第三話
「現在、国連で結成された緊急資源探査チームが、世界中で資源が消滅した鉱山の調査を……」
「世界各地に、謎の地下遺跡のような物が多数出現し……」
「ネバタ州に現れた地下遺跡に、米軍の特殊部隊が調査に入ったものの、謎の怪物によって甚大な被害を出し……」
「同じく、富士山の麓に現れた地下遺跡に自衛隊のレンジャー部隊が突入したものの、怪物との戦闘で数名の殉職者を……」
「資源が一切採れなくなったため、全ての金属類が値上がりし……」
「現在の金相場は、一グラムで三万五千円まで上昇。しかも、値上がりが当分収まる気配もなく……」
「幸いにして、石炭と石油は今まで通りに採掘可能であり……」
「新興国向けに、鉱山開発用の重機を生産していた○ャタピラー社や○マツなどの企業は業績を下方修正し、経営計画にも大幅な修正を……」
自称、銀河正統連合政府が偵察のために地球に寄越した白キツネの言っていた事は正しかった。
最初に出会った日から一週間後、突如石油と石炭と天然ガスなどをを除き、世界中の全ての鉱山から一切の資源が取れなくなったのだ。
当然、世界は大混乱した。
特に鉱物資源に経済を頼っていた国は、一気に極貧国へと転落する未来しか見えないのだから当然だ。
あの超大国アメリカでさえも、自国で一切の鉱物資源が採れなくなった影響で経済が大混乱していた。
資源の大半を輸入に頼っている日本も、例外のはずはない。
他にも、先物市場、金融市場、株式市場。
全ての数値が乱高下し、中には潰れる企業も出始めていた。
「新興国、アフリカ、ロシア、中南米、東南アジアも大混乱。中東くらいかな?」
「いや、その中東とやらも怪しいね。石油を買うお客さんが貧乏になったんだから」
そういえば、石油の価格は徐々に下がり続けていた。
鉱物で稼げなくなった国が原油と石炭の価格を上げたのだが、購入資金に難があるので次第に販売量が下がったのだ。
特に、石炭の価格下落は激しい。
鉄鉱石が消えたので、製鉄で使う石炭を大量に購入する必要が無くなったせいでもあった。
「ところで、義信は職は見付かったのか?」
「聞くなよ……」
世界中が混乱しているので、当然企業は採用を抑えている。
それどころか、潰れる企業が続出しているのだ。
俺の転職活動に、影響が無いはずがなかった。
「金が無いと、生きて行くのは辛いの」
一応、白キツネからインサイダー情報があったので、事前に使えるお金で金を購入してはいた。
鉱山が消える前には一グラム四千五百円くらいであったので、それを生活に必要な資金を得るために少しずつ売っている。
正直なところ、無職の駄目男には両親の遺産はありがたかったわけだ。
「このまま農業でもしようかな?」
「ダンジョンに潜らないのか?」
「俺がか?」
鉱山が消える代わりに、現在世界中に数千箇所もの大規模なダンジョンが出現している。
突然現れたダンジョンに、世界各国はまずは軍の精鋭部隊を送っていた。
ところが、白キツネの言によれば、あのダンジョンに銃や火器などの近代科学兵器は通用しない。
結果、後にスライムやゴブリンに、オークやミノタウルスと判明していたが、化け物によって大きな被害を出したようだ。
この場合、魔物と言う方が正しいのであろうが。
魔物に驚いた兵士達が銃を連射するも、ダンジョン内では独自の魔法によって構築されたルールが存在する。
最弱のスライムですら、対戦車ミサイルでも傷一つ付かず。
兵士達は混乱し、一部ナイフや銃床でスライムやゴブリンを攻撃した者達だけが無事に地上に戻れたらしい。
「軍の精鋭部隊でも大損害を出すダンジョンに、俺がか?」
「それは、あのダンジョンのルールをちゃんと理解しておらぬからだ」
剣や槍や弓などの武器を装備し、魔法などと合わせれば魔物はちゃんと倒せるそうだ。
倒せば、相応の鉱物が入った鉱石などが出て来る。
「他にも、エネルギー源になる魔石に、ポーションやエリクサーなどのアイテムも出るぞ」
「妙に凝ったシステムだな」
「そういう魔法なのじゃ。それに、早く対応しないと」
「対応?」
出現したダンジョンであったが、今後三年以内に最下層まで到達してそこを守るボスを倒さないと、完全に消えてしまうらしい。
「嫌なシステムだな」
「この星の住民を、否応でも魔法による統治システムに組み込むための魔法じゃからの」
どのダンジョンも、低い階層には鉄や銅やアルミなどの一般的な金属が。
奥に潜れば潜るほど、金・銀・宝石・レアメタル・レアアースなどを含んだ鉱石が多く出る。
その分魔物も強くなっていき犠牲も出るのだが、地球に住む人類が今の文明生活を維持するためには、ダンジョンから資源を得るしかないとも言える。
「今は、各国がほぼ同じ条件じゃ」
だが、三年が経ってもクリアーされていないダンジョンは容赦なく消える。
途中の階層で、実入りが良いからなどと足踏みをしていると、三年でダンジョン自体が消えてしまう。
ある意味、嫌な魔法とも言えた。
「一度クリアーすれば、もうそのダンジョンは永遠に使える。潜った人間が、その力量に合わせた階層で自由に鉱物を得られるわけじゃ」
自信の無い人は、浅い階層で鉄や銅などを。
実力のある人は、深い階層で貴金属や宝石の原石などを。
他にも、魔物がドロップする魔石やアイテムは、下の階層で強い魔物になればなるほどドロップ率や質が上がるそうだ。
最後に、三年で消えたダンジョン分で採れるはずであった資源やアイテムは、ちゃんと攻略されたダンジョンの分となる。
最下層までクリアーされたダンジョンが少なければ少ないほど、残ったダンジョンは価値のある物となるのだ。
「この事実を、世間に公表しても……」
「誰が信じる? 言うだけ無駄じゃ。それに……」
数日して、同じような可能性を考えた人もいたらしい。
自衛隊の部隊に刀や打撃専用の武器などにプロテクターを装備させたところ、僅か一日で富士の麓にあるダンジョンの一階がクリアーされたというニュースが流れる。
「消滅した化け物が落とした鉄鉱石、銅鉱石、アルミ塊に、謎の液体が入ったガラス瓶。なお、化け物で最初に遭遇した種類は、スライムと呼称される事となりました。倒した化け物から押収されております謎の液体は、現在国立科学研究所において解析中で……」
「さすがはこの国。もう当たりを付けたか」
ダンジョンRPGゲームそのままなので、ゲーマーが多い国では気が付いたらしく、剣などを装備した軍の部隊がダンジョンに潜り始めたらしい。
国によっては、政府が把握し切れていないダンジョンに一攫千金を求めて民間人がチームを作って潜ったり、それが反政府組織だったり、犯罪組織であったりと。
その辺は、お国事情が繁栄されているようだ。
「しかし、大丈夫なのかね?」
「レベルアップするからの」
魔物を倒すと、経験値を得て成長する。
その辺も、ゲーム仕様になっているそうだ。
「そういう事なので、早速ダンジョンに潜るとしようかの」
「俺が?」
「何度も同じことを言わせるな。お前の新しい仕事じゃ」
確かに、魔物を倒して鉱物やアイテムを得て他に売るのだから、ある種の自営業とも言える。
冒険者と呼ぶのに相応しいとも言えたが。
「せっかく、この地下にダンジョンがあるのだぞ」
「マジで?」
「あの社と畑に下にあるのじゃ」
まさか、こんな場所にダンジョンがあるとは思わなかった。
なぜなら、日本では富士の麓を始めとして有名な山の近くに多く、他の国でも平坦な場所や砂漠などに多くが存在していたからだ。
「ここのダンジョンだけは、特別なのじゃ」
「特別?」
「うむ。銀河正統連合政府からの偵察者たる我が、ひもじい思いをしないでこの社会に潜り込めるようにと、資金源となっておるのじゃ」
「という事は……」
魔法の影響で出来たダンジョンではなく、白キツネが管理し自由に出したり消したり出来るダンジョンのようだ。
お宝である鉱物などは、地球から拝借しているそうであったが。
「場所は社の下と言ったが、正確には別の次元に繋がっておる」
社から白キツネに入れて貰えるが、社の下をいくら掘ってもダンジョンは出て来ないらしい。
「何で、そんなに複雑な……」
「我の物だからじゃ。この国のお上とやらに権力で没収されても嫌だしの」
そういう考え方では、白キツネと呼ぶに相応しい強かな部分もあるようだ。
「早速、ダンジョンに潜るとしようか。安心せい、我も付いて行くからの」
「準備は?」
「農機具で十分じゃ」
仕方なしに、俺は農機具を持ち白キツネに付いて外の社へと向かうのであった。