第2話 異世界だった模様!
「あの……元の世界に帰りたいんだが……」
「今は無理だな」
あっさりとディーダに否定され、気分がガタ落ちになる。まるで、部屋全体が暗くなったかの様な落ち込み具合に二人がそれぞれ何とも言えない視線を向けてきた。
ノエルは自分がしでかした事の重大さに絶望し、ディーダは目をキラキラさせ、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。ノエルの心情は当然な事だからわかるが……
「ディーダ。お前は何故そんな楽しそうなんだ……」
「楽しいからな。他人の苦労はとても愉快だ」
「…………今は無理なら、何時ならいいんだ?母さんが心配するから、なるべく速く帰りたいんだ」
それを聞いたノエルはガバッと土下座する勢いで頭を下げる。
「すみません!ごめんなさいいぃぃ!!今ので魔力殆どなくなっちゃってすぐにはむりですぅぅ!!回復しても増幅器が無いとダメだろうし!!召還術式のどれがどう影響したかとか調べないといけないし!他にも……他にも!!」
「ああ、うん。分かったから、少し落ち着いてくれ……」
まだ、謝り続けるノエルに再度落ち着く様に言い聞かせながら、今後のみの振り方を考える。すぐに帰れないようならこの世界の事を少しでも知っておかなくてはいけないだろう。母さんの事は心配だが、どうしようもない事だから仕方が無い。とりあえず二週間は食べ物に困らない様に日持ちする物をそろえてはある。問題は洗濯物や電気の投げっぱなし付けっぱなしなどだ。すごく心配性だから警察沙汰になって悲しませるだろうが、一応母さんの実家での家訓で一通りの生きるすべを叩き込まれているから、何処かで生きていると思ってくれているだろう。
なんだか、ものすごく冷静に考えている自分自身に笑いがこみ上げてきた。実家はどうにかなると思ったからだろう。今は自分の事だけを考えるのが先決だ。後は帰ってからたっぷりお叱りをもらおう。
「そもそも、今回の召喚はどうしてこんな事になったんだ?召喚術って頻繁に失敗する様な物なのか?」
「いや、召喚術はこの世界の人なら誰しもが使える物だ。そもそも召喚術が無ければ生活自体が、なり行かない」
「そんな大げさな……」
「大げさなんかじゃないぞ?料理に使う火や水路を流れる水の管理、他にも手紙を運ぶのや夜の光なんかも使役された精霊や霊獣、まあ総称として召喚獣って言うんだが、それらがこき使われている。もちろん、軍事兵器だって召喚獣だ」
ノエルはディーダの言葉を聞き何やら複雑そうな顔をする。軍事力になるってことは、召喚獣には戦闘力が備わっていると考えていいだろう。そんな物がそこら中にうようよと……なかなか物騒な世界なようだ。
「ディーダは守護獣って言ってたよな?獣には見えないけど、召喚獣じゃないからか?」
「そうか。トーヤさんはこちらの世界の人間じゃないから、守護獣はいないんですね。ディーダはこれでも獣ですよ。ただ人の形にもなる事が出来るんです」
「へえ……」
ディーダを見てみるが、何処からどう見ても人間だ。だが、髪の色合いや奇麗すぎる顔を見ると、ただの人間には見えないが。
「そもそも、守護獣とは召喚獣とは違ってこの世界に生まれた瞬間、生まれ落ちた生命を守るために使わされる召喚獣のことなんです。必ず一人につき一種類の守護獣がついてくれます」
「そうだ。そして、最も相性の良い者が守護者となり、守護獣の能力が高いほど守られる人物の魔力が高い事を意味する」
ディーダがちらりとノエルに視線を向ける。
「実はノエルはこの国一番魔力が強い。なんせ、この俺様が守護獣としてついているからな。だから俺様はこの国最強の守護獣ってわけだ。分かったか?分かったなら敬え」
「ディーダ!めっ!」
スパン!と小気味よい音が響き渡る。何処から取り出したか分からないが、紙を縦に丸めた物を持ちディーダの頭を殴ったのだ。ノエルがこんな事をするとは思っていなかったので、かなり驚いた。躾をするときはするらしい。たいしてダメージは受けていないようだが。
「お前はいつでも自信満々なんだな」
「俺様に不可能は無いからな!だから、俺様を敬え。さらに、たてまっ……」
スパン!っと懲りずにまたノエルの制裁を受ける。だんだん面倒になって来た。
「でも、そうか。ノエルはすごい奴だったんだな……」
「すごいもんか。ノエルいまだに精霊の一匹も呼び出した試しが無い」
「は?」
少し、ふて腐れぎみなディーダはビシッ!と親指をノエルに向ける。
「馬鹿でかい魔力を制御する事が出来ない、俗にいう落ちこぼれ召喚士ってことだ」
「うぅ……」
ノエルは泣きそうになっているが、どうにかこらえていた。
どうやら話は本当らしい。
「ぼっ、僕はただ、召喚術が好きじゃないだけなんです!」
「なんでまた。召喚術は生活の基盤なんだろ?」
「はい。でも、そのために使役されている召喚獣達の扱いってどんな物だとお思います?」
「共存関係じゃないのか?」
ノエルとディーダの関係を見ているとそんな感じだ。仲のよい友人の様な関係。まあ、ディーダの発言はいささか怪しいものがあるが気にしない事にしておこう。
「違います。それだったらどんなに良い事か……召喚獣達は契約によって、休む間もなく働かされるんです」
「なんでだ?契約はお互いの同意でする物じゃないのか?」
俺がよく聞く話の中では、確か召喚するには精霊やらと契約しなくてはいけないはずだ。物語では人間が強い精霊に力を貸し与えてもらうだけだった。
「召喚するときの魔方陣に、召喚されてしまった時点で術者の言葉に逆らえないように強固な呪術が施してあるんです。下級の精霊などは術者の能力が高いと召喚自体に拒否権がありませんから、召喚させられると一生、人間の道具として扱われるんです」
「遥か昔は共存関係を築いていたんだぞ?だが、いつからか人間が姑息な手を使い、召喚獣達を縛りはじめた。このグランディーナは武力国家だからその傾向が強いが、今じゃ世界中のほとんどが召喚獣は使役されて、物として扱われている。共にあろうとするのは、今では極わずかな国のみだ」
どうもこの世界は、召喚術が発達しているがゆえに、召喚獣には住みにくいらしい。
人間らしい傲慢だ。俺もノエルの言う通り、そんな召喚術は好きになれそうになかった。
「そう言えば、椅子とか何処からか出してたけどそれは魔法なのか?」
「いえ。これも召喚術です。基本的に人間には魔法は使えません。この椅子とかは僕の部屋から持ってきました」
「召喚術は物にも使えるのか」
「はい。召喚術は物体を自分のもとへ引き寄せるための術などで、このようにして転送する事が出来ます」
ノエルは何か言葉を発し、おもむろに本棚の方に手を伸ばす。すると魔方陣が手の周りに浮かび、光が手に集まり出した。そして、次の瞬間には手の中に一冊の本が握られていて、その存在を主張していた。よく見ると、本棚の方には本一冊分の隙間が出来ている。
「へえ。この場合契約とかは関係ないんだろ?」
「そうですね。精霊や霊獣を呼び出すわけではありませんから、関係ありません。そういった術には下準備が必要不可欠なんです。何処にいるかも分からない物を自分のもとに呼び出すわけですから」
「つまり、何処に何があるか知っている物に関しては、取り出すことが出来るのか。物を呼び出せるのは便利だな。俺にも使えると思うか?」
「ここでは誰でも使える術ですからね。異世界から来たとしても、たぶん……使えると思いますよ」
「お前が使えるとは思えないがなぁ」
「ディーダめっ!」
どうやら、使えるかどうかは分からないようだ。この世界にしばらくいるのなら、この世界の事を詳しく知る必要があるだろう。何があるか分からないし、日本の様に治安が良いとは限らない。そのうえで召喚術が扱えるのなら扱えた方が良いだろう。召喚獣を使役したいわけではないが、知識を持っていればもとの世界へ帰る手も見つけやすくなるだろう。
「とりあえず、今度教えてくれ。やれる事はやっておきたい」
「わかりました。出来る限りの協力をします。こうなってしまったのは僕の責任でもありますから」
ノエルが真剣な顔で頷いてくれる。不安はまだあるが、少しずつで良いからこの世界を知って行く覚悟を決めようと思った。出来る限り手伝ってくれると言うノエルの言葉は正直心強かった。
だが、ディーダはどこか不機嫌なオーラを発しっている。
「ノエル、簡単に協力するなどとは言うな!」
「でも、こうなったのは僕の責任でもあるんだ。僕が協力しなくて誰がするんだ」
「信頼できる人間に任せれば良い。お前がやる必要はない」
「いいんだ。僕がやりたいんだ!それに、信頼できる人間なんてここにはいない。任せたくなんて無い」
突如、声を荒げて言い合う二人。ディーダはどうにかノエルを説得させるために言葉を重ねるが、ノエルの意思が堅く頷かない。できたらノエルが一緒にいてくれた方が安心するがどうしても難しいようなら、誰かを紹介してもらうのも一つの手だ。なぜ、ノエルがここまで頑なのかわからない。
「おい、ノエル忙しいなら誰かを紹介してくれて良いんだぞ?」
「そんなことしません!僕は召喚できない召喚師なんですよ?忙しいわけじゃないんです。僕がやりたいからやるんです。トーヤさんは心配しないで下さい」
「ノエル!お前なぁっ」
頑として譲らないノエルにディーダが深いため息をつく。
「人間。お前がもとの世界へ帰るためにまずしなくてはいけない事があるが何だかわかるか?」
「……?ノエルの魔力回復と情報収集か?」
「そうだ。だが、正確に言うと魔力増幅のための道具を手に入れなくてはならない。だが、それは簡単に手に入る物ではない」
「今回使ったのを使えないのか?」
「今回使ったのは、お前を召喚した瞬間に木っ端みじんに消した飛んだ。もう使えない」
「そうなのか。じゃあ、何処かで手に入れるしかないか。手に入れるには金がかかるのか?」
「お金の問題ではないんです。特殊な素材を使っていたのでとても貴重で、もう手に入らないと言われていた国宝の道具だったんです」
「……は? 国宝? ……それを壊したのか?なんでまたそんな物を使って。」
とんでもない事をしでかしていたらしい。国宝ってそりゃどう考えてもダメだろう。
「命令だったんです」
「国が悪いんだよ。ノエルが気にする事は無い」
「命令ってなんでまたそんな事に」
どうやら色々と厄介な事情があるようだ。
国宝を使ってまで召喚に行なった理由は、簡単に言うと戦争のためだったらしい。
武力国家のグランディーナは国王の代替わり期に他国への侵略を決めたのだ。もちろん国中の召喚師と召喚獣が招集される事となった。もちろん城に使えるノエルも例外ではなくディーダと共に戦場に駆り出されることになるはずだったのだが、ノエルがディーダを戦場に向かわせる事を良しとしなかったのだ。
ディーダはグランディーナにとっての最高戦力であるため、ディーダの不参加はあり得ない。強制させようと、ノエルにたいして実力行使を行なおうとした。しかし、ディーダが守るノエルには下手に手を出す事が出来ず、また、グランディーナの歴史上最高の魔力をもつノエルを、失うには惜しいと考えた国の上層部はある条件を突きつけて来たらしい。
条件とは、ディーダの代わりにディーダ以上に強力な召喚獣を呼び出すこと。そして、その召喚に失敗した場合はディーダを戦争へ駆り出すというものだった。
条件をのまなければ、反逆者として罰せられるのだろう。さすがのディーダもノエルを守りながら国中の召喚獣達と戦う事は出来ない。
そして、条件をのむ事になったノエルは、国王から国宝である魔力を増幅させる杖をわたされ、召喚術に挑んだというわけだ。
結局失敗して、なぜか異世界から俺が呼び出されてしまったのだが。
「国に使われるのは癪だが、ノエルに危害が加わるくらいなら俺様は望んで戦場に行こう」
「だめだ!ディーダにこの国の兵器になんてなって欲しくない!」
「ノエルが死ねば俺はこの国に捕われ続ける。俺様はノエル以外に従うつもりは無い。ノエルが殺されるくらいなら俺は愚かな人間の言う事聞こう」
そう。ノエルはある呪術を掛けられているらしいのだ。国からの義務で、魔力の高い子供に生まれた時に掛けられるもので、もし自身が死んでしまった時に、召喚獣の引き継ぎをさせるというものだそうだ。この場合ノエルの守護獣であるディーダは国王のもとへと引き継がれることになる。
そうして脈々と引き継がれた召喚獣達が王族達に仕えている。主人から強制的に引き離され、一生恨みを晴らす事も出来ずただ使われる毎日はどんなに惨い事だろう。
今回は代替わりしたばかりの時期であり、地盤が固まっていない状況でディーダを相手にすれば損害も馬鹿にならない。戦争を始めようとしているのに戦力を減らす事は出来ないと考えた国王はノエル達を丸め込む事にしたらしい。上手くいけばディーダと同等の戦力も確保でき、失敗してもディーダは戦争へ出るのだ。
何とも胸くそ悪い話だ。
「ディーダ。僕は遅かれ早かれこの国に見切りを付けなくてはいけないと思っていたんだ」
「それはっ!」
「この体に刻まれた呪術を解くには、国王が許可する必要がある。でも、国王は絶対に君を解放しようとはしないだろう。それに、僕はディーダに戦争に行かせたくない。なら方法は一つしか無いじゃないか」
「だがっ……!」
ノエルはディーダに微笑む。もう決心はついたのだと……どんなに困難でもディーダの自由のために、ここから逃げ出すという事を……
「トーヤさんには色々とご迷惑をおかけします。僕の事情で召喚し、僕の我がままで、トーヤさんに命の危機が迫ってしまいます。ですが、僕にはこの道しか選べません。例えディーダをここに置いていく事になろうとも、どうか僕と一緒に逃げてくれませんか?」
「まて!ノエルと一緒に逃げるのはこの俺様だ!こんな人間と手に手を取って逃げるなんて許さないぞ!」
ディーダはノエルの手をつかみ揺さぶる。長年一緒にいるためかノエルはディーダの扱いが上手い。あんなに渋っていたディーダがたった一言で共に逃げる事を選択した。俺を当て馬にするなんてノエルは小悪魔だと思う。
「おまえなぁ。俺がディーダに消されたらどうするんだよ……」
「ええぇぇっ!?なんでディーダにトーヤさんが消される事になるんですか!?」
「……。あれで無自覚なのか……。苦労してるな、ディーダ」
「…………」
どうやらノエルはものすごい天然らしい。自分が言った意味を理解していないみたいだ。
ディーダもかなり苦労しているのだろう。なんとも言えない顔だ。
俺は、今後の事を考えてみる。正直、勝手にこっちに呼ばれ、命の危機に巻き込まれ、散々だ。今の装備と言ったら、召喚された時に持ってきてしまったフライ返しに、料理を作るために付けたエプロンだ。どう考えても自分の命を守れるとは思えない場違いな物だ。でも、今の俺にはこの二人しか頼る事は出来ないし、ノエルとディーダをこのまま二人だけ旅立たせ、見捨てる様な事はできない。巻き込まれる形になったが、二人には恨みは無い。あるとしたら、こんな事を強制させたこの国だ。だから、この国に保護される事も保護されようとも今では思わない。
どうせ、もとの世界へかえるためにはノエルの協力が必要不可欠なのだ。なら、潔く巻き込まれよう。
「ノエル。俺はもとの世界へ帰りたい。そのために、保護と危険のどちらかを選ばなくてはならないのなら、俺はお前と一緒に逃げる道を選ぼう。共犯として」
「…………あり……がとう、ごじゃいまひゅ!!」
おたがい熱く手を握り合う。が、すぐにディーダに叩き落とされてしまった。
一瞬2人で唖然としてしまったが、それでも俺は、握手なんて家族以外とした事が無かったからとても嬉しくて頬が緩んでしまった。
そして、ノエルにはまた泣かれてしまったが、最初のときの恐怖とは違いその顔は、笑顔だった。
逃げることに決めたのだが、問題は……
「この部屋からは出られるのか?」
「部屋からは出られます。ただ、ここは小さな屋敷なんですが、屋敷から出る事は許されていません。屋敷中の窓にはすべて鉄格子を付けられていていますし、屋敷のドアには見張りがいますので、簡単には出られません。」
「ひとまず、屋敷の中を捜索してみるか。」
と俺は席を立とうとしたが……
「っつ!!」
勢い余って天井に頭ぶつける。けして、この部屋の天井が低いわけではない。忘れていたが、体が異様に軽いのだ。それはもう、飛び上がって天井に頭をぶつけるくらいに。おかしい……絶対におかしい。
「何やっているんだ、人間。」
「わあぁぁ!!大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……」
かなり痛いが、こぶができただけだ。問題ない。ディーダは何か考える様に顎に手を当てる。
「ノエル。癪だが、人間の手を掴んでみろ」
「えっ?こ、こう?」
ノエルが俺の手を掴む。握手している様な体勢だ。ノエルも困惑しているようだ。
「人間、そのままノエルを持ち上げろ」
「は?」
「いいからやれ!」
「あ、ああ……」
言われた通りに力を入れる。すると驚くことが起こった。
「うひゃぁぁぁ!?」
ノエルが思わず悲鳴をあげ、おれの腕にしがみつく。正直驚いた。おれは軽々とノエルを持ち上げているのだ。ノエルは小さくない、俺と同じ位の身長はあるのだ。そんなノエルを軽々と持ち上げられるなんて普通できない。しかも片手でだ。
「驚いたな……俺はこんな力持ちになった覚えは無いんだが。しかも重さはほとんど感じない」
「原因は分からないが、どうやら重力が関係しているようだな……」
「重力……」
「そうだ。お前にかかる重力が不自然に歪んでいる。お前は召喚で招かれた。本来なら召喚獣を呼ぶための物だったはずの召喚術に引っかかったという事は、召喚獣としてみなされたからなのかもしれん。重力を扱う召喚獣は存在する。もしかしたら重力を扱えるかもしれん。」
おろしてぇぇ!と泣くノエルを床に下ろす。筋力が増えたわけではないが重力という物が扱えるかもしれないらしい。もしできたら今の状況をどうにかできるかもしれない。できなかったら俺はこのままこんな扱いづらい状態の体のままだ。
「体が異様に軽くなったのは分かったが、なんで俺は今呼吸出来ているんだろうか……体が膨張したりもしないし……」
「そこは無意識に制御しているんだろう。着ているものやノエルを持ち上げた事から、接触している物の重力を変える事ができるのだろう」
「ビックリしました。いきなり持ち上げるんですもん。でも、持ち上がっている時はあまり落ちそうって感じはしませんでしたね……」
「そうかなのか。制御する方法ってどうやればいいか教えてくれないか?」
「そうだな。このままではノエルの足手まといにしかならないから仕方ない。俺様が直々に教えてやるんだ感謝しろ!」
ディーダが仁王立ちになり偉そうにこちらを見てくる。だが、俺にはどうしようもないから素直に教えを請う事にしたが……
「まずは、できると思え!そして力の流れをこう、びやッと感じ、そして命じるままにドリャぁっと行使するのだ!!」
「…………」
「…………」
ディーダの説明は全く意味が分からなかった。
俺は色々と試し、無意識に制御しているであろう箇所と重力異常の箇所との違いを探し、どうにかこうにか重力の制御に成功した。試行錯誤に数時間かかり体中はひどい倦怠感がつきまとっている。
日が暮れた事もあり、俺たちは屋敷の一部屋へ移り早めの休息をとることにした。夜明けには脱走計画を実行する気だ。急な話だが、時間はかけていられない。膨大な魔力を使った召喚術は既に感知されているだろうというのがディーダの見解だった。先に延ばすだけ失敗する確率がどんどん高まるのだ。脱走のための議論はしている暇はないだろう。
必要な道具はノエルが召喚術で召喚した。ぶっつけ本番だが仕方がない。あとは運次第だ。
俺はふっと格子つきの窓の外にある景色を仰ぎ見た。遠くには何か島が浮かび、三つある月はそれぞれ淡い色をしていて、ピンクに黄色、それに水色だ。大中小と大きさも違う月達が夜を照らしている。まるで、おとぎ話の中の世界だ。
そんな異世界の景色を見ながら、俺は異世界での初めて一夜を過ごしたのだった……