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灰色の空、緋色の別れ

才能がすべてを決める世界で、魔力を持たず「灰色の髪」を理由に家を追われた少年アヴァン。

彼はまだ知りません。自分の「空っぽ」な体が、実は失われた英雄たちの魂を受け入れる唯一の「器」であることを。


忠義の老執事と共に、辺境の廃村から始まる少年の逆転劇。

どうぞ、最後までお付き合いいただければ幸いです。

鏡の中に映る十一歳のボクは、どこからどう見ても「出来損ない」だった。

 アグニール騎士公爵家。代々、燃えるような赤髪と強大な火の魔力を受け継ぐ、王国の守護者。けれど、鏡の中のボクは、色褪せた死人のような灰色の髪をしている。魔力測定の水晶は、ボクが触れても一度だって輝いたことはなかった。


「……今日で、最後なんだね」


 ボクは震える指で、公爵家の紋章が入ったブローチを外した。

 重厚な執務室の扉が開く。そこには、父である公爵と、誇らしげに真紅の髪をなびかせる二人の兄が立っていた。


「アヴァン。十一歳になっても魔力の片鱗すら見せぬ者は、我が家の血を汚す汚点でしかない」


 父様の声は、冷え切った冬の石畳のようだった。感情の欠片もなく、ただ「不要品」を処分するかのような響き。


「辺境の『亡霊の村』……かつて激戦地だったあそこなら、お前のような無能でも管理人の真似事くらいはできるだろう。明日、日の出とともに出立しろ」


 兄さまたちが、口元を歪めてボクを見下ろす。

「良かったな、アヴァン。お前にはお似合いのゴミ捨て場だ」

「灰色の髪が、呪われた土地に馴染むだろうよ」


 ボクは何も言い返せなかった。視界がじわりと滲むのを悟られないよう、ただ深く頭を下げるしかなかった。


 翌朝、冷たい霧が立ち込める中、ボクは小さな荷物を持って裏門へと向かった。

 豪華な馬車も、見送りの兵士もいない。孤独な旅路になるはずだった。


「……アヴァン!」


 霧の向こうから、聞き慣れた声が響く。

 駆け寄ってきたのは、幼馴染のリーニャだった。ボクより一つ年上で、屋敷の料理人の娘。


「リーニャ……どうして。見送りに来たら、怒られるよ」

「知ったこっちゃないわよ! あんた、あんな奴らに何言われても、黙って行っちゃうんだもん。バカじゃないの?」


 彼女は肩を上下させて、激しく息を切らしていた。

 急いで走ってきたせいだろうか、着崩れたエプロンドレスの胸元から、汗ばんだ白い肌が覗いている。十一歳になったばかりのボクには、その瑞々しい膨らみが、なんだかとてもいけないもののように見えて、心臓が跳ねた。


「これ、持っていきなさい。アタシが昨日の夜、寝ないで作った特製の干し肉とスコーン」


 彼女は強引に布袋をボクの手に押し付けた。指先が触れる。彼女の手は温かくて、少しだけ料理の香辛料の匂いがした。


「……ありがとう。ボク、向こうでも……なんとかやってみるよ」

「当たり前でしょ。あんた、アタシの将来の旦那様候補なんだから。勝手にのたれ死んだら、承知しないからね」


 リーニャはそう言って、悪戯っぽく、でもどこか泣きそうな瞳で笑った。

 彼女がボクの背中を力いっぱい叩く。その衝撃が、凍りついていたボクの心を無理やり動かした。


「ほら、行った行った! 出世してアタシを迎えに来なさいよね、この無才のヘナチョコ!」


 彼女の明るい声に背中を押され、ボクは一度も振り返らずに歩き出した。

 あんなに優しく、美しい彼女を迎えに行く。その約束を果たす力が、今のボクには一欠片もないことも知らずに。

第1話をお読みいただき、ありがとうございました!


主人公のアヴァン、11歳。

厳しい父親や兄たちに家を追放されてしまいましたが、幼馴染のリーニャや、お母様が遺してくれた(?)老執事バルトという心強い味方がいます。


これから「亡霊の村」を拠点に、アヴァンがどんな霊体と出会い、どう成長していくのか……。

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