第3話 強いのは…
「……え……ぁ…」
「なっ………!!ネクサス!」
フェイルが固まる…アスラルも固まる…
アーティは気を失う…予想外なのか否か
ネアスの動きも鈍る…静寂が訪れる……
ガタガタと震えフェイルが崩れる
足下のネクサスを抱き寄せるが
血に怯え始める……もちろん隙だらけだ
だがネアスもまた動けずにいた
[兄さん………兄さん兄さん兄さん]
「誰の………声…!?」
「気を抜かないで下さい!」
アスラルはフェイルとネクサスの前に立ち
警戒を怠らず辺りを見渡す
ネクサスに治癒魔法を必死でかけながら
フェイルは突如聞こえた声に耳を傾ける
[オレが…!?!?オレが!!!!!]
「ネアス!?」
「ネアス君………」
声の主が分かる…間違えるはずがない
ネクサスに似ていて
ちょっと子供っぽい声……
ネアスの声だと気付くのに
そう時間は掛からなかった
目の前のネアスは
手をダラリと下げて力無く立つだけ
まるで魂が抜け落ちたかのように
ネクサスの治癒を終えてから
フェイルは自分の頬を一度二度叩いて
自分をはっきりさせる
「ネアス…………!!!」
「フェイル!!」
ネアスに向かうフェイルに
アスラルは声を掛けるが
フェイルは無視する
[フェイル……寄らないで…!!
寄らないで!!!!!!]
「な……なん…で……」
そこでネアスの声は消え去る
疑問を抱いたままフェイルは
ネアスに近寄る……
依然としてネアスは動かない…
また後方に居るネクサスもまだ
目を覚ましては居ない………
「………………」
自分なんかより
ずっとずっと大きなネアスにしがみつく
ピクリとネアスが身を揺らす
「…戻って…戻ってよ……」
フェイルは泣きながらネアスに言う
ネアスの手が…左手がピクリと動く
涙の粒がその手に落ちる……
それが輝き始め
フェイルは眩しさに目を閉じる…
一瞬 一瞬だけ 何かを感じた
暖かいもの………溢れそうなほどの
優しさが満ち溢れて それに包まれて
目を閉じてみる……
感じるのは闇じゃない…強い光……
「…ごめ……フェイル…兄さん…」
見上げればそこには元のネアスが居た
手は元に戻り邪気を纏う仮面は消えていた
フェイルが少し離れてはガクリと膝を付く
地に顔を向けポタリ ポタリと
涙の粒が地を濡らす………
「オレ…オレはまた彼奴の…!」
フェイルは目線合わせて
ネアスをギュッと抱き締める
小さい手で…身体で……抱き締め…
少しだけ真面目な表情に変えて
ネアスを真っ直ぐに見つめる
「……ねぇ…ネアス…
こんな事を今聞く事じゃないけど…
分かってるけど知りたいの…
僕の……一族を襲った人…分かる?」
「……オレ……の…一族…
彼奴に…オレみたく操られた魔族…」
「……魔族…の………仕業…?」
「あぁ……兄さんは父さんを信頼してる
だから…だから言いたくない…
でも……でも今なら言うさ…
父さんは魔族を操りこの一族を襲った
そしてフェイル…お前の弟を…
一族の中で一番強い龍の力を持つ
レイヴィルを浚ったんだ………」
「………ッ…!」
「父さんは器を探していた……
次の魔族の王に相応しい人を…………
ずっと……兄さんは駄目だった…
理由は簡単だ…優しい心を持った
そして何より…
父さんは兄さんが好きだったから…
オレは弱かった………力と覚醒を
求められたが今のように…
………力の安定さ…神の器
父さんは……レイヴィルに目を付けた」
「そうだったのか…」
『!?』
「……ネアス…お前がオレと
距離を置き嫌っていた理由は
そう言う所からだったのか
………気付かなくて悪かった」
「に………いさ…」
ネアスが更に涙ぐむ
プライドも何も捨て去って
ネクサスにしがみつくネクサスもまた
ネアスを強く抱き締めてやる…
フェイルは2人を笑顔で見守る…
…………それから…低い声が響き渡る
-……愚か者が………ネアス……-
「……ひ…っ!!!」
「誰!?」
「父さん…………」
ネアスが身を縮こませ
ネクサスが庇うように立ち
辺りを睨み付ける
-ネアスの言葉を信じるのかネクサス-
「ネアスは…オレの大切な弟だ!
信じるさ…信じてやるさ!」
-この私を裏切るのか……-
「ネ……ネクサスのお父さん
なんでネアスを信じることが
お父さんを裏切る事になるの…?」
フェイルは持っていた疑問をぶつける
ネクサスもネアスもハッとする
声が止まる………
「父さん………本当は父さん…」
ネクサスが睨み付け言い始め
一気に闇が濃くなる
-黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!-
雷が迸る…一直線にネクサスに向かう
ネアスはいち早く気付き
鎌を空に掲げる……手を離すのが…
一瞬だけ遅れる…鎌は避雷針になる…
それは……………………
「……っく…!」
「う……ぐ…ああああぁぁぁあ!!!」
『ネアス………!!!!!!!』
フェイルとネクサスの声が重なる
ドサッとネアスが倒れ込む
笑い声だけが響き渡る
-ふふっ……くはははははっ
私から見れば貴様等所詮赤子程度だ
ネクサスよ何も知らず
私と居れば幸せだったと言うのにな-
「貴様………!!!!それでも
オレ等の父さんなのか!?」
-仕方無く生み出した玩具よ…ふふっ-
「……っ…!アスラルーーーーッー!」
ネクサスがアスラルを剣に戻して
空間を睨み付ける
剣を構える……馴染みの構えだ…
フェイルはネクサスの強さを
誰より何より知っていた
だから少し安心していた……
「出て来いッ!!!来い!!!!!」
-ふははははは!!!!!!
ならば私の城へ帰って来るがよい…
……それから…龍族……
貴様の弟を取り戻そうなど考えるなよ
考えるだけ無駄だ……
あの者……いや…王子は…
最早貴様の事など記憶には無い-
「…え………レイヴィル…」
声も気配も消え去る………
ネクサスは負傷したネアスを抱え
フェイルはただ……呆然と…
虚空を眺めて居た―――――…




