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第四話

「本当に、大丈夫なんだろうな?」


「安心せい。このダンジョンは、我の管理下にあるのだぞ。管理者が消滅すればダンジョンは消滅してしまうのじゃ。よって、我に襲いかかる魔物はおらん」


「大丈夫なのは、お前だけという風に聞こえるが……」


 世界の混乱によって転職活動が大きく制限されていたせいもあり、仕方なしに白キツネの案内でダンジョンに潜ってみる事にする。


 そんな理由は甘えだと言われそうだが、実際に日本はおろか世界中の企業の見通しは暗い。


 一部、金属リサイクル業界くらいであろうか?

 明るい未来が待っていそうな業界はと聞かれれば。


「本当に、こんな武器で大丈夫なのか?」


「低階層なら問題ない。デカい成りをして臆病じゃの」


「命が、かかっているからな!」


 白キツネと共に家の外にある社の前に立つと、突然目の前が眩しく輝き、次の瞬間には見慣れない場所に立っていた。

 どうやらダンジョンとやらの入り口に到着したようだが、ダンジョンと言う割には思ったよりも暗くないようだ。


 三メートル四方の石室で、正面には金属製の立派な扉が確認できる。


「一階の入り口というやつじゃ。入るぞ」


「ああ」


 白キツネに促されて金属製の扉を開けると、目の前には広大な空間が広がっていた。

 普通の土の地面に、辛うじて数十メートルまでは見渡せるくらいの明るさに、目を凝らして良く見ると地面には僅か発光する苔が生えているようであった。


「一応危険なので、明かりを準備しておいた」


 防具代わりに頭にヘルメットを被り、LEDヘッドライトも装着。

 予備の電池も、当然準備している。 

 全て家に置いてあった物だが、生前に両親が農作業に必要だと思って揃えたようだ。

 あとは、普段使っているワークマンで買った農作業用のツナギに、足にはゴム長と。


 どう見てもこれからダンジョン探索に行く格好には見えなかったが、現状で準備できるのはこれくらいしかなかったのだ。


「武器は、多少は様になっておるかの?」


「五月蝿いぞ、白キツネ。普通の家庭に剣とかフルプレートは無いんだ」


 そして武器であったが、これも農作業用のフォークを装備している。

 収穫や土起こしにも使えるように先が刃になっているので、十分戦闘にも……。

 使えると良いなと思う。

 それと、鍬は刃の向きの関係で使い難いと思って止めていた。


 あまり意味は無いかもしれなかったが。


 あとは、予備で鎌を腰のベルトに挿している。

 これも当然、草狩り用の普通の鎌であった。


「ええと、スライム?」


 装備の確認をしてから、ライトを灯してダンジョンの一階に入る。

 あの石室は、それぞれの階層の中心部に存在しているらしい。

 管理者の白キツネがそう言っているので、嘘ではないであろう。


 最下層は百階で、全て地面が土であまり障害物も無く。

 階層毎に出る魔物が違って、落す鉱石やアイテムに、魔石の質や大きさなどが違うらしい。


 ゲームなら攻略が単純過ぎて飽きるのであろうが、これはリアルなのだ。

 俺からすれば、大歓迎なダンジョンであった。


「全ての階層は一キロ四方の大きさで。下の階層に行くには、その階層のボスを倒すしかない」


「本当にRPGみたいだな」


「一階はスライムしか出ない。気合を入れて今日中に攻略するのじゃ」


 白キツネに促され、早速魔物を目指して移動を開始する。

 十メートルも歩かない内に、視界に水飴の塊のような物体が現れる。

 どうやら、これがスライムのようだ。


「○ラクエのスライムとは違うか」


「くっ付かれると、溶かされる。早めに始末せい」


「わかった」


 メインウェポンである五本刃フォークを、スライムに槍にように突き刺すと、スライムは水風船のように割れてしまう。

 その跡には青い小さな石と、拳大の鉱石のような物が残されていた。


「倒すと、魔石と鉱石が残るわけじゃ」


「なるほど」


 獲得した魔石と鉱石を準備していたリュックサックに入れ、次の獲物を探す。

 とはいえ、周囲を良く見ると青いスライムが数匹確認できる。


 これなら、今日の内に沢山倒す事も可能であろう。


「どんどん倒すのじゃ」


 三十分ほどの時間を使って全部で十匹を倒した時点で、なぜか少し体が軽くなったような感覚に襲われる。


「レベルアップしたようじゃの」


「レベルアップするんだ」


「言ったであろう。確かに、危険には違いない。だが、順を追って慎重に進めば大丈夫だと」


 ただし、このダンジョンだけだと白キツネは言葉を繋げる。

 他の世界中にあるダンジョンは、一階層が十キロ四方で、魔物も多数出現するので一階層でも危険な事もある。

 ダンジョン自体も、迷路あり、森林地帯あり、地底海・湖ありと。


 クリアーには、多大な労力を必要とするそうだ。


「その分、得られる物が大きいとか?」


「いや、ここと大して変わらん。レアアイテムのドロップ率で言うと、ここの方が優れておる」


「そうなんだ」


「ほれ、夕方まで頑張るのじゃ」


 途中、石室に戻って昼休憩を取った以外は、全ての時間を一階層の探索とスライム退治に使う。

 面倒なので数えなくなったが、合計で五回体が軽くなる感覚に襲われたので、レベル6になったようだ。


「まあ、レベル6がどのくらい強いのかは知らないけど」


 そして、一階層に居る魔物のボスを遂に発見する。

 ボスとは言っても特殊な魔物ではなく、緑色のスライムが一匹だけ居て、フォークの一撃で呆気なく破裂してしまう。


 跡には、緑色の魔石と巻物が一つ残っていた。


「初級魔法テキスト」


「良かったの。魔法を覚えられるぞ」


 日本語の時点で怪しかったが、効果はあると白キツネは断言していた。


「これで二階層に行けるようになった。今日はもう戻るとしようかの」


「疲れたから賛成」


 こうして突如始まったダンジョン生活一日目は、無事に終了するのであった。

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