霧を裂く銀の矢と、震える耳
「……っ、危ない!」
頬をかすめたのは、実体のないはずの「風」の鋭い一撃だった。
ボクのすぐ後ろの幹に、蒼白く発光する一本の矢が突き刺さり、音もなく霧へと溶けて消える。
「坊ちゃま、左です。……なかなかに、耳の早いお嬢さんのようですな」
バルトは動じず、眼鏡の奥の目を細めた。
霧の向こう、巨木の枝の上に、一人の少女が立っていた。
ボクと同じか、少し年上くらいだろうか。その頭上には、警戒心も露わにピクピクと動く三角形の獣耳が飛び出している。
驚いたのは、その扇情的な姿だ。
使い込まれた革の胸当ては、彼女の成長を妨げるにはあまりに小さく、激しい息遣いに合わせて、たわわな胸の曲線がこぼれんばかりに跳ねている。腰回りには布面積の極端に少ないショートパンツを纏っているだけで、そこから伸びるしなやかな脚は、陶器のような白さと、野性味を帯びた太ももの肉感を露わにしていた。
『……な、何よ、その目は。……変態なのは、あの執事だけじゃなかったってわけ?』
彼女が顔を赤くして、弓で自分の胸元を隠すように構える。
短いパンツの隙間から覗く、ふさふさとした尻尾が不安げに揺れるたび、彼女の肌から漂う「花の蜜」のような甘い香りが、ボクの鼻を突いた。
「……あ、いや、ごめん! 違うんだ、ボクはただ――」
11歳のボクには、彼女の……あまりに無防備で、完成された女性の身体は、直視するには刺激が強すぎた。視線を泳がせていると、脳内でハンスがニヤリと笑った。
『小僧、鼻の下が伸びてるぜ。……だが、見ろ。あいつの霊体は、もう透けちまってる。無理に矢を放てば、消えちまうぞ』
見れば、少女の足元はすでに霧と混ざり合い、輪郭が揺らいでいた。
「ダメだ……。君も、消えちゃうよ!」
ボクは弓を向けられたまま、一歩前へ踏み出した。
『……っ、来るな! 来るなってば! あんたみたいな弱そうな子、守ってあげられないんだから!』
リリの瞳に涙が溜まる。彼女が弓を引き絞るたび、脇の下の柔らかそうな肌や、引き締まったお腹のラインが露わになり、ボクの胸は激しく波打った。
「……お疲れ様。もう、一人で頑張らなくていいんだよ。ボクの中に……おいで」
ボクは、誘惑に負けそうな自分を律しながら、彼女の震える手に向けて、そっと右手を差し出した。




