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ダンジョン発掘物語   作者: Y.A


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第二十三話

「南の島かぁ。ロマンチックだね、義信ちゃん」


 抜けるような蒼い空と海に、真っ白な砂浜。

 砂浜の奥には椰子の木が生えていて、イメージ通りの南の島の風景がそこには存在していた。


 そんな砂浜で、俺が結婚式を挙げたばかりの妻理沙と二人きりの時間を過ごす。

 リア充でもないイケメンでもない俺であったが、こういう時くらいは、女性と二人でロマンチックな時間を過ごしても良いであろう。


 今は、貴重な新婚期間でもあるわけだし。

 いまだに理沙から、『義信ちゃん』と呼ばれている件に関してはもう気にしない事にしていた。

 そう、これは夫婦生活が円満になるためのあだ名のような物なのだと。

 

 決して、旦那として威厳がないわけではないのだ。


「これで、仕事じゃなければねぇ……」


「あとで、自由時間くらい取れるさ」


「そうだね、義信ちゃん」


 そう、焦る必要などないのだ。


 今回俺達は、日本政府からの依頼で南太平洋に浮かぶ島パステル島に来ていた。

 この島は、戦前は日本の統治下にあり、今はパステル共和国として独立をしている。


 人口八千人ほどの小国であったが、この島に突如ダンジョンが出現し、その攻略を日本政府に手伝って欲しいと依頼が入ったのだ。


 アメリカは、アラスカとカナダの助っ人で手一杯。

 中国は、まだ自国のダンジョンすら一つも攻略できておらず、悪評も高いので、パステル共和国側も人員の派遣は勘弁して欲しいと思っている。


 何しろ相手は中国人なので、一度下手に門戸を開けると最悪国を乗っ取られてしまう可能性があるからだ。


 結果、元の宗主国である日本に白羽の矢が立ったわけだ。


 石刃さんから、『新婚旅行も兼ねてどうですか?』と上手く誘導されてこの島に居る俺達であったが、こういう南の島に一度行ってみたかったという願望も大きく。


 しかも、妻との新婚旅行ともなれば余計に嬉しいというものであった。


「コテージから見える夕日が綺麗なんだって」


 気を利かせて、その時に『理沙も同じくらい綺麗だよ』とか素で言える奴がリア充なんだろうな。

 などと思っていると、周囲から次第に雑音が入って来る。


「義信、せくしぃな水着を着てみたぞ」


 俺に、またデパートで何時間もかけて選ばせた水着を着た元白キツネに。


「あのう、瞳子さん。オイルでも塗りましょうか?」


「いえ、自分で出来ますから」


 相変わらず、想い人に相手にもされていないドMな同級生と、相手にもしていないSな秘書兼パーティーメンバーに。


「私はですね。こう見えても、学生時代にはサーフィンなどの経験もありましてね」


「本当ですか? 丘サーファーだったのでは?」


「失礼な。石刃さんこそどうなのです?」


「運動系はちょっと……。ですが、こうして蒼い海や空を見ていると、五月蝿い長老連中や、どうやって選ばれたのか疑問な民新党の連中を忘れられるかもしれませんね」


「いや、忘れたくてもそう忘れられる連中では……」


 なぜか水着姿で、砂浜に置かれたリクライニングチェアーに寝転んでいる、現役の総理大臣と政権与党の幹事長に。


「海では、やはり缶ビールに限りますな」


「このまま海に入ると、タコ八郎ですが」


「田井中さんは、懐かしい人を知っていますな」


 同じく水着姿で缶ビールを呷る、現役副総理と善三さんにと。

 

 三名ほど、居てはいけない人達がいるような気もするのだが、もう気にするだけ無駄なので無視する事にする。


「義信ちゃん、早くダンジョンに潜ろうか?」


「とっとと攻略して、早めに新婚旅行を楽しむか」


 俺と理沙は、敢えて外野の事を考えないようにしながら再び南の島の風景に没頭するのであった。





「パステル共和国副大統領のアミンゴ・サトウです」


「ええと、日本語がお上手ですね」


「昔は日本の統治下にありましたし、終戦後も残留した日本人は多いですからね。かく言う私の父もそうでして。公用語も英語と日本語なので、話せる人は多いのです」


 暫しの観光後に、俺達のパーティーは島内にあるダンジョンの入り口に移動し、そこでこの国の副大統領から挨拶をされる。

 

 戦前からこの島に住んでいた元日本人を父に持つアミンゴさんは、良く日に焼けてはいたが、見た目は日本人その者にしか見えなかった。


「日本語が通じるのはありがたいです」


 一応大学出なのだが、それだけで日本人がそう簡単に英語を話せるはずもない。

 柔道ばかりしていたという理由もあったが、それも中途半端で国際試合なども経験も少なかったために、やはり俺も英会話は苦手であったからだ。


「我が国でも、ダンジョン攻略メンバーの選定などは行っているのですが。みんな日本語が話せるので、手助けは日本の方に頼んだ方が良いという結論になりまして」


 やはり、パステル共和国側でもダンジョン探索を行える人材の育成は行っていく方向のようだ。

 

 一度でも百階層まで攻略してしまえば、あとは三年経ってもダンジョンは消えない。

 勿論この事実は秘密ではあるが、パステル共和国にダンジョンが残れば何かと日本の国益になる。


 日本人冒険者を探索に送り込む際に便宜を図って貰えるし、地元のパーティーが採集した鉱石やアイテムを優先的に売って貰えるからだ。


「現地のパーティーの人達は、まず最初は低階層からレベルアップをしていただきたいですね」


「その辺のマニュアルも含めて、これは日本からの暖かい支援であると」


 日本人精鋭パーティーによるダンジョン先行攻略により、ダンジョンのマッピングや、現れる魔物やドロップ鉱石とアイテムの情報を得る。

 他にも、冒険者に供与する武器や防具の無料支給にと。


 これらは、全てODA(政府開発援助)の予算によって賄われる事となっていた。


 少々の違和感を感じなくも無いのだが、某GNP世界第二位の国に援助するよりかは役に立っているので、それについては何も言わない事にする。


「早速ですけど、我が国が選んだ精鋭パーティーの紹介です」


 サトウ副大統領は、そう言いながら後方に控えていた地元住民有志による冒険者パーティーを十組ほど紹介する。


 だが俺は、その人員構成に大きな違和感を覚えていた。


「クリスティーネ・タナカです」


 代表して一つのパーティーのリーダーが自己紹介をするのだが、彼女ばかりでなく。


「シルヴィア・スズキです」


「ソフィア・オオシタです」


「ええと……。なぜに女性ばかりで?」


 出揃ったパーティーの、女性比率は100%。

 まるで女子高のような雰囲気に、あまり女性慣れしていない俺は、これからどうしようかと真剣に悩んでしまうのであった。





「女性ばかりだと緊張する? 相変わらず、駄目な義信よの」


「五月蝿いわ! せめて半分は男が居ないとかえって居心地悪いし!」


 時間も無いので早速ダンジョン攻略は始まっていたが、やはり異文化コミュニケーションとは難しい物だ。

 

 南太平洋にある小国パステル共和国に発生したダンジョンを攻略するため、現地で結成されたパーティーに合流したら女性しかメンバーがいなかったからだ。


 こう言っては何だが、俺は女性との接し方が良くわからない。


 中学生の頃から、行動のかなりの部分を柔道に割かれていた影響で、周囲には汗臭い男性ばかりが存在していたのだから当然だ。

 数少ない女性選手なども、まあテレビのオリンピック放送などで見ていただければわかると思う。


 こう言うと失礼になるかもしれなかったが、強くなるのは色々と大変なのだ。

 某有名柔道漫画ような美少女キャラは、まず存在しないと断言できるほどなのだから。


 そんな環境にいた俺が、急に南国産の肉感的で魅力的な美少女・美女達に頼られるようになれば。

 キョドって、何が悪いと言いたくなってしまう。


 実際に、彼女達からスキンシップ旺盛な挨拶を立て続けに受けて顔を真っ赤にさせ、それのせいで空子にはからかわれ、理沙からはお尻を抓られる事となり。

 早速に、理不尽な目に遭っていた。


「世の中の半分は、女性なのじゃぞ」


「いや、別に物凄く苦手というわけではなく……」


 リア充やイケメンのように、恥ずかしがる事もなく適度な距離を保った関係の構築が苦手だと言っているのだ。

 現に、俺だけではない。


 日系人が多いせいもあるようで、俺達と同道している警察や消防主体のパーティーにいる連中も、彼女達に笑顔で話しかけられて顔を赤くさせている者も多かった。


「成りばかりデカくて情けないのぅ」


「公務員組は、大半がこんな物だろう」


 一部、第一種国家公務員に余裕で受かるキャリア組のような連中には、恐ろしいほどスマートなイケメンも存在する。

 だが、ここで冒険者パーティーを組んでいるような連中には、体育会系が多いわけで。


 彼らは基本的に、男社会である。

 数少ない女性と接する機会が、女子部と隣接して練習しているとか、マネージャーが女性だとかそんな物なのだ。

 ちなみに、俺の場合はマネージャーすら男性であった。


 野球やサッカーでもあるまいし、柔道のようなマイナー競技の部に女性マネージャーなどそう来ないのだ。

 可愛い女性マネージャーなど、都市伝説と言っても過言ではないであろう。


「何か、鬱屈した青春だね」


「あのさ、理沙も女子高で」


「あはは……。あんまり、人の事は言えないか……」


「ところで、なぜに女性ばかりなのじゃ?」


 と言う、こちらの過去の事情は置いておくとして、確かに空子の言う通りである。

 まさか女性しか国民が居ないわけでもないはずで、俺は近くに居るアミンゴ・サトウ氏に事情を聞いてみた。


「ええと、南国特有の事情とでも言いましょうか……」


 基本的に、昔から南の島に住んでいる人達は男性があまり働かないらしい。

 北国よりも食料を得易いし、服や住居に手を抜いてもすぐに死んでしまうわけではない。


 結果、女性に全ての仕事を押し付け、酒を飲みながらダラダラしている男性が多いそうだ。


「それでも、昔は戦いもあったんですけどね」


 それでも、昔にまだ部族ごとで対立していた時代には戦いという仕事もあったのだが、それも日本統治下時代にほぼ完全に無くなってしまったそうだ。


「旧大日本帝国政府から、漁業・農業技術の支援もありましたからね。争う理由が無くなってしまったんですよ」


 それが理由で仕事が増え、戦後は独立したので公の仕事も増えと、男性も普通に働く比率が増えたそうだ。

 だがそれでも、やはり働かない男性は多いので、女性も積極的に社会に出て働いている人が多いらしいのだが。

 

「じゃあ、その余っている男性がここに来れば……」


「理沙さん、それは無理です」


 この国では戦いは男の仕事らしいので、ダンジョン探索には向いているような気もする。

 実際、そう思った理沙が提案をしてみたのだが、それはアミンゴ・サトウ氏によって否定されてしまう。


「残念ながら、この国の男性にはもう百年近くも戦闘経験が無いのです」


 旧大日本帝国は彼らに部族間闘争を禁止させ、その代わりに食糧生産を増やす支援を行った。

 ところが、その仕事に就いた男性の数は意外と少なかった。


 過去からの風習で、やはり女性に任せてしまう人が多かったからだ。


「結果、何もしない男性というのがこの国は一定数居るのです」


 外からの変化に従って、農業・漁業・商売・公務員などで男性が働くのが普通だと考える家に、昔からの風習で男性は働かないのが普通だと考える家と。


 完全に、二つに割れてしまったそうだ。


「というわけで、若い女性ばかりなのはまだ未就労であったり、新人なので、職場が国への支援として送り出した人材というわけです」


「はははっ、凄い話ですね……」


 しかし、働かないでも何も言われない男性というのも、日本の常識で考えると驚くというか、ある意味羨ましいと思ってしまう。

 以前、転職活動で悩んでいた俺からするとだ。


「いいなぁ。働かずに食える生活って」


「そうか? 我が思うに、相当に退屈だと思うぞ」


「私もそう思うな」


 人は、無職になると暇を持て余し、職があると暇を切実に欲する。

 そういう存在なのかもしれない。


「しかし、空子がそれを言うとはな。人に養えとか言った癖に」


「我は、自分の食い扶持は自分で稼ぐつもりだぞえ。自分で稼いだ銭で買うデパ地下食材は美味しいのでな」


「それ、言うと思ってた」


 何でそんなに空子はデパ地下が好きなのだと思いつつ、俺達の初の海外ダンジョン探索が始まるのであった。

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