第二十六話
「さて、幾らになるかの?」
「興味あるのか?」
「高ければ、その分デパ地下食材が買えるという物じゃ」
「別に、普通の稼ぎでも買えるだろう」
「今日は、新宿の○島屋に寄って行くぞ」
「北海道物産展が開催中だからか?」
「正解じゃ。なぜか、地元のデパートでは滅多に開催されんのじゃ」
長い友達(髪)との付き合いで苦労しているセレブな方々や、その代理人達が注目する中。
遂に、絶対に効く毛生え薬のオークションがスタートする。
会場の中心部にある、特に貴重で値段の高い物が出品されるスペースで毛生え薬は一つずつ出品されていた。
空子は落札価格に興味があるような事を言っているが、この元キツネが一番興味があるのは、帰りに寄る予定のデパートでの買い物だ。
何でも、首都東京のデパートは品揃えが違うらしい。
あと、現在新宿のデパートでは北海道物産展なる物が開催されている。
俺からすれば、北海道に行かなくても土産物が買えるくらいの感覚しかないのだが、前にテレビ番組で特集を見た空子からすると絶対に外せないイベントらしい。
見た目は二十歳前だが、実年齢は百万歳の空子に相応しいババ臭さであった。
「それで、いくらからスタートなのじゃ?」
「三千万円ですね」
俺の代わりに、まだ残っていた阿部さんが空子に教えていた。
資源公社のお歴々が、わざわざ時間をかけて会議で決めたそうだ。
高い給料を貰っている割に下らない事に時間をかけるのは、天下りが多いから暇なのかもしれない。
と言ったら、阿部さんは困ったような顔をしていたが。
「高いのか、安いのか。判断が難しいの」
「一回ハンマープライスしないと、本当の標準価格がわかりませんからね」
などと話しながら、二人は会場内で購入したXLサイズのコーラと極楽鳥の唐揚げドカ盛りを頬張っていた。
この二人、先ほど昼食でワイルドボアカツ丼のギガ盛りを食べていたような気がしたのだが……。
そして始まったオークションであったが、その価格は恐ろしい勢いで上昇していく。
「三十億円!」
「五十億円!」
「六十億円!」
「上がり方が、尋常じゃないような……」
先ほどの宝来グループの会長を始め、参加者が次々と値段を釣り上げていく。
「七十億円!」
「百億円!」
「百二十億円!」
そのあまりの金額に、俺は半ば眩暈を感じていた。
「みんな、必死だね」
「それはですね。理沙さん」
今度は、蒸かしダンジョン芋バターたっぷりを頬張りながら、阿部さんが事情を説明する。
なお、阿部さん達が食べているダンジョン産食品を使った料理は、観光地にもなっているお台場オークション会場の名物となっていた。
資源公社から食材を仕入れ、多くの食品メーカーや料理人が店舗を借りて営業しているのだ。
「社会的には成功してお金はあるから、若い頃に失った髪を取り戻す。そのためには百億円くらい惜しくもない。そういうお金持ちって、世界中に沢山いますからね」
あと、値段を上げているのは、製薬会社から依頼を受けたバイヤーなのだそうだ。
「解析して、量産化をしたいのでしょうね」
ダンジョン産のポーションや素材などの解析は、ある意味では順調であったし、ある意味では順調とは言えなかった。
ある程度成分などの解析も終わり、試作品なども出来始めてはいたのだが、なぜかダンジョンで獲得したアイテムに比べると大幅に効果が落ちてしまうからだ。
『なぜかと我に聞くのかえ? 理由は簡単じゃ。生成時にマナを込めないと』
その解析では一切探知されないマナが、そのアイテムの性能を決定付けるのだと空子は説明していた。
なので、普通に工場で作れば性能も落ちて当たり前だ。
だが、それでも既存品に比べれば高性能品ではある。
高付加価値商品として、次第に世間に普及するようになっていた。
「つまり、毛生え薬も解析して量産すれば。ソコソコは効果のある毛生え薬になると?」
「使用した一定割合にだけは効く。その分、値段は安めで数万円とかですかね?」
「でも、それって昔に流行した毛生え薬と同じだよね?」
理沙の言う通りで。
昔に定期的にブームになっていた、当たるも八卦当たらぬも八卦ならぬ、生えるも八卦生えないも八卦な毛生えに似てなくもなかった。
「安価で良い毛生え薬が開発される。経済にとってはメリットですから」
「阿部さんは総理大臣だから、そう言うけど……」
その間も周囲がドン引きするオークションは続き、結局三百五十五億円、三百八十五億円、四百十五億円という。
とんでもない額で、三つの毛生え薬は落札されたのであった。
「残念ですね。転売で儲けようとしたのに」
あの宝来グループの社長はマスコミからのインタビューで、毛生え薬が落札できなかったので儲けにならなくて残念だと。
殊更強調して答えていて、事情を知る身としては少し物悲しかった。
ちなみに、三つの毛生え薬を落札したのは全て代理人だったので、落札者の正体は一切明らかにされていない。
ただ、アメリカの不動産王の人と、IT長者の人の髪が急にフサフサになったり。
一年後に日本の某製薬会社から、『これで駄目なら!』というキャッチフレーズで育毛剤の新製品が出たり。
どうやら本当に、毛生え薬は本当に効果があったようで、ひと財産求めて多くの冒険者達がそれを目指すようになるのであった。
「とはいえ、そんなにポイポイとは出ないわけで」
「レアアイテムじゃからの」
数日後、助っ人でとあるダンジョンの九十階層を探索しながら話をしていると、また目の前に見た事が無い魔物が現れる。
「というか、魔物?」
「一応、魔物じゃの。しかも、レアモンスターじゃ」
その魔物の見た目は、大き過ぎるピノキオみたいであった。
大き過ぎるので、ダンジョンの天井に引っかかって動けないというヲチがあるのは別にしてだ。
というか、こいつは何のために出現したのであろうか?
レアアイテムの、交換キップ代わりなのかもしれない。
「なあ、空子」
「トールマンレベル87か。天井に突っ掛かって動けない時点で、レベルの意味が無いがの」
確かに、近付かなければ攻撃が当たらないのでレベルもクソもなかった。
俺達を見て懸命に腕を振り回しているが、アレではレベル87も泣くという物だ。
しかも木で出来ているので、また理沙の火魔法で燃やされてしまい。
最後に、鉱石と魔石と何か瓶に入った錠剤のような物が残される。
「おおっ! これは!」
「これは?」
「身長が伸びる薬じゃ。三百粒入りで、一粒飲むと身長が一センチ伸びる。ただ、二メートルを超えては伸びないようじゃ」
「義信ちゃん、始まるね」
「ああ」
理沙の言う通りで、またこの薬を巡って漢達の熱い戦いが始めるのであろう。
そして、きっとあの人もまた参加するはずだ。
そう、先日にアナライズでレベルを見た時に、彼はもう一つレベル補正のかかった装備品を付けていた。
『イタリア製の、最高級でバレ難いシークレットシューズ+8』
俺達は、今度こそ宝来会長がハンマープライス出来れば良いなと、心からそう思うのであった。
 




