12.シオン・異世界人
「まずは、君達二人の信用を得るところから始めようか。私と妻は、君達二人と同じ異世界人だ」
「「「「えっ!?」」」」
私はまず最初に、目の前に居る少年達に私と妻の秘密を話しだした。
掴みは良いようで、予想通り二人共驚き、私の話に興味を持ってくれたようだ。
何故か息子と娘も驚いているが、今は放置しておこう。
「驚いたかね?」
「あっ!はい。領主様達は、本当に異世界人なのですか?」
「本当だとも。私と妻は、十五の時にこちらの世界に勇者として喚ばれた。もっとも、私達二人を勇者として喚んだ国はもうすでに滅びてしまっているがね」
私は、三十年近く昔のことを思い出した。
中学校の教室で、突然現れた魔法陣に吸い込まれたこと。
次に見たのは、今は失われたある国の王宮にあった召喚の間。
そこで今は亡き人々に乞われ、当時はただの幼なじみであった今の妻と勇者になったこと。
それから数年の間、その国の勇者として活躍し、多くの魔物やナイトメア達を退け、国とそこにいる人々を守ったこと。
そして、今はもう思い出したくもないあの国の最期のこと。
国が滅びた後は異国に渡り、行く先ざきで人助けをしたこと。
その過程で様々な武勲を上げ、妻共々貴族になったこと。
貴族になってからも武勲を上げ、何度となく昇爵したこと。
やがて苦楽を共にしてきた妻と結婚。
その後国王陛下より領地を預かり、息子と娘にも恵まれたこと。
現在に到るまでの波乱に満ちた自身の半生を想った。
「領主様?」
「ああすまないね。少し過去を振り返ってしまってね。何処まで話したかな?」
「私達を喚んだ国が滅びたというところまでですよ」
「ああ、そうだったな」
妻の言葉を聞いて、あらためて話を再開する。
「その国が滅びた理由については察してくれ。あまり楽しい話ではないからな」
「わかりました」
「国が滅びた後、私と妻は幾つかの国を放浪し、この国の貴族となって腰を落ち着けることとなった。表立って私と妻が異世界人だと知るものはいないが、私達二人は間違いなく君達と同じ異世界人だ」
「そうなんですか。ちなみに、なんという世界から来られたんですか?」
「地球という、この世界とは違って魔法が無い世界だ」
「地球ですか」
「そうだ。これで君達は一つ、私達に対する手札を得た。ここからは本題といこう」
「本題。それはアストさんのことですね」
「アリア!」
少女が素直に話そうとすると、少年が声をあげた。
「ウ゛ェルドさん、領主様のスキルが相手では、嘘や隠し事は無理です。それに、領主様は自分が異世界人という秘密を私達に打ち明けてくれたんです。その誠意には応えないと駄目です。領主様の能力なら、誘導尋問なども出来たんですから」
どうやら彼女には、私の意図が正しく伝わっているようだな。
「アスト・・・。それがアレを起こした者の名前かね?」
「正確にはアストラルという名前だそうです」
「ふむ。アストラル、か。偽名なのか、それとも私の【直感】が珍しく外れたか?」
てっきり故郷の懐かしい響きの名前が出てくると思っていたのだが、予想が外れたか?だが、アストラルというのは偽名としてはありそうだ。ファンタジー系の漫画のキャラクター名とかでは普通にあるからな。
それでも異世界に普通にある名前の可能性もある。まだ判断はつかないか。
「偽名ですか?なぜそう思われたんですか?」
「いや、あの時の剣による攻撃は、故郷で見たことがあるものだったのだ」
もっとも、現実ではなく創作の世界の話だが。
「そうなんですか」
「だからてっきり、あの攻撃は私達と同郷の者が放った者だと考えていたのだ」
「違うのですか?」
「判断がつかない。この疑問に関して、私のスキルの反応も微妙でな」
「と、言いますと?」
「スキルは答えを出そうとするのだが、何かに妨害されるように途中で沈黙するのだ」
「そんなことがあるんですか!?」
「こんなことは私も始めてで、困惑しているよ」
本当に何が原因なのだろうな?
「それでも複数の疑問から解答を導いていくことで、なんとか君達までたどり着いたのだよ」
「その、過程を聞いても構いませんか?」
「構わんよ。別段隠すようなことでもない」
「それならお願いします」
「ああ。まず私が最初に調べた疑問は、アレが誰が放った攻撃かということだった」
「たしか領主様のスキルは、二択の解答がわかる能力なんですよね?そんな候補が不特定多数の疑問に答えが出るんですか?」
「まあ、一回では出ないな。だが、複数回に分ければ十分いけるのだ。順番としては、まずアレが敵と味方、どちらが放ったものかを調べた」
「あの攻撃で私達の側には被害はなかったと思いますけど、敵味方で調べられたのですか?」
「そうだ。もしアレが味方の攻撃ならば、あれだけの被害が出る前に使用されていないとおかしいからな」
「それは、・・・たしかにそうですね。それで、結果はどうだったんですか?」
「解答はでなかった。なので、次は味方かそうではないか。その次に敵かそうではないかで試してみた」
別に攻撃を行えるのは、敵と味方だけではないからな。
「結果はどうだったんですか?」
「味方かそうではないかでは、解答がでなかった。敵かそうではないかの方は、私にとっては敵ではないという解答が出た。裏を返すと、向こうは敵と思っている可能性がある」
「たしかに領主様がアストさんを敵だと思わなくても、アストさんの方はわかりませんものね。ちなみに、その点は調べなかったのですか?」
「むろん調べたとも。解答はでなかったがね」
「それってつまり、アストさんに関わる事柄が不明になっているってことですか?」
「おそらくはな。あの剣の主について探ろうといくつかの疑問を【直感】で調べてみたが、直接調べる類いの疑問は全て解答がでなかった。逆に、あの剣の主と関わりがあるかどうかといった、間接的な疑問には答えが出た。そう、君達二人だ」
「・・・私達二人。たしかに私達はアストさんと関わりがあります。けれど、どういった特定の仕方をしたんですか?しらみつぶしに試したのですか?」
「いや、ある程度の当たりは始めからつけていたよ」
「どういうことです?私達が始めから怪しかったと?」
「ああ。こう言ってはなんだが、二人が異世界人だということは早くから把握していた」
「「えっ!?」」
「そこまで驚くことかね?伯爵クラスの領主ともなれば、独自の情報網の一つや二つは、当然持っているものだよ」
この世界には電話もテレビも、ましてやインターネットも無い。だから、情報は自前で入手するようにしておかないと、鮮度が落ちたものや、誤った情報を真実と勘違いしてしまう可能性がある。
貴族が愚かだと、民が可哀相だ。
私は、自分がそんな貴族になるつもりはない。
「その情報網で得た情報の中に、君達二人のこともあったのだ。勇者召喚され、国から逃げ出した異世界人二人の情報がね」
「・・・考えてみると当然のことですよね。領主様が自分の領地に入ったよそ者を調べるなんて」
「まあ、その辺が杜撰で調べようともしない領主もいるがね」
そういう領主がわりと居るのが困りものだが。
「それはともかく、そういった情報を得ていた為、私は君達のことを知っていたのだ」
「そうなんですか。けど、私達が異世界人であることと、アストさんの存在とにどうすれば結び付くんですか?」
まあ、端から聞くと理由としては微妙だろうな。
「その、なっ、異世界人はトラブル体質が多いのだ。これは経験則だが、騒動や異変が起きる時には、高確率で異世界人の影がちらつくのだ。その確率、なんと驚きの八割以上だ!」
「・・・随分と高くないですか?」
「たしかに高いな。どれだけ騒動を巻き起こしているんだよ、異世界人?」
少年少女が明らかに退いていた。
たしかに確率がおかしいからな。
「まあ、この世界と私らの世界とでは、常識が違うからな。いろいろとトラブルの元になりやすいのだよ」
「「ああっ」」
私の言葉に、二人は納得したように頷いた。
ここまで簡単に納得される程、私達の常識はズレているのか。
「おほん。と、まあそういうわけで、まずはトラブルと関係している可能性が高い異世界人達から調べることにしたのだ。ちなみに、私の領地にいる異世界人は、私達一家を除けば君達二人だけだ。むろん、こちらの世界と異世界人とのハーフやクオータなども私の領地にいることにはいるが、それは君達の後に調べる予定だった。が、君達二人ですぐに当たりが出た為、調べる必要が無くなったがね」
「本当にすぐに調べたんですね。あの、ちょっとした好奇心なんですけど、その時はどんな疑問で私達を調べたんです?」
「率直に、あの異変につけて君達が何か知っているかだよ」
「ああ。私達自身が知っているかどうかについては、アストさんは関係ありませんものね」
「そういうことだ。さて、納得してもらったところで、そろそろ件の本人に出て来てもらうとしようか」
「アストさんは近くにいるんですか?」
「近くにいるかは不明だ。だが、君達に危害を加えようとすると危険だと解答があった」
「「「「えっ!?」」」」
二人と子供達から驚きの声が上がった。
そんな四人の声をスルーし、私は部屋の中の変化を探った。
出来れば、今の言葉に反応してもらいたいところだ。
だが、いっこうに変化は起きなかった。
やはり、最終手段に移るしかないか。
「本来はこの会話を聞いて、自主的に出て来てもらいたかったのだが、致し方ない。君達には先に謝罪しておく。すまない」
「「「「ええっ!?」」」」
二人と子供達が疑問の叫びを上げる中、私は二人に向かって本気の攻撃を仕掛けた。