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転生しても頼りない…  作者: 真地 かいな
第1章 秘薬マンドラゴラ
11/20

第10話 目指すは漫才師?

設定説明を何とか面白くしたいのですが、難しいですね…。


「デカイわっ!!」


「どうかしたか?」


流石にボスの間とでもいおうか、大理石を思わせるような、光沢のある白い石で造られた扉がそこにはあった。泥の手、正式にはマドッテという名のボスは、神々しさすら感じる扉を開く、勇気ある者を待ち受けているのだ。「魔物、の癖に生意気だぞ。」とは扉を見た時のセロのセリフである。


その扉を開いて、さぁマドッテさんとご対面、となった時に叫んだのが冒頭だ。


「普通、人間の手ぐらいの大きさ想像するやろ? 踏み潰して、いてこませるような。それが何やあの大きさは! さながら、ア○コの手やんけ! あんなんじゃ僕の黄金の右足でもモグラ叩きが出来へんわ!!」


マドッテさんはセロの胸元までの高さがある。横幅は真正面から電車を迎えた威圧感を思い出す。全身、全手? は泥で出来ており、水分をたっぷり含んだ泥がセロの目の前で滴り落ちた。

ボスの間には、そんなマドッテさんが三体もいるのだ。


キバはセロが引き合いに出した○ッコとは、どのような怪物なのかと、ゴ○ラに似た姿を思い浮かべている。あながち間違いではない。


「そっちのアッ○もなかなか怖そうだが、こっちじゃアレがマドッテだ。」


「ありえん!! 僕は帰る!」


「何でだよ! 」


「惜しいっ!! そこでなんでやねん、って言わなアカンやん!」


セロの言動は意味不明な部分が多いが、言葉通り帰るつもりはなさそうだ。

それもこれも、こんなに近くで騒ぐ二人に対してマドッテが全く攻撃してこないのが理由だろう。

おそらく、部屋の中に入った者だけを襲うのだ。つまり、疲れたり危ないと思えば外に出て休憩すれば良い。


「どうでもいい! とりあえず、あいつらは戦闘中に仲間を呼ぶから、俺が囮になってる間にお前が一匹づつ相手して倒す。それでいいんだよな?」


「なんやねん、どうでもいいって、関西人にとって会話はノリやぞ? リズムやぞ? それが成り立って初めて意思疎通コミュニケーションが出来るんやないか…。それをどうでも良えなんて…。キバちゃんって男らしいわ。…ぽっ。」


「口で効果音出してんじゃねぇよ!」


バシッ


「そう! それがツッコミや!!」


単純に殴っただけのキバだったが、不覚にもそのタイミングが良すぎて、絶好のツッコミとなってしまった。あとはその威力を抑えて、叩いた時の音が響きわたるようにすれば良いのだ。

相方の成長に瞳を輝かせるセロは、続けてツッコミの種類を詳しく教えようとするのだが、キバの一睨みで縮こまってしまう。


ウダウダと呟くセロを無視したキバは、戦闘準備を整えだした。ようやくではあるが、パーティー申請を行い、休憩するタイミングを詰め、合図を決める。

作戦は単純で、セロが一体一で確実にトドメを指している間、残りはキバが引き付ける。引き付けるといってもセロに攻撃しないようにしながら逃げるだけでいい。疲れたら二人とも外に出て休憩する。パーティーを組んでおけばお互いのレベル、HPとMPが確認出来て危機管理が出来るし、誰がトドメを刺したかに関係なく二人に経験値が入るのだ。


こうしてセロの思惑通り仲間を呼ぶタイプだったマドッテはセロ達の血肉となるのだった。






「さすがに疲れたわ…。」


「なんだよ! さっさと行こうぜ!? もぉ十分休んだろ?」


しばらく借りを続けて脱力したように座りこんでいたセロだったが、キバは燃えている。

レベル上げの中で、セロが五体同時に相手を、キバですら三体同時に戦えるように成ると、当初の作戦などお構いなしに、物凄い数の仲間を呼び続けるマドッテの殲滅戦が開始された。

もし輝く塵と成らずに、倒れたマドッテの構成要素が遺されていれば、この部屋は400体以上の残骸で底無し沼にでもなっていただろう。


レベルが上がるたび、パラメーターが上がるたびに自分が強くなっていく。その感覚が攻撃回数という目に見える形で現れたのだ。しかも、ダメージを受けるたびに吹き飛ばされて、青ムニ戦で多量に手に入れた薬草を必要としていたのが、十発に一回癒せば済むまでになった。もちろん壁に激突するまで吹き飛ばされることも、痛みもほとんどなくなった。


キバはレベルの重要性を実感して、もっと強く、もっと強く、と鼻息を荒くしていた。


「入れ込み過ぎや、そんなんやったら馬券買ってもらわれへんで?」


セロ達が休憩する通路からボスの間を覗くと、入り口付近に十体のマドッテがたむろしている。何かしらの結界でもあるらしく、出たくとも出れないようだ。


「僕のレベルが十六で、キバが十三か…。五階じゃ、まぁこんなもんやろな。」


キバの成長が目を見張る。

すでに当初の二倍以上のレベルに到達していた。これでは強さの実感を強く感じ過ぎてしまうのも頷ける。


また、セロにとってはここでのレベル上げは頭打ちしていた、セロのレベルはかれこれ三十分以上、上がっていないのだ。


「おい! いつまで休んでるんだよ! さっさと闘おうぜ!?」


「ほなキバやん! 最後にあの十体全部倒しておいで。それで一気に十五階まで突っ走ろうや。」


「任しとけ!!」


普通ならば、どんなに残酷な処刑方法だと喚き散らしそうなものだが、キバは十体のマドッテを前にやる気を全身にみなぎらせる。

急激な成長はキバに過剰な自信を与えた。


…とは言えない。


力強く踏み出してボスの間に進むキバはマドッテを相手にしていないようだ。




キバの足先が部屋の中に入った瞬間、入り口付近をたむろしていた十体全てが一気に襲いかかってきた。


キバは一番身近に居て、反応速度の早かった一体の攻撃に照準を合わせると、泥で出来た指先に向かって真正面から拳をぶつける。

自らの肉体が柔らかい泥で出来ていることを悔やむようにして、崩れ落ちる人差し指。


残りの指先に掴まれる前に、右から殴りかかって来た一匹を土台にして宙に飛ぶと、最初の一匹に全体重を乗せたニードロップを叩き込む。

人差し指の欠けたマドッテは縦に割かれて息絶えた。


膝が地面に接する前に自ら転がり勢いを殺したキバは、デコピンを仕掛けて来た一体に向けて突撃。体当たりの衝撃で全ての指を弾け飛ばす。

残った手のひらでハエ叩きのように潰そうとしてくるが、キバのワンパンでそれすら吹き飛ぶ。

残りのマドッテ達も動き回るキバを捉えることが出来ずに、どんどん数を減らしていく。キバは根っからのファイターのようで特に素早さと力の伸びが良いようだ。キバの触れることすら許さない速度の前では、すでに五階のボスなど相手にならないようだ。


十分もたたずに戦果は決した。


「キバ! それで終わりや言うたやろ!? さっさとトドメ指してまえ!」


ワザと残した一匹が仲間を呼ぶのを待っているキバに、セロの怒声が飛ぶ。


「ちょっと待ってくれ! もうすぐレベルが上がる気がするんだよ! 頼む!!」


ステータス画面でも、総入手経験値などは全く見れない。だがキバはこの闘いの中で何かを感じたらしく、セロに懇願する。


「…ちょっとだけやで。」


「ありがとよっ!」


尻尾をフリフリして喜ぶ姿に、セロも仕方なく了承する。

初めてゲームをした時には、自分が強くなっていくのが楽しくて、ストーリー進行を無視してレベル上げばかりしていたものだ。


結局、追加で二ダースのマドッテを倒したキバは、晴れてレベル十四に成ったのだった。


「やったぜ!!」


主のいないボスの間で、満たされた達成感に酔いしれながら、キバが仰向けに倒れ込んだ。

各階層のボスは一度殲滅されてしまえば、新たな冒険者がその扉を開くまで再度姿を現すことが無いそうだ。


「おめっとさん。ほな、さっさと行こや。」


「ちょっと待て。」


「なんや?」


「アイテム整理しときたいんだよ。」


キバにとって、何度も通り過ぎた五階だが、ボスと闘ったのは今回が初めてである。どんな貴重品を手に入れたのかを確認しておきたいキバ。ミミの快気祝いの為にプレゼントを買うつもりなのだが、それは懐との相談になるからだ。


「何だよっ!! また大工用品ばっかりだ! 石や岩石はまだしも、“泥”って何だよ? 使い道すらわかんねぇ!」


売っても二束三文にしかならなそうな品々にキバが荒れる。そんな物でも大量にあるのだから、結構な額にはなるだろう。

しかし、レア物に憧れる気持ちは良く分かる。使い道がない物でも、レア物だというだけでコレクション欲が湧いてくるのだ。


「キバの知識やと、こいつが落とすレア物ってなんや?」


自分もアイテム整理をしながらセロが問う。


「なんだったかなぁ? ボスと闘う奇特な奴なんてめったにいねぇからなぁ。ん〜。」


獣人族とわざわざ話をしようなどと思う変わり者もめったにいない。キバは街で盗み聞きした微かな記憶を思い出そうと試みる。


「確か、小手だかスネ当てだかだった気がするなぁ…。自信はねぇが…。」


「こんなんか?」


「そうそう! さすが泥のモンスターって感じの…。って、なんでやねん!!」


素晴らしいノリツッコミにセロの瞳に涙が溢れる。

良くぞここまで成長してくれたものだ。ヒナの巣立ちを見守る親鳥の気持ちが良く分かった。


「手に入れたのか!!?」


「おめでとう! キバは初心者卒業や!! これからも、技に磨きかけていくんやで? 芸の道は一日にして成らずや! “”が大事やからな! 忘れたアカンで!」


「誰がナニワの漫才師だ!! そんなもん目指すかっ!!」


「うんうん、その調子や。日々鍛錬やで、僕はいつでも付き合うたるからな。」


とまぁ、こんなやりとりが数十分続いたのは割愛するが…書いても良いんだけどね、長くなっちゃうの…。


お笑いのビデオを見せたいって話で思いっきりキバが食い付いた辺りで、真面目? な作者は二人とも自由だな、ミミのこと忘れてるんじゃないの? って思うんです。


ーーー


裏腹に乗り気なキバだったが、今大事なのはソコではない。

気付くと相手を自分のペースに巻き込んでいくところが、関西人の恐いところかもしれない。


「手に入れたのか!?」


セロから手渡された土色の小手をシゲシゲと眺めるキバ。


「すっげぇな…。」


何が違うというわけでもないのだが、持っているだけで力が漲ってくる不思議な感覚がある。


「これって売ったらどれぐらいの値段がするん…って! えぇ〜!?」


小手に見惚れていたキバが振り返ると、セロが同じような土色の装備品をいくつも取り出している所であった。


「お前っ! そんなに手に入れたのか!?」


「そうなんや。取り敢えずレア物やから取り分の相談やけど、これは全部キバが装備きとき。そんな布か袋かようわからんもんよりかは防御力も高いやろう。」


床に並べられている土色一色の装備品達。


土の小手

土のスネ当て

土の胸当て

土の腰ベルト


全身の防具が揃っている。


シリーズ制覇といわんばかりのレア物達に呆気にとられながら、セロが促すままに身につけ始めるキバ。

貴重な品々をポンと譲るセロに信じられない気持ちと、感謝が込み上げる。


実は土の兜なるものも手に入れていたセロだったが、それをキバに渡す気は毛頭ない。

だって、もふもふの猫耳が隠れてしまうじゃないか!


「すげぇ…力が漲るぜ! ありがとよっ! って、えっ? お前それ!!?」


「あっ、ペアルックは嫌やったか? 僕もどうせなら、可愛い女の子との方が良いんやけどな。」


なんと、セロも同じ装備を身につけているではないか!

しかも、キバが受け取った四つの装備品が丸々揃っている。二セットものレア装備を手に入れたことが信じられないキバ。自分は一つとして手に入れていないのに。


しかも、セロはここでは特に言明していないが、土色装備はもうワンセット揃っている。売るにしても何にしても、どうせ街に戻ってからのことだからと、キバに伝えていないのだ。


「後は、カナヅチにカンナ、ノミやらノコギリやら、大工用品ばっかやわ。それやのに…。」


「どういうことだよ!!?」


大工用品についてまで、キバが手に入れたことのないようなレア物が揃っている。これは何が何でもおかしい。

ドロップ品など誰かの意思でどうこう出来ないことも分かっているが、ここまで違うと秘密のアイテムか何かを隠し持っているとしか思えない。

分け前は半分にするということだが、セロが自分に隠し事をしていることがキバには許せないのだ。


「やろ? おかしいやろ??」


「何トボけてんだ! お前が隠してんだろ!!」


「ちゃうて、ホンマに隠しないねんて! ホンマに、“ねじり鉢巻”はないんやて!」


「は?」


会話が通じているかと思っていたのに、見事に見当違いな言葉が返ってくる。

これがボケなのかどうかが良くわからないキバは、ツッコむべきかどうかで迷う。しかも、まだ続くようだ。


「僕もな、こんだけ大工道具があるんやったら、ねじり鉢巻と、あと腹巻きかなんかも、もちろん手に入るもんやと思ってアイテム欄を探したんや。

それやのにないねん!

そらわかる。大工さんいうたら、ねじり鉢巻と腹巻きやんな。あとはタバコに法被はっぴがあったら完璧や。

それは、ようわかるんやけど、無いもんは無いんや。ホンマにおかしいわな。」


(ダメだ。これがボケだとしても未熟な俺には適切なツッコミが思い浮かばねぇ…。こんなの、どんな言葉でツッコめばいいんだよ!?)


「…って、違うだろ! 俺が聞いてるのは、何でお前だけそんなにレア物が手に入るのかってことだよ!」


十分見事なノリツッコミだ。


「あぁ! そっちか!」


「そっちか! っじゃねぇよ!」


わざわざ手をポンと叩く所まで真似しなくとも良いであろうに…。


「それはやな…。」


「簡単に言うのかよ! 俺の怒りを無駄にするな!」


「ほな、難しく言おか? その件に関しましては…。」


「意味が違うだろ!」


「なんやねんな。もぉ…ワガママなんだから。…っぽ。」


「だから、効果音は…。だぁぁぁぁ〜!!!!」


キバは、いつまでも進まないやり取りに、作者より先に切れた。


「もぉいい! さっさと説明しろ。」


「何や、もぉ終わりか? もうちょい楽しみたかったんやけどな? 盛り上がってきたとこ…。すまん。」


調子に乗るセロを睨み付けて黙らせる。


「ゴホンッ! まぁ、あれや、まず質問やけど、パーティー組んでもレベルとHP、MP以外は見られへんのよな?」


「あぁ、そうだ。」


やっと真面に進みそうだ。正直、助かる。すでに6,000字近くになっている。


「ほなら、信用してもらうしか無いんやけどな。」


「何だ? とりあえず言ってみろ。」


「僕の“運”は三十二や。キバはなんぼや?」


「なっ!?」


レベルも上がったことだしと、驚きながらもとりあえず自身のステータスを確認するキバ。


「俺は…“一”だ!!」


レベルが上がっても、運だけは全く変化していないようだった。


「そうか。思っとったより低いな…まぁ、これがレア物が多い理由やと思うで? 今ならパラメーターの重要性って、キバにもわかるやろ? 平均ってどんなもんなんや?」


パラメーターの重要性については、嫌というほど実感してしまっていた。だから余計にセロに大きく差をつけられているのが納得出来ない。


「…。平均なんか知らねぇ! パラメーターとかレベルなんて、意味のないものだって思ってたから話題にも上がらねぇんだよ! だから、お前が異様に高いのか、俺が異様に低いのかはわからねぇ!!」


「そっか…ありがとうな。」


「何がっ!?」


「僕の運の数値は信じてくれてるみたいやから。昨日出会ったばっかの人間なんかを信じてくれて、ありがとう。」


確かにそうだ、何故素直にこいつを信じてるんだろうか。キバは自分に問うが、答えは返ってこなかった。

じっと見つめるセロを無視してキバは答えを考え続けた。


「あっそういや、これも分からんか?」


そう言ってセロが取り出したのは、三つの石。“白の石”という名の黄色い石ころだった。“碧の石”と双対をなす様に瓜二つのその石をやっぱりキバは知らなかった。

セロは仕方なく、鞄の中に戻す。


「「あぁ〜!!!!」」


鞄の中でずっと寝っていたくせに、こんな時には顔を出す。セロが鞄に戻すのを待っていたかのように、ローザは口を開いていた。

三つの白の石はローザが美味しく召し上がりました。


そしてまた、皮鞄の中で深い眠りに入るローザだった。




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