表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

第八話

「現在、各国が所持する備蓄資源の量は、枯渇寸前と言っても差し支えなく」


「本日、日本政府から純粋な金属資源の輸出禁止令が出ました。輸出製品に使用される金属においても、これも完全な数量規制が行われ……」


「現在の金の相場は、一グラム四万円直前まで高騰し……」


「○○警察署の発表によると、夜中にガードレールや交通標識を盗み、これを売り捌こうとしていた中国人窃盗グループを一斉に検挙し……」


 世界中から鉱山が消え、各地にダンジョンが出現してから一ヶ月が過ぎていた。

 世間はまだ混乱を続けていたが、もうここまで時間が経つと慣れるというか、騒ぎ続けるのも難しいというのが本音である。


 原因は、空子なら説明可能だが説明するわけにもいかず。

 というか、説明しても信じる人間など皆無で、しかも別に空子が起した事態というわけでもない。

 

 責任者である銀河正統連合政府の魔法使いは気が遠くなるほど昔に死んでいるし、子孫に責任を取らせるにしても今の地球の科学技術で銀河系の中心まで行くのも不可能であった。


 要するに、流れのままに生きて行くしかないのだが、そろそろ金属を製錬する会社も備蓄が危なくなっていて、このままだと潰れそうなので、合併や金属リサイクル業務への比重を大幅に上げて生き残りを図ろうと必死であるらしい。


 これは、日本経済新聞に書かれていたのだが。


 あとは、スクラップなども含めて、金属の価格が恐ろしい勢いで上昇している事であろう。


 スクラップ屋は、高く売れるから大喜びなのか?

 それとも、買い取り価格の上昇でアップアップなのであろうか?


 俺はスクラップ屋ではないので知らなかったが、当然金や銀の相場もとんでもない勢いで上がっていた。

 現在、転職希望者兼農業見習い兼ダンジョン探索者で生きていけるのは、空子から鉱山が消えるという事実を事前に聞いていたので、動かせるお金で買えるだけ金を購入していたからであろう。


 買った値段の十倍近くで売れるので、このまま一生働かなくてもなどと思ってしまいそうになるのだ。


 当然そんな事は、押し掛け嫁の理沙と……。

 理沙さんと呼ぶと五月蝿いので、呼び捨てにしているが。

 もう一人、押し掛け妾志望の空子によって阻止されていたのだが。


 俺達三人はこの一ヶ月、一日おきに農作業とダンジョン探索を行い、日曜日に休むというローテーションを繰り返していた。


「レベルも上がった。体は頑丈になったし、疲れ知らずにもなって、俺は童顔のまま」


「義信ちゃんが童顔なのは、ダンジョンに潜る前からずっとそうだから」


「じゃな。我は最初、学生かと思ったしの」


「あと十年もすれば、俺も年相応に……」


 世の中、老け顔で損をしている人は多いと思う。

 だが、同じくらい童顔で苦労している人もいるのだ。


「最近、肌もスベスベで高校生に間違われたし」


「いや、理沙は半年前まで女子高生だったじゃないか……」


 去年まで、県庁所在地にある女子高に通っていたと聞いている。

 部活は園芸部で、その頃から善三さんの仕事を継ぐ決意をしていたのであろう。


「でも、農作業が週に三日だけになって、善三さんは何も言わないの?」


「言わないよ。作業効率が大幅に上がっていたし」


 俺も外部への転職は諦めてダンジョンに潜る以外は農作業一本であったし、空子も農業に興味がある若者枠で農作業の手伝いをしていた。

 しかも、これが意外にも器用に作業をこなすのだ。


 教える善三さんも、若い女性が増えたのが嬉しいようで丁寧に教えているようだ。

 

「お祖父ちゃん、来年から隣の山形さんと岩下さんの農地も借りようかって」


 レベルアップによって超人的な体を手に入れた俺と理沙さんに、なぜか自分が管理するダンジョンなのに、そこで戦うと自分もレベルアップする空子。

 これに、経験豊富な善三さんの四人でなるべく農地を集約して大規模に農作業を行う計画になっていたのだ。


 農地の集約に関しては、過疎の村なのでそう苦労する事もなく可能であった。

 もう年齢の関係で、農業を辞めようとしている家が多いからだ。

 賃貸料も、『耕作放棄地にならなければ』と言って、ほとんど無料みたいな賃貸料であるらしい。

 なるほど、日本の縮む農業の問題は深刻であるとも言える。


「農業の方は、善三と相談して決める事も多い。じゃが、今日はダンジョンの戦利品についてじゃ」


 パーティーメンバーが三人に増えたおかげで、現在ダンジョンは二十階まで攻略されている。

 一階から五階まではスライムゾーンで、青、緑、黄色、赤、黒の順で生息し、ボスは一階下の色のスライムが出た。

 五階はボスがゴブリンで、六階から十階までがゴブリンゾーン。

 色は、スライムの時と法則は同じであった。


 あとは、十一階からは大きい角が生えている人間よりも大きいウサギで、十六階からは牙が長い軽トラックほどの大きさの猪であった。


 正直、最初にウサギや猪を見た時にはもうこれで探索は止めようかと思ったほどだ。

 しかし、恐ろしきかなレベルアップ。


 思ったよりも苦労しないで倒せてしまった事に驚く、俺と理沙であったのだ。


「魔石も鉱石も、大量にあるが売り先が無いの」


 鉄、銅、アルミ、ニッケル、亜鉛。

 まだ二十階なので種類はこれくらいであったが、とにかく魔物を一匹倒すと一個は必ず出て来るし、十一階からは一抱えもある鉱石をドロップするようになった。

 

 しかも、鉱石という名の割には含有量が九十%を超えているので、質の悪い金属の塊とも言えるかもしれない。

 

 こんな物が数千個もあるのだ。

 収納魔法のおかげで邪魔にはなっていないが、正直どうしたものかと思ってしまう。

 

 あと同数の魔石と呼ばれる石もで、使い道もわからないのに、空子は絶対に見逃さないで確保しておけと言うのだ。

 

「この魔石って、何に使うんだ?」


「色々と使えるぞ」


 物凄く効率の良いエネルギー源らしい。

 

「量が採れるとはいえ、石油とか石炭なんぞ良く使うものよ。空気が汚れるのに」


「いや、今の生活に欠かせない物だから」


「魔石を燃やせば良かろうに」


 スライムが出す小さな物でも、物凄い火力が出るらしい。


「粉にして水に溶けば、良い燃料になる。燃やしても、マナになって自然に戻るだけだから空気は汚れない。クリーンであろう?」


「色々と物理的な法則を無視しているような……」


「科学とやらの法則やら常識など、魔法では通用せん」


 考えてみれば、レベルアップも普通に考えるとおかしいのだ。

 いくら人間が鍛えても、時速百キロを超える速度で突進してくる軽トラック並の大きさの猪を余裕でかわし、続けて横合いから一撃加えるなど出来るはずがないのだから。


「レベルアップすると、体に纏わり付く魔力が増えるのじゃ。だから、何メートルもの高さをジャンプしても、足が折れたりしない」


「何か、いつの間にか人間離れしてしまったような……」


「それを言うなら、他のダンジョン攻略組もそうだぞ」


 現在、世界中では軍事的な緊張が薄くなっていた。

 みな、自国に出来たダンジョンに部隊を派遣していたからだ。

 

 最初に近代兵器が通用しないで犠牲を出し、次に法則を理解して体力自慢や武術の名人などを送り込み。

 最後に、彼らが鉱石や魔石を確保する事でようやく理解する。


 もう地球上で金属を得たかったら、ダンジョンに潜って採って来るしかないのだという事にだ。


 そんな事情もあり、日本では『目指せ! 資源輸出国!』と銘打って、自衛隊、警察、消防、公務員有志などを全国全てのダンジョンに送り出しているそうだ。


 あと、今月から失業者対策の一環としてもダンジョン探索を行うらしい。

 公務員は高額の危険手当に、殉職の際には手厚い保障を。

 民間の人間には、獲得した鉱石や魔石などの高額買い取りで対応するようだ。


 死人も少なくないダンジョン探検ではあったが、その分成功すれば一攫千金も夢ではない。

 下の階層に行けば、金属や宝石があるかも。


 マスコミでもそのように誘導して、多くの人間をダンジョンに送っているようだ。


「鉱石は、その内に売れる場所も増えるだろう。だから今は保存して」


 魔石も同様で、残るはアイテム類であろうか。

 魔物からのドロップであったり、十階を越えると宝箱に入っていたりするのだ。

 

「鑑定すると、ポーション小、ポーション中、快癒薬、毒消しと出ているな」


 実は十階でもう一本巻物を獲得していて、そこに特殊魔法の追加で鑑定と帰還の魔法が書かれていた。

 運よく俺に特性があって無事に覚えている。

 

 鑑定とは、そのままズバリ、何でも鑑定する魔法であった。


 アイテムにかけるとその名前や使い方や効果などがわかり、宝箱などにかけると罠の有無がわかるようになる。


 帰還は、各階の出入り口である石室以外からも地上に帰還できる魔法で、○ラクエでいうとリレミトのような魔法であった。

 これが使えないと、ダンジョンからの帰還は各階の中央にある石室からでないと行えず、覚えられれば便利な魔法であった。


 これも運良く、俺は使えるようになっていた。

 空子は元から使えるようで、道理で俺に安全だからダンジョンに潜れと言うわけだ


 どうやら特殊な魔法は俺が担当で、攻撃魔法は理沙の担当に。

 空子は収納以外は全て適性があるそうだが、今は補助魔法などを担当にしていた。


「ポーションねえ……」


 小規模のダメージを回復すると表示されていたのだが、その効果は抜群と言っても過言ではなかった。

 試しに理沙が、小さい頃に腕に出来た火傷の跡にふりかけてみたところ、完全にその跡が消えてしまったのだ。


 ようするに、小さい傷とかなら昔の物でも有効なようだ。


「これって、ある意味便利な薬よね」


「理沙、ポーション小だぞえ」


「細かい所に拘るわね……。エステとかで、引っ張りだこになりそう」


 量を使えば、かなり深い傷でも跡すら残さずに消えてしまうので、もしかすると美容整形外科とかでも欲しがるかもしれない。

 まあ、この情況で売れるはずもないのだが。


「自衛隊とかも、確保しているよな? 当然」


「我のダンジョンに比べると、アイテムのドロップ率は多少低いがの」


 そこは、空子が地球で潜伏するための財布代わりのダンジョンと、ガチで命を代価に資源やお宝を得るためのダンジョンとの違いなのであろう。


「自衛隊の精鋭なら、もうとっくに探索にも慣れているだろう」


 最初の頃は、本当に殉職者が多数出ていて毎日ニュースになっていたほどなのだ。

 ところが、最近では怪我人の話も聞かない。

 治癒の魔法と回復アイテムですぐに治ってしまうので、わざわざニュースで発表もないのであろう。


「まあ、他所は他所。うちはうちで、頑張らないとね」


 そんなわけで、俺、理沙、空子のダンジョン探索は農業と兼業で地味に進んでいくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ