初対面は和やかに①
「ティアナ様。馬車の用意ができております。どうぞお外へ。」
侍女のメアリが窓際に腰掛ける女性に向かって声を掛ける。
女性、ティアナは振り向きメアリに向かって微笑むと、右手でドレスを持ち上げながら優雅に立ち上がった。
「まぁ…!ティアナ様はやはりお美しいです!アリスター殿下もきっとお喜びになることでしょうね!」
興奮したようにはしゃぐメアリに苦笑を返しつつ、ティアナはもう一度窓の方へ振り返る。
(もうここへ帰ってくることはないのね…)
そう思うと寂しくはあるが、これも国のため、民のため。
悲しいなどと言える立場ではないのは充分分かっている。
けれどティアナは、どうしても悲しみが心を覆ってしまい、この結婚に前向きになることができなかった。
けれど時間はやってくるもので…。
ティアナは見事に晴れた空を眩しそうに見やると、今度こそ踵を返し15年過ごした部屋を後にしたのだった。
城の外に出てみれば、皇帝と皇后がそこでティアナを待ち構えており、2人は寂しそうな顔を見せながらも笑みを浮かべていた。
「アナ、元気でね。
お手紙くださいね。母はいつでもあなたの味方です。」
そう告げた皇后はティアナをそっと抱き締める。
アナとはティアナが家族にしか呼ばせることのない家族間だけの愛称である。
「アナ。そなたには辛い役目を負わせてしまい本当にすまない。
だがお前には私も、皇后もついている。
そして何より神の加護があることを忘れてはならん。
お前は神に愛されているのだ。
きっとアリスター王子にも愛されるだろう。
…元気でな。我が娘よ。」
皇帝はそう言うとゆっくりとティアナの髪を撫でる。
ティアナは薄っすらと涙を浮かべながらも笑みを浮かべると、ゆったりとした動きで馬車に乗り込む。
太陽の光が馬車に降り注ぎ、ティアナの着ていたドレスに縫いつけられた無数のダイヤがキラキラと輝く。
オーランド皇国の皇族が着るウエディングドレスのダイヤの数は愛された数だとされ、皇后が結婚が決まった日から毎日縫い続けたものだ。
その光はティアナを輝かせており、その姿はまるで女神。
神の国、オーランド皇国第4皇女、クリスティアナ•ミュー•アディンセルはこうしてリュールタリア帝国へと旅立った。