-11- 宴 (2)
「では、修哉の帰省を祝って。乾杯!」
「乾杯!」
「何度目の乾杯だ!」
勝一の音頭で修哉を交えた宴が始まった。泰三が今にも泣きそうな皺だらけの笑みを浮かべ、修哉の持つグラスにビールを注ぐ。勝一がそれを見てニヤける。シズエは「ほどほどにしなさいよ」と修哉を気遣う。当たり前のようなその風景は、特別な存在だから生まれるのだ。
両親を失い、町の人が腫れ物に触る家族のように優しく接してきてくれたあの頃。ウザったいと思えていたそれが、本当は自分の存在の証だったことに気づいた修哉。それをヒシヒシと感じ取りながら宴は時を数えていくのだった。
「その、あの日から……。何か変わった?」
宴の盛り上がりも少し落ち着きを見せ始めてきた頃、修哉は思い切ってそれを尋ねてみた。誰も口に出さなかった六年前の悲劇のその後を。
「そんなに変わらないよ。少なくとも川を挟んでこっち側は」
勝一が淡々とそれを話すと、酔いつぶれて寝息を立てる泰三に毛布を掛けながらシズエがこぼした。
「違うね。変わらないようにしているだけさ」
絶対に変わらないはずは無かった。六年前この町に住む人たちの心に深く切り刻まれた悲しみ。誰も口には出さずとも、その壁を乗り越えてきた人たちがここに居る。
「だからね、生き残ったアタシたちくらい、強くならなきゃいけなかったのさ」
「……うん」
修哉が手放した伊草町。そこで暮らし続けてきた人々の悲しみを問うことの無意味さと、そこから生き抜いてきた逞しさを修哉は思い知らされたのだった。
「まぁ、アタシ達伊草の人間よりも、他所の人間の方が変わったのかもね」
「どういうこと?」
すると勝一は顔を強張らせ吐き捨てるように言った。
「政治家だよ。奴らは口ではさも綺麗ごとばっか並べるわりにゃ、未だにあの鉄格子だ。修哉も見ただろ? 伊草橋」
「あぁ、うん」
「墜落機が国家機密だか何だかしらんが、町ごと臭いものに蓋をしたんだよ」
「……そうだったんだ」
「結局、伊草を棄てたんだ」
困惑する修哉をよそに、他の町民も同様に口をそろえ勝一に同調するのだった。
「西本さんも、それくらいにしなよ。今日は修哉の為のお酒なんだからさ」
シズエがたしなめると勝一は「そうだったな」としおらしくコップに日本酒を注ぎ込む。するとシズエは修哉に向かってこう漏らした。
「あの日何があったのか、そしてそれの何が問題なのか。そんなこと本当はどうでもいいんだよ。アタシ達にとっちゃ」
「……」
「アタシ達はね、ただ普通に生活できればそれで良いんだよ。何でもない朝を迎えて、ご飯を食べて、汗垂らして働いて。笑って、たまには怒って泣いて。そして普通に夜を迎えて床につければそれでいいんだよ」
「……」
シズエの言葉の一つ一つが修哉には重くのしかかる。この町の人々はとんでもない錘を背負ってこの六年間生きてきたのだと。