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ポチ、おつかいに行く

Sideポチ

ある日、コニーが風邪をひいた。

 朝起きると、ベッドでコニーが苦しそうに咳をしていた。あんまり苦しそうだったので、誰かを呼びに行こうとポチは考えた。ふよふよと飛んで移動していく。

 べちゃっ!

しかし、部屋の外へ出るには難所があった。部屋のドアを、ポチでは開けられないのだ。いつもコニーと一緒なので、ドアを開けられないことに、今初めて気付いたポチであった。

 それからどうしようかと十分ほど悩んだポチは、部屋の窓ならば己でも開けられることに気付いた。ポチはよし!と気合いを入れて開けた窓から外をのぞく。

高かった。

コニーの部屋は二階なのだ。どうしよう、こんなに高い場所を飛んだことがない。しかし今苦しんでいるコニーを救わねば!何事も成せば成る!えいっとポチは外へ飛び出した。

落ちた。

竜というのは頑丈な生き物であるので、怪我などはしていないのだが、もっと飛ぶ練習をしようと思ったポチであった。

 うまい具合に魔術師の部屋のあたりにまわりこんだポチは、窓にべっとり貼りついた。

「おい!コニーの具合が悪いのだ!早く見に行け!」

まだ寝ている魔術師が起きるまで、窓に貼りついていた。やがて物音で起きた魔術師は、窓に貼り付いている黒い物体を見て悲鳴をあげた。


「風邪だな。少し熱がある」

コニーの様子を見た魔術師は、今日一日安静にしているように言い聞かせる。

「えー、せっかくポチとおいしいもの食べに行こうと思ったのに」

いつもよりも弱々しい声で、コニーは残念がった。

「おいしいものならここで食べればよいだろう。あとで食べたいものを買ってきてやる」

「むー・・・」

コニーは不満そうである。そこで、ポチはひらめいた。

「コニー、我が今日行くはずであった店で、焼き菓子を買ってこよう」

魔術師に任せては夜になるに決まっている。ポチが買いにいけば、お昼に一緒に食べられるだろう。

「竜よ、お前が買いにいくのか?」

「そうだ」

ポチの言葉がわからなかったコニーに、魔術師が通訳してやると、コニーはぱあっと表情を明るくした。

「はじめてのおつかいだね、ポチ!俺モモも食べたい!」

ちゃっかりリクエストをするコニーであった。


魔術師にメモを書いてもらい、背中に買い物リュックを背負い、ポチは買い物に出かけた。村ではけっこう単独でふらふらしていたが、街にポチだけで出かけるのは初めてである。ふよふよと飛んでいく黒い物体を、通りをゆく人々はぎょっとした様子で避けていく。おかげで飛びやすかった。

「まずは焼き菓子だな」

コニーとよく行っている店に向かう。飛んでいる黒い物体に、店員も驚いていたが、すぐにそれがコニーの連れている竜であることに気付いた。

「ポチじゃないの、今日はコニーは一緒じゃないの?」

「コニーは具合が悪いゆえ、我が焼き菓子を買いにきたのだ」

キューキューと鳴いて、ポチは背中のリュックを店員に見せた。そこに買い物メモと代金を入れてあるのだ。

「あら可愛いリュックを背負って、見ていいの?えーっと、焼き菓子がほしいのね」

店員はすぐに理解して、リュックに焼き菓子を入れてくれた。代金もちゃんととってもらった。

「次はモモを買いにいくのね、がんばってポチ!」

「うむ!」

キュー!と店員の応援に答え、ポチは次の店に向かう。

 果物店はそこから近くにあった。

「なんでぇ、ポチじゃねぇか」

果物店の店主は、ポチに気付くとそう声をかけた。

「今日はコニーはいねぇのか?」

「うむ!今日は我一人である。コニーがモモを所望しているのだ」

キューキューと鳴いて、先程と同じようにリュックを見せる。

「ほー、モモがほしいのか。おつかいとはえらいなぁポチ」

店主はポチの頭を撫でると、リュックにモモを入れた。焼き菓子がつぶれないようにとちゃんとしてもらう。ポチのがんばりのご褒美だとか言って、一つ多く入れてくれた。もちろん代金をちゃんととってもらった。

「大丈夫か、ちいと重いぞ?」

「うむ!これくらいなんてことないのである!」

キュー!と店主に返事をして、ポチは尻尾をふりふり果物店をあとにした。


帰路で、ポチはリュックの重さのために高度をとれないでいた。三十センチほどの高さを浮いた状態で進んでいくポチは、何度も気付かない通行人に蹴られそうになる。だが、リュックの中身だけは死守してみせた。

「まっていろコニー、焼き菓子とモモをちゃんと買ったからな!」

危なっかしくふらふらと飛んでいくポチに、歩いた方が安全なのではないかと疑問を持った通行人たちであった。


「頼まれたものを買ってきたぞ!」

「ポチー!おかえり待ってたよ!」

窓から帰ってきたポチを、笑顔のコニーが出迎えた。

「わっ、リュックがぱんぱん。重かったでしょ?」

「我は竜であるからして、これくらいどうということはない」

強がりを言うポチを、コニーはぎゅーっと抱きしめた。愛情ゆえなのは理解できるが、内蔵が悲鳴をあげていた。

「ありがとうポチ!」

「うむ!」


ポチが買ってきた焼き菓子とモモは、昼食の後で一緒に食べた。

「次は一緒にいくぞコニー」

「今度は一緒に行こうねぇ」

ポチとコニーは、同じことを言って笑い合った。

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