魔術師がきた 後編
Sideコニー
コニーの母親の兄だというおじさんはすごいおじさんだった。なんとポチと会話ができるのだ!ポチがコニーたちの言っていることが分かっているのは知っていたが、ポチの言っていることが分かるなんて驚きだ、うらやましい、自分だっておしゃべりしたい!!
「ね、ね、どうやったらわかるの?」
「魔力を使って会話をするんだよ」
魔力ってナンだ?コニーは首をかしげる。
「そんな言い方じゃ分からないわよ、兄さん」
「なんだ、教えていないのかお前」
母親とおじさんの会話に、コニーはまたもや首をかしげる。斜めになりすぎて首が痛い。
「この村で魔術なんて教えてもしょうがないでしょ、ポチちゃんとのことは追々考えるつもりだったのに、兄さんの気が早いのよ」
「手紙にあんなことが書いてあったら気になるだろう!?竜を拾っただなんて、そんな犬猫ではあるまいに!」
「だからヒマなときに見に来てねって書いたじゃない。だったら二年後くらいにくるかなぁと思うじゃなぁい?」
コニーをそっちのけの母親とおじさんの会話に、コニーは飽きてきた。夕食の用意どころではなさそうであるし、外でポチと遊んでこようかと思っていると。
「こらコニー、どこにいく」
それに気付いたおじさんがコニーを引き止める。
「だってたいくつだし」
「ああ、悪かった。実は私はな、その竜を都に連れて行こうかと考えているんだが」
おじさんの言うことを、コニーはしばし考える。
「竜って、ポチのこと?」
「そうだ、親を探してやれるし、竜としての一般常識も教えてやれる」
「ダメだもん!!」
ポチが都に連れて行かれる、コニーと一緒にいれなくなるなんて絶対反対である。
「ぜったいぜったいぜぇーっったいに、ダメだもんっ!!」
とられないようにと、コニーは腕に力を込める。ポチはその腕の中で痙攣を始めた。
そんなコニーの頭を撫でて、母親はコニーの援護をしてやった。
「ポチちゃんの親を探してやるって言っても、今までポチちゃん、親を恋しがったりする様子はちっともなかったけれど?」
そう、今まで親を探し回ることもなければ、夜鳴きすることもなく、のほほんと飼い竜生活を楽しんでいたポチに、親に会いたいという気持ちがあるのか謎だ。ひょっとしたら三歩歩いたら忘れるニワトリのごとく、過去に縛られない生き物なのかもしれない。
「わかった。親のことは置いておこう。でも、その竜の丸さは問題だぞ。なんでそんなに太っているんだ?」
もっともともいえるおじさんの疑問に、母親がたしなめる。
「太っているなんて言い方ポチちゃんがかわいそうよ兄さん。これでも日々ダイエットに努めているんだから」
「これくらいが、気持ちいいんだよ。ほら!」
コニーにポチの尻を向けられても、どうすればいいのかわからないおじさんは、そのまるっとした尻をただ見ているしかなかった。
「わかった太ってはいない。だが、同じ竜でないと教えてやれないこともある。都には魔術師と契約した竜がいる。その竜からいろいろ学べばだな」
「えー?今のままじゃいけないの?」
「いけなくはないかもしれんが、竜としてあまりに・・・」
語尾を濁したおじさん。そんなおじさんの味方をしようとしたのか、はたまたたまたま思いついたのか、それまで黙っていた父親が、ポンと手を打った。
「コニー、ポチはこれから大きくなっていくんだぞ。ポチが大きくなって、もっと上手に飛べるようになれば、コニーを乗せて飛べるようになるんだぞ」
父親がそう言えば。
「そうねぇ、コニーがお勉強をすれば、ポチちゃんとも話せるようになるわぁ」
「今みたいに、火を吹こうとしてむせたりもしなくなるかもね」
母親とピートも、それぞれに言う。
「俺、ポチと一緒に飛んで、おしゃべりしたいっ!それにいっぱい火が吹ければ、いっぱい炭ができるね!」
竜の炎を炭焼きに使おうという、なんともせこい家族であった。
Sideポチ
ポチがコニーに力いっぱい抱きしめられて気絶している間に、ポチの今後が勝手に決められていた。どうやら都に行くらしい。ポチとしては、このままこの村に住んでも少しも困らないのだが。ただ、もうちょっと高く飛びたいと思わなくもないし、火を吹くのに失敗して、口の中が煙くなるのをどうにかしたいとは思うが。
「ポチ、都でおいしいものを食べようね!」
それにどうやら、コニーも一緒に行くらしい。都の学校に通う傍ら、魔術の勉強をするらしい。コニーと会話ができるようになるといいな、とポチも思う。会話ができれば、寝ているときに自分を蹴飛ばすのをやめてくれと面と向かって言えるようになる。
「いいかいコニー、都では、おとなしく、そうっと、気をつけて、なんでも触るんだよ?物を壊してはいけないよ?」
ピートが心配そうに、何度も同じ事をコニーに言い聞かせているが、きっと明日になれば忘れているとポチは思う。
「楽しみだねぇ、都!」
「うむ、都にはりんごのパイよりも美味なるものがあるだろうか」
ポチの目下の気がかりは、この一点に尽きる。
コニーとポチを一緒に連れて行って、大丈夫だろうかと心配する魔術師だった。