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転生しても頼りない…  作者: 真地 かいな
第2章 宗教と正義(仮称)
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第19話 籠の中から


ユグドラシルの西部、そこにはその大き過ぎる権威を示すような教会が建っていた。それは唯一神である慈愛神エルダを崇める宗派の収める正教会と呼ばれる教会だ。

そんな教会の一室で司祭であるミラーシアは幼馴染とも呼べる来訪者を迎えていた。


「お姉様、これからはずっとこの街に居られるのでしょう?」


「久しいなプリシラ、わざわざ聖教会まで訪ねてこずとも、私の体が空いた時にはこちらから尋ねたものを…ありがとう。いつまでかはわからぬが、しばらくの間はここにいられるだろうよ。」


「お姉様に会えるんだもの、どこにだって行くわよ!」


「そうか、ありがとう。お前の笑顔は疲れた私に安らぎをもたらしてくれるよ。」


“氷の司祭”およそ慈愛とは程遠い愛称でミラーシアは呼ばれている。その冷え切った眼差しがその理由なのか、その背教者への残虐性が理由なのかはわからない。しかし、そんなミラーシアも今は久しぶりに出会えた友との一時に笑顔を浮かべていた。彼女たちは、幼いころにこの街の聖教学校で知り合い、打ち解けた。


「そういえば、これ、お父様からの手土産ですわ。こちらはダマルダ司教様の分です。これからもジグルド商会をよろしくとのことですわ。」


「ふふふ、お前の父上は変わらぬか。私すらも利用して上を目指すか。ユグドラシルの商組合長では足りぬようだな。」


「私にはお父様の考えはわからないわ。でも、お姉さまとの関係にこのお土産が邪魔なようなら、持って帰るわよ。」


「ふふふ、頂こう。ちゃんとダマルダ司教様にも渡しておくと伝えておくれ。」


「お姉様大好き!」


プリシラは屈託のない笑顔でミラーシアのくびれた腹部に抱き着いた。ミラーシアも嬉しそうに微笑みながら、その頭をなでている。

そんな二人の安らぎの時間を邪魔するように、部屋の扉が叩かれた。


「なんだ?」


「ハインツです。」


要件を訪ねるミラーシアに、扉の外から来訪者の名前が告げられる。ミラーシアは安息の時間が奪われることに一瞬眉根を寄せるも、自身の立場を顧みて、ため息をもらす。


「プリシラ、すまないが仕事の時間のようだ。」


少し疲れた声で話しかけてくるミラーシアを気遣うように見つめながら、プリシラは頷いた。


「お姉様は司祭様になられたんですもの、お忙しいのは仕方ありませんわ。また会いに来ます。」


「ふふふ、ありがとう。」


ミラーシアも自分の身が空けば、プリシラに会いに行くつもりではあったが、司祭まで上り詰めた身であるために、まとまった時間を作ることは難しい。プリシラが来てくれるのであれば、数分程度の休憩がてらにも会えるため、それはとても喜ばしいことだ。


「それじゃぁ、私は帰るわね。また、明日も来るから、その時はまた抱きしめてもいい?」


「もちろんいいぞ。プリシラなら毎日でもいいぞ。」


二人は互いに笑顔を浮かべながら別れを告げる。プリシラが去って行った扉からは、白い甲冑に身を包んだハインツという名の聖騎士が入ってきた。


「お邪魔してしまったようですね。」


「いや、良い。それで首尾はどうだ。」


幼馴染を見送ったミラーシアの表情は氷の司祭と呼ばれるに相応しい表情へと戻っていた。ハインツはそんなミラーシアの表情に薄ら寒さを覚えながら、指示されていた業務の報告を始める。


「ミラーシア様の仰っていた通りこの街のゴミ収集所は巨大なものでした。そこには腐臭が漂い、周囲の住民に不快感をまき散らしていたため、焼却処分を始めたところです。ヨハンは残って、焼き洩らしや延焼が出ないように注意しています。」


「そうか。しかし何と言ってもこの街のは規模が違うからな。」


「そうですね。不甲斐ないことですが、おそらく数百の単位でゴミを残してしまうことでしょう。この正教会の協力を仰げれば状況は変わるのですが、何しろ魔術師がヨハンだけですので対応が限られてしまいます。」


「それは仕方ない。ダマルダ司教様は積極的なゴミ掃除を為さろうとしない。というより出来ないのだ。この街にはリヴァイア教の勢力も大きい。そいつらを無視して聖教会の権力をふるえば、その反り返りも大きいからな。だから着任したてでまだ存在が知られていない私たちが単独で動くかねばならぬのだ。」


「私も、この街を少し歩きましたが、この街ではゴミを奴隷として用いる悪習が残っているようですし、そういった勢力からは、煙たがれてしまうかもしれませんね。全く、ゴミの処分方法にまで気を遣わなくてもいい世界が早く訪れれば良いのですが。」


「それは私が成し遂げてみせるさ。すでにバイアスにもサイリオにも神の使徒を送ってある。そう遠くない未来に宗教統一という我らの悲願は達成されよう。」


ミラーシアとハインツは目指すべき未来の姿を想像して、小さな笑顔を浮かべた。


「そういえば、馬車の方はどうでしたか? 何か釣れましたか?」


思い出したようにハインツが問いかける。ミラーシアは自分とは別行動を行い、この街に内在する犯行勢力のあぶり出しを行っていたのだ。


「そちらはあまり芳しくない。捕えられた者はとても背教者とは呼べん代物だったよ。」


「そうですか。やはりこの手法は、犯行勢力にバレているのかもしれませんね。最近ではどの国でも表には出てきませんし。」


「そうかもしれんな。何か別の方法を考えんと、正教会の教えを正しく広めることが難しくなるな。」


「そうですね。そういえば、先日神託が降りたという、セロ・ポジテの情報はどうでしたか?」


「あぁ、その話か、あれはどうやら神託の一部が間違っていたかもしれん。」


「と、言われますと?」


「先程の捉えられていた者がセロ・ポジテであったのだが、そいつはゴミと慣れあっているようだった。殺しても良かったのだが、神託のこともあるしな。一応生命だけは保障してやるが。しかし、そんな奴が聖教会の使徒となれるはずもない。アイツを核とした世界樹攻略は中座させる。これはダマルダ司教にも報告済みだ。もう一度改めて戦力を整え、神託にあった“林檎”なる物は我らだけで採取しようということになった。」


「そうですか、となると、我らも聖樹、世界樹に登ることになりますね。楽しみです。」


自分たちも世界樹に入ると聞いたハインツはニヤリと笑う。


「そんなに喜ばしいことでもないぞ。聖王都のダンジョンとは違って、魔物の出現はあまりないらしい。聖樹はやはり聖樹ということなのだろう。20階層からはただの商人や下位の冒険者では手を焼くほどに魔物の質も量も増加するそうなのだが、聞いている限りでは、私一人でも攻略出来るかもしれん。まぁ、ここの頂上が何階なのかもわからぬ現状、万全を期して準備は行うがな。」


「それはつまらない話ですね。」


「なにせ、この街の平均レベルは10にも満たないそうだからな。そんなものだろうよ。」


「何十年も戦火から離れればそうなるのも仕方ないのかもしれませんね。としても、それでは赤子とそう変わりませんね。」


「戦争を知らぬ者などそんなものだ。まぁ、これで直接の成果を上げることも可能となった。しばらくはつまらぬ政の世界で戦わねばならぬかと思っていたが、これは私たちにとって良い話であろう。」


「ヨハンも喜ぶでしょう。」


聖教会の一室で、笑い声が響いた。それは、たった今、獣人街が炎で包まれている頃の話であった。



ーーー



「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。」


視界を遮るような大量の煙の中で、その煙を吸い込んだミミが咳き込む。


「ミミ大丈夫か?」


その夜、獣人地区には突然の爆発音が鳴り響いた。そんな衝撃に目を覚ましたキバ達兄妹は、家の外へと躍り出た。外では巨大な炎が巻き上がり、獣民の逃げ惑う姿があった。


「何で火事なんて…。」


今までの獣人地区でこんな大火騒ぎが起こったことはない。暖を取る為に火を起こすことはあったが、獣人地区には開けた場所の方が多いのだ。火の管理は簡単に行えるため、ボヤ騒ぎですらほとんどなかったのだ。


「くそっ、何だこの炎は!」


目の前には鳥人種の父親がいた。炎だけならば、近寄らなければ簡単に逃げ出せると思い、煙に注意を払ってた父親は、娘が煙に巻かれてしまわぬように翼をはためかせて気流を生み出していた。しかし、炎は父親の常識を超えた動きを見せる。到底燃やすもの等見えない地面を這い進むように広がっていくのだ。予想外の速度で炎が広がり、自らの翼で生み出した気流も、すでに煙で満たされていた。親娘に残された道は、何も出来ずに逃げ出すことしかない。


「おっちゃん! この火事は何だよ?」


「おぉ、キバか。わからんが、とりあえず逃げるぞ。もの凄い勢いで広がっている。」


火事の中心部よりも街に近い場所に住んでいた親娘と兄妹はユグドラシルの街に向かって走り出す。煙に燻されて呼吸をするのも困難ではあるが、獣人地区はほとんど外と言っても過言ではない。風の流れを遮るような高い建物は存在せず、まだなんとか呼吸が出来る。数日前と比べるとかなり元気になったが、二人の娘と妹は病み上がりである。そんな女性陣の体調に気を配りながら、四人は街へと急ぐ。


「何だよこれ。燃えてんのは獣人地区の中心じゃなかったのかよ。」


獣人地区の端、やっとユグドラシルが“街”と定める場所までたどり着いたキバは呆然と立ち尽くした。街への侵入を遮るように、道を炎の壁が燃え盛っていたのだ。


「くそっ、おっちゃん、どっちに行く?」


「南部の方が平原に近い。南部に向かうぞ。」


獣人地区から逃げ出すことを許さないというように燃え盛る炎の前でも、父親は諦めることを許されてはいない。守るべき者がいる限り、その最善を尽くさなければならないのだ。

目の前の壁が小さな炎でできていれば、あるいは、小さな火傷を負ってでも超えることが出来たであろう。しかし、そこにそびえる炎の壁は、とてもミミや鳥人種の少女に超えられるものではなかった。父親は、すぐにより開けた場所である平原への道を指し示す。


「ヌシら、こっちじゃ、こっちに来い。」


南部へと向かおうとしたキバ達は声の方へと視線を向ける。そこには北部へ誘うタケ婆の姿があった。


「タケ婆、無事だったか。南部の方が平原に近い。南部に行くぞ。」


「いらん。ここは元々我らが街ぞ。この街のことはワシが一番詳しいにょじゃ。おとなしく着いて来い!」


確かに南部の方が平野に近くはあるが、北部とて、そうそう大きく変わるものでもない。煙に燻されながら言い合いを繰り広げるよりも、逃げ出す方が早いと考えたキバ達は、タケ婆の言葉を信じて追従を始めた。タケ婆は道すがらに出会う同胞にも声をかけ、どんどんと進んで行く。集いに集った同胞数十人は獣人地区の北部、世界樹がそびえたつ方角へと走って行った。



いつもご愛読いただきありがとうございます。

今までの投稿済みのお話を少しいじりました。説明文を追加するのが一番の目的の為、大筋での変更はありませんので、このまま読み進めても問題ありません。


大きな変更点は、

・第4話と第5話の間に、第4.1話を割り込み投稿

・第15話の後半に宗教のお話を追加


となっております。

更新が遅いですが、これからもどうぞよろしくお願いします。



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