1話 みんなの城を護らなきゃ!
7月中旬。夏真っ盛りの昼間はまさに炎天下。ギラギラと人々を照らす太陽には、恨みのこもった目線が度々送られる。
エノキコーポラスは先日101号室の六月一日亜紀乃のペット脱走事件も解決し、安息の日々を取り戻したかのように思われた。しかし、現実は角も残酷で、管理人である桜志緒は今日も騒がしく走り回る一日を過ごす事になるのだ。
例えば某元武術修行者と犯罪者の殺し合いとか、ギャル娘のクレームとか、子どもアイドルの保護者役とか、変態どもから逃げる事とか、家賃滞納者に請求するとか……挙げ出すとキリが無い。それでは疲れるのは当たり前だ。そんなクタクタになった心を癒すのは、数少ない癒しとなってくれるじいやこと武者小路傳臧。志緒は今日も満身創痍な体を引きずって102号室の扉を叩いた。
「じいやー」
「ホッホッホッ。今日はどうしました、志緒ちゃん」
彼はいつ訪ねても、暖かいお茶を飲んで、まったりと笑っている。外の世界のイザコザとかドタバタとかをなかったことにしてくれそうな、そんなよくわからない安心感がある。うわーんじいやー、と半泣きになりながらも側まで這って行き、今日の疲れの原因を語って行いく。ホッホッホッと聞いているのかいないのかわからないが、この一時が志緒の数少ない休息なのだ。
すると、ピンポーンとチャイムが鳴り響いた。はーいと勝手に返事をすると、入って来たのはエノキコーポラス内の数少ない常識人、305号室の乾愛來。ドアからひょこっと顔を覗かせた。その表情は、朝の喧騒に巻き込まれたのか少し怯えている。手招きをするとそろそろと近くにやって来た。
「お邪魔します。あの、来月分のお家賃を……」
そう言って渡されたのは、丁寧に封筒に入れられた家賃45000円。有難く頂戴して、ついでにお茶でも飲む?と彼女の分のお茶を用意し始める。ありがとうございます、とお茶を受け取ると、三人で揃って一服しはじめた。
「お部屋の方にいらしてなかったようなので」
「ああ、わざわざ探してくれたんだ。ありがとう」
「ホッホッホッ」
なんて平和なのだろう。三人でまったりと話に花を咲かせながら、お茶を飲んで、茶菓子をつついて。このままゆっくりと時が流れて行けばいいのに。そう、志緒が思った直後であった。
どーん、といつもよりも大きい発砲音が聞こえたかと思うと、間髪いれずに玄関が開かれた音がした。
「じいや!匿ってくれ!」
「もう遅いですよ蓼丸さん。観念なさい!」
ガラッと引き戸が開けられると、騒音の原因である二人が慌ただしく入ってきた。107号室の蓼丸彰と207号室のユース・コックスだ。
「ちょっと、私の安息の時間まで奪わないでよ!」
「知るか!こっちは命かかってんだよ!」
「すみません桜さん、お仕事なので」
こんな状態に、愛來は部屋の隅に移動して震え、じいやはホッホッホッと笑っている。志緒は頭を抱えて叫んだ。
「もう!私の安息の日はいったいいつになったら来るのー!!」
「……ならば、このエノキコーポラスを捨ててしまえばいいじゃないか」
突然聞こえた第六者の声に、全員の動きが止まった。一斉に向いた玄関の先には、いつの間にかある男が一人立っている。
「開けっ放しでよく声が聞こえたぞ」
そう冷たく言い放つのは、迎えの高級集合住宅、アパートメントマンショントリュフの管理人、高力永伍であった。彼には嫌味な性格という難点があるのだが、それ以上に厄介なのは志緒心底に惚れているという事であった。何かに付けては志緒に求婚してくるのだ。そんな彼はここにいる全員を見下すように見渡した後、さらにこう続ける。
「まあ、それもすぐに現実になるがな」
「……何の用なの?」
それまでの永伍の発言を真っ向から無視して、淡々とした声で志緒は訊ねた。それを意に介さない様子で部屋に上がりこむと、当たり前のように近くまで寄って来る。
「なんで勝手に上がってきてるの?」
「お邪魔します」
「いやそうじゃなくて」
そのやり取りを聞いると、先程の騒ぎの原因の二人が揃ってハッとした表情になった。二人は深刻そうな面持ちでお互いに頷き合うと、声を揃えて言った。
『お邪魔します』
「そっちも違うから!!」
志緒はつい条件反射のように怒鳴ってしまう。いつもいつもここの住民たちには訳のわからないタイミングのボケに困らされているのだ。その事に関しては例え普段は無害である愛來やじいやであっても例外ではない。その光景をしばらく見つめていた永伍は、一つ咳払いをするとやや強引に話を元に戻し始めた。
「さて、私がここにいる訳だが、話を戻しても?」
「結構!さっさと帰って」
間髪いれずに志緒が叫ぶ。その場にいた全員がそれに合わせるように続けた。
「大方わかるもんな。また志緒に訳のわからない理由を付けて、やれ結婚しろ婚約しろいうんだろ?」
「呆れた人ですねぇ。しつこい男は嫌われますよ」
「……あの、そういうのはやめた方がいいですよ?」
「ホッホッホッ」
「---それは先程私が言っていた事と大いに関係があるのだが---」
因みに永伍にはあり得ないほど高度なスルースキルを有している。どんなに志緒が叫ぼうが彰が殴ろうがユースが銃器を突きつけようが、全く動じない。そう、正に動かざる事、山の如し。その姿には薄っすら尊敬の念を抱きそうにすらなる、と後に志緒は語る事となる。
「残念ながら、エノキコーポラスは私が買い取る事になった。来月までに明け渡すように」
『……………は?』
放たれた言葉に、じいや以外の全員が言葉を失う。じいやというと、通常運転でホッホッホッと笑っている。その様子に満足したのか、永伍は鼻でフンッと笑うとさらに続けた。
「因みに土地も買い取った。不動産屋には話を付けてある。……ご存知の通り、私は高級集合住宅、アパートメントマンショントリュフの管理人。そこにお住まいの方々はどれも高貴なお方で人数も多い。しかし、あのマンションには大きな駐車場が無い。それが大きな問題だったのだ。それで考えた。土地が欲しいと。そして思いついた。あの安っぽいアパートを買い取れば土地が出来ると。そして実行した。あとは立体駐車場を建設するだけだ。なんと完璧な計画!それに桜くんとも結婚したいし」
「後付けみたいに言うな!」
ついツッコミをしてしまったが、よくよく考えるとそんな場合ではない。そもそもそれで良いはずがない。永伍は勝ち誇ったようにニヤケているし、他の全員はよく自体を飲み込めていないようだ。
「まあ、解決策が無いわけでは無いが。話は無論、私の家でな」
それを聞くと、志緒は本当に苦虫を噛んで噛んでよく味を堪能して、そしてからゆっくり飲み下した様な顔をした。彼の部屋に呼ばれる時は大抵志緒にとってかなりよくない要求を突きつけられたり、散々嫌味を聞かされた挙句にどこから出て来るか分からない自信のもとに告白されたりと碌な事がない。しかし事が事なので行かない訳にも行かない。歯医者に行くのは嫌だけど、歯が痛いのはもっと嫌だ。という子供のような気持ちだ。
「………………………わかった」
志緒は数秒の後に、ようやくそれだけ言えた。それを聞いた永伍は満足そうに頷くと、お邪魔しましたとだけ言って部屋を出て行った。途端に、志緒は力が抜けた様に座り込む。
「おい、志緒!お前、よくわからないけど。そんなとこに行く必要ないだろ!?」
「そうですよ、桜さん。何されるかわかりませんよ?」
そんな二人をガン無視して、力の抜けた身体を無理に引きずってじいやの元に這って行く。じいやだけが、静かに笑っていた。
「うわーんじいやー」
涙で潤んだ声で呟く。じいやは湯呑みを丁寧に置くと、お茶で暖められた手で優しく志緒の頭を撫でた。
「じい"や"~」
とうとう泣き出した志緒に彰とユースは困惑し、じいやはただ静かにホッホッホッと笑っている。その様子を部屋の隅で見ながら、愛來はオロオロとしているばかりだった。
まだまだ蒸し暑さの残る、ある夏の日の話である。
ようやく泣き止んだ志緒は、取り敢えずその場にいた全員にこの事は他言無用とだけ伝えた。実際に事態を理解しているのは愛來だけのようで、彰は「志緒が泣いた事を言わなければいいんだな」、ユースは「蓼丸さんを殺せばいいんですね」、じいやはやはりホッホッホッと笑うだけである。
「ありがとう。やっぱり愛來ちゃんは頼りになるよ」
「はい。……でも、本当に内緒にしていいんですか?」
それを聞くと、志緒も一瞬悩んだ表情になり、けれどもいつものように明るく言った。
「うん、あんまりみんなに心配かけたくないし。まあ、大丈夫!私がなんとかしてみせるよ」
その言葉に愛來も笑顔で応える。
「わかりました。私、志緒さんを信じますね」
ありがとうと声をかけると、そのまま部屋を後にする。その時にちょうど外の廊下を走っていたある人物とぶつかりそうになった。
「あ、志緒姉ちゃん!」
「あ、ホマホマ」
その人物とはエノキコーポラスのアイドル、厳密に言うと日本のみんなのアイドル、今後は世界のアイドルかも?な209号室の住人、舟渡帆麻であった。はーい、ホマホマ!とお決まりのポーズを決めると、あ、と思い出したように声を上げた。
「あの!さっき、嫌味大魔神が来てたですよ!」
ああ、と帆麻の慌て様を理解し、なんでもないからねーと頭を撫でる。帆麻は理解できてない様で首を傾げていた。
「でも、志緒姉ちゃん。目赤いです。泣かされたんですか?」
「え?あ、ああ。えっとこれはね。えーと。彰さんとユースさんに……」
勝手に罪をなすり付けたが、強ち間違ってない気がする。実際あの二人にはいつも泣かされているのだ。少し訝しげであったがようやく納得した帆麻は、それじゃあお家に帰りますですと言ってまたタタタッとかけて行く。
「なんとか誤魔化せたー」
「なにが誤魔化せたのよ?」
「!え、あ、麗華ちゃん」
突然の声に驚くと、背後には210号室の加藤麗華がいた。よくよく考えれば彼女はほぼ帆麻の姉の様な母親の様な役割を果たし、お仕事以外のお出かけには必ずと言っていいほど付き添っていた。保護者役その二的存在だ。そんな彼女がいる事など割と当たり前なのだ。
「なにを誤魔化そうとしてたのよ」
そういいながらジリジリとにじり寄ってくる。どうしよう、絶対にあの子の様には行かないなと考えを巡らせていると、背中に何か壁の様なものを感じる。いや多分これ壁じゃなくて人だな。そう判断すると志緒は助けを求める様に上を向いた。
「……なにしてんだお前らは」
そこにいたのはみんなのアニキこと309号室の久夛良木蒼梧。少し困惑した表情を浮かべていたが、取り敢えず麗華が志緒を困らせているということを理解すると、若干優しく引き剥がすして二人の間に割って入った。
「麗華、志緒だっていつもいつも困らさせてんだ。お前までやってやるな」
「あ、蒼梧さん今日は。今月のお家賃は」
その言葉に、蒼梧は急に視線を泳がせ始めると明後日の方を向いて一言。
「………ライネンマデマッテクダサイ」
「来年ってどういうこと?!」
「あんたも困らせてんじゃない」
志緒が叫ぶと、麗華もつい呆れた様な声が漏れた。すまんと蒼梧は俯いている。
その後はいつもの様にワイノワイノと騒ぎ、どうにか志緒は誤魔化す事ができた。ホッと胸を撫で下ろした志緒であったが、実際の所全然事態は改善されていない。思わず深い溜め息を漏らすと、不意に両肩を背後からガシッと掴まれた。
「溜め息をつくと幸せが逃げるわよー?」
「! 美世さん……」
その人物は306号室の小鳥遊美世。振り向こうとする志緒の肩を決して放さず、そのまま体を密着させる。そして耳に息を吹きかける様に顔を近づけた。
「そしたら私があなたの幸せになってあげてもいいのよー?」
正直、精神的にも弱り切っていた志緒にはこの妖艶な囁きは刺激が強すぎた。くらくらとした頭でそれもいいかなーと考えていると、すかさず蒼梧が割って入る。思考回路が爆発ぎみな志緒を美世から遠ざけると、呆れた様に溜め息をついて言った。
「だから美世さん。あんたもやめてやってくれよ。こいつはもうフラフラだぞ?ただでさえ疲れているのにそこに嫌味野郎まで来てたんだから、可哀想じゃないか」
「あら、私はそれを癒してあげようと思っていたのにー」
「あんたのは癒しにならないんだよ」
おい、大丈夫かと蒼梧が志緒の身体を揺すった。しばらく放心したよにユラユラと揺れていた志緒であったが、突然意識が戻ったようにハッと目を見開いた。
「そうだ! 京都に行こう!! じゃなくて。美世さん、おはようございます」
「おはよう、桜さん」
軽く挨拶を済ませると、キョロキョロと周りを確認し始める。そして腕時計で時間を確かめると、突然頭を抱えて小さく唸った。
「おい、どうした?」
「いえ、なんでも。すみません。私、これから用事があるので一旦部屋に戻りますね」
そう言うと、会釈をしてフラフラと自分の部屋に帰って行く。途中途中で壁に当たりながらも、なんとか目的地に就いた様だ。その後ろ姿を見て、美世はそっと蒼梧に耳打ちをした。
「桜さん、ちょっと様子がおかしくないかしら」
「そうか?嫌味野郎やあんたのせいじゃないのか?」
呆れた様に美世を見つめ返して、蒼梧は言った。その言葉に、美世は腕を組みながら考える様に応える。
「違うわ、いつもだったらそこまでフラフラにならないもの。これはきっと何かがあったわね」
そう言いながらも、視線は志緒の消えて行ったドアから外さない。ますます考え込む様に動かなくなってしまった美世を横目に、蒼梧はやれやれ、と深い溜め息を吐いた。
日の暮れた夕方。薄い玄関扉が、やけに重く感じた。
「やっと来たか」
部屋の奥から、聞きたくもない声が聞こえる。
開けた先は、思ったよりも広かった。玄関には煌びやか照明と、色鮮やかな花が活けてある花瓶が飾られている。フカフカの絨毯が引かれた廊下の所々には、なんとも評価し難い風景画が掛けてあった。その先のドアは全開に開けられていて、その奥にどうやら永伍がいるらしい。
開けた玄関扉にさりげなく靴を挟ませる。
「なかなか来ないものだから、てっきり飽きらめたのかと思ったぞ」
「解決策って何よ」
マンションにしては長い廊下を抜け、少し乱暴にドアを閉める。悠々とワインを楽しんでいる永伍を、志緒はきつく睨み付けた。しかし、やっぱりそれを意に介さず、永伍は話を進める。
「なに、簡単な取引だ。このアパートメントマンショントリュフは高級集合住宅として名高い。私も中々の経営難でね。そして今回の事だろ?……焦っているのさ」
「それで、私にどうしろって?」
「今回の計画は既に決まっている。だが、キャンセル料を払えば止めてやってもいい」
嘘吐きめ。心の中で罵倒した。経営難なんてデタラメだ。永伍が仕事の幅を広げて、色々な企業に手を出しまくっていることは知っている。そしてどれも大成功を納め、もう殆ど遊んで暮らせることも。でなければ急に駐車場を作り出そうとはしないだろう。しかも狙ってエノキコーポラスの跡地に。
「……いくらよ」
手に汗を握った。お金の話は本当に嫌いだ。しかも、相手は絶対に用意ができないと思って言ってきている。事実、志緒はそれがいくらであっても用意できる自信が無かった。
「3000万」
「なっ!?」
さんぜんまん。法外な金額だ。ふざけるなと掴みかかりそうになるのを必死で抑える。嫌味な奴。もう一度胸の内で罵倒する。ついでに脳内で蹴りも喰らわせてやった。しかし、目の前の男は涼しい顔をしている。
「まあ、お前には無理な金額だろう。そこでだ、もう一つ提案してやろう」
そう言って、ワイングラスをテーブルに置いた。嫌な予感しかしない。志緒は咄嗟に後退りしながらドアノブに手を掛けたが、それよりも早くに永伍に肩を掴まれる。
ドアノブから手が外れた。その反動でドアが少し開く。夜の冷たい外気が入ってきた。二人の視線がぶつかる。
「私の、嫁になれ」
「ふっっっざけるな!!!!」
志緒の渾身の叫びだった。その勢いで永伍の手を振り払おうとするが、さすがに男女の差があってか上手くいかずに足がもつれる。志緒の体重を受けてドアは更に開かれ、ついに全開となった。支えのなくなった身体はそのまま廊下に倒れこむ。覆いかぶさるように永伍も重なった。
厚い絨毯のお陰か、それほど痛みがなかった。
「ふざけてなどいない。私は本気だ。それに、君が私と結婚をしたら、私がエノキコーポラスの管理人となってやろう」
「それの!どこが!いいこと!!」
「エノキコーポラスは存続できるぞ。しかも協力なバックアップ付きで」
「私にとっては!プラスじゃない!!」
「私と結婚できる。金持ち。幸せ」
「嫌だー!嘘吐きー!離せー!!」
「別に今すぐ返事しろとは言わない。3日間だけ待ってやる」
ジタバタと暴れても、永伍はビクともしない。それでも懸命に暴れ続ける。誰かー、助けてー、と外に向かって叫ぶのも忘れない。永伍に至っては、いい加減に素直になれなどと言っている。
その時、玄関扉の開かれる音がした。
「そうだ、ふざけるのは良くないよ!」
腰に手を当てて登場したのは、エノキコーポラス304号室の黒光颯。そのまま当たり前の様に永伍の部屋に上がってくる。
「……お前は誰だ?」
「そう言う君こそなんだ!女性を廊下で押し倒して、その上にのしかかるなんて。紳士のやることじゃない!!」
某然と見上げる二人を指差して、熱く力説する。
「そういうのは男にやりなさい!」
「は?」
よくわからない言葉に、永伍は唖然としたまま動かなくなった。力が弱まっている。チャンス、と志緒は力を込めて永伍の腕から逃げ出した。そのまま外を目指す。
「桜!」
「待てまだ話は終わってない」
起き上がって志緒を追おうとする永伍を、颯は力尽くで廊下に押さえ込む。一瞬、心配で振り返った志緒に、颯はお茶目にウインクを投げた。
「!」
あれは、演技でやってるんだ。私を助けるために。そう理解すると、部屋を飛び出した。じゃあ逃げ切らなければ。意を決して外に出ると、アパートメントマンショントリュフを抜ける。遠くに人影が見えた。
「ん!20m先に志緒ちゃん確認!確保ー!!」
号令と共に犬が数匹志緒に飛びかかる。こんな事が出来るのは一人しかいない。
「あ、亜紀乃さん……!」
101号室の六月一日亜紀乃だ。犬たちは志緒に飛びかかると、顔や手などを仕切りに舐めてくる。撫でながら落ち着かせていると、亜紀乃が小走りで近づいて来た。
「志緒ちゃーん!もう、心配させないでよー」
「亜紀乃さん、どうしてここが?」
よしよくやった!と褒めながら、一匹づつ丁寧に撫でていく。撫でられた犬は嬉しそうに目を細めていた。千切れそうなほど尻尾を振っている。
「タデちゃんとユースさんが言ったの。『志緒が嫌味ヤローのとこに行ったかも!』って」
あの二人話しやがったな。取り敢えず脳内で一発づつ殴ってやった。でも、どうやら詳しい事は聞いていないらしく、それ以上は言及されない。しばらくすると、颯も外に出てきた。なぜかスッキリした顔をしている。
その様子を見て、二人は顔を見合わせた。
「……颯さん」
「……まさか」
「いや何もしてないからね!?」
慌てた様に弁解する。正直、せっかくの美形が台無しだ。冗談ですよと二人で笑い合いながら、エノキコーポラスへと歩いて行く。颯は落ち着きを取り戻すと、今度は志緒の頭に手を置いて優しく語りかけた。
「志緒さん。これからはあまり無茶をしないでね。エノキコーポラスのみんなは、君の事が心配なんだ」
「颯さん……」
ポッと、志緒の顔に赤味がさす。何も言われていない亜紀乃まで、頬を染めている。颯はニコリと微笑み掛けた。
「今は、何があったかは聞かないよ。君が話してくれるまで」
そう言って、優しく頭を撫でる。しかし、志緒の顔は暗くなるだけであった。えー、聞かないんですかー?うん、もう少し待ってみよう。そう話しながら歩いて行く二人の背中を見ながら、志緒は永伍の言葉を思い出した。三日間。この三日間でどうにかしなければ。
つい握り閉めた掌は、汗で驚くほど湿っていた。
結論から言うと、志緒に3000万なんて用意できるわけがなかった。裁判を起こそうにもやはりお金の問題があるし、不動産屋に問い詰めても口止めされているのか全然話そうとしない。日給1000万のバイトを駄目元で探して見ても、当たり前だがそんな物あるわけが無いし、あったとしても何とも胡散臭いというか、怪しいというか、危険な香りが漂ってくるというか、これから先陽の目を拝めなくなる様な内容の物ばかりだ。ただ、刻々と時間だけが過ぎていき、気付けば約束の日は明日となっている。ヤケクソで借金を考えたが、こんな安くてボロいアパートの管理人に3000万なんて貸してくれる会社はどこにもなかった。
夕日が沈んで、夜が訪れる。とうとう、志緒は3000万を用意できなかった。志緒は途方に暮れたように、段々と闇に染まって行く空を見つめていた。
「結局私には、何にもできなかったんだ……」
呟くとつい涙が零れそうになる。もし、エノキコーポラスがなくなったら。きっとみんなは困るだろう。また新しい家を探さなくてはいけない人、もうどこにも行く当てがない人、行きたくもないところへ行かなくてはいけない人。みんなみんな、困るに決まっている。それでなくても、エノキコーポラスは志緒の両親が遺してくれた唯一の財産なのだ。そんな簡単に、失くしたくない。
「もう、ダメなのかなぁ……」
ついに涙が零れた。呟いた言葉も、涙声になっている。声を抑えてひたすら泣いた。喉が引っかかるようで息が苦しい。涙を拭いた袖は湿っていて冷たくなった。
しばらく泣いた後、志緒は顔を上げた。目は泣いたせいで軽く充血していて、鼻も仕切りに啜ったせいか赤くなっている。それでも志緒は意を決して、部屋の外に出た。
エノキコーポラスの住人たちに、事の説明をするためだ。
一階から順に、亜紀乃、蓼丸、ユース、帆麻、麗華、美世、颯、愛來、蒼梧……。みんなは話を聞くと驚いた反応を見せるが、誰もが仕方が無いと理解してくれた。そんな住人たちに、志緒は申し訳がなくまともに顔が見れない。
残りあと二人。そのうちの一人の部屋の前で志緒は佇んでいた。310号室の住人は、普段部屋の外に出ないため滅多に会話をしない。今回久々に声を掛けるというのに、その内容がエノキコーポラスの存続についてだ。思い気持ちを引きずって、インターホンを鳴らした。
「はい」
「秀人さん……。こんばんは」
橘秀人はドアを少しだけ開けると、片目だけを覗かせている。それは彼自身の人見知りのせいではあるのだが、その様子を志緒は責められているように感じた。
「すみません、こんな時間に。少しお話しなければならないことがあって」
「それは、エノキコーポラスのこと?」
驚きに志緒の目が見開かれた。身体が固まる。
「蒼梧から聞いたよ。蒼梧は誰から聞いたか知らないけど……。多分、エノキコーポラスのみんな知ってる」
みんな、知っていたのに知らなかったふりをして、何も聞かずにいてくれて、そして私を責めなかった。志緒は驚いている頭で必死に考えを巡らせていた。私はみんなに守られた。みんな、私に気を遣ってくれたんだ。
「そう、なんですか……。そ、それなら話は早いな。そういう、ことなんです。すみません」
そう言って走り去ろうとする。正直、顔なんて見られたくなかった。恥ずかしさで一杯だった。もし、自分が一人で何かしようとしないで、みんなに助けを求めたらどうにかなったかもしれないのに。
「ま、待って!」
叫び声が聞こえた。一瞬、誰の声だかはわからなかったが、志緒の振り向いた先には自分の部屋から飛び出た秀人が立っている。ハッと我に帰った秀人は慌てて部屋に戻ると、小さな声で言った。
「志緒さんは悪く無い、と思うよ。い、今までだって、どんな事があっても、頑張って解決しようとしてたし、実際に志緒さんのお陰で、助かった事はたくさんある、よ。どんな時でも諦めないで頑張ってた。エノキコーポラスのみんなも、それを知ってたから怒らなかったんじゃ、ないかな」
いつもよりも多く語る秀人の姿に、志緒は驚いて言葉を失った。もうドアに隠れてしまって見えない表情は、想像がつく。それは非難しているわけでも、同情しているわけでもない。ただ、志緒を自分の気持ちを伝えたくて、でも伝わらなくて焦っているだろう。
「だ、だから志緒さんは悪くない。……絶対に」
そう言った後、数秒して扉が閉められる。志緒も驚きにから自分を取り戻すと、そのドアに向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
そして廊下を駆けて行く。絶対に、エノキコーポラスは渡さない。何をしても、どんな事をしても。こんな、大切な人達から、家を奪ってたまるか。
だってみんな家族だから。お母さんが言ってた。守らなくちゃ、大切な家族を。その為にはなんだってする。例え自分を犠牲にしても。
最後の一人の部屋は、やはり鍵が空いていた。志緒が来る事なんて予め分かっていたかのように。ただ変わりがないのは、じいやは静かに笑っている事だった。
「じいや、わたし、ごめんなさい」
玄関に靴を脱ぎ投げて、転がるように上がりこむ。
「わたし、ここの管理人、辞める。ごめんなさい、ごめんなさい」
じいやのすぐ目の前まで来ると、崩れるようにしゃがみ込んだ。まるで土下座をしているようだ。
「ごめんなさい、じいや。助けて、助けて」
謝罪は、エノキコーポラスを助けられなかった事に対してか、自分を犠牲にする事に対してか。それとも、じいやに助けを求めている事に対してか。
じいやがお茶を置いた。
「ホッホッホッ。志緒ちゃんは、昔もこうやってじいやに助けを求めにきた事がありましたな」
じいやが優しく志緒の髪に触れる。上げた顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃであった。
「それはまだ志緒ちゃんがこんなに小さかった頃ですな。ご両親が喧嘩してしまって、泣きながら『おとうさんとおかあさんをたすけて』と言っていましたね」
目を細めて、遠くを見るように。まるでその場の光景をもう一度見ているかのように、じいやは語った。
「さて、この武者小路傳藏。志緒ちゃんの為にまた一肌脱ぎましょう」
スクっと立ち上がると、固定電話まで歩いて行く。ふと志緒を振り返ると、優しい笑みを浮かべたまま言った。
「志緒ちゃん。今日はもう遅いから、部屋に帰って寝なさい。明日もきっと忙しいだろう」
「え、でも」
「志緒ちゃん」
志緒はただ困惑したまま、立ち上がるとお邪魔しましたと言って去って行く。その後、武者小路傳藏は何処かに電話をかけ始めた。
夜は深みが増すばかり。
約束の日当日。痛む頭を抑えて、志緒は起き上がった。カナヅチで絶え間無く殴られ続けてられるような痛みだ。正直、志緒は満足に寝られなかった。今日の事を考えると気が重くてなかなか寝付けず、やっと眠れたと思ったら、永伍と二人並んでバージンロードを歩く夢を見て自分の悲鳴で目が覚める。最後なんてあわやキスまでしそうになり、その寸でで目覚めた自分に惜しみない拍手を送った。
頭痛の原因は絶対に寝不足だ。そう思いながら今日の予定を考える。今日は約束の日だ。どうせなら早めにすませたいな。そんな事を考えながら顔を洗うと、何やら外が騒がしい。慌てて外に向かう。
「ちょっと!どういうつもり!!」
外に出ると、やはりそこには見たくもない人物がいた。この問題の元凶である人物だ。
「桜か。今日は建設会社と打ち合わせがあってね」
「そんな事を聞いてるんじゃないの!なんで既にエノキコーポラスを手に入れた気になってんのよ!」
永伍はどうやらある建設会社の人と現地打ち合わせをしているらしい。気難しそうな顔をした男と、二人で並んで何か話をしている。
先日のことがあったせいで、永伍とはかなり距離をとってしまう。広い道路とエノキコーポラスに挟まれて、二人は対峙していた。
永伍が建設会社の男に少し耳打ちをすると、相手は頷いて離れて行く。そのやり取りまでもが、志緒にとっては不愉快だった。
「三日待つって、言ったじゃない!」
「ああ、そんなこと言ったな。で、まさか用意が出来たのか?」
永伍は志緒が3000万を用意できないことをわかっている。だからこそのこの余裕なのだ。その態度に腹は立つものの、志緒にはなんの武器もない。
「お金は用意できなかった」
「ほう、それでは---」
「でも、今日は覚悟を持ってきた」
堪えきれず、俯く。本当はこの後の言葉は言いたくはない。けれど、もう決めたのだ。自分が、エノキコーポラスを守ると。
志緒は顔を上げて、永伍の目を見据えた。
「私は---え?」
志緒が話すのと同時に、志緒のすぐ隣に黒く光るリムジンが停まった。滅多に見ない高級車の登場に永伍も驚きを隠せない。しばらく二人で見つめていると、運転席から一人の男が出てきた。左手にアタッシュケースを持っている。
「あなたが、桜志緒さんですか?」
「え、えと。はい」
「ではあなたは高力永伍さんですね?」
「……そうだが」
男は二人の名前を確認すると、ツカツカと志緒のそばまで歩いて来る。身構える志緒を余所に、左手に持っているアタッシュケースを掲げた。
「この中には、ある人物からあなたへの贈り物があります」
「え?」
「そして、それをそのまま高力永伍さんに渡すよう、指示されました」
「は?」
そう言うと、今度は永伍に向かって歩き出す。困惑した表情を隠しきれない永伍の目と鼻の先までいくと、スッとアタッシュケースケースを差し出した。
「桜志緒さんからあなたへ、です」
そう言って、パカッとアタッシュケースを開ける。中にはギッシリと万札が詰まっていた。永伍の目が見開く。志緒には何がどうなっているのかが理解できていなかった。
「全部で3000万です。これで、エノキコーポラスの買い取りを諦めて頂けますよね?」
「な!? これは桜が用意した物ではないじゃないか」
永伍が慌てたように言い返しても、男は冷静に言葉を返した。
「いいえ、これは桜志緒さんの物です」
ようやく状況が飲み込めた志緒は、走って二人の間まで詰めた。確かにアタッシュケースの中には3000万がある。驚きで目を見開いたまま男を見上げても、彼は全く見向きもしない。
「お受け取りください」
ズイッと、男は英伍にアタッシュケースを押し付けた。英伍が反射的に受け取ると、その重さに体を崩す。しばらくジッと男を睨んでいた英伍だが、チッと舌打ちをすると口を開いた。
「桜。今回は、これで勘弁してやる。……だがな、次もこう上手くいくとは考えるな」
一体どうやって用意したんだ。そう小声で呟きながら去って行く。その姿を、志緒はただ某然と眺めていた。すると、男に声をかけられる。
「あなたが、桜志緒ですか」
二度目の確認に、志緒は戸惑いながらも頷いた。
「は、はい」
男はその言葉を聞くと、ハッと鼻で笑いさっさとリムジンへと歩いて行く。慌てて志緒も後を追った。歩いている最中に男はブツブツと呟いている。
「こんな小娘に……なんで……。一体傳藏さんは何を考えているんだ……」
男の口から出た人物の名前に驚きを隠せない。志緒もつい口を開く。
「傳藏さんって、もしかしてじいやの事ですか?」
その言葉に、男は志緒を振り返ってギロッと睨んだ。その形相に、竦み上がって立ち止まる。ヒッ、と小さく悲鳴が漏れた。
鋭く睨みつけたまま、男は志緒に言った。
「あなたと傳藏さんがどういった関係かは知りません、知ろうとも思いません。けれど、これ以上私たちを煩わせないでください。あの方はあなたの様な小娘が気軽にお話出来る方ではありません。よくお考えになってください」
低い声で冷たく言い放つ。志緒は言葉を失った。
「では、これで」
それだけ言うと、男はリムジンに乗り込みあっという間に去って行く。それを見送っているうちに、志緒はふつふつと怒りが湧いてきた。いきなり現れた初対面の相手に散々小娘だと言われ、よく説明も無いままに帰って行ってしまった。行き場の無い怒りに拳を震わせていると、小さな足音が近づいて来る。
「志緒姉ちゃーん!」
気がついた時には、帆麻は志緒の腰に飛びついてきていた。突然の事で体制を崩し、二人して地面に倒れこむ。
「うわぉ!ホマホマ?!」
「ホマホマ、志緒姉ちゃんが、どっか行っちゃうかと思いましたです」
ぐすぐすと鼻を啜りながら、涙で潤んだ声で言う。その合間も、消して志緒を離そうとしなかった。すると、後から続々とエノキコーポラスから人が出てくる。
「ホマホマ!先に走って行かないの!」
「桜さん。大丈夫ですか?」
はい、とユースに差し出された手を取って立ち上がる。見るとエノキコーポラスの住民全員が自分の周りを囲っていた。
「ホマホマ、いい加減離せ。志緒が困るだろ」
「いやです!」
「まあいいだろう?ホマホマも怖かったんだろうし」
「じゃあ私も抱きついていいかしら」
「えー、美世さんずるーい。私も抱きつくー!ほらほら、愛ちゃんも!」
「えっと、じゃあ失礼します」
ワッと、志緒の周りに人が集まる。え、ちょっと、とみんなから逃れようとしていると、頭の上に誰かの手が置かれた。
「ね、志緒さん。みんな君の事が大好きだったでしょ?」
見上げると、颯が穏やかに笑っていた。
「颯さん……」
「と言う訳で、僕も抱き着かせてもらおうかな」
「え?って---むぎゅー」
言うが早いが、颯も志緒に力一杯抱きついてきた。ついでにそばにいた彰と蒼梧とも巻き込んで。やめろ、離せ、暑苦しいなどと叫んではいるが、本気で抜け出そうとはしていない。
「確かにあったかいですねー」
「な、テメーいつの間に潜り込んでんだよ!」
「彰さん、今日は休戦って事にしますから、しばらくこうしませんか?」
「あー、でもなんか落ち着いてきたなー」
「……ふ、ふふふっ」
「志緒もなんで笑ってんだよ!」
堪えきれず笑みが零れた。それは伝染して行き、とうとう彰まで笑い出す。男も女も皆で固まって笑いあっている様子は、はたから見ているとどんなに滑稽であっただろう。けれど、そんな事も気にならないほど、いまこの瞬間が楽しかった。
志緒にはそれが全てだった。
いつもは躊躇なく開けられる玄関扉が、今はやけに重く感じた。 けれど、いつもと変わらずに、志緒を迎えるためにこの扉には鍵がかけられていない。暗くなった外に扉の閉まる音が響く。薄明かりの中に、じいやが佇んでいた。
「じいや、あのリムジンに乗ってた人って……」
じいやは微笑みながら言った。
「志緒ちゃんが気にする事ではないですよ」
けれども、納得がいかない。志緒は首を横に振って続けた。
「でも、じいや。3000万なんて、どうして……」
「それこそ志緒ちゃんが気にする事ではありません。あれは昔、歌織さんからお借りしたもののほんの一部なんです。寧ろやっと返す事ができて感謝してますよ」
歌織とは志緒の母親の名だ。昔に二人がそんな借金のやり取りをしていたなんて知らなかった志緒は、驚く。
「え。で、でもそれだって」
「それに、歌織さんはお金を返すぐらいなら、志緒ちゃんの支えになってくれだなんておっしゃったんです。それで十分ではありませんか」
私に3000万もくれた理由が?そんな単純なことなのか。まだ納得がいかない志緒の頭を優しく撫でながら、じいやは続けた。
「それに、さすがのじいやも、何にもしないでいつでも他人任せな子は助けようだなんて思いませんよ」
「……え?」
「ですから、じいやは志緒ちゃんが頑張っていたから、助けたいと思ったのです。それでもう、十分ではありませんか」
「じいや……」
声が涙で潤む。この件の最中に、どれほど泣いただろう。それでも、いつもじいやが優しく慰めてくれた。いつでもそうだった。しゃくりあげながら、志緒はじいやに言う。
「でも、リムジンの人が、あんまり関わるなって」
「あの男の言ったことは忘れてしまいなさい。じいやはこんなに、志緒ちゃんが好きなんですよ?」
鼻をすする音と、しゃくりあげる声が響く。しばらくじいやに頭を撫でられていた。落ち着いてきて顔をあげる。志緒は笑顔を作った。
「うん。私もじいやが大好き」
さあ、もう遅くなりますよ。そうじいやに言われ、急いで部屋に帰ろうとする。すると、じいやが志緒の背中に向かって言った。
「志緒ちゃんは皆の城を守ったんです。もっと自信を持ちなさい」
「うん、ありがとじいや!」
志緒にいつもの笑顔が戻った。
「こうしてエノキコーポラスは難を逃れることができたと、誰もがそう思っていた……」
「ちょっと……。そういう良くないフラグ立てるのやめてください」




