第5話 下僕仲間ができた模様!
俺はとりあえずノエルのローブを借りて羽織る。裸の上に着るにはなんだか違和感あるが、今は仕方ない。
協力者だと言うフルプレートの兵士の名前はエリックと言うらしい。現在は着ていたフルプレートを脱ぎ捨て、ラフな旅装になっている。鎧の下に着て来たから動きづらくて蒸れに蒸れたと、やけに晴れ晴れとしたいい笑顔で鎧をベットに放り投げる姿に、思わず、兵士としての心持ちは無いんだろうか……などと思ってしまった。エリックの素顔は濃い金髪でウルフカット髪型に、蒼とも翠とも言える深い色の瞳の兵士というよりは、チョイ悪の兄貴といった風貌で、思ったより若そうだった。25歳くらいだろうか?
驚いた事にエリックと俺は既に出会った事があり、全く知らない人間と言うわけではなかった。そう、脱走計画開始直後に、見張り交代で会話したあの部隊長だ。どうやら、あの時から俺たちの計画に感づいていたらしい。そもそもエリックは、あの屋敷を警備する3組ある警備隊のうちの一つを任されていた部隊長なので、それなりに兵士達の顔を見知っていたそうだ。さらに、どうやらあ俺の容姿は目立つらしく、黒髪も珍しいが、目の色が髪と同色なのは中々いないそうだ。
「まぁ、それでなくとも、こんな威圧感半端無い目つき悪い新人兵士なんか一目見りゃ忘れんだろ。」
泣きたい。俺ってやっぱり怖いってことなのか?カラカラと笑いながら告げられた言葉に落ち込む。
「おいおい、んな怒るなって!眉間にシワが寄ってるぞ?」
「———怒ってない……」
エリックが俺の肩にたくましい左腕を回し、右手の人差し指でシワが寄っているらしい眉間をうりうりと揉んでくる。俺はけして怒っているわけではないのだが、他人からは怒っている様に見えるらしく、ノエルなんかは俺を見てちょっと涙目だ。もう慣れてくれたと思っていたのに。今までこんなに他人と会話した事が無かったから、自分が周りからどう見られていたのかなんて知らなかった。初めて知った事実に泣きそうだ……
「うぉ!?恐いって!恐いから!そんなに、目つき悪いって言ったのに怒ってるのか!?」
「……違います。怒ってないから……」
エリックが俺の周りであわあわとこちらを伺う。ちょっと涙が溢れそうなのを止めようとしただけなのだが、さらにすごみを増したらしい。ああ、もうこれは泣いていいのでは?ここまで勘違いされているなんて今まで思ってもみなかった。いままで、なんで周りがあんなに避けるのか分からなかったのだ。
「って!泣くのか!?泣きそうなだけか!?謝るから!謝るって!」
「いえ……長年の疑問が解決したんだ。ここは喜ぶべきだと思う……」
「あぁ!もう!変なところで前向きで、しょうがねぇ奴だな!」
不意に俺の頭に近づいたエリックの手がぐしゃぐしゃと俺の頭をかき回す。容赦ないその攻撃を、俺は抵抗もせずに受け入れる。少し乱暴でも有りのままの言葉に、有りのままの態度。それは、いままで家族以外、誰もくれたことの無い物で、その態度がとても好ましい。兄がいたらこんな感じだったのだろうか……
俺を泣かしてしまったとオロオロしているエリックなんかを見ていたら自然と楽しかった。思わず笑ってしまう。
「もう大丈夫だ。すまない、ちょっと衝撃的だっただけだからな」
「お前。今、俺の事見て笑っただろう!くそっ。何かまずい事言っちまったかと思ったのによ!そもそもだな!こんな会ったばかりの奴に気を許すなんて馬鹿なのか!?馬鹿だろ!」
所々失礼な事を言われている気がするが、エリックから悪い感情を受けないから警戒心もわかない。これまで恐怖や嫌悪といった悪意ある感情ばかり向けられてきたためかそういったものには敏感なのだ。
「お前絶対騙されやすいだろ!いいか。知らない人が笑顔で食いもんくれるからついて来いって言っても、付いて行くんじゃねえよ!」
「エリックはお人好しだな」
会ったばかりの俺なんかを心配する位だ。これは相当なお人好しだ。
「おい!まて!なぜそういった結論が出てくる!」
「エリックはいいやつだ」
「……やっぱお前馬鹿だわ」
警戒心を持てと言ったばかりなのに警戒心を持たない俺に対して頭を抱えてしまった。
「赤の旦那ぁ~。このボケボケ黒すけ、見た目と中身てんでバラバラって事みたいだけど、いったい何処で知り合ったのさ。あんな状況なのにもかかわらず、脱出の手引した位だから相当の手練で、旦那が信用してる奴だと思ったけど違うのか?」
「あぁ?その人間は俺様の下僕2だ。出会いは成り行きだ。信用はしている、刷り込みってやつだな」
「下僕2って……。必然的に、下僕1ってやっぱ俺のことか……?それに刷り込みって鳥の雛じゃないんだからそれはないだろう……」
「何を今更。それにそこの人間は出会ったばかりの俺様たちの話を鵜呑みにして、疑わない素直な阿呆なんだ。雛の刷り込みなみの信頼と言えるだろ?」
フンッと馬鹿にするように息を吐かれる。
「えぇぇ!?何言ってるのディーダ!?トーヤさん、僕達これっポッチも騙そうとか利用しようとか思ってませんからね!むしろ申し訳ない気持ちでいっぱいなんですから!本当です!信じてください!」
エリックはディーダ言葉にただただ俺を可愛そうな目を向け、ノエルは慌てふためき誤解を解こうとペコペコ謝り倒す。ディーダは自分が元凶なのに俺に謝り倒すノエルを見て不機嫌そうに俺を睨む。
「えぇっと……俺が勝手に信用できると思っただけだから、とりあえず謝まらなくていいぞノエル。首がもげそうだ……」
そして俺の首が飛びそうだ。