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本日も天気は荒れ模様!  作者: 黒織
カーヴァイン共和国篇
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第14話 依頼はいつも気が抜けない模様!

 北の森に着いた俺は辺りを見回す。ザナリア州都から徒歩で約20分ほどの位置するこの森は、地元住人が薬草取りや狩りに赴く比較的人の入る森だ。森の中へは長年をかけてできたであろう林道が続いており、木々に邪魔される事無く歩みを進める事ができる。

 今回のギルド依頼の薬草はそんな林道を抜けた森の中心の泉付近に自生しており、子供のお使いでもできるほどの難易度となっていた。

 そんな簡単な仕事がギルドの依頼になっていたのは、比較的量が多いからだろうか。


「キリの葉はっと……。これかな?」


 数ある草木の中から目的の薬草を見つける。キリの葉は傷薬から風邪薬、痛み止めといった、とにかく色々な薬のベースとなる薬草で、多くの需要があった。そのため、ギルドでは常にキリの葉を採取依頼として出しており、主に初級冒険者の小遣い稼ぎとして人気があるのだそうだ。

 見た目が赤紫蘇のような特徴の葉を一枚一枚厳選しながら採取する。

 ギルドの下位で人気のキリの葉は、取り尽くされない様にある程度の大きさのものでないと採取した枚数として認められない。欲張って沢山取ってもお金にならないのだ。

 こうしてギルド側が森の資源を大切にしているには正直驚いた。普通は需要側がそんな森の事情を考えることはあまり無い。自分の首を絞めると分かっていたとしても目先の利益に目がくらんでしまいがちなのだ。

 だから、こうした細かいもろもろの事情を取り上げ、依頼を発注するザナリア州都のギルドの手腕は確かなものなのだろう。

 もしかしたら、下位の依頼にこのような規定を組み込むことによって、新米冒険者の意識改革をして優秀な冒険者に育てようと考えているのかもしれない。そう考えると、Gクラスの依頼は初期知識を得るための大切な下積みができる物が集められていると思って良いだろう。

 あのズレた眼鏡を直しながら爽やかに笑うギルド役員の男を思い出す。男の抜け目無い視線を想像すると、悪寒が走る。あれは、逆らってはいけない部類の人間の顔だ。

 母方の祖父もよくあんな顔をしながら俺を山に放り込んで、1週間サバイバル生活をさせたものだ。

 家訓の雑草食ってでも生き残れ!にはちゃんと実習体験があったのだ。俺は持たされたナイフ一本で生き残りをかけて必死に山を駆け巡ったもんだ。現代社会で何させられていたのだろう……。何だか涙が出て来た……。


「っと、少しホームシックになったか……」


 俺は現在に気持ちを戻し、採取を続行することにした。依頼内容のキリの葉を20枚摘む。そして、追加でさらに30枚摘んで行く。採取依頼には依頼を完遂させるために必要な基本採取数の他にも、追加採取上限がある。追加採取上限はその名の通り、追加で採取して良い数の事であるのだが、この利点は依頼時の金額設定で買い取ってもらえる事だ。素材をそのままギルドに売りに行くより、依頼の素材として持って行った時の方が少し良い値段で買い取ってもらえる。依頼とは需要が確実にあるものの事なので、鮮度も安定量も違う面から考えても買い取り価格が割り増しなのは正当なものなのだ。その分、緊急依頼などもあり、達成するのが難しかったりするそうだが。


「こんなものか?」


 俺は手を止めて摘んだ葉を10枚づつ仕分けてゆく。上限数一杯の50枚がきちんとあるのを確認して、葉を袋にしまい込むと腰を上げた。ずっと同じ体勢だったため体中が凝り固まってしまい、背伸びをするとバキゴキと盛大に関節がなる。


「はじめての依頼にしてはなかなか……かな?」


 そこまで難しい依頼ではないので昼過ぎには作業が終わってしまう。少しお腹空いたなと思いながら周囲を見渡すと、ハルが何やら茂みに顔を突っ込みながら尻尾をフリフリと振っていた。


「……ハル?何してんだ?」


 俺の声に反応してハルがこちらに振り向く。頭に葉を絡ませながら戻って来たハルを抱え上げると何やら口に銜えているのに気がついた。


「おいおい、これ何処から持って来たんだ?」


 銀色のプレートに見覚えのあるチャームが付いたそれは、今日貰ったばかりのギルドカードと同型の物だ。違うのはEランクのチャームが付いている所だろうか。


「名前は……ラディネアか。落とし物か?」


 ギルドカードを落とすなんて、なんと恐ろしい真似をしたものだ。あの男がこの事を知ったらと思うと寒気が収まらない。しかし、ここに落ちているものを見て見ぬふりはできない。


「依頼も終わった事だし戻るか。ノエルの容態も気になるしな」


 ギルドに落とし物を届けるとゆう仕事もできたので俺は森を出る事にした。帰ったら初給料で果物でも買ってノエルを見舞いにいこうと考えながら来た道を辿って行く。

 森が深々と奥まで続いているが、道から外れなければ迷わないので安心だ。本当に親切な初級依頼だと改めて思う。

 ふと、視界に何かを捕らえた気がして歩みを止めた。

 ハルはフンフンと鼻を鳴らしながら俺の頭の上から辺りを見回している。ハルも何か気になるのかしきりに耳を動かしグルグルと警戒音を慣らす。

 その瞬間、何か爆発する様な音が響く。それと同時に俺は人の声と何かがギャッギャと叫ぶのが聞こえた。視界は森の木に阻まれて何も見当たらない。俺は重力操作の力を使い音のした方角へ跳ぶと、木の上を跳びながら周囲を見渡した。

 すると、500メートルほど離れた場所で再び何かが爆発したのが見えた。

 急いで近づくとそこには3人の冒険者らしき人物が20匹のゴブリンと思われる生き物に追われている所だった。

 冒険者の一人である男は、利き腕を矢で射られたためか剣で戦う事ができず、召喚獣を使って支援している。しかし、主戦力だったらしいその男が前線から抜けたために決定打を打てずに苦戦しているようだ。

 仲間の内の弓を持った女がゴブリンに向かって矢を放つ。放物線をえがきながら飛来した矢は見事ゴブリンの頭を貫く。それに怒った他のゴブリン達が一斉に女に襲いかかった。


 俺は危ないと思った瞬間に体が勝手に動いていた。

 背中に背負っていた大剣を抜きさると地面に向かって振り下ろす。

 冒険者とゴブリン達とを隔てる様に打ち出された一撃は地面を砕き、剣が深々と突き刺さった。唖然とする冒険者を一瞥(いちべつ)した後、ゴブリン達に向き直る。ゴブリン達は突然現れた俺に警戒して武器を構える。

 俺は刺さった大剣を引き抜き、土をパラパラと散らしながら持ち上がったそれを肩に担ぐとゴブリン達を睨みつけた。

 本当なら無闇矢鱈に命を奪うのは好きではない。だが、生き残る上で決して手加減してはならない瞬間が必ずあるのを俺は知っている。それは、命をお互いかけるときだ。

 食うか食われるか。弱肉強食の自然界の摂理において俺は手加減をしない。いくら動物が好きであっても、生きるためにウサギを狩る事を躊躇しないように……

 今ここで人が襲われているなら、俺は人を助けるためにあのゴブリン達を狩ろう……


「死にたくない物は去れ、それでも向かって来る者は俺が命をかけて相手をしよう……」


 冷たく言い放たれた言葉にゴブリンはおろか、守られた人間側も震え上がる。空気が張りつめる。じりじりと間合いを詰める俺に対して、同調する様に一歩一歩後ずさるゴブリン達。

 そして、緊迫した雰囲気の中一匹のゴブリンがその均衡を崩した。

 ギャ!と声を上げ棍棒を振り回しながら、そのゴブリンはこちらに飛び込んでくる。棍棒が振るわれる瞬間、俺はその棍棒を大剣で受け止めそのまま掬い上げる様にして遠くに飛ばす。インパクトの瞬間に重力操作を使ったためか、思いのほか遠くに吹き飛ばされて行くゴブリン。

 しかし、仲間のやられっぷりを見ても残りのゴブリン達は怯まず襲いかかってきた。棍棒を振り回し突撃してくるそれらをなぎ払い、打ち捨て確実に再起不能にしてゆく。大剣に斬りつけられたゴブリン達は血を噴きながら絶命していった。

 途中、ゴブリンが放った矢が頬を擦る。そして、弓矢が有効打と思ったのか遠距離から弓を打ってきた。数匹が一斉に放った矢が雨の様に降り注ぐ。俺は大剣を構えると、それを思いっきり横に振り扇いだ。重量級の大剣の風圧によって軌道をずらされた矢は的に刺さる事無く、無惨に地に落ちていく。俺はその隙をついて地面を蹴ると一気に間合いを詰め、厄介な弓兵を潰していった。

 ゴブリン達は残りが後4匹となってはじめて攻撃の手を止める。勝てるかもしれないから、絶対的な脅威に認識を改めた瞬間だった。

 4匹はお互いの顔を見やると瞬時に森へと逃げ去る。俺は逃げ去ったゴブリン達は追わずに、大剣に付いた血のりを振り払い、背中に背負い直した。辺りはゴブリン達の死骸で溢れ、切り跳ばした腕や頭がゴロゴロと転がっていた。自分でやった事だが、流石にこれは凄惨たる光景だ。普通の剣ならここまで切り跳ばすことはなかったのだろうに、あの質量の大剣だと振り抜いただけでこの有様だ。つくづく俺がこの剣を持つのは、何か間違っている気がしてならない。

 ふと、湿った感触が頬を撫でる。肩に乗ったハルが俺の頬を舐めてきたようだ。矢で傷つけられた頬はかすり傷程度で少し血が流れていたが、ハルにはそれが気がかりだったのか、キュ〜キュ〜と心配そうな声をだす。俺はそんなハルを落ち着かせるために撫でながら、冒険者達に向き直った。


「怪我は平気か?」


 急に声をかけられた冒険者達がビックっと跳ねる。利き腕を怪我した男を看病していた男がこちらを伺い見ながら警戒をする。それを感じた怪我した男が警戒する男を制止してこちらを見やった。


「危ない所を助けてもらった。礼を言う」

「いや、それよりも腕は平気か?」

「何の事はない。ラディーの召喚獣ならこんな怪我あっという間だ」


 そういって怪我した男は女の方を見る。女は緊張した面持ちで、何度も頷いた。そんな女を見てふと思い出す。


「もしかして、あなたはラディネアと言う名前か?もしかしたら、ギルドカード落としていないか?」


 すると女は慌てて首元や腕、体中を探りはじめ次第に顔色を青へと変えていく。見かねた俺はラディネア近づくと、しまっておいたカードを取り出しそっと手の上に乗せてやる。だらだらと冷や汗をかくラディネアから一歩下がると不安そうな顔をしてこちらを見て来た。


「森の奥の泉近くに落ちているのを見つけた。ギルドに届ける前に持ち主が見つかってよかった」

「あ、あの……ありがとございます。えっと、その……お礼を」


 そう言って何やらごそごそさせはじめるが、首を振って制止させる。別に礼が欲しいわけではないのだ。

 すると、何とも言えない表情をされる。まるで、信じられない物を見たかのようだ。


「おい、お前!何が目的だ!俺たちの仕事を横取りする気か!?」


 いきなり叩き付けられた怒声に視線を向ける。そこには、看病していた男が目を吊り上げた目を爛々とさせていた。


「あぶなそうだったから助けに入っただけだ」

「なんだと!?俺たちがゴブリンにやられてたって言うのか!?」

「ジャン!やめろ!」


 怪我した男が看病していた男、ジャンを止める。ジャンはこちらをキッと睨みつけてくるが、ひとまず口を噤む。俺としては助けたつもりなのに敵対されると悲しくなるのだが、できるだけ平常心で眉にしわが寄らない様に気をつけた。


「助けてもらったのにすまない」

「いや、無事ならよかった」

「そう言ってくれると有り難い。俺はザク。見ての通り冒険者だ。ランクはCでこのパーティーのリーダーをしている。こっちのうるさいガキはジャンでランクはE、あっちの女はラディネアだ」


 ラディネアは怖ず怖ずと頭を下げ、ジャンはフンッと顔を背ける。その様子にザクは苦笑いしながら謝るが俺は気にしていないと頭をふった。


「俺は凍矢。ザグ達と同じ冒険者だ。そんな事より早くそのキズ口を直した方がいい」

「ああ、すまないな。じゃあ、そうさせてもらおう。ラディネア、頼めるか?」

「ええ、矢を引き抜くから布を噛んで」


 そう言われてザクは自分に袖を噛む。それを見たラディネアは矢を一気に抜くと現れた傷口を水で洗う。そして、妖精の様な4枚の羽の生えた小さい召喚獣を召喚すると傷口意たいして治癒魔法を施す。逆再生のように傷口がみるみる閉じていき、数秒後には赤い後が薄ら残る程度になった。


「2日は激しい運動をしてはだめよ?」


 そう言ってラディネアは傷口のあった場所に包帯を巻いていった。


「すごいな」

「だろ?ここまでの回復魔法が使えるのはそうそういない。おかげでいつも助かっている。で、話を戻すが俺たちは冒険者としてゴブリン討伐を受けてここに来たんだがな、思ったより数が多くてなあのままだと結構危なかった。そこにアンタが登場したわけだ。おかげで助かったんだが、問題はゴブリンの討伐についてだ。あんたは、なんのためにこの森に?」


 どうやら、ゴブリン討伐の報酬についてらしい。確かに退治したのは実質俺なのだが、先に討伐していたのはザク達だ。討伐依頼を受けている以上、ゴブリンの所有権を主張したいのだろう。考え方によっては弱ったゴブリンを横取りした様にも見えなくはない。ここは素直に離した方が得策だろう。


「俺はこの森に薬草を採取しに来ただけだ。帰り道、ザク達が危なそうだったから思わず横やりを入れたが、ゴブリンの所有を主張するつもりはない」

「その話、本当なんだろうな!」


 ギリギリと睨みつけてくるジャンに視線を移し、溜め息をつく。何故か敵視してくるが俺は助けたかったから助けただけなのだ。後は特に望んでいない。なのにこうも睨みつけられると悲しくなって来た。

 グルグルと威嚇するハルをなだめながら俺はザク達に背を向ける。


「俺は面倒ごとは好かない。あのゴブリンはザグ達が好きにしていい」


 そう言うと俺はそのまま走り出した。久々に受けたあの嫌悪を含んだ視線や言葉が胸を突く。跳ぶ様に森を駆け抜け、街に戻るとギルドに赴く。鑑定科にキリの葉を提出すると1枚あたり半銅5枚で50枚で二千五百リィンになった。はじめて稼いだお金の重みを噛み締めながら、市場で甘い果物を買う。それを持って宿にもどり、ノエルを訪ねに部屋へ向かいドアを叩く。すると機嫌の悪そうなディーダが姿を見せて、ノエルが眠っていると告げて来た。しかたがないので、見舞い品の果物をディーダに手渡し自分の部屋へと戻る。エリック達はまだ戻っていないようだ。

 部屋を一瞥した俺は、肩に乗ったハルを抱え上げベットに下ろす。ハルは何故か昼間より一回り大きくなり子犬サイズから小型犬程度大きさになっていた。随分と成長が早いとは思っていたが、ここまで急激に大きくなると少し心配になる。でも本人はいたって普通で、今ものんびり欠伸あくびをかいている。異世界の犬はこんな物なのだろうか。

 俺は背負っていた大剣をハルの横に腰を下ろす。


「随分と汚れたな」


 鞘から抜いたいた大剣を抜いて見ると、血や油に汚れた剣は鈍い光をまとっていた。まるで狂気の光だ。

 ひとまず、いらない布で血や油を拭っていく。手入れのしかたは分からないが何もしないよりはましだろう。

 いくら狂気をまとっていても、これが俺をこの世界で活かしていくための武器なのだ。大切にしなくてはならない。問題は、俺がこの武器を扱えるだけの技能を持つ事だ。今のままでは剣に振り回されるだけだろう。それではダメなのだ。

 明日からエリックの朝稽古に混ぜてもらおうと決心し、拭き終わった大剣をベットの横にそっと立てかけた。

どうもこんにちは!

今回はお時間頂きあり難うございます。


年末に向けて大掃除をしておりました!実はまだ終わってません!

ノコギリでギコギコ木を切ったり、電動ドリルでネジ付けたり………

こっ、これでも大掃除してたんですよ?

で、ですね。来週あたりから連載が2日に1回くらいのペースになりそうです。

すみません;今週はとりあえず頑張ります!


評価くださった方ありがとうございます!誤字脱字だらけの拙い文章ですが今後もがんばります!

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