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本日も天気は荒れ模様!  作者: 黒織
グランディーナ帝国篇
12/20

閑  話 旅は道づれ世は情け?

 そう、オレは使命に生きる男。名前はバルカ!


 本日は雨天なのにもかかわらず、オレは任務とゆう使命の為にひたすら屋敷の扉の外で立ち続けていた。

 隣で一緒に任務にあたるのはオレの尊敬する隊長だ。


 隊長はすごい。あらゆる所がすごい!

 隊長は庶民出身で、あまり魔力を持っていなかった。そして、召喚獣もそれほど強くない。だが、隊長は少ない魔力でいかに効率的に召喚獣と連携をとるかを考え、自らも厳しく鍛えぬき、ついに警護部隊長にまで上り詰めたのだ。オレも魔力や召喚獣がたいしたものじゃないから、そんな隊長みたいになりたいと、すごく憧れているのだ!


 剣の腕前ならこの国でも1、2を争うのではないだろうか。でも知ってる。隊長は誰よりも早く起きて、剣を振っている事を。

 もちろんオレは、憧れる隊長に突撃して一緒に朝練をさせてもらっている。でも、隊長についていくにはまだまだ努力が足りないようだ。いつも疲れ果てて、地面とお友達だからだ。


 今も凍えそうに寒いのに、隊長はこんな雨の中でも身じろぎせずに立っている。驚異的な精神力だ。オレも体を揺すっている場合ではない!精進せねば!でも寒い…………

 隊長のすごい所は他にもある。動物という動物にべた惚れなのである。

 隊長はよく召喚獣たち愛でている。これでもか!ってくらいかまい倒している。召喚獣達と戯れる姿は任務中の隊長の顔と違う、素の笑顔見せているだ。隊長の召喚獣達がうらやましい……

 悔しいからオレはオレの守護獣、ポケをつれて隊長に突撃をかました。隊長はそんなオレに鉄拳をくれたがオレはめげない!見よ!オレの召喚獣を!!

 効果はてきめんだった。ポケはハムスターみたいな小さい守護獣だ。隊長の琴線に触れないはずないのである!ふはははは!想像した通り、隊長がオレの守護獣を愛でてるぞ!

 …………あれ?何かまだもやもやする。

 無性に突撃したくなったオレは、もやもやが何か分からないまま隊長に再度突撃した。

 鉄拳食らった……

 その日の空は晴天だった……


 動物好きの隊長はある日、休暇を取ってとある山へと向かった。

 もちろんオレも付いていった。どうやって付いていったかって?もちろん朝こそこそと外出する隊長に突撃をかけたのだ!

 いつもなら飛んでくる鉄拳もその日はなく、浮き足立った隊長はオレのタックルに負けて、背中から盛大に倒れ込んだ。初めてこんなに奇麗に技が決まった!オレすげぇ!

 でも、すぐに立ち直った隊長にボコボコにされたッス……

 まだまだ精進しなければならないと、少し激しい激励だろうか?


 山に赴いた目的はリンドドレイクの卵を探すことだった。本当なら城の竜舎で生まれる卵をふ化させることで、自分の騎竜を手にするのだが、隊長は庶民出身である。隊長を目の敵にしている上層部が騎竜なんか与えるわけないのだ。でも、あの動物好きの隊長が、騎竜をただ指を銜えて見ているだけなんてありえない。

 だからこうして、危険でもリンドレイクの卵を取りにきたのである。

 卵を見つけるのには苦労の連続だった。吊り橋が落ちたり、キラービーに追いかけられたり。思い出すと

今でも鳥肌が……

 でも、そんな困難を乗り越えて俺たちはついにリンドレイクの巣にやって来た。

 竜は愛情深い生き物だ。巣では必ずつがいの一頭が卵を守っていて、近づくのは至難の業なのである。でも、心ない人間の多くは竜を殺してでも卵を手に入れようとする。近年では、戦争がおきるという風潮から需要が高まり、野生の竜種は減少の一途をたどっていた。

 もちろん隊長はそんなことしない。ある一つの巣を見つけると脇目も振らずその巣へと足を運んだ。

 その巣は、密猟者のせいで親竜が殺され、取り残されてしまった巣で、中にあるのは冷えた三つの卵だった。密猟者達はこうして卵を選んで持っていく。本来なら孵るはずであった卵を色が悪い、形が歪という理由だけで捨てていくのだ。

 でも隊長はあえてこの卵達を拾い上げて、懐に抱え込んだ。でも、蒼に白い斑と翠に白い斑の卵を持った時点で手が止まる。それもそのはずだ。卵は30cmはある、2個抱え込めばもう手がいっぱいだろう。オレは隊長の代わりに、少し小さくて白に赤い斑の変わった色をした卵を抱え持つ。

 冷えてしまった卵は無事に孵るかわからない。でも、抱えた瞬間。たしかに卵から鼓動が伝わった気がした。


 隊長とオレはその日から朝から晩まで卵を抱いて暖め続けた。一度、隊長の部屋に突撃をした時に見た隊長の姿は、卵を前と後ろに背負った肝っ玉母さん風だった。思わず爆笑してしまったが、そのあとおもいっきり殴られた。でも、今にして思えばオレもたいして変わらない恰好だっただろう。

 そして、念願の誕生の瞬間。隊長はものすごく嬉しそうな幸せそうな笑顔を見せた。軽く涙も浮かべていたかもしれない。でもその気持ちはよく分かる。子竜達は小ちゃくって可愛くて、他のどの竜達よりも色彩豊かで奇麗だったんだ。隊長を親と認識した子竜達はすりすりと甘えながらご飯を要求していた。

 そしてそんな様子を見ていると、オレの抱えた卵もほどなく無事に孵った。あまり見た事ない白いリンドドレイクの赤ちゃんだ。


 うきゃ〜!かわゆい!


 こちらを見つめる子竜に手を伸ばす。

 その瞬間………


 ぎゃぁぁぁあ!?

 痛い痛い痛い!!噛み付いたッス!噛み付いたッスよ子の子!きゅるきゅる鳴いてガシガシ噛むッスよ!

 これは、完全に餌だと思われてるの?オレは餌じゃないッスよ!?

 なぜ??隊長との違いはなにッスか!?


 オレはこのこにアルフと名付けて一生懸命お世話をした。アルは誰よりも奇麗で誰よりも気性が荒い。でも隊長とオレ以外には全く懐かないから一応保護者だとはお思われている様だ。

 よく髪の毛を齧られるッスけど……

 非常食だなんて思われてないんッスからね!


 そんな波瀾万丈な毎日を隊長と過ごしていたある日、俺たちは城近くの屋敷警護に回された。これは左遷だろうと皆が口にした。

 なぜなら、隊長が守護獣継承を拒否したのが、ここに来た理由の一つだったからだ。よりにもよって上層部が、隊長の大事な守護獣をよこせと言って来たらしい。

 馬鹿な事をするもんだ。隊長があんな戦闘バカなやつらに愛しい子達を渡すはずない。

 そして奴らは、貴様らみたいな低俗な輩が貴重な竜種を引き連れているなんておこがましい、などと言ってドクとレイ、それにアルフにまで手を伸ばそうとして来た。まあ、アルフに地の果てまで蹴られていたが。あれには隊長と二人でアルフに賞賛を与えた。アルフはとても得意げな顔だった。


 そんなこんなでただいま今、雨に打たれている。そして、オレは気になっていた。先ほど交代の為にやって来て、食事を運び入れた兵士がなかなか出てこないのだ。はやく出て来て交代して欲しいッス……切実に……

 願いが届いたのか、しばらくしたら玄関の扉が開いた。

 右手を握り左胸に当て、目の前のオレたちに礼をする。とても背筋が伸びた奇麗な礼だ。


「お疲れさまです。後は我々が引き継ぎますので、お休みください」

「ああ、待ちくたびれた。夜間の警護は神経をすり減らすからな。中はどんな感じだ?」

「はい。どうやら召喚の間に朝から籠っている様子で特に不振な行動はありません」

「そうか。分かった。これから報告に向かうとする。では、荷を受け取ろう」

「よろしくお願いします」


 オレは兵士から食器類を受け取る。ものすごい威厳がありそうな声だ。本当にオレと同じ一般兵なのだろうか。


「ところで、お前の声は聞いた事が無いが新入りか?」

「はい。最近配属されました」


 隊長も少々気になった様だ。新人かぁ。こんなすごそうな新人がいたらオレはずっと下っ端なままだろうな。まあ、隊長にずっと付いていく気だから関係ないけど。

 そして、隊長と新人の会話は続いていく。


「そうか、顔を見せてみろ」

「はい」


 そう言って新人が兜を脱ぐ。驚いた!そして怖い!蛇に睨まれたカエルのごとくオレは硬直した。

 だって、なんかものすごい威圧感あるんッスもん!ぜっったい新人じゃないッスって!何かの間違いッスって!フルプレートじゃなかったらオレの顔が真っ青なのがバレてただろう。


「……新人にしては、いい面構えだ。冷静さもあるようだな。最近の若い奴らに比べれば使えそうだ」

「ありがとうございます」

「顔を覚えてく。これからも仕事に励めよ」

「はい。お疲れさまでした」


 隊長が珍しく褒める。そしてオレ達は、足早に建物の中へ向かった。途中気になってみると雨の中、あの新人は奇麗な礼をして俺たちを見送っている。何か負けた気がした。


「くくっ。そうゆう事か……」


 ふと、オレの横で隊長が笑う。


「どうしたんっすか?あの新人の事ッスか?」

「まぁ、そうだなぁ。それもある。」

「マジあの新人ヤバいっすよ。隙見せたらこう、ガバァ!っと食われそうッス」

「そうだなぁ。ありゃただ者じゃない。この時期に現れたって事はこりゃ、一騒動あるぞ」

「はい?」


 なにやらわくわくと楽しそうにする隊長。オレには訳が分からない。そして隊長は何故か竜舎に向かって歩き出す。


「俺、この城出るわ。」

「えっ?はぁぁぁっ!?ぶふっっ!!」

「声がでけぇ!」

 

 鉄拳食らった……隊長も声がデカいと思うのッスが……

 しかし、真剣な顔をした隊長がオレを見据える。


「まぁ、そんなわけでお前に頼みがある。」

「!?なんッスか!何でも言って下さいッス!」


 まさかの頼み事!隊長自らオレに頼み事ッス!もう、興奮ではち切れそうだ!!

 隊長は手持ちの小さな紙にスラスラと何かを書いてオレに渡した。


「いいか。俺はこれから起こる騒ぎを誘導して兵を攪乱させる。お前はここに書いた物を集めて今日の夕方までに俺の隠れ家に持ってこい。あと、忘れずにアルフも連れて行け」

「了解ッス!」

「あと……」


 そう言って俺にもう一枚メモを渡す。


「こっちはアジトについてから読め。読んだら燃やせよ」

「分かりました!じゃぁ、いって来るッス!!」


 そう言ってオレはアルフと共に城を出た!不安だ……と隊長がつぶやいているのも知らず。


 

 その後のオレは迅速だった。雨に打たれながら必要な物資をどんどん買い込み、隊長の隠れ家に辿り着くまで1時間かからなかった。そしてオレは、意気揚々と隊長に貰ったもう一枚を懐から取り出した。


 愕然とした。そこには今回の計画とオレへの謝罪が書きつられていたのだ。


 これから起こる、囚われの召喚師の逃走を手助けする事。

 逃走先がルヴェリアだと国に勘違いさせるため陽動作戦をする事。

 囚われの召喚師と共にカーヴァインへ向かう事。

 隊長と仲の良かったオレが巻き込まれる可能性があるから、アルフと共にガルバーレンにでも逃げる様にと、そして巻き込んですまないと。


 涙が溢れて来た……隊長はなぜ、オレも一緒に連れてってくれないんッスか?

 あんなに一緒に色々やったじゃないッスか!


 クシャリと握りつぶした紙をオレは燃やした。そして、守護獣のポケを呼び出して、オレが用意した荷物に付ける。その後、急いで外に出るとアルフに乗って駆け出した。何としても、検問が強化される前にこの街を出なくては行けない。急いた気持ちを落ち着かせながら駆け抜けた。

 無事に門を抜けた瞬間、激しい爆音が背後で響く。でも、誰もが振り返る中オレは先に進む。

 目指すはガルバーレンよりのカーヴァイン国境。カーヴァインへの通行は南北で二カ所ある。ルヴェリアに行くと見せかけるなら絶対北にある関所を目指すだろう。

 でも、隊長はどうやって関所を抜けるつもりなんだ。密入国したら連れ戻されるだけだから絶対正面から行くだろう。でも、準備も何もできないだろうにどうやって正面から行くつもりだったんッスか。何かあったら強行するんッスか?そんな無謀な事をして死ぬ気じゃないだろうな!

 初めてオレは隊長をバカだと思った。

 だから、そんな隊長のためだからオレがひとはだ脱いでやる!

 オレが国境を越えさせる!

 絶対、何処までも隊長に付いていって、隊長のために力を貸す。

 そしていつか、お前も一緒に来てくれって言わせてやるッス!

 

 オレは使命に生きる男!そして、今日からの使命は隊長に一生、何処までもしつこく付いていく事! 


 オレはまだ後方にいるであろう隊長を思いながら、新たな決意を胸にアルフを走らせた。

はい、エリックの裏話みたいなのですね。

バルカは基本アホの子です。でも、そんなアホの子ほど可愛く感じるんですよね。


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