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番外編。真夏の卒業式。

夏休み特別企画。


シリアスに禁忌に手を出してみました。


もう一つの一三家(にとりけ)の物語。

はじまり、はじまり。

職業の自由。


宗教の自由。


恋愛の自由。


私、一三(にとり) 真由(まゆ)お兄ちゃんに恋してます。



何時もなら『お兄ちゃんハアハア!』や『お兄ちゃんクンカクンカ!』するのが通常ですがifの話をしましょう。



もう一つの私達兄妹の物語。




私が中2。お兄ちゃんが中3。


朝から雨が降り続けている、6月。

一日も終わり放課後も雨。

いつもなら陰鬱になるのが普通なんだけど…今は気を抜くとニヤけてしまう。

朝使った傘は、両手を肩幅の位置で持って方膝立ちの私の膝に向けて降り下ろしたら何故かブーメランみたいな形になってしまった。


お兄ちゃんの教室に相談に行った。


3-B…お兄ちゃんの匂いが微かにする幸せ空間だ♪

…お兄ちゃんの匂いに混じる嫌な臭い…何?この牝犬の臭い!不愉快です!


教室を覗くと牝犬が私のお兄ちゃんに話しかけていた。真由が救出しなきゃ!


「お兄ちゃん一緒に帰ろ!」


牝犬が不満そうに睨みつけてきたけど関係無い♪


「真由。傘はどうしたんだ?」


「壊れて開かないから…あっ真由お邪魔でした?」

こう言えば牝犬も引き下がるしかないよね!


「一三くん…どなたなんですか?」


まだ食い付きますか牝犬!


「あ…真由。彼女は…」

「私は一三くんの彼女の二見(ふたみ)祥子(しょうこ)です♪」フフン♪


ムッかー!な、何?彼女?妄想入っちゃって!クスリでもやってるの?


「うふふ♪妹ちゃん必死になって可愛い♪でも、あんまり度が過ぎるとアブナイぞ♪それじゃあ一三くんまたね。」牝犬は手を振りながら教室から出ていった。


「真由。帰ろうか?」お兄ちゃんはカバンを持つと空いた手で私の頭をポンってしてくれた。

これだけで幸せになっちゃう…単純だな…私。


それにお兄ちゃんとの相合い傘♪

傘の外は牝犬が住む冷たい世界。

雨は世間の視線そのもの、少しでも傘からはみ出たら雨は否応なしに打ち付ける。

だから私は雨に濡れないようにお兄ちゃんに引っ付いたのだ。幸せの広さは65cmしかないのだから。



そんな幸せ時間は大通の交差点までだった…


信号の先には商店街のアーケードがあり夕飯の買い物をする主婦や帰宅途中の雨宿り感覚で立ち寄る学生がいる中にあの牝犬…二見祥子を見つけた。


普段ならお兄ちゃん優先の私も雨でどうかしていたのだろう、無意識に足は前に繰り出していた。



何かが叫ぶ声…アスファルトを焦がすゴムの焼ける臭いが鼻にツンとしていた。


目の前に横たわる男性の肩から雨水と一緒に真っ赤な液体がしゃがみこんだ私の手についた…




私が、一三 真由に戻ったのは病院だった。

手と膝をすりむいた程度の私が治療後に口にしたのは「お兄ちゃん何処?」だったそうだ。


如月さんって看護士はICUまで案内してくれた。

「まだ中には入れませんが、この窓から中は伺えますから椅子に座って待っててください。」


窓の中はオレンジ色の世界なのか…それとも窓ガラスがオレンジ色なのかどうでもよかった…


ただ、複雑な機械から幾重にも細い紐みたいな物がお兄ちゃんの身体に繋がっていて口には呼吸器がつけられていた。


それからは毎日お兄ちゃんの元へ通った。春も、夏も、秋も、冬も…。



そして三度目の夏のある日私は、ケーキを持って病室に入った。


「誕生日おめでとう…お兄ちゃん。」

「春にも言ったけど真由も高校生なんだよ?願掛けの髪は校則違反って言われるけど男子からよく告白されるようになったよ。」


私とお兄ちゃんの誕生日の儀式?

まぁ、ケーキの生クリームを自分の唇に塗りお兄ちゃんの唇に合わせた。

一年に二回しか無い特別な儀式。

私だけの秘密。



今年の誕生日は違っていた。

お兄ちゃんが唇を舐めたのだ…

慌ててナースコールを押した。


担当看護士の如月さんがやって来た。


「真由っちどうした?」


相変わらず軽いな~如月さん。


「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが舐めたの」


「マジ?」

言うが早いか如月さんはお兄ちゃんの目蓋を開けて黒目を検査して、脈拍を測るとPHSで担当の榊先生を呼んでくれた。



それから3日後お兄ちゃんの時間が再び動き出した。



それから一ヶ月後3年ぶりにお兄ちゃんと会話した。


「何時もお見舞い有難う…お姉さんの名前教えて…」

顔を真っ赤にして聞いてきたお兄ちゃんを見ていたらイタズラ心が出てきた。

「私は真由。16才高1だよ。少年♪」


「真由姉って呼んでもいいですか?」


ん?何か違和感。


ま…いっか。


「良いわよ♪でも私はお兄ちゃんが欲しかったから、少年にはお兄ちゃんになってもらうけどいい?」


お兄ちゃんは複雑な顔をしたけど惚れた弱味か素直に卯な付いた。


「ところで真由姉と僕はどういう関係だったんですか?事故以前の記憶が無いみたいなんです。」



「私達の間には愛が確かにありました。」兄妹愛ですが間違いないでしょう。


「真由姉ごめんなさい。」

本当に辛そうなお兄ちゃんの背中を抱き締めた。



そんなある日。

お兄ちゃんはリハビリの歩行訓練の為リハビリ室に出掛けた。

勿論私も着いて行ったが、如月さんに途中に呼ばれて帰ってみると牝犬こと二見祥子がお兄ちゃんに近づいていた。



お兄ちゃんが笑ってる…私じゃない、あの女に向けてだ!


牝犬は二言三言お兄ちゃんに話しかけて真っ直ぐ私の方に向かって来る。


すれ違いざまに「着いてきて。話がしたい。」牝犬がローズの残り香を漂わせて着いてくるのが当然って態度で廊下を歩いて行く。


素直に着いていくのも癪だけど言われっぱなしもムカつく!


彼女は中庭に出るとベンチに腰掛ける。

私もそれに続いて腰掛ける。


「真由さん。そう睨まなくても良いじゃない?私感謝されども恨まれる事してないわよ!」


「感謝するような事されてませんけど!私。」


「あら、随分嫌われたものね♪真由さん嘘をついてまで一三くんの恋人に成ったのを黙っててあげてたのよ?」


「それにね事故の時救急車呼んだのも私なの。つまり一三くんの命の恩人なのよね♪」


私は奥歯を強く噛むしか出来なかった。


「お兄さんが退院したら真由さんは妹に私は恋人に…でもその前に聞かせて、一三くんとどうなりたいの?」



「私は…私は、お兄ちゃんの側にいたい…」



「ええ良いわよ♪私の恋人の妹としてなら側に居させてあげる」



「ふざけるな!私は認めない!!」



「別に認めなくても良いわよ?決めるのは一三くんだから♪じゃあね、い・も・う・と・さん」

右手をヒラヒラさせて正門方面に二見は歩いていった。


私はその後ろ姿が消え去るまで睨み続けた。



深呼吸をして気分を落ち着けてリハビリ室に行ったがお兄ちゃんの姿は無かった。


病室に行くとベッドに腰掛けているお兄ちゃんがいた。


「お兄ちゃん。リハビリ室にいた女性は?」


そう聞いた途端にソワソワし始めた。


「真由姉の知り合いって言ってたけど」

なんだ嘘つきはお互い様じゃないか♪


「大丈夫。お兄ちゃんは私が守る!今度は必ず…」




事故から四度目の夏、日直で病院に行くのが遅れた為到着した時には病室にお兄ちゃんと二見が笑っていた。


「何か良いことでもあったのかしら?」

病室に入るなり私は聞いた。

しかしお兄ちゃんは一瞬私を見ると直ぐに目を伏せた。


「一三くん来週の退院日は迎えに来ますね。」


「祥子さんお願いします。」


「じゃあまた来週。」


二見は病室から出ていった。


お兄ちゃんと二人きりの病室。

ただ空気が重い…何があったの?


「楽しかったか?」


お兄ちゃんはそう言った。その声は怒気が含まれていた。


「お兄ちゃん…どうしたの?」


「祥子さんから全部聞いたよ!恋人だって嘘ついて近付いて…嘲笑っていたんだろ?」


お兄ちゃんの目には怒りや悲しみが渦を巻き涙を溢れさせていた。


「確かに…恋人って嘘を吐いた…でも、でもね…お兄ちゃんを好きだって気持ちに嘘や偽りなんか一つも無いよ。真由の命はお兄ちゃんのだから…」


「…なら何で嘘ついたんだ?」


「夢だったの…小さい時から。」


私は泣き顔を見られたくないからお兄ちゃんに背を向けた。


「…ごめん…今日は帰って。考えたい。」


お兄ちゃんの言葉を最後まで聞かず病室から飛び出した、途中で如月さんに呼ばれたけど声を出したら泣き崩れてしまう。


どうやって家に着いたか分からないが、私はうつ伏せのまま枕に顔を押し付けて泣いた。


お兄ちゃんの退院するまで家で塞ぎ混んでいた。


学校にも行かずただ部屋の天井と床だけを見ていた気がする。


時々何かを口にしたが何も味がしなくて鉛のように重く…喉を通らなかった。




今日は何月何日だろう?

外が騒がしいや…


あは、お兄ちゃんの声


幻聴まで聴こえてきた


私の部屋に誰か来た。勝手に入らないで!…でももういいや。


目の前で誰かが座る。耳元で乾いた音と共に頬が熱くなる…何で叩くの?


「…かげ…この…バカ!」

パン!今度はハッキリ分かった。

「…てに入ってきて!何すんのさ!!」


「目を覚ましたみたいね!一三くんを返しに来たわよ。」


「返す?何それ?」


「彼ったら二言目には、真由姉。真由姉ってここまでシスコンだと気持ち悪くて!」

「それに、たかがお兄ちゃんに嫌われただけで落ち込むブラコン妹にはお似合いのキモいカップル…キモップルよね!私は帰るから好きなだけイチャコラしなさいよ。」


あーキモい!キモい!と二見祥子は家から出て行った。


入れ違いにお兄ちゃんが入って来た。


「真由姉…悪いけど僕はお兄ちゃんにはなれないよ。」


「?」


「だって事故の後に目を覚ましたら…目の前の女の子に恋をしてしまったんだから…真由姉の恋人になれても、お兄ちゃんにはなれません!」

「だからごめん。」私の耳元でそう聞こえた…私…お兄ちゃんに抱きしめてもらってるんだ。


私の返事は決まっていた。


ただ黙ってお兄ちゃんにキスをした。

恋人になって初めてのキス。




私は恋人のためにサプライズを計画した。


一人では難しかったが、恋人の為と二見祥子に連絡をした。




8月30日


私は彼を連れて中学へ行った。


3-Bの教室に入ると当時の担任教師と同級生が迎えてくれた。

記憶の無い彼は戸惑っていたけど、黒板を見て納得していた。


黒板には、『3-B卒業式!一三くん卒業おめでとう♪』と書かれていた。


事故から4年。


彼一人の卒業証書授与式は、3-B全員の本当の意味で卒業式となった。



私は、心の中で兄妹を卒業して恋人になれた気がした。

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