-7/31- Prologue of another person-
いつも通り、誤字脱字あるかもしれません。スミマセン…orz
7/31
一週間以上の遅れを取り、終業式を迎えるこの高校は他から見れば変わっている仕組みだろう。
他の学校はすでに夏休みを迎えている。
今日が、終わる日・・・
夏休みを明日に控えた終業日。
昂ぶる気持ちを抑えることの出来なくなる、ある意味“特別”な日だ。
校長の演説を聞き終え、体育館から教室に戻って来る様々な生徒。
その一部。
とあるクラスで、
「さぁ、告ってこい!」
クラスを縦横無尽に飛び交うざわめきの中で、声を抑えた複数の男子生徒が1人の男子生徒を後押ししていた。
「いや!ちょっ!!待っ!」
無理矢理押される生徒の名前を琴羽進と言う。
僅かに茶色みを混じえた黒髪と、蒼い瞳。
長い期間外国で生活した経歴を持つ男子生徒で、性格の良さから誰もが彼を善人という。
進のクラス内での地位は中間辺りで、勉強の成績も中間から少し下である。
外国で生活していただけあって、英語の成績だけはいい。
その他は平均並みか、それ以下。
特に物理は・・・
そんな彼も、1人の男としてある女子のことが気になっている。
今、ホームルームが始まるまでの休み時間中に、親友の男子生徒全員が告白を勧めてきた。
改めて進の目が彼女に向く。
いま、彼女はどこか疲れたような雰囲気を漂わせ、自分の席で物憂げに考え込んでいた。
「夏休みになったらもうチャンスはない!
行くなら今しかないぞ?」
怪しい笑顔で言ってくる友人達。
彼らは、進が彼女に告白して『フラれる』か『OKの返事』をもらうか、その結果を楽しみにしているようだ。
おそらく、賭けもしているだろう。
「OKもらえりゃ、8月から天国だぞ!」
などと言ってくる。
軽く『天国』なんて言っているが・・・
本物の天国に召されそうになった進には、その感覚がよくわからないのである。
“嬉しくても天国にいける”という意味だろうか?
「行け!じゃなきゃ他の男に取られるぞ!」
そう言われ、進の目は彼女:杵島 ミキに向いた。
「アイツのどこにほれたか知らんが、杵島は外見的に結構モテらしいぜ?」
教室中がざわめきでごった返しているため、この会話が聞かれる心配は無い。
小声で繰り広げられる会話ならなおさらだ。
が、やはり照れる。
「そういや、杵島のどこに惚れたんだよ?」
メガネの友人が聞き、杵島に目を向けた。
「確かに美人ではあるけど、あいつ今まで何人か告白蹴っているらしいぞ?」
「うそ!?マジか?」
「そんな話初耳だよ・・・」
その話に進も軽く驚いた。
「付き合いが悪いなぁ・・・」
別の友人が言った。
「確かに、そういう噂があったな。
で、進。
杵島のドコに惚れたんだ?」
「全部、とかはナシだぞ」
「いや、それはちょっと・・・」
「何ぃ?言えない恋ってかぁ!?」
楽しそうに笑う友人。
正直、恥ずかしすぎて自分でも口にできない。
(運命的なものを感じるから・・・な)
と、言ったらどうなるだろうか?
そんなの分かりきっている。
100%馬鹿にされる。
その時、進の表情が変わった。
「・・・・・・実力だよ」
『実力ぅ?』
友人一同が声をそろえて聞き返す。
「ああ・・・」
それから進は沈黙を続けた。
結局、ホームルームが始まるまでに告白することが出来なかった。
いや、しなかった。
帰路についた進はひとり考えていた。
冷静に考えてみる・・・
彼女は疲れたような顔をしていたし、あの場じゃタイミングが悪い。
だから、放課後に声をかけて話をしようと思った。
だが、進が動くよりも早く、彼女は下校・帰宅していた。
(はぁ・・・)
終業式だけあって下校時間は早い。
だが、彼女の下校は誰よりも早い。
(バイトでもやっているのかなぁ…)
《可能性は高いな》
いきなり、頭の中に声が響いた。
進は1人で考え込みたかったが、不可能だった。
《アイツの能力値からいって、不可能な仕事はほとんど無いしな》
そう言ってくるのは進の中に存在するもう1人の男だ。
正直、かなりうざい。
そして、その正体を進は知らない。
(君、さっき出てきたろ?)
進は友人との会話中のことを思い出す。
《助かっただろ?》
笑うような喋り方の男。
対照的に、進は沈んだ気分になっていた。
(友達の質問くらいなら簡単にはぐらかせたのに)
《いいや、お前には無理だよ琴羽 進》
(ねぇ、そろそろ名前くらい教・・・)
《いい加減にして欲しいのはこっちだ。何故、俺のことがわからない》
(知らないよ。
僕は君の事を知らないのに、君は僕を知っているなんて・・・不公平だよ)
この会話を声に出したら独り言になるだろう。
いないはずの相手との会話。
だが、進は例外だ。
声を出す・出さないに関係なく、自分の中のもう1人に声は届いている。
思うだけでもそいつは返答してくるのだ。
つまり、心に思ったことも、中にいるもう1人の誰かに読まれている。
心底うざったい。
いやでも会話に発展することもあるため、独り言を夢見たこともあった。
《言えるうちに言っておきな、どうせ夜になったら主導権は俺のものになんだ》
(そ・・・そうとは限らないじゃないか)
《隠せないのは知っているだろ?
仕事が入ってる。そうだろ?
それも、今夜》
再び進の口から溜息が漏れた。
もう1人の彼が言うように、今夜も仕事が入っていた。
『新しい商品のテストをしたい』
それが、カラウォルド・テック社に協力している立場にいる進に送られたメールの内容だった。
進は、何故自分があの会社に協力しているのか、その理由を知らない。
鍵を握っているのは、名も知らぬ自分の中の少年だった。
だが、未だに名前を聞くことさえ成功していないのが現状である。
重い足取りで彼は自宅へ急ごうと努力した。