第七話
「えいっ!」
「理沙さん、レベルは上がったか?」
「もう少しかかるかも」
理沙さんと白キツネによる女性二人が俺の家で鉢合わせをした事件は、意外にすんなりと解決を迎えていた。
白キツネ、いやもう巫女服美少女姿なので、本人たっての希望により空子と呼ぶ事にするが、理沙さんを俺の嫁扱いしたので理沙さんの機嫌が直り、あっけないほど簡単に居候として迎えられていたのだ。
うちに居候するのだから、俺だけの許可が得られればとかは口に出してはいけない。
既に俺には、この件で権限が無いみたいだし。
そして騒動が終った後、いきなり空子は『義信の嫁なら、知らなければいけない事がある』と切り出し、俺が空子と知り合ってからの事を説明し始める。
正直なところ信じて貰えるのか半信半疑であったが、そのために今日はこうして三人でダンジョンに潜ってもいたのだ。
『アンチエイジング効果がある』、『身体能力が上がる』。
後者は、急に農作業で疲労感の欠片も見せずに動くようになった俺を見て信じたらしい。
前者は、まあ女性の夢と言えよう。
テレビなどで紹介されると、その真偽は棚上げして試してみるのが女性という生き物なのだから。
そんなわけで、理沙さんもヘルメットにヘッドライトを装着。
更にジャージを重ね着し、剣道着の胴を付けてダンジョン探索に参加していた。
武器は、俺と同じくフォークを持って来ていた。
五本刃で、刃も太目の頼れる新製品である。
加えて彼女の場合は、事前に巻物で使える魔法のチェックから行い、ファイア、エアエッジ、クレイアロー、アイスエッジと適性があって使えるようになっている。
どうやら、攻撃魔法に特化しているようだ。
「レベルが上がって中級や上級の巻き物が手に入れば、もっと高威力の攻撃魔法が使えるはずじゃ」
「本当、○ラクエみたい」
そう言いながら、理沙さんはフォークで次々とスライムを倒していた。
跡からまた鉱石と魔石が出て来るが、今度は収納魔法があるので次々と回収していく。
「ところで、一昨日の鉱石ってどうなったんだろう?」
重いので持ち帰りを断念した鉱石は、既に置いておいた位置に存在しなかった。
「取らなかった鉱石やアイテムは、一日経つと消えてしまうのじゃ」
また、他の魔物のドロップアイテムになるようだ。
「ダンジョンの魔物は、倒してもまた倒された分が復活する。だから、いくら倒しても減る事はない」
そのドロップアイテムである鉱石は地球の鉱山にあった資源を元に、魔石は地球上にあるマナを材料に、アイテムもマナを材料に作成されるのだそうだ。
「妙に拘ったシステムというか……」
「拘っているからこそ、銀河正統連合政府は魔法文明を元に星間国家を築けたのじゃから」
「まあ、衰退していれば世話ないよな」
「そうは言うが、科学文明にだって限界があるのじゃぞ」
魔法と科学。
別に、どちらかが優れていてどちらかが劣るという事も無いそうだ。
それぞれに利点と欠点があり、勃興、成長、絶頂、衰退、滅亡の流れに沿って進み、また最初に戻る。
それだけの事なのだと、空子は悟ったような表情で語っていた。
まるで、哲学者や歴史家のような物言いである。
「それで、銀河正統連合政府という主人がいなくなった空子はどうするんだ?」
「どうもこうも。義信が責任を持って養うのじゃ」
「いや、そんな一生は無理!」
百万年以上も生きている空子を、人間如きが養えるはずがない。
俺はすぐに反論していた。
「我がいかに人工生物とて、百万年も普通に生きられるはずが無かろう。大半が休眠状態だったのじゃ」
資源探査に来たのに、肝心の主人が内乱で衰退して宇宙に出る力を失ってしまったのだ。
する事が無いので、一応外部の情報だけ睡眠学習が出来るようにしてほとんど寝ていたらしい。
「もう休眠はしないので、そうお前達と寿命は変わらない」
「なるほど、このダンジョンは期間限定か」
ニュースによると、世界中に発生したダンジョンへの探索は主に軍によって行われ、その過程で多数の死傷者が出ているらしい。
このダンジョンのように、条件が甘いわけではないからだ。
「我は、普通の人間と同じく子を成す事も可能での。ダンジョンの管理権など、その子に継がせれば良いのじゃ。義信、責任を持って子種を提供するように」
「お前、少しは恥ずかしそうに言えよ」
面と向かって、見た目は美少女に子種とか言われると恥ずかしくなってしまう。
「お妾さんになるつもり?」
「我は、別に婚姻制度には拘らぬからの。大塚家の繁栄を考えると、ここは受け入れておいた方が良いと思うがの。本妻殿」
「まあ、いいか。空子ちゃんは面白いから」
人が苦労してスライムを倒している間も、女性二人は勝手に人の人生プランを決めていた。
決定権が俺に無いのは、もう諦めた方が良いかもしれない。
それと言い忘れていたが、俺の苗字は大塚である事を知らせておく。
大半の人にとっては、どうでも良いような気もするのだが。