものではない上に、慣性の法則や重力関係をまるっと無視していた。
明らかに人体。いや、生物が可能な機動を超越した動きをしていた。
残像を残しそうな動きをするアストに、ナイトメア達は必死に追い縋る。
「《召喚》」
自分に集まって来るナイトメア達に向かって、アストは茶色いエレメンタルを召喚して砂鉄を大量にぶつけた。
そして、そのぶつけた後も砂鉄を重力で自由自在に操り、ナイトメア達を翻弄していった。
ある時は重量を増加させた状態で鈍器として使い、またある時は銃弾のように敵を撃ち抜く。他にも剣、盾、鎗に鎖。砂鉄はその形状、重量、密度、硬度を如何様にも変化させ、ナイトメア達を仕留めていった。
「《召喚》」
ある程度ナイトメア達の数が減ると、アストは次に黄色いエレメンタルを召喚。砂鉄を避雷針代わりに使い、広範囲に電気攻撃を仕掛けていった。
ついでに砂鉄を無重力で巻き上げて空中で滞空させた後、密集ヵ所に火種をほおり込んで粉塵爆発まで誘発させていた。
アストの戦いを観戦していた全員の感想としては、やり過ぎの一言に尽きた。
先程よりもたしかに自重は見られたが、えげつなさは酷くなっていた。
「くるくるくるくる、廻り廻れ。時は流れ、空間は広がり、星は巡る。森羅万象は流転し、世は変転を繰り返す。なれば全てに意味はあり、お前達はその意味あるものの一つ。この世界の礎となる。今日までご苦労様。そして、もう一度言わせてくれ、ありがとう。《アステルロンド》」
ナイトメア達の数が十体を切ったことを確認したアストは、手向けとして自身の必殺技を送った。
アストを中心に闇が広がり、周囲一帯が漆黒の夜に包まれた。
そして少しすると、闇の中で小さな煌めきが輝き出した。それは一つ二つと数を増していき、やがて漆黒の闇を色彩豊かな星空に変えた。
そしてその星々は、それぞれが無軌道に移動を始め、楕円を描きながらその空間内にいるナイトメア達に次々と激突していった。
前後左右上下、三百六十度からの全方位攻撃を受け、ナイトメア達は光となって、星空に輝く星の一欠けらにそれぞれなっていった。
跡にはただ、綺麗な星空が輝くばかりだ。
「終わったな」
アストはナイトメア達の最期を見届けると、星空を自分の中に回収した。
そして、自分の戦いを見ていたアリア達に合流する為、ゆっくりと歩き出した。
こうしてアストは、ある意味始めての実戦を終わらせ、自分の戦闘能力の一部を理解した。
だが、この時のアストは気がついていなかった。
この戦いを見ていたのが、アリア達異世界人組だけではないことに。
これは波乱の始まり。そして、アストに敵対する者達の、不幸の始まりだった。




